2:二つの試練
「ふ、腐川先生……今、何と!?」
「女体化、つまりはT S物ですよダイヤさん」
「ですが先生! それは余りにも……危険過ぎます!」
ロットちゃんは異界では、召喚獣を師と慕う。私達の世界では召喚者と召喚獣の関係でも、此方では師匠と弟子なのだから当然か。それでも目上の人に敬語を使う姿が新鮮だった。
(こういうロットちゃんもいいなぁ)
意外な一面を知れたことを嬉しく思う。私がニコニコ笑っていると、腐川先生は私の方へと視線を移す。
「この世界にまだ馴染みの浅いマリーさんのため、資料を用意しました」
「こ、これは!!」
先生から手渡された一冊の本。内容はこう。敵に捕えられ……呪いによって女の子になってしまった騎士。彼には元々思い人である亡国の姫がいて、将来を誓い合った仲! 二人はプラトニックで相思相愛の関係なのに、憎き祖国の仇に身体を蹂躙される内……彼の心に変化が現れる!? そんな気になる所でページは終わり、下巻に続くとある。
「…………何か感想を頂けますか? 思ったことなら何でも構いませんよ」
「すみません……ライスかパンを頂けませんか?」
ロットちゃんの本とも違う、例えようのない気持ち! 無心になってご飯が食べたい。何もかけずにそのまま唯ひたすらに食したい。この手渡された本が、食卓のメインディッシュのように感じられたのだ。
「なかなか見所がありますねマリー姫は」
「ですよね先生! こう見えてマリーは私の自慢の……な、何でもないわ」
先生に私が褒められ、ロットちゃんは嬉しそう。けれども続く言葉を期待する私の視線に気がついて、言葉を止めてしまった。
「ちなみにマリー。それが女性向けね。凌辱者が美形に描かれているでしょ。こっちの男性向けもなかなか良いわよ」
「ああ、ロットちゃんが好きそうな感じですね!」
オーク×男騎士とか好きだもんねロットちゃん。私は頷きもう一冊に目を通す。騎士の相手役が、薄汚い小太り中年男性になっていた。相手の身分も一般兵で立場は低く、そういう立場の者に強く気高かった騎士があれこれされる様は……確かにぐっと来る。
「マリーはどっちが好み? 私はどっちもはまってしまったわ」
「ううう……まだ救いがありそうな気がするのがこっちの鬼畜な美形王様の方ですけど、世の中には兄様みたいに顔が良くても性格がどうしようもない屑もいますから、絶対に幸せになれるとは限らないし……此方のおじさんの方は内面に対する愛がないというか性欲処理ですよね。ドキドキはするけど……最終的に子供に恵まれた場合責任取って良い父親になってくれるか怪しいので悩みます」
「まぁ、物語で娯楽って言ってしまえばそれまでなんだけどね。要は夜のおかずとして使えるか使えないかよ。エロければエロい程良いって言うのと、そこにストーリー性も完備して欲しいかの二択よね。バランス難しいわよねー両立したい物だけど」
苦い表情のままロットちゃんが唸る。このジャンルというのは、男女どちらの嗜好にも跨がるジャンルであるらしい。しかしその味付けについては個人個人、強い思い入れやこだわりを持つ。変化球異性愛として読むか、変化球同性愛として読むか。前者であれば、男性の心をよく理解した最高の女性像。後者であれば、結ばれなかったはずの二人が繋がるロマンス。そう考えれば私も、ロットちゃんが唸る理由に納得しかけた。
最初から主人公が女性だったら、感情移入が過ぎて可哀想で読み進められなくなるし、最後に何か救いか報いを求めてしまう。これは二冊共に言えることだが、それが元々主人公は男性だったと言うだけで一気に上がる背徳感! 何故そんな回りくどいことをしたのと思わずにはいられない敵の業の深さから目が離せない! 一体この男は何を考えているというのか!! 騎士が男の頃から気があったの? だから自分の物にするための既成事実が欲しかった? 気に入らなくて心をへし折りたかったから、愛も無いままそういうことをしてしまったの!? 今夜は気になって眠れなさそう。
「題材については認識して頂けましたね」
