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第八話 南西目指して掘り進め!

 新共暦1214 地の月2-6日目 午後8時頃…。


 ここは、ルキリアの街の南西部にある一般層の広場に近い、とある一軒の家のとある部屋である。

 その家屋はグルーノ家の物である。そこの部屋では、現在2名の少年と少女が話をしている。

 少年の名前はフィリップ・グルーノ、10歳。少女の名前はリディス・グルーノ、11歳。

 そしてこの部屋の主は、姉であるリディスの自室である。

 何故この二人が居るのか? それはフィリップがとある気配を感じた事を、リディスに聞いて貰いに来ているのだ。


「お姉ちゃん、ダインさんの家に行った時、変な気配がしたんだけど…。お姉ちゃんは感じた?」


 だがしかし、リディスはそんな気配を感じをっていない。


「う~ん。あたしはそんな気配は感じ取っていないけど…。心配ならダイン君に知らせる?」

「いや、ダインさんを困らせたくないし。感じ取っていないなら別に良いんだ」

「そうだね~。ダイン君も色々忙しくなりそうだしね」

「うん。それじゃ僕は部屋に戻るね。おやすみ、お姉ちゃん」

「おやすみ、フィリップ」


 フィリップは、リディスの自室から出ながらも考えている。何故気配を感じ取ることが出来たのか? 自分でも不思議な気分になっている。

 フィリップ本人は気が付いていないが、彼は既に剣豪の域に達する程の腕前を備えている。そして…。彼が目覚めたのは〔大気振動察知〕である。

 その技は本来、ある一定の武技に達した者の中でも極稀に習得出来る奥義の一つでもある。

 彼の剣の師匠でもあるマルナも習得していて、そのマルナの師匠でもある祖父も習得している。

 この技の特徴は、大気の魔粒子の僅かな振動をキャッチし、目線や仕草を感知できる能力の事である。フィリップが感じ取ったのはイシュナの目線である。

 目線は感じたが、襲ってくる様子が無かったので、フィリップも然程気にしていなかった。

 この事は忘れよう…。フィリップはそう思い、明日の学院の授業に向けて予習を開始する。


 リディスは迷っていた。

 この事をダインに知らせるべきだろうかと…。

 今日のパーティーで聞いた、マーガの建造施設建築の話し…。もしかすると何か関係が有るのかもしれない。


(もし関係があるなら、ダイン君に知らせるべきだよね!)


 彼女はそう考え、明日の授業に向けて予習を開始するのだった。


 ■■■


 無事におかえりパーティーから5日が経過した。

 学院の授業は相変わらず暇で、俺は空を見たりしながらテキトーに授業を受けていた。

 ま、何時ものレポートとかはさっさと終わらせたし、戦闘訓練の授業は素振りばかりだ。俺達のレベルでは退屈してしまう。

 さて、そんな愚痴は置いておこう。

 そう言えば、リディスが変な事言っていたが、俺は気にしないで良いと伝えた。

 ライアスとマルナも似たような事を言っていたが、この家に忍び込むような奴は愚か者である。

 今俺は、国王陛下の使者と話しをしている。

 使者の方のお名前は、ミレイユ・パナンタさん。

 金髪のセミロングで、癖の有る天然パーマである。目は垂れ目でちょっと可愛い。瞳の色は緑である。

 今は彼女と、我が家の居間の椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合って話し合いをしている。

 その席で、どういった施設にするのか? 面積はどの程度必要になるのか? どこに建設するのか? 等だ。

 建設場所は決めてあるので、その話しすんなり終わった。

 なんでも、国王陛下が好きな場所に作って良いと言ったそうだ。それは嬉しいね!

 次に問題となるのが面積だ。

 1体、15~20メートル程の高さになるマーガを開発するには、それなりに広大な敷地が必要になる。

 個人的には、縦横1キロ程欲しいが…。ここは少し遠慮して、縦横300メートル程の敷地にししもらおう。


「次に敷地の面積ですが、縦横300メートル程欲しいのですが…。如何でしょうか?」

「大丈夫ですよ。国王陛下からは、どんな広さだろうと、大きさだろうと、許可は出すそうです」


 マジで~! やったね!

