第十二話 マーガ研究施設にて
俺を含め、10人の少年少女がマーガ開発施設に来ている。
紋記号魔法で作られた広大な空間に、マーガの骨組みである紋記号内骨格SIFを横に寝かせた土台や、第一装甲を装着された機体が1機横に寝かせられた土台、第二装甲(装飾装甲)がほぼ装着された1機が直立している土台がある。
SIF自体は既に数機分は用意してあるが、まだ組み上げられていない状況である。俺がミレイユさんにお願いして、取り敢えず1機の完成を最優先で行ってくれと頼んだからだ。
その甲斐あって、今目の前にほぼ完成したマーガが直立しているのである。
今俺はリディスと手を繋いでいるが、この機会にマーガの詳細を説明しよう。
マーガの正式名称は巨大人型魔導戦闘兵器である。ハッキリ言って長すぎるので、俺の我侭で省略してマーガと呼んでいる。
続いてマーガの内部についてだ。
マーガは三層構造となっていて、その骨組みは紋記号内骨格SIFという。
SIFの形状は、人間の骸骨と酷似している。
1枚の鋼鉄の板に、3~10個の紋記号円を掘り込んでいる。その各紋記号は、性質変化の魔法にて非常に柔軟性の物質となった、接合紋記号を掘り込んだ鋼鉄を使用している。性質変化の魔法を掛ける前に、俺かカディウスさんが接合紋記号を掘り込んでいる。グニャグニャに曲げても、引っ張っても大丈夫のようである。実に不思議な素材であると思ったものだ。その柔軟化した鋼鉄の線を、各関節を繋ぐように配置している。
各関節部分の長さはまちまちで、一番長い部分は約3メートルになっている。その部分は太ももに該当する。一番小さな部分は、指の関節となっている。
操縦者が意のままに操れるように、背骨も再現している。実はこの背骨が最も手間の掛かる部位でもあったりする。
各関節部分には、性質変化の魔法にて鏡面処理を施された円柱状の鋼鉄の棒を使用している。この鋼鉄の棒にも、紋記号が掘り込まれている。
SIFの肋骨に相当する部分の内側には、コックピットが有り。その直ぐ下にはExEeがはめ込まれる仕組みになっている。コックピットについては後で説明しよう。
頭部には眼球となる二つの特殊な水晶が付いている。名称は眼球水晶と言う。その眼球水晶の表面には、カディウスさん作の新たな紋記号が使用されている。
その紋記号の効果は、眼球水晶に映る景色を映像化し、コックピットに映し出す仕組みとなっている。
因みに人工筋肉などは使用しない、魔粒子を動作エネルギーに変える事ができるので、その動作エネルギーを各関節を曲げるのに利用している。この為、人工筋肉などは不要となる。
続いて第一装甲について説明しよう。
SIFのままでは、防御力に不安が残るのはご想像いただけるだろう。そこで、飾り気の無い装甲版を付けるのだ。人間で言えば、皮膚のようなものだと思っていただければ良いだろう。要するに、SIFを保護するのが役目となる。
胸部の装甲だけは厚めに作ってある。理由はお察し。
その胸部の装甲の上部には、開閉式の蓋が取り付けられている。この開閉式の蓋が、コックピットへの出入り口となる。
その蓋は人力で開かなければならない。まぁ、色々と案があったのだが、ここは人力で良いんじゃね? となったのだ。妥協策である。
頭部の第一には、二つの丸い円が空けられている。ご想像通り、眼球水晶の納まる部分である。
背骨も再現しているので、腹部の第一装甲は蛇腹になるような設計を施してある。この部分は何気に手間が掛かっている。
最後の装甲は第二装甲で、通称(装飾装甲)である。呼んで字の如く、飾りを施してある装甲である。
要するに見た目だ。巨大ロボットは見た目も肝心である。
俺が拘ったデザインとして参考までに言うなら、5つの惑星を舞台にした、壮大な御伽噺の漫画に出てくるロボット風にしてある。
眼球水晶が起動すると、水晶内に淡い赤色の光が灯る。あの瞳に似ていて、大興奮してしまったのは良い思い出である。
以上が、マーガの三層構造の説明である。
続いてコックピットについて説明しよう。
先ずは座席である。この座席の構造は、背凭れが付いているリビングチェアーを思い浮かべてもらうと良いと思う。
その座席を取り囲むように、クッションの代わりとなる軟素材が括弧っている。そのその軟素材も、性質変化の魔法にて政策されている。
座席の前には、眼球水晶から取り込んだ映像を映し出す為に、広めにスペースが空けられている。
接合紋記号を枠として利用し、縦60センチ、横1.2メートルの緩やかなカーブを描いた画面となる。
映し出される映像は非常にクリーンで、映像化されるまでのタイムラグは皆無である。タイムラグの皆無を可能にしているのは、魔粒子が関係していると推測される。これに関しては、俺もカディウスさんも全くもって解らないのが現状である。
モニターの直ぐ下に、飛行船でも使われている拡声器が備え付けられている。この拡声器を使い、外部に操縦者の声を拡張させて伝える事が出来る。これも紋記号魔法を使用している。
