第十一話 別れと告白
公開修正中です、完成後改めて投稿します。
レッドサイクロプス改めクリムゾンサイクロプスを倒し、リングルムに戻る途中で、ダークネスファングの大群に追われていた少女を救出した。
その少女"セーム"は大剣使いより希少な"モンスターマスター"だと言い、"シャイニング・タイガー"というモンスターを連れていた。
俺とウィンダはセーム、シャインと一緒にリングルムへ向かっている途中だ。
街に着く直前セームは、シャインの歩みを止めて背中から降りた。
「シャイン、私が呼ぶまで隠れててね、誰かに見つかりそうになったら逃げていいから」
セームはシャインの頭を優しく撫でる。
シャインは嬉しそうな表情を浮かべると、どこかへ走り去っていった。
「いつも、ああしてるのか?」
「そうですね、街にモンスターを入れるとあらぬ疑いを掛けられたりして大事になってしまうので、村以外では外に待機するようにしてます」
その後街に入り、受注店の前まで来た。
「とりあえず依頼完了の報告してくるから、2人はそこ噴水のそばで待っててくれ」
噴水を指差す。
「はーい」
「わかりました」
受注店に入ると普段の倍以上に賑やか、というより騒がしかった。
俺はカウンターに向かうと、カウンター越しにこちらに気付いたレインさんが慌てて駆けてくる。
「ク、クリスさん! 良かったご無事で」
「え? なにかあったんですか?」
「は、はい実は!―――」
と、レインさんが話しだそうとしたその時、各階の天井付近にマジックモニターが表示された。
『速報です。
世界最強のギルド"アイシクル・レイヴン"が"アトランタルの塔"第20階のボスを倒しました。
これにより地上に生息するモンスターの下限値はLv10に、上限値はLv60に上昇しました。
また、一部のモンスターが進化している報告が多数あがっておりますので、冒険者の皆さんは注意してください』
「い、今の速報通りで、クリスさんが受けたレッドサイクロプスが進化してしまったので大丈夫かなと思っていたのですが、引き返して来たんですね良かったです」
「いえ、知らずに戦って普通に倒してきましたよ?」
レインさん一瞬驚いた表情を浮かべる。
「ほ、本当ですか?」
俺は「はい」と頷く。
レインさんに手招きされてカウンターに向かった。
「ゴホン、ではクエスト依頼の画面を出してください」
「はい」
俺はクエスト受注一覧のウインドウを開きレインさんに見せる。
「確かにクエスト達成の表示がされてますね。手に入れた素材などはありますか?」
「はい、これでいいですか?」
クリムゾンサイクロプスの爪と角を具現化してレインさんに渡した。
「……本物のようですね。それではクエスト達成の報酬をご用意いたしますので、少しお待ちください」
しばらくカウンターで待っていると、奥に入っていたレインさんが戻ってきた。
「お待たせしました。今回のレッドサイクロプス改めクリムゾンサイクロプスの討伐報酬になります」
「……あの、報酬額多くないですか?」
「はい、今回はクリムゾンサイクロプスに進化したため、その分報酬を増額させていただきました。それに加え受注店側からお詫びとしてさらに上乗せしております」
「その結果元の報酬額より2.5倍多い50,000マーネになったと」
レインさんが「はい」と満面の笑みで応える。
「わかりました、ありがとうございます」
外に出ると、噴水の縁に座って談笑している2人を見付けた。
「おまたせ」
「あ、クリス君おかえりなさい」
「とりあえずこれ、依頼達成の報酬金」
「ありがと、って30000マーネも!?」
「あぁ、モンスターが進化したのとお詫びだってさ」
「ま、まぁそういうことなら、貰っておくけど」
その後、お腹が空いた俺達は食処に移動した。
「あ、あの……いいんでしょうか。助けてもらったのは私なのに」
「気にするな、これも何かの縁ってことで遠慮なく食べてくれ」
「そうだよセームちゃん、クリス君が奢ってくれるって言うんだからここは一緒に甘えよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「んで、セームはあの森に何しに行ったんだ?」
「えっとですね、あの森にしか咲かないと言われている、奇跡の花を探しに行ったんです」