 だがしかし、ここで調子に乗ってはいけない。

 まだ完成しても無ければ、量産している訳でも無い。完成し、量産体制が整ってから増設してもらう形をとった方が懸命だろう。


「では先ずその広さでお願いします。量産体制が整ったら増設する、という形をとって頂きたいのですが?」

「了解しました。その旨を国王陛下にお伝えいたしましょう」


 よしよし、ならば次はどんな施設にするかだな。

 実は既に設計図を書き上げているので、それを使者の方にお見せしよう。

 どんな施設か? と言うと…。

 マーガの建造施設であるので、鍛冶場も取り付けるのは勿論の事。後は広い組み上げ場、作業員の休憩所、俺の資料置き場だ!

 あれ? 作業員はどうすんだ?


「あの~。作業員とかはどうするんでしょうか?」

「作業員はこちらで手配致しますので、ご安心ください」


 良かった良かった…。その事は全く考えていなかったからな。

 だけど…。一体どんな人達を手配するのだろうか? いや、今は考えるのはよそう。

 俺はこの後自室に戻り、洋紙に書いた建造施設の設計図を持ってきて、テーブルに広げて見せた。洋紙の枚数は4枚だ。

 その4枚の洋紙を、ミレイユさんは食い入るように見つめている。

 一通り確かめ終わると、ミレイユさんは一度頷いた。


「ふむふむ。この内容でしたら、早ければ1年程で完成すると思いますよ。後…。この穴は一体何でしょうか?」


 あぁ、やっぱりソコを突っ込む訳ね。

 そりゃ、突っ込みたくもなろう。


「はい。その穴はこの家の中庭に通じています。秘密の抜け穴と思っておいてください」

「はぁ…? 秘密の抜け穴ですか?」


 ミレイユさんは訝しげな表情をしてそう言った。

 まぁ、今は取り敢えず建設してもらう事を優先してもらいので、誤魔化しておこう。


「その通りです。深く考えないでください」

「えぇ…。畏まりました。では、この設計図はこちらで預からせて頂きます。建設開始は来週の頭からになります」

「はい、宜しくお願いします!」


 その後は、リヴォース家の面々でミレイユさんを恭しく見送った。

 さてさて、早速穴掘り工事を始めますかね。

 現在の時刻は午後2時である。

 この日の為に! 俺の友達メンバー全員で、性質変化の魔法の練習を各家庭で行っていたのだ!

 何故、性質変化の魔法なのか?

 性質変化の魔法は、読んで字の如く、行使された物体の性質を変化させる能力が有る。

 この事は以前にも説明したが、黄色の魔結晶を持つ者にだけ、音を操る事が出来る事を発見した。

 俺にも出来るかな? と思って試してみたが全く出来なかった。

 音を操るって事はどういう事なのか?

 それは…。ソナーが使えると言う事である。

 ソナーを用いて、掘ってはいけない場所を見つけると言う算段である。

 このソナーを行使するのは勿論エドガーである。今にして思えば、仲間に引き込んで正解だったと安堵している。

 仲良くしてくれている、ミーナとアイシャに感謝だな。

 では、地面はどうやって掘っていくのか?

 その答えは、性質変化の魔法にて、地面を軟化させる事で解決する。

 穴掘り道具に関しては、今朝ダストンが持ってきてくれた。

 穴を掘るのは俺とダストン、ソナーを行使するのはエドガー、他のメンバーで地面を軟化させる。

 この役割分担で、今日中に一気に掘り進めるのだ!

 何故俺が地面を軟化させないのかって? 俺が地面を軟化させると…。ほら、解るだろ?