座席の肘掛の部部には、水晶を加工して棒状にした取っ手が付いている。この取っ手を操縦者が握り、ExEeから発せられた動作エネルギーを、魔力球を操作する要領で操る事が出来る。その取っ手部分にも紋記号円が書き込まれている。
そして最後に拘った部分が起動キーである。
座席の足元に、円柱状の穴が開いている。そこに起動キーである発動紋記号が書き込まれた棒を嵌め込む事で、マーガは始めて起動する。
そう…。先程説明した、コックピットの下部にExEeを設置したのはこの為である。
カディウスさんが、紋記号魔法球の中心部分をくり貫いてしまえば良いのでは? と言ったのが始まりである。
そんな経緯があって、今現在のExEeの起動キーが完成した訳である。その起動キーの形は長さは約50センチ、太さ5センチの棒である。
将来的にマーガが普及したら、その起動キーを腰にぶら下げてもらうようにしようと考えている。
余談だが、マーガの頭部(頭蓋内)は空っぽである。この場所にはその内何か入れようと考えている。
以上がマーガの大まかな説明である。
さて、もう完成同然の機体もあるし、早速試運転といきますかね。と、思ったら、完成同然の機体の足元に居たゴツイマルーノのオッサンが小走りで近付いてきた。
「お~い! 坊主! 丁度良かった。こいつはもう完成と言って良いぜ。なんなら、早速動かしてみるか?」
と、言って話し掛けてきたのは、マーガ組み上げ隊の隊長、群青色の短髪、厳つい目付き、瞳は赤、褐色の肌、非常に筋肉質な見た目であるその人は、エンリケ・ファイダムさんである。
右手握り親指を立て、彼の後ろで直立しているマーガを指差すエンリケさん。
まぁ、俺も今から乗ろうとしていたから丁度良かった。先ずはリディスに手を離してもらわないとな。
「リディス、手を離してもらえるか?」
「あ、うん…」
顔を真っ赤にしながら手をそっと離してくれた。
皆をその姿をニヤニヤしながら見ていた。
そんな目で見るなよ…。
そして俺はエンリケさんに話し掛ける。
「ええ。今丁度乗ろうかと思っていたんですよ」
「そうかい! コイツがちょんと動けば、今度は普通のやつらでも動かせるように調整しろよ?」
エンリケさんはそう言って、俺の左肩に右手を乗せた。
ポンっと音を立てながら、次はもっと良いのを作るんだぞ! という意味をこめての肩乗せである。
「言われなくても考えてますよ。俺達だけが動かせるってのは、欠陥品と相違ありませんからね」
「ガッハッハッハ! 全く、坊主は本当に11歳か?」
俺がさも当然であるような顔をしてそう言うと、エンリケさんは豪快な笑い声を上げそう言った。
まぁ、中身は精神年齢40歳を超えたオッサンなんだけどね。
「正真正銘の11歳ですよ。…と言いますか、このやり取り何度目です?」
「ああ。何度目だろうな? 覚えちゃいないぞ」
「まぁ、それはともかく。早速乗りますね」
「おう!」
俺はその後、皆を連れて今し方組み上がったマーガの足元に移動する。
足元から見上げるマーガは壮観だった。
俺は友達メンバー全員にも乗ってもらうように説明し、コックピットへ身体強化を利用して移動する。
梯子とか、鉄製の段々足場とかも有るのだが、俺達のように鍛えた連中は魔法を使って移動した方が断然早いのだ。
俺はコックピットの上部に備え付けられた蓋を開け、コックピット内に入る。
先ずは座席に着席し、起動キーを足元の穴に差し込む。すると、独特の静かな起動音が鳴り、眼球推奨から送られてくる映像がモニターに映し出される。
この時点で注意しなければならないのは、起動キーを差し込むまでは、コックピットの上部にある蓋を閉じれないと言う事である。
何故ならば、閉じてしまうと真っ暗になり、起動キーの差込口が見当たらないという最悪の事態を招いてしまう。
正直な事を言うと、早く電球のような魔道具を作らなければと思っている。
話しが逸れた。
俺はコックピット内にてモニターが映るのを確認し、コックピット内が明るくなってから上部の蓋を閉じる。その蓋には留め金が設けられているので、留め金でしっかりと固定する。そうしないと、動くたびに上蓋が開いたりして五月蝿いのである。
モニターを見てみると、広大な紋記号魔法空間が広がっている。
俺は肘掛に設置された水晶の棒を握り、ExEeから各部位に行き渡った動作エネルギーを操作する。
一歩踏み出す前に、俺は拡声器を使って道を明けるように指示する。
『今から前進を始めるので、直進線上の方々は退避してくださ~い!』
俺の声が拡張され、まるで拡声器を使ったかのような音声となる。
その声が掛かると、直進線上の人々が左右に避けていく。
俺は完全に人が退いたのを確認すると、マーガを一歩前進させる。
ドゥン! とマーガの独特の足音が聞こえる。
俺は今、猛烈に感動している。なんと言っても巨大人型ロボットに乗っているのだ!
