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妹と異世界

話のベースは出来ているので、スルスル更新してます。


 トイレから戻ってきた火音は、見事にビフォーアフターされたテーブルを見て「わっ、これ私が前に壊したテーブルだよね? すごー! お兄ちゃん器用ー! 匠の人みたーい!」と言いながら、強度を確認するようにばんばんテーブルの天板を叩いた。


「おまっ、やめろ! 次は天板は壊す気か。お前、今度壊したら次はあの鎧を鋳潰して新しいテーブルにすんぞ」


「え、何それ凄い! 出来るの!?」


「出来ねーからやめろっつてんだよ」


 目キラキラさせながら言うなよ。

 つーか剣といい、あの鎧といい異世界の物の扱い雑過ぎだろ。


「全く……」

 

 さて、と。

 俺はベッドに腰かけ、火音は床に座り込んだ。

 そろそろ……聞くべきだろう。


「なぁ、そろそろ聞かせてもらっていいか?」


「え? 何が? ……さ、さっきの行ったおしっこの話?」


「お前、この状況で俺がお前の小便の具合を聞くと思ってんのか?」


 何ちょっとモジモジしながら言ってんだよ。

 

「わ、分かんないけど……そういうのに興味がある人もいるって、アルフさんが言ってたし。あ、アルフさんっていうのは、一緒に冒険した戦士の人ね」


 どこのアルフさんか知らんが、ウチの妹に変な性知識を教えてんじゃねーよ。

 そのアルフさんとやらの件も含めて、聞かせてもらわねばならない。

 

「異世界の話だよ。一体何がどうなって、お前が魔王とやらを倒す為に旅経つことになったんだ?」


 ダイジェスト的にしか聞いていないので、詳しい話が分からない。

 失われた火音との4年間を少しでも埋める為に、話を聞いておきたい。


「あ、そっちの話ね。うーん、そうだねー。お兄ちゃんにはちゃんと話しておかないとね。私の冒険の始まり」


 ぜひとも聞かせてもらいたい。

 純粋に非現実的な異世界への興味もある。あと4年経つのに火音が人としてあまり成長していない理由も分かるかもしれない。


「――4年前のあの日、部屋に帰ってすぐに光に包まれた私は真っ白な空間で羽の生えた女の子に会ったんだ」


 火音が天井を見上げる。

 そこには天井しか見えない。だが、火音には見えているのだろう。

 この世界ではない、あちらの世界の空が。

 あの世界で過ごした日々が、脳裏を駆け巡っているのだ。




■■■




「――と、いうわけで、一番美味しかったのがハニーベアーのお肉が入ったシチューでね。噛むと肉汁と一緒に甘みがジュウっと染み出てきて、一緒に口に入れた野菜に絡んで、もぉー……頬っぺた落ちそうだった!」


「そうか」


「あ、でね! シチューで思い出したんだけど、あっちのミルクって凄いの! 何か栄養が凄く含まれてるみたいでね、基本ミルクさえ飲んどけば病気もしないって言われてるくらい栄養満点なの。ちょっとした傷でもミルクかけたら治っちゃうくらい」


「へー」


「他にもこっちの世界には無い果物とか野菜もいっぱいあってね! あ、そうそう! 見た目バナナっぽいんだけど、チョコレートみたいな味がする果物があったんだ! 何かね、チョコバナナ食べてるみたいで変な感じでねー」


「そりゃ美味そうだ」


「美味しい物いっぱいあったよー。ただねぇ……マヨネーズが無かったのが本当に残念。マヨネーズがあったらもっと美味しくなる料理いっぱいあったのに。それだけがほんっとうに残念!」


「ぴーこ、生粋のマヨラーだもんな」


「4年もマヨ断ちしてたせいで、頭おかしくなりそうだったよー。あとアレだねー。お菓子がねー。砂糖が凄い貴重だから、お砂糖使ったお菓子が食べられなくて……さっき久しぶりにお菓子食べて、泣きそうだったよぉ」


「いや、実際泣いてたぞお前」


 火音が語る異世界トークは中々に興味が惹かれる内容だった。

 ただ――


「食べ物の話以外に何かないの?」


 さっきから飯の話ばっかりなのだ。

 アレが美味しかったーとか、冒険中はこんな物食べたーとか、どこそこの名産品がーとか、こっちの料理を再現しようとしたけど全然ダメだったーとか。

 そんな話ばっかりだ。

 まずさっきの回想の始まりからして、真っ白な空間で羽の生えた女の子が食べてたえげつない色のドーナツの話から始まったからな。それからいきなり話が飛んで、召喚された城で最初に食べた豪華な料理の話、うっかりやらかして独房に入れられて食べた不味い飯の話、仲良くなったメイドさんが独房に差し入れしてくれたパンの味と続いた。