 今現在、皆は訓練室で遊んでもらっているので、早速呼びに行く。


「父さん、母さん。俺達は今から穴掘りするね。時計は持っていくから、夕食の時間には必ず帰るよ」

「ええ、頑張って立派な穴を掘るのよ!」

「くれぐれも下水に穴を開けるなよ?」

「うん! それじゃ、行ってきます!」


 マルナとライアスから、それぞれに言葉を頂戴し、俺は訓練施設へと向かう。


 訓練施設に入ると…。皆は身体強化を使って鬼ごっこをやっていた。

 凄まじい速度で走るダストン、分身しているように見えるマーク、訓練施設内を縦横無尽に飛び回るシンシア…。その他色々…。

 これって鬼ごっこなの? と突っ込みを入れたくなるが、今は穴掘りをしなくてはならないので、皆を呼ぶ事にした。


「お~い、話し合いが終わったから、穴掘りに行くぞ~!」


 俺が皆を呼び止めると、皆ピタリとその場で止まり、俺の方に走ってきた。

 皆が集まったのを確認し、俺は作業の最終確認を始める。

 確認が終わると、皆一様に頷いてくれた。

 その後は皆で中庭に出て作業を開始する。

 さて…。先ずはエドガーのソナーだな。

 エドガーは、俺が地面に書いた矢印の辺りでソナーの魔法を行使する。

 すると…。


「ダインさん! このまま南西に向かって、20度の角度で掘り進めるっす!」

「了解だ! 先ずは…。ミーナ、お願い出来るか?」

「任せといて! 兄さん!」


 ミーナは右手を挙げて、自信満々の女の子のポーズをする。

 妹は矢印の書いてある地面に向かい、性質変化の魔法を行使する。

 すると、地面が段々と軟化し始める。

 軟化した地面を、俺とダストンで掘り進めて行く。

 あー! 出てきた土砂をどうするか考えてなかった…。どうしよう?


「ダ、ダストン! 少し待ってくれ! 出て来た土砂はどうする?」

「う~ん…。どうしようか?」


 俺達は一旦作業を中断せざるを得ない状況になってしまった…。

 ダストンと一緒に悩んでいると、リディスが挙手して近付いてきた。


「ねぇ。訓練施設の中に入れていくのはどうかな?」


 うおー! その策が有ったな!

 良し! こう言う力仕事はマークに任せよう! 単純作業だ、失敗はすまい。


「名案だリディス! それで行こう! マーク、出て来た土砂を訓練施設の中に入れまくってくれ!」

「おう! 任せとけ!」


 こうして俺達の穴掘り作業は完全に始まった。


 俺とダストンでガンガン掘り進める。

 穴の直径は2メートルにしてある。この大きさは、訓練施設の入り口と同じサイズなので、中庭を圧迫しない筈だ。

 ライアスとマルナの許可も取ってある。

 俺とダストンの少し後ろを、ミーナが付いて来て、その直ぐ後ろをエドガーが付いて来る。

 ミーナの体内魔力は凄まじい量が有るが、やはり限界値も存在する。

 エドガーの後ろには、魔道具の時計を持ったシンシアが付いて来て、その後ろにリディス、フィリップ、アイシャ、ゴードンが付いて来る。

 リディスの提案で、ゴードンには土砂を運ぶ役になってもらっている。

 今もせっせと土砂を外に運んでいる。


「マーク先輩の為に頑張るのですぅ! デモニックの明るい未来の為にぃ!」


 超頑張れゴードン! 終わったら労ってやろう。

 出て来た土砂をどうやって地上に持っていくのか?