今までは、寝そべった状態のSIFの間接を動かしたりとかしかしなかったのだから。なので、直立しているマーガに乗るのは実質初となる。
さて、気持ちを開発者モードに切り替えて、更に一歩前進させる。
マーガの前進を巡るExEeから生成される動作エネルギーは、完全に俺の制御下にある。つまり、姿勢制御も俺の感覚でどうにでも出来るのである。なので、今のマーガには姿勢制御装置は付いていない。
人間が歩行するかの如く、軽やかにまた一歩前進するマーガの初号機。俺は嬉しくなり、更に歩行を続けようと思った。
俺は一旦ここでマーガの前進を止め、拡声器にて更に注意を促す。
「これから更に前進し、左右への移動を試みます! その後は軽く加速を試みます!」
俺が拡声器を使ってそう言うと、散らばっていた作業員の方々が一角に集まってくれた。空気を読んでくれた皆様に敬礼!
では更に歩行を続けよう。俺はマーガを歩行させる。
ドゥン、ドゥンとマーガ歩行する度に独特音が聞こえてくる。コックピットに伝わる振動や衝撃は思ったほどではないので一安心である。
もし過度な振動や衝撃が有るのなら、何かしらの対策を考える必要性があったのだが、今の所は必要無さそうである。
俺は少しずつマーガの歩行速度を上げていく。
すると、丁度壁際に来たので、俺はマーガの向きを左に旋回させる。
コックピットに、マーガが旋回する際のGが掛かるのが解る。地球でも、車がある程度の速度で曲がると掛かるあの感覚に非常に似ている。
何度も失敗した太ももと腰の間接部分が上手く作動し、マーガが進行方向をスムーズに変えてくれる。正直感度して泣きそうになったが、気合と根性でぐっと我慢する。
続いては、そのまま歩行速度を上げながら、軽く走ってみる。
俺が操縦するマーガは段々と歩く速度を上げ、マラソンするかの様な速度に達する。うむ、各関節も問題なく稼動しているようだ。
俺はそのままマーガの速度を維持し、段々足場のある位置まで戻ってきた。
マーガを元居た位置にきちんと直立させ、コックピットハッチを開き外に出る。
俺はマーガの胸部の上に上り、皆を見下ろす。するとエンリケさん達マーガ組み上げ班の方々が歓喜の声を上げていた。
その直ぐ横では、俺の友達メンバーも大興奮の様子。最初は心配していたリディスもすっかり笑顔になっている。
俺は皆に声を掛ける。
「マーガの初号機は、もう完成と言っても良いかもしれませんよ!」
俺がそう言うと、エンリケさん達は大きく頷いてくれた。友達メンバーも同じようだった。
今度は皆にも乗ってもらおうと思い、順番に搭乗してもらった。
リディス、マーク、シンシア、ダストン、ミーナ、フィリップ、アイシャ、ゴードン、エドガーの順で乗ってもらった。
皆上手く扱えているようでなによりだったが、魔粒子を操作する事に長けている方が、よりスムーズに機体を動かす事が出来る事も同時に判明した。
幼い頃から俺と一緒に訓練をしてきた者の方が、機体を上手く扱えている。ゴードンとエドガーが操作すると、どことなくぎこちなさを感じてしまった。
やはり、何かしらの制御装置を新たに考案する必要がありそうだった。
俺がそんな事を考えていると、エンリケさんが俺に話し掛けてきた。
「なあ坊主。やっぱり他の者でも扱いやすくする必要が有るんじゃないのか?」
「ですね。今後の課題です」
この会話の後、俺は友達メンバーに感想を聞いていたその時。ミレイユさんがこの場に駆け込んできた。
ミレイユさんはかなり焦っている様子で、荒い息をついている。
一体どうしたのかと思い、俺が話しかけようとする前に、ミレイユさんが話し掛けてきた。
「た、大変です! 軍団ランク10以上のモンスターの群れが、ダーメル王国の方面から、このルキリアの街に向かっているとの報告が入りました!」
ミレイユさんは両膝に手を突き、肩で息をしながらそう言ってきた。
