第十話 建設現場での戦い
※注) 殺し合いでは御座いません。
さて、今日は新共暦1214年。地の月3-6日目だ。つまり学院は休みとなる。
昨日ミレイユさんが言っていた、ダーメルの密偵の話しが気になっている。
なので、今日は少しばかり夜更かしをしようと思う。
昨日の夜は少し遅めに寝たので、今日は遅めに目が覚めた。
そして今日も、俺の友人メンバー全員と魔法無しの戦闘訓練を行った。
何故魔法無しかって? それは夜更かしして、ダーメルの密偵を捕まえる為ですよ!
そして今現在、22時過ぎである。俺の家族全委員は既に寝静まっている。
俺はその様子を、エナジーフロートで確認し、音も無く移動しながら中庭に向かう。
中庭の南西方向に向かって掘った穴の蓋を空ける。
ん? 何だ? 俺の背中をツンツンしてる感触が有るんだが…?
俺は恐る恐る後ろを振り返ると…。なんとそこにはミーナがニヤニヤしながら、両手を後ろで組んで立っていた。
「兄さんだけでズルい~! わたしも行く~!」
おいおい…。何でミーナが起きてるんだ? 俺は音も無く移動したんだぞ?
あ、もしかして嘘寝だったのか? そう言う高等技術を使うのか?
だがしかし、ここで断ったら絶対に泣く。仕方が無い…。連れて行ってやろう。
「しぃ~! もしかして寝たふりしてたのか?」
俺は静かにするように! のジェスチャーをすると、ミーナは両手で口を押さえた。
我が妹ながら可愛いね、パッと口を押さえるその仕草がまたね…。イカン!!
「うん、何だが今日の兄さんソワソワしてたから、少し気になってたんだよ?」
あらま~、態度に出てたのか…。俺もまだまだ修行が足りんな…。今後は気を付けるとしよう。
ま、取り敢えずは南西の出口に行ってみるかね。
「そうか…。ま、今は南西の出口に行くぞ。そこで面白い事が起こっているらしいからな」
俺は静かにするようにのジェスチャーをし、ミーナと一緒に穴に潜る。
俺が身体強化を使って移動したほうが早いので、ミーナには明かり代わりの少し大きめの魔力球を生成してもらう。
俺が魔力球を作ると真っ黒になるからな、この役割分担は正しいと思う。ミーナは勿論お姫様抱っこだ。
そして、3分程で南西の出口に到着する。
すると…。外から剣戟の音が聞こえて来るではないか!
「ミーナ! 急いでこの蓋の硬質を解いてくれ!」
「任せといて!」
ミーナは俺にお姫様抱っこされたまま、性質変化の魔法を蓋となった土砂ブロックに掛ける。
「兄さん、今だよ!」
「よっしゃ!」
ミーナが俺の顔を見てそう言ってきたので、俺も気合を入れてエナジーハンドを2個作り、それを使って蓋をこじ開ける。
蓋となっていた土砂ブロックが、勢い良く弾け飛ぶ。我ながらどんな威力なんだと思う…。
砕け散って少しだけ間を置いて、俺とミーナに全力二重障壁を掛けると同時に、俺はエナジーフロートで高速飛翔し、上空に飛び出る。
なんと! 猫耳やら犬耳やらウサ耳の女性と男性の混成部隊と、紫色の忍者装束のような衣を着た部隊が、お互いに牽制しあっている風景が目に入った。
ところで…。どっちが味方で、どっちが敵なんだ?
個人的には殺しはしたくないので、怖がってもらって撤退して頂きたいんだが…。
「なぁ、ミーナ。どうやったら、どちらとも静かになると思う?」
「うむむ~」
俺がミーナに質問すると、ミーナは顎に手を当てて考え始めた。
なんだか段々と、妹の顔が悪い笑みに変わっていく。
一体何を思いついたのやら…。と考えていたら、ミーナはポンっと手を打つ。
そして俺の顔を、これでもかと言わんばかりの笑顔で見ている。
「うっふっふ! やっぱり、魔王様ごっこしかないよ!」
「おぉ~! その手が有ったな!」
「でしょでしょ! 早くやろうよ!」
「お~し!」
良いアイデアだな、俺も段々その気になってきた!
