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011 狼海戦術

 コカルは両手剣を振るい、飛びかかってくるゴブリンウルフの首を刎ね飛ばす。

 マナマナは鞭を振るい、ゴブリンウルフを足止め。その隙にコカルが剣で斬り殺すという流れ作業だ。

 時折コカルが率先してゴブリンウルフの首を斬り落とす。

 そういった小さな変化こそあれど、戦局は何ら変化しない。

 何故ならゴブリンサモナーは、次々と魔物を召喚し狼海戦術をしてくる。

 マナマナの鑑定曰く、ゴブリンサモナーのレベルはF、ゴブリンウルフはF~E程度だという。つまり、ランクと討伐難易度は必ずしも一致しない。

 鑑定で測れる戦闘能力は、単純な筋力か魔力のみ。

 相手の所持スキルや魔法を加えた総合戦闘能力を計るには、不十分なスキル。

 とはいえそれで召喚されるのは、ゴブリンウルフ。

 ゴブリンウルフはゴブリンよりちょっと手ごわい程度の、楽とは言えないが勝てない相手ではない。

 事実、コカルは十体目のゴブリンウルフの胴体を斬り終えたところだ。しかし傷は腕や足、胴に少し、軽い傷が残っている程度。

 マナマナも鞭でチマチマと五匹程度殺している。早さこそ無いものの、体に傷は無い。


「十五匹目、まだ出てくるか」

「これが面倒なんすよね……」


 だからといって疲労度が溜まらないという訳ではなかった。

 魔力とは本来、扱う魔法の多さに比例するものだ。しかしゴブリンサモナーは、魔力こそ高いが扱える魔法はごく僅か、低位のものしかない。

 その理由は明らかにされていないが、そのおかげでこうまで狼海戦術を行使できるのだ。

 生き残るための生物の進化としては、ごく当たり前の経路と言える。故に、厄介。

 そして何より、見ていて気持ち悪い。他のゴブリンと比べてみれば綺麗かもしれないが、人から見ればそれはどんぐりの背比べ。さして変わりは無いようにしか見えない。


「グギャギャギャギャギャ!!」


 ゴブリンサモナーは二人を指差し、怖気のする下品な笑い声を出す。

 あがいている二人をあざ笑っているのだ。未だ戦局はどちらの方にも傾いてないというのに、随分と余裕がある。

 しかし勝利を確信してしまうのも無理からぬ事。狼海戦術、これは確かに厄介だ。

 ドラゴンのようなブレスや、広範囲攻撃スキルが無ければジリ貧に追いやられ、いずれはただ死を待つのみとなる。

 そう考えてみれば、ゴブリンサモナーの進化は正しかったと言えるだろう。

 代わりに、攻撃や防御といったステータスを置き去りにしてしまっていたが。

 しかしやはりどこかで焦りを感じていたのか、召喚されたのは紫色の肌をした狼。見るからにゴブリンウルフの上位互換と思えた。


「ゴブウルゾンビっすか、また面倒なものを」

「レベルは?」

「C寄りのEっす。爪や牙に毒を持っていて、即死魔法の効かない面倒な奴なんすよ」


 動きは他のゴブリンウルフと変わりないように見えるが、難易度は毒を持っている分上がっていくという事だろう。

 ゴブリンウルフの首を斬り落とし、勢いそのまま維持し、迫ってくるゴブリンウルフに回し蹴りを浴びせる。

 着地の隙はマナマナがカバー。

 拙い連携ではあるが、充分効果を発揮している。

 ついでに迫って来たゴブウルゾンビは、マナマナが取り出した瓶を投げつける。するとゴブウルゾンビの肉がドロドロに溶け堕ち、骨となって死んだ。

 それに気付き、ゴブリンサモナーは吼える。

 想定外だったのだろう。ウルゴブゾンビまで殺されるのは。


「ガッ、グアアアア!!」

「ああもう気色悪い声っすね! つーかウザい!!」

「……本当に知性があるのか?」