大事である。軍団ランク10以上と言う事は、モンスターが千以上の群れを成していると言う事である。
しかし…。なんてタイミングで現れるのか…。しかもダーメル王国ときたか…。
俺は思考を巡らせる…。
最良の策は、俺達10人で一斉に出向き、全力で対処すればどうにか出来るかも知れない。
俺が最大火力の攻撃魔法をぶっ放すだけでも、かなりの数を減らす事が出来るはずである。
早速マーガを実践投入しようかとも考えたが、戦闘中に何かしらの誤動作が生じた場合は、取り返しが付かない結果となってしまう。
俺は一旦周りを見てみると、皆焦りの表情を浮かべている。
バトルマニアなマーク、フィリップ、ゴードンはやる気の顔をしているが、女性陣は不安げである。
俺が思考を開始しようとしていた時、リディスが俺に話し掛けてきた。不安そうな顔をしてるが…。
「ダイン君…。あたしね…」
そこで一旦言葉を区切り、右手を顔の近くで握って思いつめた顔をしている。
そして、少しの逡巡の後、俺に真剣な顔で向き直り、言葉を続けた。
「ダイン君なら、このマーガで出撃できると思うの。生身だと危ないと思うから…。だから! 自身を持ってマーガで戦ってみて!」
俺に力強くそう言ってきた。
俺もそれは考えた。だが、マーガはまだ未完成である。全力戦闘が可能な状態ではないのである。
それに、火器も武器も無いのに、どうやって…。
いや待てよ…。今まで考えていなかったが。動作エネルギーの一部を、俺の体内魔力で操作し、攻撃魔法に転用できるんじゃないのか!?
もしそれに失敗したら、マーガから降りて最大火力の魔法をぶっ放せば良いだけの話しだ。
さて、後は俺達の年齢で、街の外に出ても良いのかだが…。
「リディス。やるだけやってみるけど、先ずは俺達の年齢で外に出れるかどうかだ」
俺がそう言うと、リディスは少し暗い表情になって項垂れてしまった。
その直ぐ後、ミレイユさんが真剣な表情で俺に一枚の洋紙を見せてくれた。
「国王陛下が、ダインさんならそう言うだろうと仰っていましたので。この特別手形を持って参りました」
俺はその洋紙を受け取り、内容を確認する。
そこには、[年齢制限解除・特別手形〕と記されてあった。
俺はその手形に目を通し、ミレイユさんを見てみると…。今度は笑顔で一枚の手紙を俺に手渡してきた。
俺はその手紙を受け取り、中を確認すると。なんと! 国王陛下直筆の手紙が入っていた。中を確認すると…。
<緊急事態だ! カディウス・サライアスからお前の実力は聞いているぞ。出撃を許可する! それと、お前が最も信頼する中も連れて行くが良かろう。力なき自分を悔いるばかりだが…。身勝手なのは承知しておる、どうか、この街の…。この国の民を守ってくれ!>
俺はその手紙を読んだ後、少し目を瞑って考える。
国王陛下が俺を信用している。だったら、その期待に応えなくてはならない。
俺はそっと目を開け、皆を見回す。
項垂れていたリディスも、再度俺を真剣な表情で見ている。
皆の決意が伝わる表情を見て、俺は決断する。
「ミレイユさん、有難うございます」
「いえいえ。これも仕事の内ですから」
ミレイユさんはそう言って笑顔で返してくれた。
今度は、皆に向かって言葉を掛ける。
「皆…。俺はこれから出撃する。一緒に来てくれるか?」
クソ…! 言葉が上手く出ない…。もっと気の利いた事を言える筈なのに…。
俺がそう思っていると、リディスが最初に俺に声を掛けてきた。その表情は真剣そのものだった。
「あたしは、ダイン君とどこまでも一緒に行くよ!」
リディスがそう言った途端、皆もそれぞれに決意の言葉を掛けてきてくれた。
「俺はやる気満々だぜ!」
「水臭いね~、一緒に行くに決まってるでしょ?」
「ぼ、僕だって、ダイン君の友達だから!」
「兄さんの為にも、わたし頑張っちゃうよ!」
「私も回復魔法で皆さんを御手伝いさせて頂きます!」
「僕も自分自身の腕試しが出来て嬉しいですよ!」
「自分もぉ! やる気満々なのでありますぅ!」