 飯、飯、飯! 異世界召喚者として恥ずかしくないのかコイツ。


「え、食べ物以外? うーんと……あ、そうだ。冒険中はね、アベットさんが料理を作ってくれたんだ。アベットさんはね、実家が料理屋さんの武闘家でね」


「結局飯の話じゃねーか」


 俺がそう言うと火音は、ふにゃりと笑った。


「だってちゃんと覚えてるの、それくらいだもーん。えへへー」


「えぇ……」


「だ、だってしょうがないじゃん! 旅立ったの4年も前だったし! 冒険に出ることになった理由とか、召喚された理由とか……覚えてなーい!」


 お手上げ、といった感じで万歳をする。

 ダメだこりゃ。

 俺が呆れていると、火音のお腹から『く~』という可愛らしい音が聞こえた。


「え、えへへ……ごはんの話してたら、お腹空いちゃったね」


 照れながら言う火音に、俺はちょっと安心していた。

 異世界で4年も旅をしようが、図体がちょっと……いや、かなりデカくなろうが、中身は変わっていない。

 俺が知ってる火音と変わっていない。


 時計を見ると、少し早いが飯時だった。


「はぁ……向こうの話は思い出したときに、ぼちぼち聞くよ。それより夕食にするか」


「ご飯!」


 立ち上がった俺に火音がキラキラした目を向けてきた。

 両親不在の今、この家の家事は俺が1人で行っている。俺が中学生になった辺りから両親は2人きり旅行に出かける事が多くなり、何やかんやで家事のスキルが上がってしまった。別にその事に対して両親に恨み言を言うつもりはない。最初こそ面倒だったが、いつの間にか家事をするのが楽しくなっていたし、旅行中には結構な額の金が渡されて、自由に使えるし。

 

「火音、夕飯は何が――」


「ハンバーグ!」


 俺の言葉を被せるように火音が言った。

 実に力強い言葉だった。何ならさっきの魔法の呪文より力が入っていた。


「いや、お前……昨日の夕飯もハンバーグだったぞ。2日連続って……あ、そうか」


 俺にとっては昨日の事だが、火音にとっては4年前の事なのだ。

 ちょっと考えなしの発言だった。 

 

 そんな俺の発言を特に気にした様子も無く、火音はひたすらにハンバーグを連呼していた。


「ハンバーグ! ハンバーグがいいー! 絶対ハンバーグだって! ハンバーグしかありえないよ! ほらほら! ポメちゃんだって絶対ハンバーグがいいって言うと思う! この場にいたら! ハイこれで2票!」


「お前どんだけだよ」


 こんなんがまかり通ったら投票制とか意味ないだろ。


「分かった分かった。ハンバーグにするから。材料まだ残ってたしな……いや、卵が切れてたっけ」


「わぁーい! やったー! 民主主義の勝利だー!」


 どんだけ嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ火音。

 そうすると異世界の土壌で豊かに実った胸がたわわに揺れるので、俺はちょっと目を逸らしてしまった。

 これは早めに火音用の服……特に下着とかを調達した方がいいな。

 

「ハンバーグ♪ ハンバーグ♪ お兄ちゃーんのハンバーグ♪」


「じゃ、ちょっと作ってくるわ」


 嬉しそうに体を揺らす火音を見ながら、俺はのっそり立ち上がった。


「あ、私も一階行くー。もうすぐ『ボム兵ちゃん』始まる時間だし、見ながら待ってるー」


「アニメの事は覚えてんのか……」


 ボム兵ちゃん、正式名称魔法少女ボムボム兵子ちゃんは火音のお気に入りのアニメだ。

 ある日、日課の爆弾作りの最中に頭を打った兵子は自分を魔法少女だと思い込み、耐爆スーツを改造した魔法少女服を着て人助けの為、町を駆け巡る。一方、街中では世界中から魔法少女たちが集まり、何でも願いを叶えることができる聖杯を奪い合う、魔法少女たちの戦いが水面下で繰り広げられていた。本来は存在しない8人目の魔法少女として戦いに巻き込まれる兵子。彼女は爆薬による爆破を魔法と言い張り、困っている人を助けながら、魔法少女たちとも戦い、そして時には絆を育んでいく――みたいなストーリーだ。魔法少女たちのCGを駆使した魔法と、兵子が使う昭和感溢れるちょっとやり過ぎな実写の爆破映像が謎の調和を果たし、奇跡的に魔法少女、アニメ、特撮、爆弾オタク、多種多様なファンを取り込んだ怪作だ。毎回爆発オチになるのが個人的に好き。あと爆破の瞬間だけ兵子が真顔になるのも何か好き。考察ファンの間では、爆破の衝撃で一瞬だけ頭を打つ前の状態に戻ってるという説が濃厚。


