第六話 暗闇と輝き
俺達はハイウルフ達からソフィーとお父さんを助けたあと、本来の目的である”レッドサイクロプス”を求めてやってきた。
リングルムの近くにあるこの森、正式名称”リングルム深林”と言うが、街の人は皆”闇夜の森”と呼ぶ。
理由は日中どれだけ晴れていようが、森の中にはほとんど光が入ってこないからだ。
そのため、この森に入る時は、ランプのような明りがあると良いのだが、光に敏感な”ダークネスファング”というオオカミ型のモンスターが住み着いている。
奴らは、光を見ると大軍を引き連れて襲い掛かる習性のため、使用を控える者が多い。
森に入ると、後方からの光で入口付近は見えるが、その奥は木の輪郭や道幅を把握出来ないほど、一切の光がなく真っ暗だ。
「くそ、さすがは闇夜の森、暗すぎてなんにも見えねぇ……真っ暗って言うより闇って感じだな」
暗いのが怖いのか、ウィンダは急に俺の手を握りしめてきた。
「ク、クリス君」
今にも泣き出しそうなほどの声で俺の名前を呼ぶ。
俺は握られている手をそっと握り返す
「大丈夫、俺が付いてる」
と、一言だけ返す。
自分で言っておきながら身体が暑くなるほど赤面する結果となったが、ウィンダは気付いていない様子だ。
「あ、ありがとう……た、頼りにしてるよ」
震えた声からして、相当怖いらしい。
そのため、明りを使わずに進む方法がないか調べるため、左目を閉じて、空いた右手で全知全能の図書を開いた。
リングルム深林を明り無しで進む方法はあるか?
『リングルム深林に生えている木は、実は自然系のモンスター”ザ・フォレスト(仮名)”で、このモンスターは土に含まれている魔力を養分に生きています』
『この世界には全国で10体ほどしか居らず、未発見のモンスターです。未発見の理由はモンスターの本体が地下10キロほど深い所に居るため、索敵スキルなどの範囲に入らないからです』
『長くなりましたが、このモンスターの木に触れることで、魔力を送って光らせることができます。さらに、根が全ての木と繋がっているため、送った魔力が循環し他の木も同様に光ります』
この説明だけだと、なんとなくしか分からないが、実際にやってみるか。
「ウィンダ、少し移動するぞ」
返事がなかったため、ウィンダの顔を覗くと、少し涙目になって体を微かに震わせていた。
それを見た俺は無意識でウィンダの頭を撫でる。
「ひゃっ!」
突然のことにウィンダが驚いた。
「ご、ごめん、妹に似てたからつい……」
「ううん……ありがとう、クリス君」
すると、ウィンダが握っていた手を離し、頭を撫でる俺の手と重ねる。
俺はウィンダの大胆な行動に、ドキッとしたがウィンダが落ち着きを取り戻したのを見て、俺も安心した。
俺はウィンダの手を引いて、すぐそばの木に近付き手のひらで触れる。
手から魔力を送った瞬間、木が青白くパッと光り、波紋のように次々と隣の木へ光が走った。
「今、何をしたのクリス君?」
「あ、いやなんとなく触れてみたら、木が光りだしたんだ」
ウィンダは「ふーん」と森の奥を見つめた。
「ま、まぁこれで、森の中がどんな構造になってるかわかるな」
「そうだね」
「そうだ。まだ組んで間もないし、お互いの連携確認のために、モンスターを倒しながら進まないか?」
ウィンダは頷く。
それから、俺はウィンダと森の奥へゆっくり進みながら出会ったモンスターを倒していった。
「ふぅ……だいぶ連携が取れてきたな。ウィンダ、周りにモンスターはいるか?」
「んーと、近くには居ないみたい」
「了解」
さらに奥へ進むとウィンダの足が止まる。
「クリス君、索敵範囲に1体引っかかったわ」
すると、遠くでカシャン、カシャンという音が聞こえる。
俺は無言でウィンダに木陰に隠れるように合図を送り、自分も近くで身を潜める。
音は徐々に大きくなり、目の前を通過していく。
通り過ぎた直後、側の木に魔力を送って光らせると、そこには”デュラハン”が居た。
デュラハンは、先ほどまでの低ランクのモンスターたちと違い、レッドサイクロプスと同じCランクモンスターだ。
頭部がない代わりに左手に持っている盾に、顔と口、耳が付いている不死系のモンスターで、個体によって盾以外の装備している物が全く違う。
理由は冒険者が捨てていった物や、倒して剥がした物を身に付けているからだ。
デュラハンは突然光った木々に、盾をあっちこっちに向け、驚いてる様子だった。
「この隙間から狙撃出来るか?」
「当たり前でしょ、狙撃銃マスターを舐めないでよね」
そう言い、ウィンダはうつ伏せになり、隠れていた小低木の隙間に音を立てないように、ゆっくりと銃口を刺し込み狙いを定める。
俺はデュラハンの背後に飛び出し、頭上で構えた手に大剣を具現化させて、振り下ろす。
だが、俺の殺気に気付いたデュラハンは前転で回避する。
