Da.Capo ダ・カーポ
この作品には多少残酷な描写があります。
茶色にいつまでも続く荒野、それにアクセントのようにまばらに映る赤色。
たった数時間前まで栄えていたであろう文明、それを意図するようにまばらに存在する残骸。
かつては貿易の街シド、商人や買い人がここを訪れた。それを証明するようにある肉塊。
「こちらクラン。シーフォー異常なし」
四方にあがる炎上。その狼煙とともに漂ってくる臭いは、たんぱく質の焼けた独特の異臭をまき散らす。
「……くそっ」
――俺だってしたくてしてんじゃねえ。
この世界は大きさの違いこそあれどもさまざまな小国家からなる世界だった。全ての国家がそれぞれの自由を持ち、それぞれの正義のもとに政治を行っていた。
しかし、自分にとっての正義とは決して他者にとっての正義ではない。宗教・観念・思想、そのどれもが相容れることのない国家が多数あるということが共謀して生きてはいけなかった。文明の発達、それは全人類に新たな世界を魅入らせると共に己が信じてきた世界と反する世界をその瞳に映らせることになった。
数多くの争いの果て、世界は二つの国家で成り立つようになった。
”全てを一つにすることこそが争いをなくす道”
それを信じて他国家を侵略し領土を拡大するタイオン。
”それぞれの意思のもとで争いのない世界を創る”
その信念のもと集まる連合軍ノヴァ。
決してその二国は交わることはなかった。それぞれが目指しているのは平和な世界。同じ夢のために罪のない者たちの血が流れている。戦争は鎮まることはなく激化してゆく。
――けどな、仕方ねえんだよ。
戦争の副作用として生まれた搭乗型大型兵器『ディーバス』。搭乗人間の神経を繋ぐことで使用することができるこの人の形を成したこの機械人形は今までの兵器を圧倒的に凌駕した。しかし完璧な兵器などではなかった。誰しもディーバスと 同調できるわけではなかった。
戦争は単なる領地取りから同調者探しへと変わった。
生まれ持って同調出来る者をノータ・クルスと人々は呼んだ。しかし、ノータ・クルスの生まれてくる確率はおよそ三万人に一人。血縁・地域・年齢ともに規則性はなく、それは困難を極めた。
ノヴァはノータ・クルスを見つけるのではなく、”創る”ことにした。そしてノータ・クルスをベースに作られた人はゼンス・クルスと呼ばれた。
対しタイオンは見つけた僅かなノータ・クルスのデータを採取し同調者でない者を”強制的に同調させる”研究を進めた。そして同調できるようになった者を作り上げ、チェイン・クルスと名付けた。
――もう、俺は。
ゼンス・クルスは創られたもの、過去など存在する筈もない。
チェイン・クルスは変えられたもの、過去など捨てられた。
そう、どちらも、
――人間じゃない。
人間であることを捨てられた。
『コンタクトオン。ターゲットニケ・アルゲイト』
「クラン、シーファイブも異常なし」
「クラン、クラン」
「ニケか、どうした」
「あと同調時間(リミテッド)はどれくらい?」
「おそらく四〇分はないな。三五分程度が臨界点と考えると残り三十分くらいか」
「了解。今イースリーにて探索中なんだけどディーバスが生命反応を感知。こっちにこれる?」
「一人でできるだろ」
「今度は誰か発見次第一緒に行うように命令されたんだよ」
「ああ……確か避難が遅れた一般市民を木っ端微塵にしたんだったか」
「木っ端みじんというよりは粉砕かな」
「どうでもいい。約三分で着くから待機してろ」
「了解」
クランはディーバスを倒壊したビルをスタート台にして走らせる。
タイオンは戦争孤児や行き場のなくした庶民を保護している。それがチェイン・クルスの実験台となる人間、いや、奴隷といった方が適切なのかもしれない。そしてその奴隷を確保するための戦争というのはタイオンの軍人であれば周知の事実であった。
勿論、世間では噂は流れようとも事実は存在しない。
戦争は規模と共に激化していったのではない。”あえて”激化させていたのだ。
一つはディーバスの性能を試すため。
一つは奴隷を確保するため。
そしてもう一つは”奴隷探しを隠蔽”するため。
証拠さえなければなにも問題などはない。それも、全ては平和のためと関係者は口を揃えて呟く。
「早かったな」
「そんなもんだ」
息一つ荒げずにニケのもとにたどり着くクラン。
残骸の上に巨像のごとく立ちこちらを見つめるディーバス。二〇メートルは優に超えるその姿はまるで戦力の差を露わに表しているかのようであった。
「それでどこにいるんだ」
「おそらくここから二時の方向に約四二メートルってところか」
ここから見えるのは言うまでもなくガラクタと化した残骸だけしかない。もしディーバスに生命反応を感知するシステムが組み込まれていなければおそらく何事もなく通り過ぎていた。そう確信さえできるほどに荒れ果てている。
「ニケ、お前の同調時間はいくらだ」
「一五分てとこか」
「短いな」
「仕方ないよ。所詮僕は”出来損ない”だからね」
「俺だって一緒だ。だからこうやって一緒にいる。
帰還に必要な時間も考え一端、同調を解除して捜索を開始する。どっちみちディーバスに乗った状態じゃ難しいからな」
「了解」
『リリースシステムオン。ターゲットクラン・ヴェリアス』
言い終えるとともに襲ってくる圧倒的な重力。
ディーバと同調している間はコック・ピットは無重力状態を形成されるため、同調を解除すると本来感じる重力よりも遥かに超える重み。
それはディーバスという入れ物から現実に戻されたことを実感させることでもあった。
「ふう……」
ディーバスのコックピットは球状を成しており、中に存在するのはケーブルが二本のみ。そのケーブルをプラグと呼ばれる脊髄部分にある穴に刺して連動をする。操作を行うボタンやハンドルなどは一つとしてない。すべてのシステムは音声で認識される。
それはディーバスが手足、指先となるように、感覚を繋いでしまう故の構造。
繋がっている間はディーバスこそが自分の体なのだ。
それゆえに。
「さて」
――行くか。
そう。
生身の体に戻ってもそれはクランにとっては何も変わりはしない。
お読みいただきありがとうございます。
初の長編作品ということもあり、稚拙な部分ばかりとは思いますが今後も精進しながら更新をしてまいりたいと思います。
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