「はい! 先生がロットちゃんに、その……女体化という腐術を学ばせ始めたと言うことは、その術を極めれば……ロットちゃんはあの二人に勝てるんですよね?」
「……少なくとも、あの世界にその概念はまだ存在しないようです。一時的には人気を取り戻すことは可能でしょう」
「やった! 頑張ろうねロットちゃん!」
手を取り合った私達に、腐川先生の眼鏡が光る。先生は楽観的な私の様子に呆れてはいなかったが、声はどこか冷たく……鋭い注意を促した。
「しかし人は熱しやすく冷めやすい。爆発的に流行った物は、僅かな切っ掛けで廃れてしまう。その度に新しい流行を作り続けるのですか? いつか私のネタも途切れる。可愛い弟子にも、大事な召喚主にもいつまでも力は貸せません。ダイヤさんはたった一人で新たなジャンルを作り続けられるのですか?」
「そ、それは……」
「今、貴女方が腐術に求めているのはそういうことです。作品が評価されるのは勿論嬉しい。だからウケる物を書く。それもある意味では正しい。流行に乗ればそれで生計が立てられるかもしれない。それでもダイヤさん……その時貴女は、本当に以前のように楽しみながら腐術を扱うことが出来るのですか?」
命を狙いに来た相手。それが精神の糧であった世界にまでやって来た。ポッと出の因縁のライバルに、全ての名声を奪われプライドをへし折られたロットちゃん。一度は許そうとした復讐心、妬み恨み辛み全てが再燃している。ペンは剣よりも強しと、血で血を洗う復讐劇ではなく……創作物での平和的な再戦を誓っても、彼女の心はどす黒く染まってしまった。
「共に仕上げた本です。貴女がどんな思いで作ったかも私が一番知っている。その上で問います。厳しいことを言いますが、貴女が満たしたいのは人の心ですか? 自身の自己顕示欲ですか? そのバランスを正確に認識しなければ……いつか貴女は壊れてしまう」
楽しみながら……誰かの、多くの人の笑顔を期待して作った作品。それが見るも無惨な結果に終わったその時に。作り手が込めた気持ちは何処へ行ってしまうのか。純粋であればこそ、闇は色濃く染まってしまう。昔の兄の姿を思い出しながら、隣で俯く彼女を思う。
師の知恵を借り、新たな術をマスターしたなら敵は無し。そんな風にロットちゃんは藁にも縋る思いで異界に舞い戻った。
歓待された後に突き付けられた現実は、残酷な言葉。今回壊れるか、未来に壊れるかの二つに一つ。私にはとても見ていられなかった。
「先生……口答えを先に謝罪します」
おずおずと、私は片手を上げ発言を求める。
「私は一年間、ここでロットちゃんがどんな風に過ごしていたか、知らないことばかりです。それでも私の知っているロットちゃんは……ずっと戦って来ました。誰かと戦いながら、自分自身と」
彼女が偽悪的に振る舞うのは常。天の邪鬼な性格。それでも詰めが甘くて、いつも挫折してばかり。不幸を背負い込むことで、誰かの不幸を軽くする。
「ロットちゃんは、この身代わり人形みたいな人です」
「身代わり? まさかマリー……あんた、それ。まだ持ってたの?」
「ロットちゃんから貰った物は、全部大事に取ってますよ?」
私が荷物から取り出すは、かつての騒動時にロットちゃんから貰った身代わり人形。ずっと持ち歩いていたことを彼女は気付いていないどころか、私に渡したことも忘れていたようで、私の枕元の人形を気にも留めなかった。きっと見た目の変化で気付けなかったのだろうな。可愛かった人形の面影は殆ど残っていない。
「危ない戦いもありましたが、この子のお陰で大事には至らず。その代わりこの子がボロボロになってしまいました。回復魔法は生体にしか効果が無いので……私黒魔術よく分からなくて、手芸だけじゃ上手く直せなくて。でも捨てたりしませんよ」
「惚気ご馳走様。それでその話はどんな風に繋がるのかな?」
新作のネタがあったのか? 先生は私達のやり取りを素早くメモしながら先を促す。
