第十四話 ノヴァvsドラゴン
後半は流し読みでも大丈夫です。多分…。
ノヴァ・ホワイトはダインから巨大人型魔導戦闘兵器(マーガ)を借り受け、4つの魔結晶をその身に宿すドラゴンと対峙する。
そのドラゴンは数分程、ノヴァの放った攻撃魔法によって怯んでいたが、今し方立ち直り、今度はノヴァの乗るマーガへと翼爪を用いて攻撃を開始する。
器用にその巨体を捻り、背中に生えている巨大な翼の先端に付いた爪を地上に向けて突き刺す。
だがしかし、その攻撃はいとも簡単に、ノヴァの乗るマーガに避けられてしまう。これに腹を立てたドラゴンは、その攻撃速度を更に上げ、今度は両翼の爪にて交互に攻撃を開始する。
ノヴァの乗るマーガは、その攻撃をいとも簡単に避けてみせている。まるで踊っているかのように軽やかなその動きは、見ている者を惹きつける程であった。
腹を立てたドラゴンを余所に、マーガのコックピット内でノヴァは思う。
(素晴らしい出来映えだな。プロトタイプとは思えん。しかも…。この時代の工業技術でここまで精巧に作り上げる事が可能なのか?)
ノヴァはドラゴンの両翼爪の攻撃を、マーガを操りながら軽やかなステップで避けそう考えていた。
彼がそう考えるのも無理は無い。なんと言ってもダイン達が暮らしている今現在のティーズの工業技術は、良くて16世紀の地球と同程度なのだ。
ロボットを建造するだけの技術が有る筈も無い…。だがしかし、ノヴァは実際にマーガを操縦し、目の前のドラゴンと戦闘を開始している。
そしてまたしもある《・・》考えが脳裏を過ぎる。
(技術は魔法を行使すればどうにかなるだろう。問題は、私の全力に機体が耐える事が出来るかどうか? だな…)
そう、彼はまだ全力で戦っていない。寧ろ機体を壊さないように慎重に丁寧に操作を行っているのだ。
段々とドラゴンの攻撃速度が増してきているので、そろそろ抑えていた力をある程度解き放つ時が近づいてきているのもまた事実である。
(しかし、あの少年も気の利いた事をしてくれるものだ。私に妖精結晶を渡してくれるとはな)
妖精結晶の正式名称は〔マギウスクリスタルコア〕と言う。この事も、今のティーズで知っているのはノヴァと妖精達だけだろう。
ノヴァは妖精結晶から、特殊なエネルギーを解き放ち、マーガの起動炉・魔粒子動力変換装置ExEeから流れる動作エネルギーと直結させる。
すると、マーガの全身から日の光の色をしたオーラが各関節部分から激しく噴出する。
特に肩甲骨の辺りからは、まるで光の翼が顕現したかのように、3対6本の光の柱が現れている。
(良し! 機体内部の強度も悪くは無い様だな。では…。飛翔を試してみるか)
ノヴァはそう思い、マーガを無理やり飛翔させる為、魔粒子収束飛行法をマーガサイズで行使する。
妖精結晶の、扱いに長けた彼だからこそ、こういった荒業をやってのける事が可能なのである。
仄黒い色をしたマーガの全身を、真っ白い魔粒子が一瞬で包み込む。そして次の瞬間、マーガは超高速で飛翔する。
飛翔する間際に、ドラゴンは何事かと焦り、ノヴァの乗るマーガ目掛けて、両翼爪で同時攻撃を試みるが…。
その攻撃が当たる直前に、マーガは遥か上空に浮かんでいた。それも、ドラゴンには絶対に目視出来ない速度で…。
その速度を見た者は一様にこう思うだろう〔瞬間移動〕ではないのか? と…。
だがしかし、それは大きな間違いである。ノヴァは単純に、超高速で移動を行っただけに過ぎないのだ。
音速を遥かに超える速度でそれを行えば、まるで一瞬にして移動したかのように見えてしまうのである。
上空に移動した後、ノヴァは瞬時にコックピット内で思考する。
(うむ。やはり、外部装甲の強度はそれ程強くは無い様だな…。飛翔と同時に強度強化の魔法を機体に掛けておいて良かったな…。では、この機体から漏れ出る魔粒子を用いて、武器をつくるとするか…)
実は、その一瞬の内に、彼はマーガ全体に強度強化魔法を施していたのだ。
そして、ノヴァはそう考え、マーガの右手の甲の先から噴出する魔粒子を硬質化させ、一本の長剣を形作る。更に、左手の甲の先から噴出する魔粒子を盾の形に変える。
その一連の行動は一瞬で完了し、ノヴァの乗るマーガは、剣と盾を装備した状態となる。
魔粒子を硬質化させ、武装したマーガをドラゴンが見上げる。
その状態を見たドラゴンは焦り、口元に大量の魔粒子を収束させ始める。――ブレスである。
通常のドラゴンなら、自らが持つ様々な属性器官を、強大な肺活量をもってして、属性付きの強力な吐息とするのだが…。
4つの魔結晶をその身に宿すドラゴンは、その過程を無視し、ダインをも遥かに凌ぐ体内魔力に物を言わせ、魔粒子を高速で収束させる事が可能となる。
今も尚、ドラゴンの口元には大量の魔粒子が高速で収束されている。
その様子を見たノヴァは、マーガの左手に顕現させた盾を前面に構え、ドラゴン向けて一気に突撃を開始する。
それと同時に、ドラゴンから超破壊的な光線が口元から発射される。
ノヴァの乗るマーガの移動速度は音速を超えているが、ドラゴンから放たれた光線も音速を超えている。
魔粒子は空気抵抗を全く受けないので、光線が放たれた際に、ドラゴンから吐き出された大量の息の音しか聞こえない。
マーガは物質であるので、物理的な空気抵抗を受ける。ノヴァがマーガを高速で移動させた際には、空気の壁を突き破る轟音が辺りに響いていた。
そしてついに、ノヴァの乗るマーガと、ドラゴンから放たれた光線が衝突する。
ズゴゴォォーーーン!!