あら? 何名かは既に俺とミーナに気が付いている模様だが、もはやお構い無しだ。
俺はミーナに耳打ちし、3個の魔力球を出してもらい、俺とミーナの周りを周回させるようにコントロールするよう頼む。
俺はエナジーハンドを4つ作り出し、俺の背中から飛び出てるような位置に持っていく。
そして俺はミーナをお姫様抱っこしたまま、牽制合戦が行われているど真ん中に高速で降り立つ。
俺がそこに降り立つと、勢いが有り過ぎて、周りに土煙を巻き上げてしまった。
期せずして、魔王登場っぽい演出になってしまったのは僥倖である。
俺はミーナをお姫様抱っこしたまま、今出せる最大の大声で叫ぶ。
「双方! 剣を引けーーー!」
俺がそう叫ぶと、辺りの喧騒が止む。ふむ、効果はあったようだな。
まだ土煙が舞い上がっていて、俺とミーナの姿はシルエット状態だろうから、ここで土煙を一気に吹き飛ばそう。
俺はまたしてもミーナに耳打ちし、辺りの土煙を、風属性の攻撃魔法を弱めに行使してもらって吹き飛ばす。
するとそこには、かなりの雰囲気を纏った俺とミーナが登場するのだ!
俺とミーナは辺りを見回すと…。うむうむ、皆様驚いてらっしゃる。効果は抜群のようだ。
ミーナと顔を合わせると、ミーナは今にも笑いそうな顔をしている。もう少し堪えててね。
さて、どちらが味方かを確認しなければならないが…。ビーステイルって種族を始めて見たが、感動は後だな。
「聞けーー! これ以上争い事をするならば、俺が天誅を下す!」
「はん? どこの馬の骨だか知らんが…。そこを退けーーーー!」
んあ? 紫の装束を着た…。クソ、覆面で顔が判らん! 多分オッサンだ、間違いない。
とにかくそのオッサンが、俺に向かって短剣を両手に構え突撃してきた。
ギーーーーーン!
と、俺の二重障壁に短剣2本が突立てられ、甲高い音が辺りに響く。
「な! なん…。だと…!」
「お決まりの台詞は言わないで良いから、オッサンは気絶しててくれ」
紫装束のオッサンが、俺の言葉に反応する前に、エナジーハンドを素早く操り、オッサンの顎を斜め45度の角度でパンチする。
俺のエナジーハンドパンチを食らったオッサンは、脳を激しく揺さぶられ脳震盪を起こし、その場で膝を折り地面に顔を付ける。
この間約4秒。まぁ、合格点かな。威力も超弱めにしたから、顎が砕けてるなんて事にはなってない筈! …多分ね。
「お、お前は…? ワタシ達の加勢をしてくれるのか?」
俺とミーナは、その女性の声に同時に振り返る。
「わあぁおぉ! スッゴイ美人さんだよ!」
「おお! 本当だな!」
うむ! 少しハスキーな声と非常にマッチしている雰囲気の猫耳お姉さんじゃないか!
あれ? ビーステイルって奴隷とかじゃないのか? なんで黒の忍者装束みたいなの着てるの?
そうじゃない! 先程の問いに答えなくては。
「俺はルキリアの民だけど? で、どっちがルキリア側? 黒い方? 紫の方?」
「お前は…。(ダイン・リヴォースではないのか? 全身を黒い膜で覆われているようだが?)何故こんな所に…。いや、ワタシ達ビーステイルは、ルキリア国王陛下の隠密だ」
ほぉー。それは初耳だな、この国の隠密は皆ビーステイルって訳か?
だとすると、国王陛下も良い趣味をしていらっしゃるようだ。
「ねー、兄さん。このビーステイルの人達のお手伝いするの?」
「そうだな、同じルキリアの民だと言うしな。おっと、その前にあなたの名前を聞いておこうかな」
お姫様抱っこ状態のミーナがそう聞いてきたので、俺は加勢する事を決めた。
そうなると、この話しかけてきた美人の猫耳黒髪ロングのビーステイルの名前を聞いておかなくてはならない。
「ワタシはイシュナ、イシュナ・スダルだ。相手はダーメルの密偵だと思われる」
「イシュナさんね、宜しく」
俺はそう言って、エナジーハンドの一つでミーナを支えながら、右手で握手を試みる。
イシュナさんもそれに答えてくれて、右手で握手してくれた。
何故戦場でこんなにも時間に余裕が有るかって? だって皆ビビッて動かないんだもん!
「ああ、こちらこそ宜しく頼む。だが…。何故そのような人の手を出せるのだ?」
「その事は後で説明しますよ。それよりも、あの紫集団がダーメルって事で良いのかな?」
「そうだ、ここの建設現場の破壊が目的のようだ」
「なるほどね…。ミーナ、弱めの水属性の攻撃魔法使って良いから、片っ端から気絶させるぞ」
「はーーーい! あ! そうだ! 練習ついでに、エナジーハンドも使って良い?」
俺はイシュナさんと敵の確認をし、ミーナに魔法の行使をお願いすると、小首を傾げて懇願のポーズ! 可愛いので許可する!
