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第十五話 村長と家族

 クレアルに入った俺はセームのあとを着いていき、村長の家に向かっていた。


 すれ違う村人達は、ほぼ全員がこちらを向いている。

 「なんか視線を沢山浴びている気がするんだけど」

 「気のせいではないですね。少なくとも見られているのはクリスさんではなく私だと思いますけど」


 「なんでだ? セームが帰ってきたんだから皆寄ってきそうなもんだけど」

 「今の私の格好とシャインを連れていないことで、不思議に思っているのでしょう。私の家は元々他の村人達と仲良くはないですから余計に近付いてこないですよ」


 セームは夢叶(むきょう)の花弁を食べた直後から、着ている服が変わった。

 出会った当初はチョッキやスカートを履いていたが、今は武闘家としての動きやすさを重視してるのか、半袖に短パンスタイルだ。


 特におかしな格好には思えなかったが、周りの人達と見比べてようやくその違いに気付いた。


それは村の人たち、特に俺と変わらないぐらいの若い女性やその親と見られる女性が全員ロングスカートを履いている。


 


 村人達の視線を浴びながら村の奥へ進んでいく道中、村の子供達がセームを見るなり集まってきた。


 「セームお姉ちゃんだ!」

 「おい皆ー、セームが帰ってきたぞ」

 「え、セームお姉ちゃんが!?」


 「セーム、帰ってきたんだな!」

 「おかえり、セームお姉ちゃん」


 「みんな、ただいま」

 子供達に囲まれたセームはとても嬉しそうだ。


 「セームお姉ちゃん、その格好どうしたの? それにシャインは?」

 「シャインはね……もう居ないの」


 「えー、どうして?」

 「死んじゃったの?」


 子供達は好奇心旺盛で、次から次へとセームに質問攻めにした。

 セームは答えることもなく、ただただ愛想笑いを浮かべている。


 「コレお前達、セームが困っているじゃろ」

 声がした方に視線を向けると、そこには橙色の布切れのような服を着た、長い白ヒゲを垂らした老人が立っていた。

 夕日に照らされた頭皮が眩しく見える。

 

 「村長」

 どうやら村の村長が、子供達の騒ぎを聞きつけ出てきたようだ。


 「ただいま帰りました」

 「うむ、無事で何よりじゃ。とりあえずわしの家に行こうか、そちらのお連れさんも一緒にな」


 「はい。じゃあみんな、後でね」

 セームは子供達に手を振ったあと俺の手を取り、村長の後を追いかける。


 村長の家は村の入口から一番奥に建てられた、焦げ茶色の木造平屋建てだ。

 他の家も二階建ては数軒しかなく、ほとんどが平屋である。


 しかし村長の家と言っても家自体は小さく、庭もない……というより一軒一軒に囲いがない。


 家が敷地内と言った所か。


 2人揃って「お邪魔します」と言って家の中に入っていく。


 家の中もシンプルな作りになっていて、玄関の先に一枚扉があるだけで、その奥はカーテンのような布で仕切られた大きな部屋が一つあるだけだった。


 「とりあえず2人共座りなさい」

 村長の指示に従い、正座で床に座り込む。


 「まずはセーム、よく無事で帰ってきた。シャイニングタイガーの事は残念じゃが、お主が生きておるのはシャイニングタイガーのおかげじゃろう、その恩を忘れるでないぞ」


 「はい、村長」

 「して、そちらの御仁。名は何と申す」


 「クリス・レジンスと言います」

 「ふむ、ではクリス殿。我が村のセームを助けてくれて本当にありがとう」

 村長が深々と頭を下げる。


 「いえ、たまたま出会っただけで、セームならきっと一人でも帰って来れたと思います。 むしろ俺が居ない方がシャインも生きてたかもしれないですし」


 「クリス殿の言いたいことは分かるが、それは結果論に過ぎん。今はこの縁に感謝しようではないか」

 「はい、ありがとうございます」

 俺は床に着くギリギリまで頭を下げた。


 「ところでセームよ、お主もしや、モンスターマスターとしての力を失ったか?」

 「……正直な所、分かりません。夢叶の花を食べてこの力を手に入れましたが、元々あった操性の力がどうなったかは……」


 村長は長い白ヒゲを数回撫でたあと、自身の左腕に着いている青色の腕輪を外し、セームに差し出す。

 「これを付けて、呼び出してみよ」

 「これはフラワーバードのですね、やってみます」


 フラワーバードは名称通りの鳥類系モンスターで、橙色と朱色が交互に彩る花弁のような翼を持つ、ハチドリのような小型のモンスターだ。


 攻撃性がない代わりに、ペット等に用いれられることが多い可愛い系のモンスターである。


 セームは村長から受け取った腕輪を左手の二の腕辺りに着けると、その左腕を上に真っ直ぐ伸ばす。


 「おいで、フラワーバード!」

 伸ばした腕を見上げながら呼びかけるが、反応がない。


 「低級の魔物ですら呼び出せぬか……本当にモンスターマスターとしての力を失ってしまったようじゃの」

 「すみません村長、今までお世話になったのに」


 「なに、これもまた人生じゃ。セームの新たな門出を祝おうじゃないか」

 「ありがとうございます」

 セームは床に手を着き、深々と頭を下げた。


 「そうなるとセームよ、今後はどうするつもりじゃ?」

 「モンスターマスターの力がない私と元々この村の人間ではないお母さんは、もうこの村には居られないですよね」


 「う、うむ……そうなるかの」

 村長は申し訳なさそうにゆっくりと頷いた。


 「だったら私は、お母さんの故郷に戻って修行します。 シャインとルナの仇を取れるように」

 「そういうことなら俺も付き合うぞ」


 セームは首を横に振った。

 「いえ、これ以上クリスさんに迷惑掛けられないので、クリスさんとの旅はここまでです」

 「迷惑なんて思ってないぞ?」


 「クリスさんがそう思っていても私が嫌なんです。 いつまでもクリスさんに頼っていたらクリスさんのように強くなれないから、お母さんの故郷に戻ったら一人で修行するつもりです」

