プロローグ
遠い昔。
始まりはいつだったのか。
それすら誰の口からも語られる事も無くなった。
「赤ずきん」
離れに住むお婆さんの元へとお使いを頼まれた少女。
赤いずきんを被り、通り道である森を歩いていました。
すると、一匹の狼が少女に歩み寄り話しかけました。
「こんにちは、どこへ向かうんだい?」
「この先に住む、お婆さんに会いに行くんです。
病気で寝込んでいるみたいだから…食べ物とワインを
お婆さんにって」
「実は僕、ここ何日も食べてないんだ。
良ければ食べ物をわけてくれないかい?」
狼の頼みに少女は悩みました。
確かに話しにある通り、狼は痩せ細っていたからです。
ですが渡されたのは一人分、わけてしまえばお婆さんの分は僅かです。
「ごめんなさい、お婆さんの分が無くなるから…」
「そうなんだ、無理をいって悪かったよ」
狼はそう言うと森へと姿を消して行きました。
しばらく進むと道が二つ別れていました。
一つは近道になりますが険しい針の道。
もう一つは遠回りになりますが安全なピンの道。
少女はピンの道へと足を進めました。
少女の後を追っていた狼は針の道を駆け抜け
少女のお婆さんを食べてしまいました。
そして、お婆さんの皮を被り、少女の到着を待ち続けていました。
ドアをノックをする音。
「お婆さん、お母さんに言われてお見舞いに来ました」
少女の言葉にお婆さんに化けた狼は「鍵は開いているよ
さぁ、お入り」と少女を招き入れました。
「遠いとこ歩いて疲れただろう。
そこにあるブドウ酒をお飲み」
少女が飲んだのは、お婆さんの血でした。
「お腹も減っただろう。
そこの干し肉もお食べ」
少女が食べたのはお婆さんの肉でした。
少女はベッドで寝ているお婆さんに歩み寄ると話しかけました。
「お婆さん、お婆さんの目はどうしてそんな大きいの?」
「大きくないとお前が見えないだろう?」
「お婆さん、お婆さんの耳はどうしてそんな大きいの?」
「大きくないとお前の声を聞き逃してしまうだろう?」
「お婆さん、お婆さんの手はどうしてそんな大きいの?」
「大きくないとお前を掴めないだろう?」
「お婆さん、お婆さんの口はなんでそんな大きいの?」
お婆さんはゆっくり起き上がると
口の端を上げ、牙を覗かせました。
「大きくないとお前を食べられないだろう?」
狼は被っていたお婆さんの皮を剥ぎ取ると、少女に飛び掛りました。
少女は狼の身体を避けると、背後に回り込み首筋に刃をあてがいました。
「私に血を飲ませたのは、大きな誤算でしたね」
少女は狼の大きな耳元で囁くと、狼の首を刎ねました。
少女は赤黒く光る瞳を隠すように赤い頭巾を深く深く被りなおしました。