第十二話 少女と獣
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ウィンダと別れた俺とセームは、リングルムから北東にある”クレアル”という村を目指していた。
リングルム北東部は硬い砂に覆われた砂原になっていて、隣の草原地帯や山岳地帯のモンスターが一部往来している。
リングルムの東門を出て少し歩いた所で、セームが首から下げたアクセサリーを握る。
「シャイン!おいで!」
セームが呼びかけると、颯爽とシャインが姿を現しセームに飛びつく。
シャイン大きなその身体でセームを押し倒し、頬をペロペロと舐める。
「もう、急にどうしたの? くすぐったいって」
しばらくするとシャインがセームの上から避けると、すぐにセームも立ち上がった。
「これが欲しかったんでしょ?」
セームは1枚の生肉を取り出し、シャインに投げる。
シャインは投げられた生肉をジャンプして頬張り、嬉しそう食べていた。
「シャインが食べ終わったら出発しよっか」
「はい、お待たせしてすみません」
セームがこちらを向きぺこりと頭を下げる。
「セームについて行くだけだし、大丈夫だよ」
俺は右手をセームの頭に乗せて、優しく撫でる。
「……ありがとうございます」
セームの頬が赤く染まっていた。
シャインが生肉を食べ終わりいざ出発しようと思った時、セームが夢叶の花を手に持ち見つめていた。
「セームどうしたんだ?」
「いえ、出発前に食べてみようと思ったんですけど、勇気が出なくて……」
セームが苦笑いした。
「そんな焦って自分を変える必要はないんじゃないか? 村に戻ってからでも遅くないと思うけど」
「そう、ですね……すみません行きましょうか」
「あぁ」
「シャイン! 行くよー」
シャインがセームの傍に駆け寄り伏せの姿勢を取る。
セームがシャインの背中に手をかけると「一緒に乗りますか?」と聞かれたが、俺は断った。
「さて、この砂原はサンドワームに注意しながら進むぞ」
この地帯にしか出現しないモンスターの中で、一番出現率が高いのは”サンドワーム”だ。
長さが10メートル以上あると言われている芋虫のような砂と同じ色モンスターで、目は無く大きな口の側面に開いた耳で敵の位置を把握し、砂中から丸呑みするのが基本スタイル。
地上を歩いていると、地中から振動が伝わってくるので接近に気付くことは可能だが、個体が大きくなればなるほど振動が弱くなるのが大きな強みだ。
ウィンダと別れた今索敵スキルが無いため、1人で旅していた時のように周りの殺気や足音などに注意を向けた。
シャインも気にしているようで、時折周囲を嗅いでいる。
歩いていると当然モンスターと遭遇するわけで、俺たちは全長3メートルほどある、全身が紫色と黒色の縞模様のさそり型のモンスターと戦闘していた。
戦闘は俺とシャイン前に出て近接戦闘を行い、セームが少し離れた所からシャインに指示する。
「シャイン、避けて!」
両手と尻尾のハサミで連続攻撃がシャインを襲うが、身軽に避ける。
「そのまま、フレアバースト!」
シャインの開いた口から白い光線が放たれる。
しかし、足が早いさそり型のモンスターはフレアバーストをバックジャンプで回避した。
俺は敵の後ろに回り込もうと走り出す。
だが、さそり型モンスターは尻尾を後方に真っ直ぐ伸ばすと、その場で一回転して近付かせてくれない。
「クソっ」
「大丈夫ですか、クリスさん!」
「大丈夫!」
こちらに振り向いたさそり型モンスターは、頭上に尻尾を構えてハサミを開く。
俺に狙いを定めた尻尾が勢いよく飛んでくる。
俺は大剣の側面にハサミを滑らせて軌道を逸らす。
地面に刺さった尻尾は限界まで伸ばしたのか、殻の隙間から伸縮自在の筋肉が見えていた。
もしかしてあの硬い殻じゃなくて、この筋を叩き切れば!―――。
敵は地面に深く刺さった尻尾を引き抜こうとして、後ろにゆっくりと下がり出す。