と、大質量の物質同士が激しくぶつかり合った轟音が響き渡る。
(くっ!! やはりプロトタイプか…。思ったよりもパワーが拮抗している…。だが…。私とて、かつては――)
ノヴァはそこまで思考した後、更に機体に負荷を掛け、現在のマーガが出せる最大出力を大きく超える力を発揮させる。
今はまだ盾で、ドラゴンの光線を受け止めているが…。
ノヴァは妖精結晶に、更に体内魔力を注ぎ込む、注ぎ込まれた体内魔力がExEeから流れ出る動作エネルギーと干渉し合い。超常的な力場を形成する。
すると、マーガの左手に顕現した盾で防いでいたドラゴンの光線が、その接触部分から段々とただの魔粒子に変換され始めていく。その様子を見たノヴァはニヤリとほくそ笑む。
(フッ…。勝ったな…)
ノヴァがそう思うと同時に、彼はマーガを一気にドラゴン目掛けて突撃させる。
力場の影響で、ドラゴンの光線の抵抗が無くなり、加速する事が出来るようになったのだ。
ドラゴンから放たれる大量の光線を。進行方向に向かって一気に魔粒子に変換していくノヴァの乗るマーガ。その光景は幻想的で、日の光の色をした数多の粒子の海の中を、一気に突き進む西洋のエッジのあるデザイン的な甲冑を着た巨大な騎士。神話的な戦闘に見えてしまうであろう。
突撃している最中に、ノヴァの乗るマーガは、右手に顕現させた長剣を上段に構える。そして、ついに魔粒子の海を抜け、ドラゴンの頭に辿り着く。
「これで…。チェックメイトだ!」
マーガの拡声器が常にオンの状態である事を知らないノヴァは、そう叫んでしまう。
辺りには彼の力強い声が響き渡るが、当の本人は意に介さず、上段に構えた白い色をした巨大な長剣を一気に縦に振り下ろす。
それと同時に、機体を一気に下方向に加速させ、ドラゴンの頭を真っ二つに切り切り裂いた。
切り裂かれる寸前、ドラゴンの目に涙があったように見えたが、ノヴァは気にもせず、一気に振り抜いた形である。
マーガが白い閃光の如き速度で、一気に地上まで辿り着き、やがては着地する。
まだこの世界に1体しか存在していないマーガを労わる様に、マーガサイズの魔粒子収束飛行法を器用に操作し、やわらかく着地する。
それと同時に、目の前でドラゴンが倒れる。
大地を揺るがすほどの轟音を響かせ、その巨体を大地に横たわらせる。それと同時、ドラゴンの体が段々と薄くなっていくのがノヴァの目に入った。これは、ドラゴンが魔粒子へと還元されている現象である。
恐らく、この辺りに集まってきているこの時代の人類の目にも入っていることであろう。そう、ダイン達にも…。
(さて、これでまた1体葬ったが…。ん!? 何故だ!? 何故ドラゴンが人の形に戻っていく!?)
なんと、魔粒子へと還元されていくドラゴンの中から、人の姿が見えてきたのだ。
衣服は着ておらず、素っ裸の状態だが、その髪型やちょっと太った体格を見るに、裕福な家の男性であろう事が伺えた。
ノヴァは人の形に戻っていく様を、絶句しながら見つめていた。
■■■
はーっはっはっは! ありえないとは正にこの事だね!