「誰かを助けて、放って置けなくてロットちゃんは手を伸ばす。だけど助けたロットちゃんはこの子みたいにボロボロになるんです心が。私の魔法ではロットちゃんの心までは癒せない。だから私は、先生がロットちゃんに与えた腐術を凄いと思うんです!」
最初は成り行きだった。それでも今は学びたいと真剣に願っている。
素直じゃないし、身勝手に見える所もある。それでもロットちゃんは誰かのために戦える人。だから私はロットちゃんを助けたい。私がずっと、ロットちゃんに助けられて来たから。
「私はロットちゃんの、大事な人の心まで癒せる回復魔法の使い手になりたいんです!」
目の前で傷ついている人がいるのに何もしないなんて、出来ないなんて。他の誰かでも辛いと思うのに、相手が大事な人なら尚更だ。
「ロットちゃんも間違っているのかもしれません。でもロットちゃんがこんな風になる腐術って、腐術じゃないと思います! 精神を癒すための腐術の世界で……そこでまた、心を傷付けられるなんてあんまりです!」
「……マリーさん、貴女の気持ちが聞けて良かった。私は貴女のような弟子を、待っていたのかもしれない。貴女なら、ダイヤさんだけでは解けない問題を、解決することが出来るかもしれません」
先生はそれまでの厳しい表情から一転、柔和な笑みに涙を浮かべて頷いていた。
「では、貴方達に二つの試練を与えましょう。その解を導き出した時……新たな腐術の加護が得られるはずです」
*
「……ってな話だったわよねこれ」
事実は小説よりも奇なり。百聞は一見にしかず。と言うわけで、ロットちゃんはコントさんに女体化薬を盛ったのだった。
「ですよね。でも……コントさん可哀想だったんじゃ……?」
私が眠っている内に、一度彼方に戻ってそんなことをしていたなんて。
「いいのよ。考えるな感じろよ。何かエロいわねこの言葉。メモしておいていつか使うわ」
ロットちゃんは相変わらずコントさんに対しては遠慮がなさ過ぎる。それが愛情なのか、悪友的友情なのかの真偽は不明。信頼できないと口にしながら、信じているから出来ること。どんなに酷いことをしても、傷付けても……コントさんが本当の意味でロットちゃんのことを嫌いにならないって知っているんだよね。口には出さない信頼関係。二人の関係は、男同士の友情? 私ともまた違った相棒関係のようにも思えて時々羨ましく思う。
(リーダーの方は、多分好きだと思うんですけど)
コントさんはロットちゃんに兄様を。ロットちゃんはコントさんにアリュエットを。それぞれ因縁の相手を重ねていた。互いに互いの光であって闇でもある複雑な関係性。同性であればそれで一冊本が仕上がりそうだと思う。
「そんなことより復習するわよマリー! 先生からの課題は二つ! ひとーつ!」
「“愛が先か女体化が先か!”……鶏と卵の関係ですよね。これの真相を見極めろ、が一つ目の試練です。では、ふたーつ!」
「“精神は肉体に依存する物か否か!”……異性愛者だった主人公が、女になることで男を好きになるのは自然なことか、裏切りか? くっそー寝取られ感が堪らねーわこれ」
「でも、身体は汚されても心は屈しないと、女になっても思い人の女性を想い続ける……異性愛からこっちが女性同士の同性愛なるそんなプラトニックな展開も良いですよね」
「ほーぅ、マリーはそっちもイケるわけね。まぁ悪くないわね。ありだと思うわ。そういうのも好きよ私」
貸し与えられた異界の一室。私とロットちゃんは寄り添って、一冊の本を眺める。
「……にしても、便利ねこれ」
「凄いですね」
「いやー他人の不幸で食べるお菓子は最高に美味だわ」
「もう……咽に詰まりますよ、お茶もどうですかロットちゃん?」
「嗚呼そっか。こっちじゃオチの常時召喚きついのよね。頼むわマリー」
布団に寝転がりバリバリと煎餅なる菓子を食すロットちゃん。数日前に先生に追い詰められ壊れかけた人とは思えない態度のでかさ。余裕のなさを誤魔化すための不貞不貞しさか? 私には弱った姿をあまり見せてくれない。私が頼りないからなのかな。
(いいや、私に出来ることをしよう! それでロットちゃんを支えるんです!)