「奇跡の花?」
ウィンダが首を傾げる。
「はい、あの森は1箇所だけ陽の光が当たっている所がありまして、そこに咲いていた花なんです」
「陽の光が当たる場所って……あっ」
「何? どうかしたの?」
「俺達が休憩してた場所に陽の光が当たってた所があっただろ?」
「そういえば、あったわね」
「あそこだけ土がむき出しになってたから、もしかしてセームが採った花って」
「多分、そこですね」
「俺達は入れ違いをしてたようだな」
ウィンダとセームが笑いだす。
「それに私達、森の中でシャインの姿を何回も見たしね」
「え、そうだったんですか!? 全然気付かなかったです」
「でも、なんで1人で来たんだ?」
「勝手に家を飛び出して来たんです、どうしても助けたい子が居て……でも、もう助けられないのがわかってしまったので、取り越し苦労でしたね」
セームの表情は笑っていたが、声は無理をしているのがすぐわかるほどだった。
「誰を助けたかったんだ?」
俺がそう尋ねると、セームの口角が下がった。
「……シャインと一緒に私が使役していた、”ルナドラゴン”という中型のモンスターです。家を飛び出す少し前に、とても大きな黒いドラゴンに村が襲われました。村の人総出で撃退したのですが、その時にルナ含め、村で使役していたモンスターが十数体が倒されてしまいました」
「そんなことがあったのね……」
「モンスターって倒されたら砂化するんじゃないのか?」
「いえ、モンスターを使役した際にこのアクセサリーを付けることで砂化を無効化することができます」
そう言い、セームは首から下げたアクセサリーの紐を揺らした。
「なので、今も原型を保ったまま村で保管されています」
「……ってことは、その取りに行った奇跡の花で、生き返らせようと思ったのか?」
「はい……結局無駄足でしたけどね」
セームは苦笑いをした
「どういうことだ?」
「……これを見てもらえばわかると思います」
セームは俺とウィンダの前に一輪の青色の薔薇のような花を具現化した。
「キレー」
ウィンダは見たことないその花をまじまじと見つめる。
俺はその花を手に取り、説明欄を開いた。
【夢叶の花】
願い事を思い浮かべながら、花弁を食べるとどんな願いも叶える奇跡の花。
しかし、叶うのは食べた者のことだけで、他人への願いは叶わない。
「……なるほどな、これを使えば生き返るかと思ったけど、この効果じゃ無理だな」
「はい、なので村に帰ったら尊重に話して手厚く弔うつもりです」
セームは暗い表情を浮かべる
「そうか」
「残念だったね」
空気が重くなる中、セームは明るい声でさらに続けた。
「でも、お2人に助けてもらってこの花の使い道を思い付きました! それは自分自身が戦えるようになりたい……です」
「自分自身か」
「はい! ルナの事は残念ですが、私自身が戦えるぐらい強くなれば、シャインと共闘できるんじゃないかって思ったんです」
「応援してる」
「私も応援してるね」
「ありがとうございます!」
その後も談笑しながら食事を楽しんだ。
食処を出てすぐの所にあるベンチに3人を座る。
「さて、俺はこの後宿に向かうだけだが、2人は?」
「私は今日中に帰るつもりだったけど、セームちゃんの事もあるし、今日も泊まっていくわ」
そう言い、ウィンダはセームを抱きしめた。
「わ、私も帰る予定だったんですけど、思ったより遅くなっちゃいましたね。と言っても泊まるお金は無いんですけど」
「なら、今日は俺が泊まってる宿に3人で泊まるか。明日にはウィンダは帰らなきゃいけないだろう? 俺は自由に旅してるからセームに付いてって家に送り届けられるし」
「い、いえ!そこまでしてもらうのは、申し訳ないです!」
セームは両手と首を横に振る。
「あんなに強いモンスターを使役してるとはいえ、さすがに12歳の可愛い女の子を1人で帰らせるのは良心が痛む」
セームの顔がボっと赤く染まる。
「そうね、正直私も付いて行きたいけど、これ以上家を空けられないから……。ごめんねクリス君、任せるみたいになっちゃって」
「気にするな。なんならセームを送り届けた後、迎えに行こうか? なーんて―――」
「えっ、迎えに来てくれるの!?」
ウィンダが食い気味に顔を近付けてくる。
「ちょ、近い近い」
「ご、ごめん。嬉しくなっちゃって……つい」
