表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/84

004 助太刀

 コカルは村長の家を出て、まずどこにゴブリンがいるのかを探す。

 それはすぐに見つかった。ある方向から一直線に逃げている村人。そうであれば、自然とそれを遡って行けば、キャロガットとゴブリンの群れと出会える。

 事実何人かの男は、農具片手に、人の流れに逆らっていた。

 しかし誰も脅えの表情を浮かべている。あれでは動きが硬くなってしまうのではないか、とコカルは他人事のように心配した。


「コカル、お前は家の中でじっとしていろ! 足手まといだ!」


 戦う者の流れから一人の声が聞こえてきたが、コカルはそれを無視し、我先にと戦地へと赴く。

 後ろからコカルを止める声が聞こえてくるも、足を止めない。止める理由が無い。コカルの身を案じる声も、彼女にとっては何の意味も無い。彼女にとって村人とは、村という一つの家族ではなく、ただの他人でしかない。故に、誰が死のうと知った事では無い。キャロガットは流石に友人としてカウントしているが、それでも命を懸けるほどではない。

 しかしそうであればコカルも戦う理由──いわゆるメリットは、一見無いように見える。だが、メリットは幾つかある。

 一つに、恩を売れるという事。人は命を懸けて助けに来てくれた者に、必ず強い恩威を感じる筈だ。それら一つ一つは小さなものでも、積み重ねていけば人間関係の枝が広がっていく。

 もう一つは単純、この世界での平均戦闘数値を知る事。コカルの元居た世界の、いわゆる不良と同じレベルであれば、この世界でもそこそこに活躍できる筈。レベルというのを筋力と仮定しての、正直言うと分の悪い賭け。しかし、世界を見たいコカルには重要な要素だ。

 最後に、単純にまだ聞きたい事が山ほどあるからだ。まだこの世界に関する情報は、全くと言っていいほど集まっていない。金、文字はともかくとして、まずは文化と宗教を知らなければならない。特に、この世界でも三大宗教と同じ規模のものがあるのなら、それを知っておくに越した事は無い。何せ宗教は、思想の違い一つで戦争を引き起こすものなのだから。

 後ろから何かを見られている感覚を覚えると同時に、彼女を止める声は消えてなくなる。


「……走りにくい」


 走りながらスカートに刃先を入れ、一気に下方向へと引き裂く。この世界ではノーパンが普通ではあるが、彼女に羞恥心というものはない。何せ彼女は、狂人という深淵を覗き、見事感化された人間なのだから。

 スカートを切った事によって走りやすくなり、気持ち速度がアップした。

 白壁を抜け、暴れる家畜を尻目に、とうとう戦闘の前線へと躍り出た。

 壁に背を預け、三つ編みを揺らすキャロガットの後ろ姿を目で捉え、しばし戦闘の様子を見る。

 飛びかかって来た二匹の、人型をした緑色の生物。それを素早く出現させた火球で撃ち落とすキャロガット。

 魔法、というものだろうか。どちらにせよ、これではコカルの知りたいものを知る事はできない。

 だが、ゴブリンの動きは、精々チンピラレベルと見る事ができる。勝つのは容易だ。

 壁を蹴り、一気に速度を上げ、走る。

 キャロガットの横をすり抜け、コカルは緑色の生物目がけて、さながら槍の様に真っ直ぐ突っ込んだ。

 コカルの姿に気付いたキャロガットは、コカルに苛立ちを含ませた声をかけた。


「ちょっと、なんであんたまで来たのよ!?」

「助太刀」


 動かない数は二匹、動くのは五匹。小さい濃い緑色というのは遠くからでも目視できたが、近付いてみるとかなり醜悪な外見をしている。歪に尖った耳と汚く中途半端に禿げた頭、白濁した瞳に歪な鼻。下品な笑みを浮かべた口の中は、所々歯が抜けている。

 服は獣のものを適当に止めただけの印象を受ける。手には棍棒や三日月刀。しかし刃は錆び付いており、切れ味は期待できない。

 肩で息をするキャロガット、二匹は彼女が仕留めたのだろう。

 キッ、とコカルを睨み付けながら、キャロガットは言った。


「……なら精々働きなさい。その後で説教よ! 頭の包帯まで外して!!」

「お手柔らかに頼む」


 キャロガットの言葉に軽口で返し、コカルは地面を強く蹴った。

 前屈姿勢になったまま、掌の針を一匹の、一番前のゴブリン目がけて投擲。二本が目玉に突き刺さる。

 目玉の痛みというのは、人体で一番痛覚が集中している箇所。そこに針が突き刺さったのだ、ただで済むはずが無い。

 痛みのあまり動きを止めたゴブリンの首に、包丁を突き刺す。と同時に力の抜けた腕から三日月刀を奪い取る。

 緑色の血がコカルの体を汚すが、気にせず次の獲物に狙いを定める。そんな拍子に、キャロガットの声。


「ちょっと、あれうちの包丁!」

「緊急事態」


 倒れるゴブリンの横をすり抜け、三日月刀を下に構える。

 別に流派というものは存在しない、我流の動き。まずは一匹、棍棒を持っている左側のゴブリンに狙いを定めた。

 ゴブリンもそれに気付き、棍棒を強く叩きつけた。だが、キャロルは咄嗟に地面に手を当て体を横に移動。そのまま体を浮かせ、右に一閃。首を斬る。

 着地時の隙を狙って三日月刀を手に持ったゴブリンが、首を刎ね飛ばそうと刀を振るうが、キャロガットから放たれた火球がそれを邪魔した。

 後ろへと跳ねるゴブリンに、そのまま三日月刀を、人間でいう心臓部分に突き立てる。と同時に逆手に刀を奪い、残る一匹の目玉をくりぬく様に突き刺した。


「……あんた、レベルの割にやるじゃない」


 感心した様子で言うキャロガット。しかしそんな彼女に、コカルは引き抜いた三日月刀を投擲。

 突然の狂行に目を丸くするが、咄嗟に身を屈めるキャロガット。


「あっ」


 回転しながら飛ぶ三日月刀は、後ろから襲い掛かろうとしたゴブリンの頭に突き刺さり、そのまま命を奪った。

 キャロガットの三つ編みと共に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