第七話 誰の気配?
さて、パーティーが始まった。
今年も、俺の特性カレーが有る。
一番最初にがっつくのは…。やはりマークであった。
その後に、同じデモニックであるゴードンががっつく。
「うひょーー!! 絶品でありますぅ!!」
語尾を上げながら、俺のカレーを美味しそうに食べていた。
他のメンバーにも、相変わらず好評のようだった。
ふむ、デモニックの舌には非常に相性が良いのかもしれないな。
お? 今度はエドガーが食べ始めた。
「美味いっす! 最高っす!」
うむ、喜んで貰えてなによりだ。
万能料理カレー…。俺も前世では良く食べていた。
米が不味くても、カレーの味でどうにか誤魔化す事が出来る。ナンも然りだ。
前世では、カレールーをブレンドしたり、水の量を調整したりで、色々な状態のカレーを作り出していた。
だがやはり、スパイスから作り出すのが一番である。
好みのスパイスを選び抜き、野菜と肉の出汁を使いゆっくりと煮込む。
そうする事で、自分好みのカレーを作る事ができるのだ。
俺は今、そんな拘りを考えていた。
ふむ、女性陣はやはりナンが好みようだな。俺は米派だがね。
マルナの作るナンは絶品である、そのままでも十分に美味しく頂ける。
男性陣はどっちでもイケルようだ、マークはナンを片手に、米を頬張りながらカレーを楽しんでいる。
なんと欲張りな! と思ったが、その隣でダストンも同じ事をしていた。
そんな楽しい光景を見ながら俺もカレーを食べる事にした。
それから少し時間が経つと、ディクス爺ちゃんが現れた。
「フハハハ! ダインよ! 昨日は王城に来ていたそうじゃな! 国王陛下は素晴らしい方じゃったじゃろ!」
「うん。お陰で、紋記号魔法を使った兵器の開発施設の建造をしてくれるって約束をしてもらったんだ」
「ほほー! それは楽しみじゃな! フハハハ!」
爺ちゃん…。フハハハ! は悪役みたいです…。
いや、そんな事より。なんで今日タイミング良く来たんだろ?
あれ? なんで皆そんな目で俺をみるの?
俺が皆に振り返ると、皆の目が点になっていた。
気持ちは分かるが、そんなに固まらないでも良いんだけどな。
どちらにせよ、この件は皆にも話す事だったので、この場でその話をしようと決めた。
俺の話を聞くなり、皆はビックリしていた。まぁ、当然だろうな。
「と言う事は、さっき中庭で見かけた、南西方角にある矢印はその為?」
リディスが質問してきた。
良く見つけたな、端っこの方に小さく書いてあっただけなのに。
「そうだよ、あの方角に穴を掘って行き、俺達も見学出来るようにしようと思ってる」
そう、俺も含め、友達メンバーは最高でも11歳だ。まだ勝手に街の外には行けないので、こっそり出没するような形式にしようと考えている。
国王陛下の使いの人が来た時に、この事は説明しようと思う。俺がある程度監督しないと、どんな施設を建造すれば良いか解らないだろうからな。
俺がこの説明を終える頃、カディウスさんがやってきた。
「ほぉ。今年も全員揃っているのか」
「そうですよ。あ、カディウスさん、後で話が有るので聞いてください」
「うむ、分かった」
その後は、カディウスさんも交えて大いに楽しんだ。
時間も昼の3時を過ぎる頃、今回のパーティーはお開きをなる。
俺達リヴォース家の面々は、皆を恭しく見送る。
見送った後、俺の自室にて、カディウスさんにExEeの話をする事にした。
ミーナはライアスと武器の稽古をすると言っていたので、現在は中庭に居る。
さて、説明を始めるか。
「魔粒子を動作エネルギーに変換する、紋記号魔法の正式名称を考えました」
「うむ。なんと名付けたのだ?」
「起動炉・魔粒子動力変換装置ExEeと名付けました」
「ほぉ! それは良い名だな。しかし、装置と名が付くのだから。何かしらの形をしているのではないか?」
俺は一度頷き、どういった形にするのかを、洋紙に図形を書いていく。
その形は、手書きなので真丸とは行かないが、球状を描き、その中に紋記号円が全て納まるように書き終える。
紋記号円の順番、接合紋記号の場所、発動紋記号の設置場所等を詳細に書き表した、1枚の洋紙をカディウスさんに手渡す。
少し時間が掛かったが、その間もカディウスさんはジッと待っていてくれた。有難うございます!
カディウスさんは、その1枚の洋紙を食い入るように見つめている。
見つめている間にExEeの説明を少ししよう。
完成品の大きさは、直径50センチ程の大きさの球体になる。
その球体内部から生成された動作エネルギーを、鉄製の管を通して各部に送る。送られた先にある、動作エネルギー受諾弁にて受け取る。
動作エネルギーを受け取った受諾弁は、扇風機のように回転を始め、プロペラを回す仕組みである。
個人的にはもっと改良を加えて、動作エネルギー自体を、仮の体内魔力みたいに出来ないか? と考えている。
仮の体内魔力が出来上がるならば、その力を紋記号魔法で一定の指向性を持たせ、マーガの間接部分を動かせないか? とも考えている。
どちらにしても、まだ机上の空論に過ぎないので、今後の研究次第となるのが現実である。
お、カディウスさんが頷いてくれた!