 「セーム……」


 「でも安心してください、修行して強くなったら絶対にクリスさんに会いに行きますから、それまで待っていてください」

 「わかった、少し寂しいけどセームがそこまで言うなら、俺は待ってるよいつまでも」


 「はい! ありがとうございます!」

 セーム満面の笑みを浮かべた。




 村長への報告が終わり、セームの家に向かおうと立ち上がる。


 「ルナドラゴンの砂化は明日執り行う、遅れるでないぞ」

 「はい!」


 「村長さん、それでは失礼します」

 玄関で見送ってくれた村長に頭を下げると、村長は俺の肩にそっと手を置いた。

 「うむ、セームの事をよろしく頼む」


 村長の家を後にした俺達は、セームの家に向かって歩き出す。


 セームの家は他の村人達の家から、かなり離れた所に立っているようだ。

 その理由はセームの父親が村の掟に逆らい村の外から奥さん、つまりセームの母親を連れて来たことが原因だった。


 この村はモンスターを使役できる唯一の人間ということで、その技術を外に漏らさないため、結婚等は村人同士で行う掟が存在する。


 だが、セームの父親は外でセームの母親と出会い、セームを授かって村に戻ってきたらしい。

 その後セームの父親はクエスト中に戦死し、今はセームと母親の二人暮しだなのだとか。


 村長の計らいで、モンスターマスターの力があったセームとその母親を村に置いてくれたらしい。


 「着きましたクリスさん、我が家へようこそ!」

 セームの家は、村の奥深くに建てられた大きな木造二階建てで、他の家とは違い、家の周りには丸太で出来た囲いが建てられている。


 囲いの中には畑が点在しており、いくつもの野菜が植えられていた。


 セームがスライド式の玄関を開けて入っていく。

 「ただいまお母さん!」


 しばらく待っていると廊下の奥から、まるでセームを大人にしたような綺麗な女性が出てきた。

 「おかえりなさい、セーム」


 村の子供達はセームを心配していたように見えたが、母親は帰ってくるのが最初からわかっていたかのように、落ち着いていた。


 「セーム、そちらの方は?」

 「クリスさんだよ、闇夜の森の中で助けてもらったの」


 「そうだったの。クリスさん、娘を助けていただいてありがとうございました」

 セームの母親は両手を揃えて丁寧に頭を下げた。


 「いえいえ、俺もセームに助けられたので、お互い様ですよ」

 あまりに綺麗な所作に一瞬見惚れたが、我に返って両手振る。


 「そうですか。もう時間も遅いですし、お礼と言ってはなんですが泊まっていってください。狭い所ですが」

 「いいんですか?」


 「はい、娘も喜ぶと思うので。ねぇセーム」

 「うん! クリスさんとまだ一緒にいたい!」

 セームは可愛らしい笑顔をこちらに向けた。


 うっ、セームみたいな小さい子にこんな顔されたら、断るに断れないな。

 妹の小さい頃に似てて、甘やかしたくなっちまう。


 その時、一瞬脳裏に痛みが走る。

『お兄ちゃん』

 「ッ!」


 「どうしたんですか? クリスさん」

 痛みで力強く閉じた瞼をゆっくり開けると、心配そうな顔でセームが覗き込んでいた。


 「大丈夫、なんでもないよ」

 誤魔化すように俺は、セームの頭に手を置いて優しく撫でる。


 「ひゃっ、ク、クリスさん!? ダメです、お母さんが見てるので撫でるのは止め……ふにゃあ」


 「ふふふ、セームはすっかりクリスさんに懐いてますね」

 「あ、す、すみません親御さんの前で」


 「いいんです、うちは早くに旦那を無くして、セームには寂しい思いをさせてきてしまったので。

 クリスさんさえ良ければ、うちの子貰ってもいいですよ」


 「ちょっ、ママ!? クリスさんにそんな事言わないで! 決めるのはクリスさんなんだから!」

 セームはお母さんのお腹辺りをポカポカと叩くが、お母さんは笑いながら受け流していた。


 「でもセームは否定はしないのね、クリスさんに貰ってほしいのかしら、ふふふ」

 お母さんが続けて煽るような事を言うと、セームの顔はみるみるうちに夕日に負けないぐらい真っ赤に染まる。

 「もう、ママのばか! クリスさん私の部屋に行こっ!」

 「あ、あぁ」


 セームは俺の手を掴むと力強く引っ張っていき、自室がある2階へ登って行った。


 「セーム、クリスさん。 夕飯ができたら呼ぶわねー」

 下からセームのお母さんの声が聞こえたが、セームは返事することなく、俺を自分の部屋に連れ込んだのだった。

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