永久に褪せぬ恋の花。
「邑さん、ただいまー」
「おかえり、智恵。晩御飯、もうすぐできるからな」
「ありがとうございます、邑さんのご飯おいしいから、楽しみだなー」
「ああ、そうか。……ありがとな」
フライパンのじゅうって音と一緒と一緒に、すこしだけ弾んだ声が聞こえる。二人暮らしってことにも、帰ったら邑さんがいて、もう部屋も明るくなってて。……嬉しいって気持ちしか沸かない。
邑さんと恋人になってから、もう十年が経つ。振り返ってみればあっという間だけど、いろんなことが変わっていった。
私は大学の医学部を出て、ようやく一人前のお医者さんとして空の宮の市立病院に勤めることになった。仕事をするなら、やっぱり生まれ育って、邑さんと出会えたこの場所がよかったから。
それと一緒に、邑さんも学校の教員寮を出て、同じ家に住んでくれるようになった。帰ってきたときに家に誰もいないのは寂しい、なんて私のわがままを聞き入れてくれて、毎日私が帰る前には家にいてくれるのも、本当に嬉しくて。
何より変わったのは、私が大学を卒業した年に結婚して、邑さんの苗字が私と同じ「江川」になったこと。私は邑さんの苗字のほうに合わせたかったけど、どうしてもって言って聞かなかったから。
「ちょっと疲れたか?ぼうっとしてるが」
「ちょっとだけですよ、邑さんのご飯食べたら吹っ飛んじゃいそう」
「ふふ、ならいい、ちょうど今できたとこだぞ?」
もう机に並べられた料理を見て、思わず唾を飲み込む。今日は邑さんがよく作ってくれる生姜焼きで、匂いとか、色だけでもおいしそうってわかるのに。
荷物を置いて、二人で向かい合って一緒のご飯を食べる。幸せを一番感じるのは、この瞬間。
「それじゃあ、いただきます」
「ああ、めしあがれ」
その言葉を待ってから、箸をつける。口に入れた途端に広がるおいしさと熱で、体が満たされていく。ふわふわって浮いちゃいそうなくらい。
「やっぱり、おいしいです、邑さんの料理」
「そうか、……それなら、私も嬉しいな」
そう言って、軽く頬を赤らめる邑さんが、たまらなくかわいい。私にしか見せてくれないスキは、気づく度にまだ心を高鳴らせる。
私はきっと、まだ邑さんに恋してる。でも、それでいいのかな。ずっと、思い続けられるってことだから。
「今日は、仕事どうだったか?」
「やっぱり一人で患者さんと向き合うの、まだ慣れないな……」
「ゆっくり慣れていけばいいんだ、智恵の形で、……何だったら、話なら付き合うぞ?」
「いいですよ、ありがとうございます、心配してくれて」
私なりの形、か。
心に向き合う方法も、生き方も、正解なんてわからないけど、これだけはわかる。
私には邑さんしかいなくて、邑さんには私しかいなくて。
こうやって二人でゆったり生きていくのが、私たちの幸せなんだ。
いい夫婦の日ギリセーフ。ふぅ。




