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第十三話 武闘家と剣士

 クイーン・サンドワームに奇襲された場所から北にある森の入口、セームの住んでいる村にはここを通るのがいちばん早いらしい。


 森の入口のそばには、文字が刻まれた3メートルほどの石柱が6本、円を描くように地面に突き刺さっている。

 これは”休息地”と呼ばれるもので、昔の人が造った野宿用の結界である。


 ゲームなどに登場する、ダンジョン内で唯一セーブやHP、MPを回復できる場所だと思ってくれればいい。


 「よし、ここで一旦休憩するか」

 俺は街で買っておいた大きなテントを具現化した。


 山吹色の四角錐のテントで、俺が3人川の字になっても多少余るほど大きいため、セームと2人で休憩するには十分な広さだ。


 俺は落ち込んだままのセームの手を取、テントの中に導くと、外から木屑を踏み鳴らす音が聞こえた。

 「ちょっと様子を見てくるから、セームはここで休んでて」


 セームは俯いたまま小さく頷く。


 テントを出て辺りをキョロキョロと見回すが、モンスターが彷徨いてる様子は無い。


 目を閉じ耳を澄ませると、微かだがパキッと足音が聞こえた。


 ここは結界内だから、テントの中にいるセームが襲われる事はないだろうけど、一応一言だけ声を掛けておくか。


 「セーム、近くに敵がいるみたいだからちょっと行ってくる」

 テントの外からセームに声を掛けたが返事がない。


 中を覗くと、セームは身体を丸くして眠っていた。

 目元には涙を流した後が残っている。

 「セーム……助けてやれなくてごめんな……」


 ゆっくりと入口を閉じ、足音の聞こえた方に向かう。


 5分ほど近くを探したが、モンスターは見つけられずテントに戻ってきた。

 中を確認すると、セームがスヤスヤと眠っている。

 「起きるまで外で待ってるか」


 テントを出て、入口のそばに座り込む。


 さて、ここからは村までセームを守りながら進まなきゃいけないな。

 幸いここは森の中、セームはまだまだ背が低いから屈んで隠れることも出来る。


 問題なのは、ここから後どれぐらいで村に着くかってところだな。

 セームが起きたら聞いてみる……か……。


 森の方から吹いている涼し気な風が心地よく、俺はいつの間にか眠っていた。




 何かが壊れるような大きな音が森の方から聞こえ、飛び起きる。


 「セーム!」

 慌ててテントの中を覗くとそこにセームの姿はなく、代わりに先日セームに見せて貰った夢叶(むきょう)の花が置いてあった。


 森の方に視線を向けると、ちょうど森の方からセーム歩いて来るのが見える。


 「セーム!」

 「あ、クリスさん、おはようございます」


 「おはよう……ってそうじゃなくて、なんで森に」

 「実はクリスさんがテントのそばで寝てる時に、夢叶の花を食べたんです。

 戦える力をくださいって、そしたら」

 セームは足元に落ちていた拳大の石を手に取り、それを片手で握り潰した。


 「素手で戦うような力を手に入れたので、入ってすぐの所にあった岩で試していたんです」

 「じゃあ、さっきの爆発音は」


 「はい、多分私が正拳突きで岩を破壊した音だと思います」

 「なんだ、そうだったのか……何も無くてよかった……」


 「ごめんなさい、心配をお掛けしました」

 「いや、無事ならいいんだ……それよりそろそろ出発しても大丈夫か?」


 「はい、いつでも大丈夫です」

 「じゃあ、向かうとしよう」


 テントに触れて魔力化する。


 森に入ってすぐの所に粉砕された岩が転がっていた。

 「これか、セームが試した岩って」

 「はい、クリスさんと同じ高さぐらいあったと思います」


 マジかよ。

 俺の身長は178センチあるんだぞ、それと同じぐらいって相当大きいはずだぞ!