「クソ、今しかねぇ!」
俺は頭上に大剣を振り上げ、筋に向かって振り下ろすが間に合わず、ハサミの硬い殻にガキンッと弾かれた。
「間に合わなかったか」
俺は反撃が来る前にバックステップで距離を取る。
「攻略法はわかったが、どうやってさっきの攻撃に誘導させるか」
さそり型モンスターは、両手と尻尾のハサミをカチカチと音を立てる。
シャインも鼻にシワができるほど威嚇しており、なにか強力な技が飛んでくる気がした。
俺とモンスターが睨み合う。
少し距離はあるがセームの傍にシャインが着いており、L字で敵を囲んでいる。
敵が俺に向かって走り出し、両手のハサミを開きながらを振り上げると、急停止しその勢いで両手を、俺とセーム達にそれぞれ伸ばした。
シャインがセームの股下に潜り込み、背中に乗せてギリギリ回避する。
俺もすかさず左に紙一重で避けると、伸びきって見える筋に向かって大剣を振り下ろした。
真っ直ぐ入った剣撃が敵の右腕を切り落とすと、切られた痛みで悲鳴をあげながら、さそり型モンスターが仰け反る。
「シャイン、あなたもクリスさんみたいに柔らかいところ狙って」
シャインが返事をするように雄叫びをあげ、足先から4本の光る爪を伸ばした。
シャインは敵に向かって走り出す。
体制を立て直したさそり型のモンスターは尻尾のハサミを閉じたままシャインに向かって伸ばした。
シャインはそれをサイドステップで軽快に避ける。
さそり型モンスターも負けじと尻尾で連続攻撃を行うが、シャインは左右に飛んで次々と避けて徐々に近づいて行く。
俺もシャインに集中しているさそり型モンスターの死角に駆け込み、大剣から太刀に持ち替える。
シャインの攻撃に合わせて飛び込もうと足に力を入れた瞬間、シャインが急停止し空をクンクンと匂いを嗅いだ直後、セームに向かって走り出した。
「どうしたのシャイン!」
シャインの後ろをさそり型のモンスターも着いて走り出し、俺も後に着いていく。
するとシャインがセームの元にたどり着く直前、セームとシャイン、さそり型モンスターの足元の砂が突然無くなった。
突然の出来事に俺は足を止める。
「セーム! シャイン!」
同時に足元の真っ暗な大穴から白色の無数の牙がゆっくりと上がってきた。
俺は咄嗟にバックステップでその場を離れる。
出てきたその大きなモンスターの正体は、全身が薄い茶色に覆われているが、所々ピンク色の鱗が目立つ。
目や手足が無く地中を自由自在に移動しており、直径5メートル、全長300メートル以上あると言われている円柱型のモンスター、砂地帯のAランクモンスター”クイーン・サンドワーム”だ。
「なんで、こんな硬い砂地帯に……まさか塔の攻略が進んだからか!? いや、そんなことよりもセームとシャインを確認しないと」
俺のいる位置からだと、セームやシャイン、戦っていたモンスターの所在すら分からない。
「無事でいてくれ」
クイーン・サンドワームの反対側に回ろうとしたその時。
「シャイン! お願いだから帰ってきてよ……シャイン」
セームの涙ぐんだ声が聞こえた。
セームの元に駆け寄ると、地面にペタリと座り込んでいた。
その足元には、セームが首から下げていたアクセサリーの一部落ちている。
「セーム何があった」
「ク、クリスさん」
セームの目は、今にでも涙が溢れそうなほど目が潤んでいた。
「シャインが……シャインが私を助けようとして蹴り飛ばしてくれたんです。でもそのままシャインとさそり型のモンスターがこの大きなモンスターに飲み込まれてしまって……主従のペンダントも割れてしまいました……もうシャインは―――」
と、その時周囲を無数のサンドワームが取り囲んでいた。
「仕方ない、逃げるぞセーム。シャインが救ってくれた命だ。シャインの為にも行くぞ」
「は、はい……」
俺はセームを抱きかかえると神速で砂地帯を脱出したのだ。