ウィンダが照れくさそうに頬を掻く。
「とりあえず宿の方に向かおう、部屋が埋まると困るし」
「私は同室でもいいんだけど」
ウィンダが呟く。
「なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよ! それより早く行こ!」
ウィンダは声高々に、俺とセームの腕を掴み歩み出す。
「ちょ、ウィンダ―――」
「ウィンダさん、自分で歩けますから―――」
俺が泊まってるのは、木造3階建ての大きな宿屋だ。
気前がよく、スタイルも良い女将が営んでいる宿屋で、この街で2番目に安いため冒険者達がよく泊まっていくという。
中には女将に気がある男性が泊まっていくそうだが、女将はぶっちゃけ既婚者だ。
しかも子供も4人居るらしい。
宿屋の扉を押して開き中に入る。
「女将さん、ただいま」
「クリスちゃん、おかえりなさい……あら、あらあらあら」
女将さんの目が輝いて見える。
「今日は可愛らしい女の子を2人も連れてくるなんて、クリスちゃんも隅に置けないねぇ」
「そんなんじゃないです、それに2人に出会って2日も経ってないです」
「そうなのかい? まぁ連れてきた時点で……いや、なんでもないわ」
「……ところで、部屋って空いてますか?」
「はいよ、ちょっと待ってね」
女将は後ろの棚から帳簿を取り出し、中身を指でなぞっていく。
「1部屋なら空いてるよ」
「ありがとうございます、ウィンダとセームはそっちに泊まってくれ」
「わかりました」
「はーい」
女将さんから鍵を受け取り、それぞれに別れ部屋に向かう。
ウィンダとセームの部屋は3階、俺は2階だ。
部屋に入るとそのまま脱衣所向かい、備え付けのシャワーを浴びる。
この世界には四季はないが、地域によって気温が異なる。
ここリングルムは、夏と秋の間ぐらいの気温で過ごしやすい環境だが、今日はずっと走っていたせいか汗でベタベタだった。
シャワーで汗を流すと、トレーニングウェアのような軽めの服装に着替えベッドに入る。
疲れていたのか俺はそのまま眠りについた。
『お兄ちゃん! お兄ちゃん起きて』
懐かしい声に目を覚ますと、目の前にはポニーテールで、高校の制服の上にエプロンを着たあかりが立っていた。
『おはよ、あかり』
『お寝坊さんだね、お兄ちゃん』
あかりにそう言われ、なんとなく枕元に置いておいたスマホで時計を見ると、普段起きる時間から30分ほど経過していた。
『ちょ、なんで起こしてくれなかったんだ!』
『起こしたよ? でも二度寝したのお兄ちゃんだし』
『それでもだな』
『文句言うならお兄ちゃんの朝食食べちゃおうかな』
『それは卑怯だぞ、あかり』
『ふふふ、冗談だよ』
あかりが楽しそうに笑う。
『ねえ、お兄ちゃん』
『なんだよ』
『頑張ってね』
『ん? あぁ、今日仕事だしな』
『仕事じゃなくて』
『どういうことだ?』
あかりがニコッと笑う。
『あ、そうだ。もしかしたらお兄ちゃん覚えてないかもしれないから、もう一度言うね。
お兄ちゃんには”世界規定”っていう力があるから』
『は?世界規定?なんだそれ』
突然あかりの後ろから眩しい光が現れた。
光は徐々に大きくなっていき、あかりを飲み込んでいく。
『ごめんね、もう時間みたい。バイバイ、お兄ちゃん』
『お、おい、あかり! どこ行くんだ、あかり!』
「あかり!」
目を覚ますと息が上がっていた。
「なんだったんだ、今の夢は」
右腕を目を隠すように置いて、息を整える。
しばらくして腕を下ろそうとした時、視界の端が光って見えた。
なんだ?と思い腕を下ろすと、胸に上辺りで自分の顔より少し大きい光の玉がふよふよを浮いている。
その光はどこかで見たような、懐かしい雰囲気を感じた。
腕を下ろしほんの数秒、光の玉を見つめているとハッと思い出し、勢いよく体を起こす。
「お前、ワークリーか?」
尋ねた瞬間、光の玉は顔の辺りをグルグルと回り出す。
何周か回った後、光の玉は頬にスリスリと甘えるように触れきた。
「この肌触り、すごく……懐かしいな」
感傷に浸っていると光の玉が離れてしまい、そのまま何も言わずに真っ直ぐ天井をすり抜けて行った。
天井を見上げていると、突然頭に激痛が走る。
「っ!」
痛みがあった所を手のひらで摩っていると、外から鳥の鳴き声が聞こえる。