「俺も何か出来る事があるっすよ!」
皆の決意は固いようだ。俺も決意の言葉を口にする。
「有難う皆! 念の為、妖精結晶を持参しよう。一旦家に戻って、皆は南門から出てくれ。俺はマーガに乗ってから出撃する!」
『『了解!!』』
皆の力強い頷きと共に、了解が得られた。
そして俺はこの日、マーガでの実戦を初めて経験する事になる。
俺達10人は、急ぎ秘密のトンネルを抜け、一旦俺の家の中庭に出る。
トンネルを抜ける際に、身体強化の使えないエドガーが出遅れるので、俺がエナジーハンドで運んだ。
彼は終始涙目だったが、そんな事はお構い無しだ。色々と急ぐ必要がある。
中庭で俺達は別れ、妖精結晶を持っている者は自宅に取りに行かせた。
その時に、ダストンが皆の武器を持ってくると言っていたので任せる事にした。
ミーナ、アイシャ、エドガー、ゴードンは妖精結晶を持っていないが、俺が2個持っているので、ミーナに渡す事にした。
俺にはマーガと、自前の馬鹿威力攻撃魔法が有るので必要無いと言っておいた。
その後は自室に戻り、妖精結晶をベットの下から素早く取り出し、自室の窓から飛び降りる。そのついでにミーナに妖精結晶を渡しておく。
ミーナは俺に付いて行きたそうにしていたが、心を鬼にして断固拒否し、アイシャとエドガーと一緒にリディス達と合流するように伝えておいた。
俺が秘密のトンネルに入る前に、マルナとライアスが家の中から飛び出てきて話し掛けてきた。
「ダイン! 皆に聞いたけど…。絶対に無理をしないで!」
俺の近くまで駆け寄ってきて、右手を腰に当てながらそう言ってきた。
この世界…。ティーズでの俺の母親なのだ、心配して当然である。
ライアスは腕組みをしながら俺に話しかけてくる。父としての貫禄が有る。
「お前は時々突っ走り過ぎる事があるからな…。絶対に無事に帰って来いよ。俺も今から王城に向かう、戦場で会おう!」
俺を元気付けてくれる言葉を言いつつ、自分も戦場に向うと宣言した。
流石は突撃部隊隊長だな。
「うん! 絶対に無理はしないさ。それじゃ、行ってきます!」
俺は二人に見送られ、素早く秘密のトンネルに入り、そこを駆け抜ける。そして、マーガの開発施設に入り、マーガを動かす。
すると、マーガに流れる動作エネルギーが何時も異常にパワーアップしている感じする。恐らく、妖精結晶を所持しているからだろう。感動は後回しだ。
俺は拡声器を使って、緊急出動の旨を伝える。
「これより! マーガを緊急出動させます! 作業員の方々は素早く退避してください!」
俺がそう言うと、作業員の方々が素早く立ち退いていく。その行動を見終わると同時に、俺はマーガを全力で走らせる。
この紋記号魔法空間への扉は開かれたままだったので、一気に駆ける。
マーガが全力で走る音は正しく騒音であるが、今はそんな事を気にしてはいけない。
扉を抜け、外への開閉式の大きな扉をマーガの力で押し開く。
流石は全力起動のマーガの力、その扉は玄関を開け閉めする時のように簡単に開かれる。
今現在は午後4時頃である。季節的に太陽の傾きが早いので、外は少し赤く染まっていた。
その景色が、マーガの眼球水晶からコックピットのモニターに映し出されている。とても綺麗だった。
しかし、今は見惚れている場合では無い。一刻も早く、南に向けて走らなければならない。
マーガの移動速度はかなり速く、俺が軽く身体強化を使った位の速度が出ている。
だが、俺は更に速度を上げるように動作エネルギーを操作する。
すると、マーガの移動速度は更に上がり、コックピットにかなりのGが掛かるのが分かる。
不思議な事に、俺の体内魔力の消費量は思ったよりも少ない。これも妖精結晶の影響であると考えられる。
俺はモンスターが見える距離までひたすらにマーガを走らせ続ける…。
どうか…。誰も死んでいる事が無い様に…。
次回分がまだ出来ていないので、更新には数日掛かると思います。