そして、俺の姿を確認したデュラハンは、腰の帯剣を引き抜いて肩まで振り上げると、こちらに突進してきた。
振り下ろされる剣を、大剣の側面で受け止める。
「ウィンダ!ヤツの動きを止めるから狙撃してくれ!」
「わかったわ!」
ウィンダはスコープを覗き、トリガーに指を掛けて狙いを定める。
だが、デュラハンはガードする俺の大剣にラッシュ攻撃を仕掛け始めた。
「くっ……さすがCランクモンスター……連続攻撃を耐えるので精一杯だ」
相手の動きが遅くなってきたところを見計らい、俺は両手で力任せにデュラハンの剣を弾き返すと、横に飛んでウィンダに射線を開ける。
よろめいたデュラハンの大きな隙をウィンダが見逃すはずもなく、弱点である胸の上部を撃ち抜く。
デュラハンはガシャンという音を立てて膝をつく。
弱点を撃ち抜かれて膝をついたとはいえ、不死系Cランクであるデュラハンはまだ倒れない。
俺は背後に回り込み大剣を肩まで振り上げ、立ち上がろうとするデュラハンに向けて振り下ろす。
デュラハンは頑丈な鎧を身に付けていたが、ウィンダに撃ち抜かれヒビが入っていたため、俺の腕力と大剣の重みが乗った一撃に耐えることができず、地面に倒れこんだ。
デュラハンの剣が地面に落ち、カランという音と共に、倒れたアンデッドの肉体と粉砕された鎧は砂山へと化す。
俺は木陰から出てきたウィンダの方を向き親指を立てる。
「ナイス狙撃」
「ありがとう。クリス君もナイスフォロー」
「あぁ、ありがと……お、あれは」
何かがデュラハンの砂山から、輝きを放っていた。
俺はしゃがんで砂山を掻き分ける。
「お、激レア発見!」
『デュラハンの剣』
デュラハンの剣はこのまま装備する事も可能だ。
しかし、装備すると”呪い”を受けてしまうため、武器製作の素材になる事がほとんどである。
呪いとは、受けると全てのステータスが下がるデバフの状態異常のことだ。
一通り、ドロップアイテムを回収し、立ち上がる。
俺はウィンダに奥に進むぞと、指で合図を送って歩き始めると、ウィンダも隣に駆け寄ってきて、何の躊躇もなく手を握る。
驚きつつも、俺はゆっくりと握り返した。
「まだ怖いか?」
と聞くと、ウィンダは黙って頷く。
戦闘中はしっかり動けてたし、この先も大丈夫だろう。
そんな事を考えながら奥に進む。
「ねぇ、クリス君」
「ん? どうした?」
「勘違いだったらごめんなさい。もしかしてクリス君のお師匠様も、狙撃銃の使い手だったの?」
「そうだよ、よくわかったな」
「ハイウルフの時から思ってたんだけど、今までの戦闘全部、私の使い所が上手だったから、もしかしたらそうなのかな? って思って」
「ハイウルフの時は、師匠が似た状況でやってた戦法を真似たもので、デュラハンの時の動きを封じて射線を作るのは師匠の教えだよ」
「そうだったんだ」
「ウィンダが気になってるのは、俺の師匠がウィンダの父親じゃないか? って事だろ?」
「っ!……そうだよ」
「俺もちょっと思ったけど、ウィンダと師匠の名字が違うから、別人だと思ってるんだよね」
「クリス君のお師匠様の名前は?」
「ギド・アレシオンっていうんだけど」
「名前も違うね。お父さんの名前は”ギル”っていうもの」
名前は似ているが、同一人物とは思えないな。
考え事をしていると、唐突にウィンダに腕を引っ張られる。
「待ってクリス君、何かが近付いてくる」
そう言い、ウィンダが右前方を指差す。
指差す方向に視線を向けると、オレンジ色に輝く光がこっちに近付いているのが見えた。
「ウィンダ、一旦隠れよう!」
俺の生存本能が近付いてはいけないと感じ取り、すぐ側の木陰に身を隠す。
隙間から覗くと、先ほどオレンジ色の光の全体像が見えた。
なんか、獣類系のモンスターに見えるな……四足歩行に長い尻尾、ライオンやトラのモンスターか?
ゆっくりと進んでいたオレンジ色の光が立ち止まり、頭をこちらに向ける。
その視線は俺に向けられている気がした。
心臓の鼓動が早くなり、思わずウィンダの手を強く握る。
「クリス君、痛い」
ウィンダの声にハッと我に返り、手を緩める。
「ごめん、ウィンダ」
「ううん大丈夫だよ、私も怖かったから気にしないで」
再び、光のあった方に視線を向けると、奥へと進んだのかその光は先程と比べ、遥かに小さくなっていた。
木陰から道に戻った俺達は、正直戸惑っていた。
「あの光は、もしかしたらこの森に住むモンスターの頂点かもしれない」
「頂点って事はモンスターのランクも」
「あぁ、AランクもしくはSランクなんて事も考えられる」
「あのモンスターに出くわさない様に、索敵スキルに集中するね。でも怖いからクリス君の手を握ったままでいいかな?」
「あぁ、とりあえず真っ直ぐのルートを避けて進もうか」
「うんっ」
俺とウィンダはレッドサイクロプスを目指して森の奥へと進んでいった。