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010 ユニークスキル

 クラウンの魔法鏡に表示されたスキルを見た後、コカルが商人と一緒に通って来た草原を歩きながら、マナマナは考える。

 夜間視界強化、感覚強化のスキルはわかる。前者はマナマナも会得しているし、感覚強化のスキル持ちも知り合いにいる。

 しかし一番最初に出た、有限剣創。聞いた事の無いスキルだ。

 ユニークスキル、というものなのだろうか。

 ユニークスキル、話だけは聞いた事がある。というより、ゲッツェンペルス冒険者ギルドの武神「ガルダボルク」は魔力の限り剣を産み出す能力を持っているし、ゲッツェンペルスの近く(とはいっても馬車で二週間程度かかる)にある国にも、そういった能力持ちの顔を数人程度知っている。誰もが正騎士長クラスだ。

 となれば、コカルもそれくらい凄くなるのだろうか? 隣を歩く、赤髪の娘を見やる。潜在能力は高いだろう、事実ゴブリンの耳を八つも手に入れていた。

 追い抜かれるのも時間の問題かもしれない。それに対しコカルに恨み妬みを持つつもりはない。もし英雄の先輩という肩書きがあれば、ギルドランクも上がるかもしれない。コバンザメの様にくっ付いてるだけでいいのだ、思わぬ収穫。

 もっともこれは、捕らぬ狸の皮算用というものなのだが。マナマナとしては宝くじが当たったらいいなー的な感じの期待を寄せているのだ。コカルに。

 取りあえず、まずはどんなスキルか確かめる必要がある。いざという時にぶっつけ本番で使い、それが全くの使い物にならなかったとなれば笑い話にもならない。


「どうした?」

「いや、コカルちゃんのスキルを見てみたいなーと思ってっすね」


 マナマナの言葉に、コカルは首を振った。

 まだ信頼が足りてないのだろうか、とマナマナは若干悲しくなる。恩を売るつもりはないが、少しくらい信頼してくれてもいいじゃないか。仲間じゃないか。そう思い拗ねてしまいそうになる。きっと今夜はやけ酒だ。

 そんなどうでもいい事を思っていると、コカルの口がそれらを打ち消した。


「使ってみろと言われてもだな……」


 マナマナはその口ぶりから、スキルを使った事が無いと察する事ができた。

 別に、各段珍しい事ではない。スキルが芽生えていたのを知らなかったとか、そういう話は古今東西存在するものだ。クラウンの魔法鏡で初めてスキルを持っていたと判明する場合もある。

 ここは先輩風を吹かせるチャンス! とマナマナは意気込んだ。そしてそれを表に出さないよう、そして頼りになる先輩っぽく、アドバイスをする。


「武器をイメージするっすよ」


 ゲッツェンペルスのギルドで四天王に数えられる無限剣製というスキル持ち、ガルダボルク自伝の著書『戦闘の心得』の余談に、ユニークスキルを使うイメージが乗っていた。

 マナマナは多分これで合ってると思い、それのやり方を教える。

 間違ってたら後で笑い話にでもしてもらえばいい。冒険者というのは、割とメンタルが強いのだ。

 ぼんやりと覚えている方法を、何とかコカルにも伝わるように説明する。


「手に剣を落とす感じでイメージっす、確か」

「確か?」

「昔読んだ本でそう乗ってたっす。材質はなんでもいいらしいっすよ」


 コカルはマナマナに言われた通り、剣をイメージする。

 剣を手の中に落とす感じ。

 そしてコカルの腕に痛みを感じると同時に、手元に木刀が現れた。


「……木刀っすか?」

「木刀、だな」


 現れたのは、見るからに木刀だった。

 ただ木を加工して、刀の形にしただけという感じの。

 しかし、これでは戦闘には使えない。木刀では駄目だ。無いよりはマシだろうが、コカルは既に量産品の剣を持っている。

 つまり、このスキルはユニークスキルだろうが、外れ、という事になる。

 マナマナは安堵したような、どことなく残念なような、そんな複雑な気持ちだった。もし強力なスキルであれば仲間になれば頼りになる。しかし後輩に追い抜かれるのはちょっと怖い。

 だが結果はどうだ。現れたのはたった一振りの木刀のみ。これではゴブリン一匹殺せやしない。街中での乱闘では役に立つだろうが、所詮それまでだ。


「それじゃちょっと役に立たないっすねー。って、どうしたんすか?」


 マナマナはふと、コカルが手首を押さえている事に気付いた。

 何でもない素振りを見せているが、服から僅かに赤い染みが出てきている。

 コカルは腕を捲り、その腕を見る。そこには、リストカットのような傷が深々と刻まれていた。


「なるほど、有限な訳だ」

「って、冷静に言ってる場合じゃないっすよ! これ、割と深いっすよ!?」


 マナマナは慌てて腰の袋から回復薬を取り出し、コカルの傷口に垂らす。

 緑色の液体がやはり染みて、コカルは片目を瞑った。

 そして、その上からマナマナは包帯を巻いていく。

 大袈裟な、とコカルは思ったものの、されるがままそれを受け入れた。


「これで傷は塞がるっすけど、無い時に使っちゃったら痕残っちゃうっすね……コカルちゃん、これ使うのは控えた方がいいっす」

「……そうか?」

「そうっす、絶対にそうっす」


 妙に必死に止めてくるマナマナ。とはいえその忠告も恐らく無意味に終わるだろう。

 何故ならこのスキル、制限こそあるものの非常に強力だからだ。

 確かに今は木刀しか出せないが、成長してレベルが上がって行けば、そのうちショートソード程度は出せるようになるかもしれない。

 そうなれば戦闘の際、非常に役に立つ。

 加えて、リストカットのような傷が現れるというのも大きなメリットとなる。

 普通に考えればデメリットでしかないが、血とは液体。更に粘度が高いので、目つぶしに使う事ができる。

 もっとも、マナマナの目の届く範囲では練習をしようもないが。その程度はまあ、仕方ないだろう。


「……まあ、練習は街の中でもできるからな。今は依頼に集中しよう」

「自分に関する事はドライっすね」


 そんな雑談をしていると、突如コカル達の前に光の渦が現れ、その中から緑色の狼が姿を現した。

 ゴブリンウルフ。毛が無く、紫色の肌をした狼だ。狼にしては珍しく多種族との連携を取るという特徴があるが、今はリスポーンしたばかりで、その背中には何も乗っていない。

 討伐しても毛が無いので皮しか手に入らないが、臭み処理をしなきゃいけないし、あまり丈夫でも無いので旨味の無い魔物だ。強いて言うなら牙が矢尻に使える程度。

 討伐代はゴブリンより高めだが。

 しかし目当てはそいつではない。その遠くに、目当ての魔物を見つけた。


「あれが今回の討伐対象か」

「そうっすよ。本来なら初心者にはゴブリンを狩ってもらうのが一番なんすけど、コカルちゃんは強そうっすからね」


 白いローブを着て、手にはただの木の枝っぽい杖を持った、知能を持った魔物。

 ゴブリンサモナー。レベルE、ゴブリンの割には知能が高いが、それでもたかが知れてるレベルの魔物。コカルが剣を抜き、マナマナが鞭を構えると同時に、ゴブリンサモナーはゴブリンウルフをけしかけた。

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