「良いよ。その代わり、絶対に強く殴っちゃダメだぞ?」
「はーーーい!」
今度は元気良く右手を挙げて返事してくれた。本当に大丈夫だろうか? 少し心配である。
「ではイシュナさん、俺と妹で気絶させて回るので、敵の確保をお願いしますね」
「お、おい! それはどう言う…!」
イシュナさんがそこまで言った所で、俺は身体強化を使い、紫装束集団に突撃を開始する。
このティーズに生まれて11年目にして、初の本格的な対人戦闘である。
何時もやってる訓練ではなく実戦だ、殺しはしないとは言え、相手は此方を殺しにくるだろう。
さて、早速一人目を気絶させるか。
「ほい!」
と、気の抜けたミーナの声と同時に、マーガ建造施設の壁になるだろう岩のブロックの上に突っ立ていた紫オッサンを一人気絶させる。
ミーナのエナジーハンドは綺麗にそのオッサンの顎を45度の角度で殴り、その場に膝を突かせ倒れこむ。
「おお! 良い操作だ! その調子でガンガン気絶させてくれ!」
「任せといてよ! ほれ!」
またしてもミーナの気の抜けた声と同時に、紫オッサンの一人が気絶する。
何故気絶したか分かるのかと言うと、マジックセンサーを持ってきているからである。
マジックセンサーで、魔結晶の色を確認出来る事は以前にも説明したと思う。
これは今日聞いた話しなんだが、マルナ曰く「死んだ人はそれに映らなくなるのよね」だそうなので、マジックセンサーの反応が消えないって事は、生きていると判断して良いらしい。
俺の予想だが、この機能を使って、以前あった軍団ランク7のモンスター戦で、生き残った兵士や冒険者の数を正確に見抜いていたのではないのかと思う。
あながち間違ってはいないだろうから、今度確認してみよう。
あ、また一人気絶したな。
俺もエナジーハンドで気絶させまくるかね。
俺とミーナが暴れまわる事約5分…。辺りの紫装束はほぼ壊滅状態となる。
二人で気絶させまくっていたら、黒の体表で海坊主のデモニックのオッサンが襲い掛かってきた。
むむ! 案外素早い動きだな…。
俺はミーナをお姫様抱っこしながら、左右に回避運動しつつ、跳躍から短剣2本を振り下ろすデモニックのオッサンの攻撃を回避する。
しかもそのオッサンは、ミーナの発したエナジーハンドパンチを避けている。
良く訓練されているのだろう、動きに無駄が無い…。いや、隙が無いと言った方が正しいだろう。
仕方が無いので、俺もエナジーハンドパンチを威力弱めで、速度は速めで繰り出す。すると…。顎を穿つ寸でのギリギリで回避されてしまった。
むぅ…。こうなったら物量作戦だな。
俺はお姫様抱っこ状態のミーナに耳打ちし、俺とミーナの合計8個のエナジーハンドパンチを時間差で繰り出す事にした。
先ずは俺のエナジーハンドを一挙に4個差し向ける。
驚いた事に、デモニックのオッサンは短剣を器用に顎の付近で交差させ、エナジーハンドパンチを防ぐ。スゲーな!
その隙に、ミーナの青いエナジーハンドがデモニックのオッサンの鳩尾を狙う。
狙いは良かったが、デモニックのオッサンは顎の付近に有った左手の短剣を一瞬で腹の付近まで移動させていた。
俺のエナジーハンドパンチをガードしつつ、体を器用に半回転させ、ミーナのエナジーハンドパンチを回避している。
ミーナをお姫様抱っこした俺と、そのデモニックのオッサンとの距離は約4メートル。その距離で、しばらく同じ攻防が続いていたが…。
「おい坊主! 拙者の話しを聞かねーか?」
何だって? 敵と話してどうなると言うのか? とも思ったが、この状況から巻き返すのは至難の業だろう。
「話しって何だよ? 降参してくれるのか?」
「早くしないと、わたしの水属性の攻撃魔法で飛んでいってもらうからね!」
デモニックのオッサンに右手の人差し指を向けながら、ミーナも脅している。
「待て待て! 今から全員を大人しくさせるからよ!」
デモニックのオッサンがそう言ったので、俺とミーナは一旦エナジーハンドを魔粒子に還元する。
その直後、デモニックのオッサンは武器を腰の鞘に素早く仕舞い、両手を使って口笛を吹く。
この辺り一帯に口笛の音が響き渡る。すると、まだ気絶していない、紫装束の連中がピタリと動きを止める。
と言う事は、この黒肌で、額に紫の魔結晶を持つデモニックのオッサンがリーダーって事なのかな? 聞いてみるか。
「あんたがリーダーか?」