 これはセームに前を任せて、俺は援護に徹してもいいかもしれないな。


 俺は、森の中での戦闘をイメージしながら奥へと進んで行った。




 この森は、セームを助け出したリングルム深林に比べて日光が沢山降り注いでいて、とても明るいが完全にけもの道のようになっていて、足場が悪い。


 旅をしてきた俺には、気を付けていれば問題はないが、後ろをついてくるセームの方が気になる。


 比較的平らなところで立ち止まり、後ろに振り返った。

 しかし、そこにセームの姿は無い。


 「セーム!?」

 「はーい」


 セームの姿は見えないのに声は聞こえる。


 「どこにいるんだ?」

 「上です」


 「は? 上?」

 俺はその場で見上げると、セームが太い枝の上からこちらを見下ろしていた。


 「え、いつの間に!?」

 「森入ってすぐですね、先に行くクリスさんが歩きづらそうだったので、太い枝から枝へ飛び移って着いていってました」


 「まるで忍びだな」

 「忍びですか?」


 「あぁ、俺のよく知ってる忍びが、セームみたいに森の中移動してたから」

 「そうでしたか」




 それからさらに森の奥へ進んでいく道中で、俺たちはオークの群れに遭遇した。


 「セームは後ろのモンスターを頼む!」

 「はい!」


 前に2体、後ろに1体の計3体だ。

 3体全員が右手に木製の棍棒を持っており、個体差で利き手が違うのか俺の前に居る右側のオークは左手で持っている。


 全身が千草色で目が赤く耳が横方向にとんがっていて、藁で作られた腰巻を着けているのが特徴だ。

 身長は200センチ越えと巨体で全体的にぽっちゃりだが、腕はかなりの筋肉質。

 あの腕で力一杯に殴られたら、ひとたまりもないだろう。


 サイクロプスに比べたら背は低いが、横に広いせいか大きく見える。


 後ろの1体はセームに任せたが、少しでも早く前の2体を倒して援護に入らないと。

 「ウィンダが居ればもう少し楽になるんだけどな、今更そんな事言っても仕方ねぇか」


 ―――「神速」―――

 神速による高速移動で動き回り、敵の視界から消えて後ろに回り込み、弱点である大きい背中を太刀の7連撃でダメージを与えている。


 同時に相手する技量はないので、片方ずつ確実に仕留めていく。


 オークは通常攻撃を2回、14連撃を与えただけで簡単に砂化した。

 「思ってたより弱かったな……もう少し時間掛かると思ってた。でもこの調子ならすぐにセームの方に行けそうだな」


 もう1体の方に身体を向け、正面に太刀を両手で構える。


 「ついでだから、お前で試し斬りしてやる」

 ―――「連爆斬り」―――


 太刀の刃先を右向きで水平に持ち、オークに向かって走り出す。

 オークの右腹部を切り抜けで背中に回り込み、逆袈裟斬り、左逆袈裟斬りでバツ印に切り付る。

 身体を捻り、交差した箇所を真横に回転斬り。


 勢いそのまま後ろを向き、右手で太刀を左向きで水平に持ち、左手で刃を握るように添えると同時に、鞘を具現化する。

 具現化した鞘にスッと太刀を納めると、オークが爆発し砂化した。


 連爆斬りは連続攻撃後に爆発で大ダメージを与える、汎用型の攻撃スキルだ。

 つい先日覚えたばかりの新スキルで、通常攻撃の90%で連撃して連撃回数に応じて最後の爆発のダメージが伸びるというモノ。

 さらに爆発部分には火属性が付与されているため、火属性が弱点であるオークにはダメージが増えている。


 「よし、一撃だ!」


 急いでセームの様子を伺いに向かう。


 セームは小さい身体を上手く利用して敵の攻撃を躱していた。


 「セーム!」

 「クリスさん!」


 「大丈夫か?」

 「平気です、それよりも前の2体は」


 「そっちは大丈夫、難なく倒したから」

 「さすがですね、クリスさん」


 「じゃあ、俺が援護するから2人で残り一体を倒そうか」

 「はい!」


 ―――「雷鳴脚」―――

 セームの両足を青白い雷が包み込む。


 オークに向かって走り出すが、俺の目にも止まらぬ速さでオークの腹部に飛び蹴りを与えた。

 雷鳴脚も連撃技のため、そのまま脚を入れ替えるように蹴り続け、計8連撃を入れる。


 一度地面に降りたセームの頭上から棍棒を振り下ろす。


 「セーム、上!」


 セームが武闘家になって新たに覚えたスキルは3つ。

 1つ目は今発動させた雷鳴脚、俺が持っている疾風迅雷の脚技版だ。

 2つ目は入口で使っていた正拳突き、そして3つ目は――――。


 ―――「サマーソルトキック」―――

 バク転しながら振り下ろされた棍棒を蹴りあげる。


 「おぉ、すげぇ」


 オークは棍棒を蹴りあげられ体制を崩した。

 それを見計らい、俺は太刀から大剣に持ち替えオークの足に投擲で投げる。


 脚が崩れうつ伏せの状態になったオークの真上に飛び上がったセームは、その場で一回転して右足を伸ばし、後頭部目掛けてかかと落としで攻撃。

 後頭部に直撃したセームのかかと落としは思った以上にダメージが入ったらしく、オークはうつ伏せのまま砂化した。


 「た、倒せた……倒せましたよクリスさん!」

 「おう!良かったぞセーム!」


 「最後、オークを転倒させてくれてありがとうございます」

 「いやいや、援護するって言ったしそれでもセーム1人で倒せたと思うけど」


 「それはクリスさんがそばに居てくれたからです、クリスさんが来る前なんてずっと避けてるだけでしたから……」

 「それでも頑張ったのはセームだよ、お疲れ様」

 そう言って俺はセームの頭を優しく撫でる。


 「ありがとう……ございます」


 「さて、ドロップアイテムを回収したら進むぞ」

 「はい!」


 手分けしてドロップアイテムを回収した俺たちは、村に向かい歩き出した。

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