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017 豚狩り

 オークは魔物であり、魔人である。

 オークは知能を持ち、里を作り、森に棲む。醜いエルフという言葉はオークを指しており、醜い容姿の者が森林浴に赴くのを「まるでオークみたいだな!」と笑われるのは、たまに見られる光景だ。

 何故オークが魔物に分類されているかというと、一定間隔で復活するからと言われている。魔物とは概ねそういう風に復活し、生態系を無理矢理維持しているのだという。とはいえ、今回はかなり頻度が多いので、ゲッツェンペルスの冒険者まで駆り出される羽目になってしまったのだが。

 しかし新たに召喚されたオークは弱く、多くは他の魔物等を狩り、レベルがCランクになってからが一人前とされている。

 しかし、今回コカル達の前に現れたオークはそうではないようだ。

 長剣を掲げ、悠長に名乗りを上げているオーク。オークの隊長となる者は武人が多いとの事だが、それが相手の情報戦に十分な時間を与えてしまう。


「隊長らしきものがCで、残りはDランクっすね。人海戦術だから低レベルのも引っぺがして持ってきてるって感じっすかねー?」


 一応奴隷達を護衛する為、前方を走るコカルから距離を取りながら、マナマナは鑑定で相手のレベルを確認する。


「弱点は人間と同じか」

「概ね同じっす」

「了解」


 言葉短く交わし合い、コカルは体重を前にし、一気に走り出した。

 オーク、豚族の顔はやはり醜い。猪を棍棒で何度も殴ったような顔のせいで、旅人や巡回兵から奪ったのだろう鎧が酷く浮いて見える。

 手入れだけはそこそこ行われているので、更にその違和感が引き立つ。鎧や剣まで汚なければ、とても似合っていただろう。どちらにせよ醜いには変わりないが。


「貴様っ、ブガブラ様の名乗りをろくに聞かず奇襲とは!」

「卑劣なり人間! スキル頼りの猿共が!!」


 まず一番剣として、名乗りを上げていたというブガブラの前を守るように二匹のオークが躍り出る。スキル頼りとの言葉は少しばかり引っかかったが、今は任務を優先。

 コカルは仕込み針を飛ばし、二匹の目の辺りに投げ刺す。

 適当に投げ目に当たらずとも、相手を怯ませるには十分。弧状に振るった剣が二匹のオークを斬り落とした。

 そのままコカルはジャンプし、斜め後ろへと下がる。すると、先ほどまでコカルがいた場所に、マナマナの弓による補助。コカルを斬り捨てようと身を乗り出していた一匹のオークの額に刺さり、矢尻についていた神経性の毒で体を痺れさせた。

 それに剣を投擲し、串刺しにする。


「いやー、やっぱ慣れないっすねー」

「ふむ、その割には使い慣れているようだ」


 二メートルほどオークから距離を放し、たたらを踏みながら言ったコカルの言葉に、マナマナは胸を張る。


「特訓したっすからねー」


 マナマナはアガンザルド領に来るまでの間、弓の特訓をしていた。付け焼刃と本人は言っていたが、コカルの目から見れば基礎は完成していたように感じた。

 ……とはいえ、コカルも弓の素人なのであくまで素人目に、だが。

 レベルアップによる身体能力の向上は確認できた。次はスキル。

 有限剣製、レベルアップにより性能が上がっている事は確認済みだ。出す速度は元々求めていた通りのもの。相手の武器を奪うには、オークの武器はコカルの手には少しあまり、奪って使うには不向きだ。

 マナマナの牽制は心強く、しかし常人であれば不安要素もある。だが、コカルは何となく動きは察知できるので何の支障もない。

 首を横に傾けると、そこから数本の髪の毛を巻き添えに、コカルへと飛びかかって来た二匹のうち一匹の胸に突き刺さる。コカルもそいつの右手に蹴りを入れ、もう一匹の首に山賊刀を突き刺させた。


「マナマナ、一時牽制中止。そちらへ向かってくる奴だけを狙ってくれ」

「実験すか? いいっすけど、危なそうだったらすぐ再開するっすよ」

「それで構わない」


 そう言いコカルが有限剣製で作りだしたのは、鉄製の簡素な剣。右腕の痛みと引き換えに出すには、少々釣り合っていないような気がするが、気にしない。

 三匹相手では実験にもならないだろうが構わない。コカルにとっては、何人でかかってこようとただの練習件経験値稼ぎにしか過ぎない。

 レベルの高いモンスターの武器を吸収する事での経験値増量の変動も気になる所だ。残るは三匹、練習には丁度いい。

 コカルの強さに、警戒してかコカルから距離を放すオーク達。 

 援軍待ちだったとしても、コカルには関係ない。むしろ好都合というものだ。


「どうした、猿一匹殺せないのか」

「だっ、黙れ! 惰弱な人間如きが!!」


 コカルの挑発に、プライドの一際高そうなブガブラという隊長らしきオークが、巨大な山賊刀を構え、一気に飛び出す。

 巨体に似合わず素早い、だが愚直な一直線の突撃。剣をがむしゃらに振るう姿に、コカルは嘲笑をかける。

 草が斬れ、大地が楕円状に削れる。確かに、魔物同士であればこれは驚異的な攻撃だろう。

 しかしコカルは剣を捨て、右掌の中に手首から流れ落ちる血を溜める。そして横に一閃、筆で線を描くように振るい、オークの目に当てた。

 ぐっ、と怯むブガブラの横を、足音を立てず走りながら回り込み、後ろのオークに肉薄する。

 そして一匹の体に手を当て剣を製造し、そのまま残る一匹の足を切り裂いた。ひぎゃっ、と悲鳴が上がる。

 カヒュー、と虫の息なオークと、足に斬撃を受け膝をつくオーク。そいつらから少しばかり距離を取り、コカルは軽快に手を叩く。

 まるで、遊戯を見ている子供の様に。


「こっちだ豚共」

「きっ、さ~ま~!!」


 コカルの狙い通り、頭に血の上ったブガブラは先ほどと同じように剣を振るい、突撃してくる。

 そして二匹の同族を切り裂いたと同時に、コカルは剣を逆袈裟に斬り上げ、山賊刀を落とさせる。得物の感触が無くなった事に驚いているブガブラに、コカルは落ちていた山賊刀をブガブラに投げつけた。

 回転しながら飛ぶ山賊刀はブガブラの右肩に突き刺さり、くぐもった悲鳴を上げさせる。そのまま次々と、コカルは落ちていた山賊刀を投げていく。

 左肩、脇腹、右脚と突き刺さり、さて次は何処を狙おうかという所で、ブガブラは血に塗れ息絶えていた。

 穴からこぴゅっ、と血が噴き出す。血抜き、豚肉、とコカルは連想させ、思わず腹の虫が鳴る。


「うわっ、ひでぇっすね……」

「そうか?」


 あまりの惨劇に顔を青くする荷物持ちの奴隷達と、引きつった表情のマナマナ。コカルはその三人に対し、首を傾げる。

 そして落ちていた山賊刀を拾い集め、消していく。自分で出した剣は消せなかったので、そのまま捨て置く事にした。

 それに、遠くから新たなオークがやってきているのだ。コカルは自分の能力で出した剣と村で貰った剣を回収した。

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