 それにも性質変化の魔法を行使する。

 土砂に対して性質変化の魔法を使って硬化させ、それをゴードンが身体強化を使って押して持っていく事に今なった。

 土砂を硬化させるのは、フィリップとアイシャである。

 これもリディスの案である。しかし…。リディスの頭の回転の速さにはビックリするな…。

 一応保険として、俺の対物理障壁と対攻撃魔法障壁を全員に展開させてある。

 しばらく掘り進むと…。


「ダインさん! そこで止まるっす! 今度は角度を20度上向きに修正っす!」

「聞いたかダストン! 角度修正だ!」

「良いよ! 20度上向きだね!」


 俺とダストンはお互いに頷き合い、角度を修正する。

 丁度、地上と平行になるような向きになっている。

 そして更に進んでいくと…。


「ふぅぃ~。兄さん、体内魔力が10分の1位に減っちゃったみたい…」


 ミーナの体内魔力が減ったようだったので、リディスとバトンタッチする。

 リディスはやる気満々の表情で、性質変化の魔法を行使する。


「今度はあたしだね! ミーナちゃん、まだ歩ける?」

「うん! 歩くのは平気だよ!」


 リディスとミーナはお互いにニコニコしながら頷き合う。

 それからまた更に進んでいくと…。


「ダインさん! 今度はそのまま上向きに20度修正っす! そしたら地上に出るっす!」


 どうやらそろそろ地上に出るようである。

 あ、時間はどうなってるのかな?


「修正了解! シンシア! 時間はどうだ?」

「えっとね~。まだ4時過ぎだよ。もう直ぐ地上なら平気なんじゃない?」


 4時過ぎか…。少し急ごう!


「了解! ダストン! リディス! 一気に行くぞ!」

『了解!』


 二人の力強い返事が返って来る。

 良し! このまま一気に掘り進む!

 ところで、エドガーは平気なのか? と思ってチラ見してみたが、やる気満々の表情だった。

 ソナーの消費体内魔力は少ないのかな? 後で聞いてみよう、そうしよう。

 俺達は地上に向かって掘り進む事しばし…。

 そして…。ついに地上に出た!


 外に出ると、景色は少し赤く染まっていた。

 本来俺達の歳の子供は、外壁の外には無断で出てはいけないが、マーガの建造施設の関係者って事で許してもらおう。もしばれたね!

 外の景色は非常に綺麗だった。

 マークにも見せたかったので、俺は身体強化の魔法を行使して、来た道を一気に戻る。

 地上に出た皆には少し待ってもらうように言ってある。

 さて、マークはきちんと仕事をしたのだろうか?

 帰りは超特急で帰ったので、時間にすれば1分以内で辿り着ける。これも、俺の魔結晶のお陰だ。今世に感謝したい。

 戻ってみると、マークはきちんと仕事をしてくれていた。

 押し出された土砂を、更に二分割にし、訓練施設の奥の方から綺麗に並べて置いてあった。

 訓練施設の8割は土砂のブロックで埋まってしまったが、今度皆で穴を抜けた先の地上に運び出そうと思う。


「マーク、お疲れ。一緒に来いよ、外の景色を見に行くぞ」

「おう! 大して疲れちゃいないぜ。身体強化でスパっと行くんだろ?」

「ああ。じゃ、行くぞ!」

「応よ!」


 俺とマークは身体強化の魔法を行使し、掘った穴を高速移動する。

 マークはデモニックだ、身体強化を使った時の速度は凄まじい。

 今回も1分ちょっとで地上に出れた。

 地上に出ると、皆が笑顔で待っていてくれた。

 その後俺達10人の少年少女は、少し決まり事を破ったものの、一生忘れられない夕日を眺める。

 皆口々に、色々感想を言ってた。

 俺はふと、シンシアの持っていた時計を見ると、5時を過ぎていたので、皆を急ぎ家に帰す事にした。

 穴が開きっ放しなのは非常に問題があるので、まだ体内魔力の残っていると言っていたエドガーに

 少し固めの蓋状の土砂を作ってもらい、穴の上に被せて塞ぐ事にした。その後は大急ぎで我が家に向かう。

 エドガーは身体強化を使えないので、俺が背中に負ぶって連れて帰った。

 初等部の2人は、ライアスが送り届けると言っていたので任せることにした。

 中等部メンバーはそれぞれに帰宅していった。

 こうして、俺の家の中庭に、新たな穴が完成したのだった。

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