私は不思議な形状の容器飲料を用意して、ロットちゃんに手渡した。彼女は慣れた手つきで開封をする。ジャージなる部屋着もよく似合っていた。
今私達が見ていたのは、腐川先生とロットちゃんの契約触媒となった白紙の本。効果としては水晶玉と同じ。しかし情報があれば、望みの人物、場所から読み取ることが可能。
「くくくく、あの生意気なコントもこれじゃあ形無しね。いやー最高の気分だわ!」
更には異界側から覗き見る事で、相手に気取られずに好きな場所から観察できる優れもの。私達の世界で同じ事をすると、まず術の痕跡を消す作業が必要になる上、その痕跡を完全に消すことは難しい。要は足が付く。契約触媒は召喚者と召喚獣の性質を強く表すため……あの二人ならではのマジックアイテムが完成したのだ。敵を攻撃することも、操る事も出来ない代わりに、望みの人物の出来事を暴くことが出来る。ロットちゃんと契約を続ける限り、契約触媒は力を失わない。新作のネタ探しに事欠くことはないだろう。二人は召喚関係ではWin-Winの関係にある。
「私も先生にしてやられたわ。男騎士が性転換しようが、女騎士物と大差ない。そんなの蹂躙物なんて……と思ったけどこれはこれで新世界だったわ。一年で腐術の全てを学べるはずがなかったのよ……私はまだまだ、若輩者でっ……驕っていたんだわ!!」
「ロットちゃん……そんなに自分を責めないで」
試練の難解さは、一年腐術を囓ったロットちゃんでもすぐに答えが出せないらしい。素人同然の私が本当に力になれるのか不安。それでも思ったことは伝えよう。些細なことでも彼女にかかれば解決の糸口になるかもしれない。
「マリーあのさ……参考までに聞きたいんだけどさ。私も二冊描いてみたんだけど、これはどっちが好き?」
「これは、レー君女体化物!! どっちも美味しいですけど……そうですね。吟味させて下さい」
私はコントさんのピンチが映し出された白紙本から目を離し、ロットちゃん本に齧り付く。
(ああああ! 男の子の頃はレー君が気付かないでそれでも親友だったコントさんはその時からレー君を好きで! その手があったか!! だけど姉の面影を求めるロアに呪われ女の子になっちゃったレー君! レー君の心はどちらに動くの!?)
ドキドキしながら熱中していたが、肝心の本番直前シーンで彼が思い出すのは騎士ではなく……可愛らしい、お姫様!?
「って何ですかこれ!! なんでお姫様役が私なんですかロットちゃん!! レー君と私は姉妹みたいなものであって、そういう関係じゃないですよ! この女要らなくないですか!?」
「本人がそれ言っちゃう? あー……うん、そっか。いや深い意味は無いのよ。あんたがそう思っているなら。唯周りの人をモデルにデザインしたところあるから、マリーの感じが一番思い人役にぴったりだったのよ」
「うぅ……それなら、解りました。でもこの作品は同性愛がテーマなんですよね? あんまり女性の影がちらつくのは反感を買いそうです」
「さっきまで百合も良いよねとか言ってた本人が敵意剥き出しにするくらいだからよぉく解ったわ。もう一冊はどうだった?」
「ええと……今読みます」
ロットちゃんからの催促に、私は慌ててもう一冊に目を落とす。愛が溢れすぎての悲劇であった一冊目とは異なり、此方はなかなかに内容はハード。
(今度は兄様がレー君のお相手か。その手があったか!! 流石ロットちゃん! 好き!)
親友と妹を取られた男が、復讐のため少年を少女に変えてしまう。その上で……二人を絶望させるためだけに彼に乱暴を働き、子を宿させる……!?
彼方では濡れ場は愛に溢れていて、何故こんな酷いことをする男がこんなにも優しく触れるのだと少年の心はかき乱されていくのだけれど……此方では愛のないプレイが続く。唯、相手の尊厳を傷付け、子をなすことだけを目的とした行為。
しかし子を宿したことで、精神が母になっていく元少年。愛を与えない男に愛を求めて縋り付く……心のすれ違い!! 兄様の馬鹿!! レー君こんなに可愛くてエロエロなのになんでコントさん何か好きなの馬鹿っ!! 私が男だったら即落ちですよレー君なんか! 兄様なんかもう知らない! コントさんに手を出せもしない臆病者が、代わりにレー君傷付けるなんて最低です!!