「町の平和を守るため~私は今日も爆破する~起爆スイッチはいつだってみんなの心の中にあるんだよ~爆破爆破ばくは~爆破の邪魔をする悪い人は許さない~♪ ああ~爆破っていいなぁ、愉しいなぁ~」


 主題歌を歌う火音と一緒に階段を降りる。

 そのままリビングへ向かう。火音はテレビの前にあるソファを飛び越え、テレビのリモコンを手に取った。

 テレビの電源を入れてボム兵ちゃんを放送してるチャンネルに合わせる。

 どうでもいいが、アニメの事とかアニメやってるチャンネルとかはしっかり覚えてるんだな……異世界の事はほとんど忘れてるのに。


「おっとそうだ」


 隣に住む幼馴染の事を思い出す。

 不審者が部屋にいるとLINEをしてから、そのあとも何も続報を伝えてなかった。

 もしかしたら心配しているかもしれない。

 

『さっきの不審者じゃなかったわ。異世界から帰って来て年上になった妹だった。すまんな』


 と事実を送った。

 すぐに返信が来る。

 お注射のスタンプと涎を垂らしながらヤバイ笑顔を浮かべる男のスタンプ、罰マークが送られてきた。

 どうやら俺がヤバイ薬でもやってると思っているらしい。

 よし、泣かす。宣言通り泣かしてやる。


 テレビから流れる少女たちの可愛らしい声や爆発音、勇ましい声や爆発音、悲鳴と爆発音、笑い声と爆発音を聞きながら、ハンバーグのタネを作る。

 平行してソースとサラダも作ってから、ハンバーグを焼き上げる。

 炊飯器から茶碗に米をよそい、焼きあがったハンバーグを皿に盛る。

 あとはインスタントのスープを用意して……完成。


 テレビを見ると、ちょうど番組が終わって応募者全員サービスの小型爆弾型の防犯ブザーが紹介されているところだった。

 正直結構欲しいから後で応募しておこう。


「おーい火音。出来たぞー……ってどうした?」


 テーブルに食事を持っていくと、火音は何だか残念そうな表情をしていた。

 いつもだったら、番組を見終わってから暫くは内容の感想やらをハイテンションで語るはずなのに。 


「うーん、あのねぇ……前の話の内容覚えてないから、あんまりだった」


「あぁー……」


 流石に4年前の話の内容までは覚えていなかったらしい。

 ガックリと肩を落とす火音。

 

 確か……今月は結構節約したから、使ってもいい金が余ってたっけ。

 圧力鍋買いたかったんだけど……まあいいか。


「ブルーレイ買ってやるから気にすんな」


「ほんと!? いいの!?」


「俺もまとめて見たかったしな」


「わぁーい! お兄ちゃん大好きー!」


 火音がソファから勢いよく立ち上がり、そのまま俺に飛び込んでくる。

 いつもだったら小柄な体を受け止めて何だったらそのままグルグル回しているところだが、急成長した火音の体を支えきれず、更に豊満な体を押し付けられたことによる動揺で俺はそのまま床に倒れこんだ。床に結構な勢いで頭を打ち付ける。

 

「いってぇぇぇ!」


「だ、大丈夫? ご、ごめんね嬉しくてつい……頭打った? 痛くない?」


 俺を押し倒したままの火音が心配そうな表情で言う。

 そのまま頭を擦ってくるが、そのせいで火音の胸が顔に押し付けられて、息が出来なくなった。

 ああ……ラブコメの主人公がよく同じような状況になるけど、これ……マジで結構苦しいわ。

 ごめんラブコメの主人公、今まで「ラッキスケベ野郎、羨ま死ね!」とか思ってて……ごめん、ごめんよリトさん……。


 俺は薄れゆく意識の中で、そんな事を思ったのだった……。

感想、ポイントありがとうございます。

皆様の応援、とても励みになっております。

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