俺の想定を遥かに超えたマーガの戦闘を見せ付けられたよ。
最初にノヴァ氏にマーガを貸した時は、正直大丈夫か? とも思ったが、その心配は要らなかったみたいだね。
最後は大声で「これで…。チェックメイトだ!」なんて叫ぶ程だからな。あれには俺も噴出しそうになったもんだ。
俺が操縦するよりも遥かにしなやかに動き、挙句の果てにはマーガサイズのエナジーフロートまでやってのけているのだ。感服すとはこの事である。
途中からマーガがやたらと厨二病的な光の何か? を噴出して、背中に三対六枚の翼を顕現させ、しかも光の剣と盾を装備したのには笑ったね。
丁度その辺りの状況の時に、俺の元に友達メンバー9人が駆けつけて来たので一緒に見ていた。
マークに背負ってもらっているエドガーが、やたらと真っ青な顔をしていたが…。なんでだろうか? マークの高速戦闘に付き合わされて、途中で酔ったんだろうか? まぁいいか、エドガーだし。
リディスとシンシアは、2人で一緒にコンビネーションを行ってモンスターを駆逐してきたみたいだ。正直な話し、2人のコンビネーションは絶対に避けれそうにない。
ミーナの今日の気分は突撃槍のようだ。兄としては嬉しいが、この世界にはランスの製造方法がドランク武具工房にしかないので、変に目立たなかったかな? それにしてもどんな戦い方をしたのか非常に気になる。覚えていたら後で聞いてみよう。
アイシャはミーナの直ぐ後ろで杖を持って今も構えている。杖でぶん殴ったのか、緑の魔結晶の回復特化を生かして後方支援に徹していたのかが気になるが、皆の様子を見るに、後方支援だったのだろう。
フィリップとゴードンはかなり暴れまわったのだろう、衣服にはモンスターの返り血が付着している。フィリップはニヤニヤしながら斬りまくっていたのだろう。なんとなく想像できる。
ゴードンは、独特の語尾の上がる奇声を発しながら斧を振り回していたに違いない。想像すると非常に笑えてくるな。
ダストンは…。やっぱりその短い手足が超高速で動き回っていたのだろうか? いや、強いんだよダストンは。
とまぁ、ノヴァ氏の乗るマーガが、4つの魔結晶をその身に宿すドラゴンを討つ間にそんな事を考えていたりしていた訳だが…。
ドラゴンの頭がかち割られて、勝負が付き、ドラゴンの体が魔粒子化していく時だ。なんと! 中からマルーノの太った偉そうな髪形をした裸体のオッサンが出てきたのだ。
どっかの王侯貴族か? と一瞬考えたが…。そんな事よりも、今はそのオッサンの様態が心配である。
なので、俺はオッサンを助ける事にした。
「俺はあの裸体のオッサンに回復魔法を行使してみる」
俺がそう言うと、緑の魔結晶を持つシンシアとアイシャが俺に付いて来てくれた。
相手は裸体のオッサンであるにも関わらずだ。やはり、この世界の女性は皆強いと改めて感じた瞬間であった。
「わたしも手伝うよ! あ~…。裸体のオッサン…。ってのがチョット気になるけどね」
苦笑いしながらそう言って付いて来てくれるシンシア。非常に有り難い。
「私も一緒に行きます。裸体がなんですか! 命の尊さには変わりありません!」
真剣な表情でそう言ってくれるアイシャ。裸体って…。
いや、そんな突っ込みよりも早くオッサンの所に行かなくてはならない。
「有難う2人とも! 少し急ごう!」
「あいよ~!」
「はい!」
俺の声に2人は頷き、身体強化を行使してすばやくオッサンの元に駆けつける。
オッサンの元に駆けつける間際に、ノヴァ氏の乗るマーガとすれ違ったが…。何故か沈黙したままだった。
マーガの眼球水晶の中心が赤く光っていたので、まだ起動キーは抜いていないのだろうが…。不気味な感じがした。
さて、オッサンの元に駆けつけた訳だが…。やっぱりどっかの王侯貴族なのだろう、偉そうな髭に顔付きに腹だ。余程裕福な家の者であろう事は察しが付く。
しかし…。臍の部分に魔結晶があると、太った時はやはりこうなるのか…。出臍である…。俺はこの時誓った、絶対に太る事の無いようにしなくてはならないと!