「……って何ですかこれ! こっちでも私とレー君が婚約するとかしないとかのタイミングでの事件じゃないですか!! 思いを押し殺し友の顔をし続けたコントさんはとてもGJです!! 手に入れたかったのに手を伸ばさずにいた相手が、幸せの絶頂から因縁の男にこんなことされちゃうの凄く良いですけど、これ私要らなくないですか!? あと普通に読んじゃいましたけどこれ今回の縛り越えてます、ダメです! 修正入れなきゃ!?」
「いやー……美味しいと思うんだけどなぁ」
「私の登場シーン、全部ロットちゃんに修正してくれたら額に入れて飾ります」
「いや、それじゃ絵的に映えないでしょ。まぁお姫様のところは保留にして、内容的にはどう? どっちが好み?」
「うーん……そうですね。これは本人の気持ちを聞いてみないことには。レー君が幸せだと思う方を私は応援したいです」
「なるほどね。そっかそっかー。ありがと、参考になったわ」
*
「ふぎゃああああああああああああ!!」
叫んだ声はいつもと余り変わらない。それでも変わったことがある。
「な、何だよこれぇ……」
今日の授業は浮遊術体育。にーちゃんの世話で遅れた俺は、一番最後に更衣室に飛び込んだ。皆はもう着替え終わって、外に出ているところ。着替えのため服をまくり上げた瞬間に、見知らぬ物に手が触れた。たくし上げた服を慌てて俺は元へと戻す。恐る恐る下も確認して見るが……
「あ、なんだ。こっちは無事じゃん。なんで胸だけ膨らんでるんだ? にーちゃんほどじゃないけど。…………太ったかな」
「無事かレイン!!」
「ぎゃああああ! な、なんだよロア!」
年齢詐称の俺の叔父。魔術剣術共に優れた最強の勇者……精霊王・ロア。でもその力を変なことに使っていないか? 俺の悲鳴を聞いてすぐに転移魔法で飛んで来るのは疑わしい。
「……気の乱れが異常だな。正常時からズレている」
しかも鋭い。ロアはコントにーちゃんにとって、越えたい剣の壁。弱みを知られたくはないはずだ。にーちゃんの話は出来ない。俺の問題だけ話しておくか。
「なんか今見たら……胸だけでかくなってる。そういう呪いとか心当たり無いか?」
ロアの知識であれば何か解るかも。助けに来てくれたのなら頼ろうと、俺が再び服を捲ると……ロアはそのまま固まって動かなくなった。呼んでも叩いても抓っても駄目だった。このままでは偉大な勇者に石化の呪いを掛けたとか、即死させたと処罰されかねない。怖くなって俺はそのまま学園から逃げ出した。
(に、にーちゃんの所に行こう!!)
このよく分からない状況は、魔女のねーちゃんが絡んでいるとしか思えない。にーちゃんと同じ物を中途半端に口にした? 何か差し入れ貰ったっけ? 思い出せない。でも同じ被害者同士、傍に居た方が安全だろう。だって何よりこんなの心細いよ!
*
「ロットちゃん?????????????」
「ま。待ってマリー! 今回ばかりは濡れ衣よ!! ちょっと新しい性癖に目覚めたけど濡れ衣よ!!」
私の問いかけに、ロットちゃんは青ざめガタガタ震えていた。
「それじゃあロットちゃんには今のレー君が下半身どうなってるか解らないわけですか!?」
「本人の自己申告ではあるものあるみたいだけど?」
「それじゃあこの本の展開できないんですか……」
私は何を言っているのだろう。安心したような、がっかりしたような複雑な気持ち。
「出来たら不味いわよね。いや……でもそっか。そのパターンもあるわ……やばいわ。確かめなきゃ不味いかも。こんなことあんまり言いたくないんだけど……正直、あんたの兄貴ならやりかねないわこの本の展開」
「私もそう思います。今本どうなってますか?」
恐る恐る二人で覗き込んだ白紙の本……その先では、あろうことか兄様が半裸のコントさんを口説いていた。昔を思い出すようなピュアな瞳で、あの兄様が……胸を高鳴らせている。
「これ、不味いんじゃないのマリー……? 凄く萌えるんだけどさ」
「これも美味しいですけど、不味いですね」
「ぶっちゃけ男の時点から執着やばすぎるしワンチャンあると思うんだけど、正体バレたらさ……マリスのプライドの高さだと何しでかすか解らないわよね」
「解らないですよね……その本、余裕で越えるかも。悪い意味で」
「ど、どうしよう……」
顔を赤らめ顔を青ざめ笑い泣きながらロットちゃんが私の手を握りしめる。彼女の手は未だかつて無いほどの震度で震えていた。
小説賞用に真面目な話を書いてたら息抜きしたくなりました。