「もう朝か」
ベッドから降りてカーテンと窓を開けると、部屋の中に朝の少し肌寒い風が入り込んでくる。
「気持ちいい風だ、出発にふさわしい朝だな」
後で後悔するようなキザなセリフを呟き、身支度を始める。
ちょうど身支度が済んだ頃、扉をノックする音が聞こえる。
扉を開けると目の前には、朝から拝むにはいつか天罰が下るんじゃないかと思うぐらい可愛い女の子が2人立っていた。
……すまない、冗談だ。
「どうしたのクリス君? ジッとこっちを見て」
「いや、今日も可愛いなと思って」
ウィンダの顔が真っ赤に染まる。
「もう、バカ! 先に降りてるからね!」
「お、おう、すぐ行く。セームもおはよ」
「お、おはようございます。ウィンダさんと一緒に下で待ってますね」
「あぁ、また後で」
扉を一度閉めてまとめた荷物を魔力化すると、急いで2人の後を追った。
「お待たせ2人共、とりあえずウィンダの見送りが先か?」
2人と合流した後も、ウィンダは顔を赤く染めたままだ。
「おーい、ウィンダ?」
「え、はい! な、何!?」
ウィンダの慌てぶりに吹き出しそうになったが、何とか堪える。
「いや、とりあえずウィンダの見送りが先かな?と思って」
「あ、あぁ……そうね。私は西門から帰るから向かおっか!」
ウィンダの目はかなり泳いでいた。
西門に着いてすぐ、ウィンダは自分の住んでいる街に向かう馬車を探し歩く。
「あの、クリスさんってウィンダさんのこと好きなんですか?」
「……きゅ、急にどうしたんだ?」
「いえ、来る途中会話が無かったですけど、クリスさんがウィンダさんの方を気にしてるように見えたので、お迎えに行った時に可愛いって言ってましたし」
「ほら、セームから見てもウィンダって可愛いと思わん? なのに戦闘中は狙撃手として鋭い目を持ってるし、近くにいると凄いドキドキするし、シャンプーのいい匂いがするし、どことは言わないけど柔らかいし、俺に気があるんじゃないか?っていうぐらい距離近いし、笑った時の顔が可愛いし……あぁそうだよ! ウィンダのこと好きだよ!」
「私がなんだって?」
「だから、俺がウィンダのこと好き……って、話……だ?」
ふと、声がした方に視線を向けると、顔全体を真っ赤にし両手で口元を隠すウィンダの姿があった。
「く、クリス、クリス君が、わた、私のこと……好き?」
「ウィンダ、今のは―――」
弁明する前にウィンダが走り出した。
「悪い、セームはここに居て。待てウィンダ! 話を聞いてくれ!」
「あ、はい。お気を付―――」
セームの言葉を最後まで聞かずに走り出す。
ウィンダは比較的人が少ない所に逃げて行ったため、いとも簡単に捕まえることができた。
「待って……ウィンダ」
朝から2人揃って息を切らす。
俺は腕を掴んだまま、こちらを向かないウィンダに声を掛ける。
「俺はウィンダのこと好きだよ、まだ出会って1日しか経ってないけど、昨日の1日だけでウィンダに惚れてしまった。だからもし、ウィンダさえよければ、再会した時俺の恋人になって欲しい!」
「私もクリス君のことは好き……だよ。一緒にいてすごく楽しかったし、これからもずっと一緒に居たいと思った。でも、私は自分のことより先に、妹を、"ウェン"を幸せにしてあげたいの。あんな男の許嫁にされたウェンを幸せに……だから、もし再会できたとしても恋人にはなれないと思う、ごめんなさい」
その後、ウィンダを連れてセームの元に戻った。
ウィンダとセームは別れの挨拶を交わしたが、俺はウィンダと最後の会話すらできずにいた。
乗り合い馬車に乗り込んだウィンダを無言で見つめていると、座席に着いたウィンダと目が合う。
「き、気をつけて帰れよ、ウィンダ」
「……ありがと、クリス君もね」
ウィンダは微笑んでいた。
馬車が出発すると、ウィンダがこちらに手を振る。
「さようならセームちゃん、クリス君」
「ウィンダさん、お元気で!」
セームは両腕を左右に振る。
俺も右腕を頭より高くあげて振り返す。
姿が見えなくなるまで見続けたウィンダは、笑顔だった。
「行っちゃいましたね」
「あぁ、だけどいつか必ずウィンダと再会するよ」
「そうですね、私もまたウィンダさんにお会いしたいです」
それから俺とセームはリングルムで朝食を済ませると、セームの住んでいる村へと歩き始めた。