 両脇から飛びかかって来たゴブリンウルフの攻撃をしゃがんで同士討ちさせ、同時に剣の腹を叩き付ける。分厚い両手剣での打撃、頭骨が割れて脳震盪を起こす。

 更に砕いた頭骨を踏んでジャンプし、爪を振り下ろしてきたゴブリンウルフから距離を空け、木刀を縦に、足元のゴブリンウルフの頭に突き刺す。

 そのまま、まるで踊っているような、華麗な動きでゴブリンウルフの首を刎ね飛ばした。

 真っ赤な血が草原と、コカルの体を濡らす。


「コカルちゃん、前衛任せてごめんっす! 大丈夫っすか!?」

「今は大丈夫だが、このままだと消耗戦だな」


 コカルの言う通り、ゴブリンサモナーは倒された次から次へと、途切れる事なくゴブリンウルフを召喚し続けている。

 もっとも練度は低く、あったとしても知能が馬鹿なのか、三匹同時に、横並びにコカルに襲い掛かってくるものもあった。

 当然コカルがしゃがみ、その上から飛んできた鞭で呆気なく叩き落とされる。

 そして流れるように、剣で首を斬る。返り血がコカルの体を濡らすが、さして気にしない。

 これで、全てのゴブリンウルフを斬り殺し終えた。残るはゴブリンサモナーのみ。


「ガガゲゲガガギャギャアァーーーー!!!!」


 まるでこの世の終わりかの様な悲鳴を上げ呼び出したのは、丁度八体のゴブリン。

 これでランクアップできる、とコカルはニヤリと口角を上げた。武器は三日月刀ではなく、よく切れそうなショートソード。

 そして鎧はチェーンメイルと、至れり尽くせり。討伐して装備品を売れば、かなりの額になりそうだ。


「うわっ、ゴブリンソルジャーっすか。これ難易度Cじゃないっすかやだー!!」

「強いのか?」

「……単体ならDっすけど、ゴブリンウルフが加わるとCに跳ね上がるっす」


 コカルのランクはF、マナマナはE、それを相手にいきなりランクDを飛ばしてCとなるとは。

 しかしゴブリンサモナーはそこで魔力尽きたのか、ゴブリンウルフを呼び出そうとはしなかった。

 これはチャンス、とコカルは走り出す。しかし後ろでマナマナが待ったをかけた。


「ここは逃げるのが一番っす! あんなの相手にしてたら、命がいくつあっても足りないっすよ!!」

「しかし、Dだろう? 勝てない相手では無い筈だ」

「うちのランクもレベルもEっす、んでコカルちゃんはレベルはEっすけどランクはFっす! 態々危ない橋を渡る必要は無いっすよ!」


 確かに、マナマナの言う通りだ。

 ランクに見合っていない敵を、何も無理に倒す必要は無い。斬り殺し続けたゴブリンウルフを放棄するのは少々尺だが、命に比べれば安い物だ。

 しかしコカルは、あのゴブリンファイターの装備がどうしても欲しかった。硬貨になるし、防具にもなる。

 もし魔物使いがいたら、きっとあのゴブリンサモナーを従えさせていただろう。それほどまでにコカルには、魅力的に見えた。

 それに、相手は刃物を持っている。これだけでコカルに勝率あり、だ。

 相手のゴブリンファイターは様子見しているのか、動く気配は無い。

 コカルは一先ず、地面に刺さっている木刀を斜めに斬った。

 槍のように鋭い木刀を、勢いよく投擲。それに気付きゴブリンファイターは機敏に動くものの、やはり反応は遅れてしまう。

 故にゴブリンサモナーの胸に、その木刀は呆気なく刺さった。

 満足げに頷くコカルの後ろで、顔を青くするマナマナ。


「ちょっ、何やってるんすか!?」


 マナマナの悲痛な叫びが響き渡ると同時、召喚主を殺された事による恨みで、ゴブリンファイター達は一気に襲い掛かってきた。

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