俺が話しかけると、そのデモニックのオッサンがゆっくり俺に近付いてきながら口を開く。
「おう。拙者がこいつ等を仕切ってる。名をソーンと言う。戦闘は止めだ、拙者の話しを聞け」
そこまで言う頃には、俺の目の前まで歩いてきていた。
俺の左隣で。シュタ! っと物音がしたので見てみると、イシュナさんが鞘に納めてある短剣に手を掛けていた。
「貴様! どう言うつもりだ!」
イシュナさんがそう言うと、ソーンと名乗ったデモニックのオッサンが両手で待ったの体勢を作る。
「まぁ待て、戦闘は終いだ。少しで良いから拙者の話しを聞け」
「まぁまぁ。ここは彼の話しを聞いてみても良いのでは?」
「分かった…」
イシュナさんも警戒態勢を解き、話しを聞く姿勢となる。
ミーナは? と思い、視線を落としてみると…。
なんと言う事か! この非常時にも関わらず眠っているではないか! 我が妹ながら、とても肝が据わってらっしゃる…。
寝てしまって少し体重が掛かるが、身体強化を軽めに掛けているので、それ程重さは感じない。
今もスヤスヤと眠っている。
取り敢えず、話しを聞こう。
「んで、ソーンだっけ? 妹が眠ってしまったから、なるべく大声出さないでくれよ?」
「心得た、では話そう…」
そして、ソーンの話が始まった。
体感で10分程話しを聞いていた。
やはり、ダーメル王国の隠密部隊であった模様。彼の話を聞くと、ダーメルの重鎮達は愚か者ばかりのようだった。
ソーンはダーメル王国に雇われていると言っていたが、正直もう解約したいと思っているらしく、今日の戦闘で死んだ事にして欲しいそうだ。
まぁ、話しを聞く限りでは、俺も同じ事をしたと思える程の内容だった。
「――と言うわけで、拙者は此処で戦死した事にする。そこでだ…。イシュナと言ったか?」
ソーンはイシュナさんに、自分の短剣の片方を差し出している。
イシュナは訝しげな顔をしている。
「何だ? これをどうしろと言うのだ?」
「お前にやる。これを証拠に、拙者を討ち取ったと報告すれば良い。報告したら、その武器は好きに使いな」
ソーンの言葉を受け、イシュナさんはその短剣を左手で受け取る。
「良いだろう」
イシュナさんはそう言って、受け取った短剣を懐に仕舞い込む。
黒い忍者装束から、はみ出そうな巨乳に挟み込むようにしている。ズルイっすよ…?
「この片方は…。おい! 誰かこれを持って行け!」
ソーンはその言葉の後に、もう片方の短剣を部下に投げ渡す。
部下の紫装束の人がそれをキャッチし、一度頷くと、その場から素早く撤退を始めた。
ところで、ソーンはこの後どうするんだ? 聞いてみるか…。
「んで、ソーンはどうするんだ?」
「拙者は修行をやり直す。これから南大陸まで戻るつもりだ」
「ま、元気でやれよ」
「坊主に言われるまでも無い…。そうだな、名を聞いておこう」
「俺はダイン・リヴォースだ」
「そうか…。しかと心に刻んでおこう。では達者でな!」
ソーンがそこまで言った瞬間、彼は素早く去っていった。
この後、俺はイシュナさんにお願いして、この辺り一帯に気絶している人達を縛り上げてもらい、国王陛下に献上するように伝えた。
作業を行ってくれた、ルキリア王国の隠密部隊の皆さんに敬礼!
時間的に、俺も寝なくてはならないので、イシュナさんに挨拶し、穴に向かって走る。
穴に入る前に、丁度良さそうな岩ブロックをエナジーハンドで持ってきて、俺が穴に入ると同時に入り口を塞いだ。
その後は、穴を走り抜けるのだが、暗くて良く見えないので、火の属性魔法を超弱めに発動させ、俺の真正面を移動させるようにコントロールする。
明かりが有る事で視界が開けたので、俺は一気にトンネルを駆ける。
約3分程掛けてトンネルを抜け、我が家の中庭に到着する。
その後はエナジーフロートを使って、音も無くミーナを彼女の自室に運び、ベットに寝かせる。
その後は、俺も自室に戻り素早く就寝した。
気になったので時間を確認してみると、深夜0時過ぎだったのでチョット焦った。
明日起きれるのかな? と思ったが、翌日はどうにか目覚める事が出来た。
何故か、体内魔力が完全回復していないのが気になったが…。まぁ、今日ガッツリ寝れば済む事だろうと思い、特には気にしていなかった。
何か忘れているような気がするが…? 気のせいだろう、うん。
イシュナの感想をどこかで挟みたいのですが…。
余裕があったらどこかで挟みます。多分…。




