誓願の樅
すまない。私は間違えてしまった。
けれどどうか泣かないで、羽ばたく君に私は恋をしたのだから………………
毎年聖なる夜に星の間を飛び回る天使の一人に恋をした。
キラキラと輝く光は清浄に。祈りの歌を振りまき神様からの幸せを分け与えていた。
天使は飾りのついた樅の木を目印に降りてきて神様に願いを届けるのが仕事なのだ。
私は若木で飾りはつけていなかった。
飾りを付けた木は一つだけその命と引き換えに願いを叶えて貰えるらしい。
毎年舞うように飛ぶ天使を眺め、私の願いは叶わないと思っていた。
ある夜。人間に見つかり傷付き飛べない君を見つけて、私は愚かにも喜んでしまった。
「羽根が癒えるまで匿ってあげる」と、枝から雪を落とさない様に囁いた。
有り難うと礼を言う君はとても美しくて、私は身の内にある醜い願いを封じ込めなければならなかった。
君が空を見上げる度に、私は君を失うのではとひどくびくつきながら「いつか空に帰してあげる」と嘯く。
一度折れた羽根はもう戻らないからもういいの、と君は儚く笑って言った。
幾日も幾年も時を超えてやがて私は立派に育った。
そんなある時人間が山を登って来た。私はとっさ天使を隠した。君は嫌だと言っていたのにね。私は君を奪われる事に気を取られて君の声を聴き逃してしまった。
人間の目をこちらに向ける為私は体を大きく揺すった。人間は私を見上げて今年の飾り木に決めた様だった。鋸の刃が私を削り痛みに気を失った。
暗くなる景色に君の泣き顔を見た気がした。
目覚めると私は飾り木になっていた。切られた私の命はもう長くは無い。私は神様にお願いをした。
「あの天使の羽根を癒し天界へ帰れるようにしてやって欲しい」
私の願いに神様は首を振りました。
『あの天使は自ら羽根を傷つけたのだ。お前の側にあるために。癒してもこちらに帰ってくることは無いしもう消えてしまった』と。『お前の側を離れれば消える。そういう約束だったのだ』
私は言葉を失った。あの時の泣き顔は幻ではなかったのだ。
私は、私は、君の最後の言葉さえ知らない。
私は神様に懇願した。私の残りの命を使って天使に一夜だけでも夜空を飛ばせて欲しいと。まだ私は約束を守れていないから。
神様は頷き。私は襲い来る微睡みに身を委ねた。命がゆっくりと失われていくようだった。
ふと、私は目覚めた。目の前に泣き顔の天使が飛んでいた。
空を飛ぶ天使は、あの頃のままとてもとても美しかった。神様は私にも別れの時を残してくれたようだった。
「メリークリスマス。私の愛しい天使。君を誰より愛しているよ」
君は嬉しそうに笑って、私もです。とキスをくれた。
あぁ、私の願いは叶いました。
愛し君と共に在る幸せに感謝を。聖なる夜に最後の祈りを捧げた。
折り重なって天へ上る魂の欠片。出会えたことも、共に在れたことも、思い合えたことも、私達はとてもとても幸せでした。
願わくば、私を飾ってくれたあなたにも幸せが訪れますように。
神様の両手に還った二人はいつまでもいつまでも、生まれ変わっても共に在り続け同じ時を笑って過ごしました。