それはそうと、俺が早速回復魔法を行使しようとすると、そのオッサンの体が一瞬ピクリと動いたように見えた。どうやらまだ生きているようで一安心である。
「先ずは俺から回復魔法を行使してみる。体内魔力の残量が少ないから、直ぐに息切れするだろうけどな」
「んじゃ、次はわたしね~。ダインも無理しちゃ駄目よ~?」
「そうですよダインさん! もし倒れたりしたら、ミーナさんとリディスさんが悲しみますよ!」
「解ってるよ、程々にしとくから」
俺が2人に体内魔力の件を言うと、一緒に心配してくれた。持つべきは友である。
まぁ、確かに俺が倒れたりしたら、リディスとミーナは大慌てするかもな。
俺はそんな事を考えながら、赤の魔結晶をその非常に立派なお腹に宿す裸体のオッサンに回復魔法を行使する。
傷だらけ…。って訳でも無いが、もしかしたらどっか酷く打ち付けているかも知れない。
俺が回復魔法を行使する事約1分…。遅れて残りの7名もやってきた。
ノヴァ氏の乗るマーガと、4つの魔結晶をその身に宿すドラゴンとの戦闘の最中も、爆風やら小石、俺がやってしまったガラス化した地面の破片を防ぐ為に、二重障壁を展開していたので、直ぐに体内魔力が枯渇寸前になってしまった。
丁度皆が揃ったところで、俺はシンシアにバトンタッチした。恥ずかしながら、俺は今、肩で息をしている。
「はぁ…。はぁ…。シンシア、後は頼む…」
「あいよ~。大丈夫? 顔色悪いよ?」
そう言って俺を気遣ってくれるシンシアの優しさに感謝していたが…。
「ああ…。あれ?」
俺はシンシアにそう言うと、少しクラっとしてしまい、前のめりに倒れそうになった。
しかし、倒れきる寸前にマークが俺を支えてくれた。リディスも一瞬遅れて俺に手を貸してくれた。
「悪いな2人とも…」
俺を心配そうに見つめるリディスとマーク。
リディスなんかは既に涙目じゃないか。マークは何時もと変わらない表情だが、内心ではかなり心配しているのだろう。付き合いが長いからなんとなく察しが付く。
「全く…。ダインらしくねーぞ! なんでそんなに体内魔力使ってるんだ?」
「本当だよ…。使い果たすと…。どうなるか知ってるでしょ!!」
2人にそんな事を言われてしまったが、確かに変である。
マーガに乗って、妖精結晶を使って全力攻撃魔法を20分程行使しただけで、残り3割程にまで減ってしまったのだ。
ノヴァ氏なら、何か知っているんだろうか? マーガから出てきたら是非聞いておきたい事でもあるな。
と、言うかだ。喋ってくれるのだろうか? なんとなくだが、老人妖精の言っていた「あの男」ってノヴァ氏の事なんじゃないのか?
俺がそこまで思考したところで、ミーナが心配そうに俺に話し掛けてきた。
「兄さんの体内魔力が枯渇しそうになるなんて…。どう考えても変だよ? 何やってたのか話してほしいなぁ…」
確かに変である。
俺の体内魔力量から考えると、明らかにおかしな話である。
「そうだな…。妖精結晶を使って、手加減無しの魔法をぶっ放した…。位しか思い当たる節が無いな…」
そう、原因が有るとすればコレ《・・》以外には考えられないのだ。
俺達(現在の惑星ティーズ)の見解では、妖精結晶はただの魔法効果増幅媒体に過ぎないのだ。
なのに、俺の体内魔力はごっそり減っている。
俺の使用方法が間違っていたのか…? 或いは元々そういう《・・・・》振る舞いが出来る品だったのか…?
俺一人で考えても、きっと答えは出ないだろうから。ノヴァ氏がマーガから出て来た時にでも聞いてみることにしよう。
俺はこの後、皆にとういう経緯で体内魔力を消耗したのかを事細かく説明した。
デブのオッサンに回復魔法を行使しているシンシアとアイシャも、度々俺の方を見ながら聞いていた。
ダストンなんかは顔中を汁まみれにしながら聞いていた。その時に何か泣きながら喋っていたが…。何を言っているのか分からなかった。
だいたい何を言っているのかは想像は出来るが、俺はダストンの鳴き声翻訳機ではない。すまんなダストン、許してくれ。
俺が大方の事情を説明し終える頃、デブのオッサンが苦しそうにもがきだした。
「うっぐ!! ぐほっ!! ゲホゲホ!」
と、言って口から形容し難い何かを吐き出した。
「うげ! 何コレ!? キショ!」
そう言って顰め面で素早く後ずさったのはシンシアである。
うむ…。確かに気持ち悪いな…。
「あ、あの…。これは一体?」
アイシャはその物体を目にして腰を抜かし、その場で尻餅を付いた状態になっている。無理も無かろう。
俺達がその謎の物体を見かけてから直ぐ後、デブのオッサンの目が見開かれた。そして…。
「お、お前達が助けてくれたのか…? 麻呂はワイナル…。ダーメルの王ぞよ…」
衝撃の発言だった。
ドラゴンに化けていたのは、ルキリアと仲の悪かったダーメル王国の国王ワイナルであったのだ。