「どうですか? まだ改良の余地は有りますが、今までの様に、紋記号円を大きく広げる必要は無くなると思います」
「うむ! そのようだな。良し、ExEeは私が完成させよう」
「はい! 吉報を待っております!」
俺とカディウスさんは、この後も少し会話をした。
会話に夢中になっていると、何時も間にか外は暗くなっていた。
カディウスさんは、ExEeを早速試作したいと言っていたので、リヴォース家の面々で見送った。
その日の夜。
ライアスとマルナが変な事を言っていた。
「ダイン、なぜだか知らないが…。誰かに見張られているような気がしないか?」
「そうよね~。なんかこう…。チラっと目線を感じるような…。感じないような?」
俺には何も感じられなかったけどな?
もしかしたら、国王陛下の差し金か? それとも早速マーガの情報が漏れたのか?
いや…。流石に考えすぎだな。
「気にしすぎじゃないのかな? 俺は何も感じないけど?」
ライアスとマルナは、二人で顔を合わせながら不思議そうな顔をしていた。
俺は気にしないで良いと思うけどな。
おっと、もう寝る時間だな。
明日からまた学院が始まるからな、さっさと寝よう。
■■■
新共暦1214年 地の月2-6日目 午前7時頃…
本日より、正式な護衛任務に就く事になった、イシュナ・スダルはリヴォース家の近くの路地裏に潜んでいた。
隠密としての訓練から、完全に気配を消す術を学んでいる彼女を見つけれれる者は居ない。
だが、時として。良く訓練された兵士や冒険者などの戦闘職に就いている者は、この隠密術を見破る事が出来る。
それも…。相当に訓練されていなければならないが…。
イシュナは一瞬目線を感じ取っていた。
(ん!? おかしい…。何故気配を察知できる?)
ダイン・リヴォースの家族構成は把握済みである。
ルキリア王国軍・突撃隊隊長、ライアス・リヴォースはダインの父。
元ランク7の冒険者、マルナ・リヴォースはダインの母。
ルキリア学術学院中等部2年、ダイン・リヴォースは警護対象。
ルキリア学術学院初等部2年、ミルフィーナ・リヴォースはダインの妹。
この4名の中で、もし気配を察知出来るとすれば、ライアスしか居ないが…。
今彼女が感じた目線は2つ有った。
もしや! と彼女は思い、辺りの気配を探ってみるが。怪しい動きをする者は居ない。
ならば一体誰が? 彼女は疑問に思いつつも、ダインの警護を続行する。
しばらく時間が経つと、良い匂いが漂って来る。
携帯食料は持ってきているが、独特のスパイシーな香りが、彼女の食欲を刺激する。
(くっ! ワタシとした事が…。匂いに負けてしまうとは…!)
彼女は我慢の限界に達してしまい、携帯食料を一口齧る。
なんとみっともない! 自分をそんな風に思ってしまう。
だが、今まで嗅いだ事の無い、料理の匂いは一体なの料理なのだろうか?
そんな任務以外の事を少し考えてしまう。
匂いの正体は、ダインの作ったカレーの匂いである。
この世界の人々は、まだカレーと言う食べ物を知らない。イシュナもその一人である。
その匂いが漂ってきてから少しすると、ダインの友人であろう者が大勢現れる。
その時だ、またしても視線を感じてしまう。彼女はハッとする。
何故、初日の今日に限って、こんなにも視線を感じるのか? 自分の隠密能力を疑ってしまう。
彼女は知らないが、その気配を察知出来る程の者は、ダインの周りには3名居る。
ライアス、マルナ、そしてフィリップである。
ライアスとマルナはご想像いただけるだろうが、何故フィリップなのか?
それは、フィリップの剣士としての腕前は、既にランク8の冒険者並みに上達している。
冒険者のランクが8以上の者は、非常に優れた気配察知能力を獲得出来る事がある。
フィリップは、本人が気付かない内に、その気配察知能力を習得してしまっている。
マルナによる手解きと、中間達との激しい戦闘訓練から得られたものである。
だがしかし、彼女がそんな事情を知らない。
仮に知っているとしても、その3名から完全に気配を察知されないようにするには、更なる修行が必要になる。
今の彼女には、見つからないように祈る事しか出来ない。
(我らが発祥の地、ズーラムの霊峰ズノスの神よ! どうかワタシを見守って下さい…!)
ズーラムとは、この世界ティーズの北大陸の名称であり、ビーステイル発祥の地とされている。
その大陸の中央には、標高1万メートルを超える高い山が在る。
その名を――霊峰ズノス。
その霊峰の頂には、謎の古代遺跡が残るとされている。
だが、その古代遺跡を調査出来る者は、今現在のティーズには存在しない。
ビーステイル達は、その古代遺跡に神が住んでいると信じ、信仰している。
彼女も、ルキリア王城に居る他のビーステイルから、その話を聞かされた時から信仰している。
彼女はまだ行った事も見た事も無い。だが、何時しかその霊峰を一目見たいと思っている。
イシュナがそんな事を考えていると、今まであった多くの気配がいきなり何処かに消えていった。
(!? 一体どうなっている?)
彼女は知らない、リヴォース家の中庭の地下には、紋記号魔法で作られた特殊な空間がある事を。
イシュナは居ても立っても居られなくなり、場所をリヴォース家の屋根の上に移す。
黙々と煙を上げる煙突の近くには、彼女が身を潜めるのに丁度良い空間が開いている。
そこに身を隠し、辺りをよく見てみると、中庭の端に1つだけ、明らかに色の違う地面が見える。
彼女は身を潜め、その地面を観察する事しばし…。
ダインと友人の女の子と思しき2名が、その地面を蓋のように開き、地面の中に入って行った。
イシュナは声が出そうになるのを気合と根性で押し殺し、その地面の監視を続ける。
そして少し待つと、再び地面が開かれ、中から11名の人物が出てくる。
(何故あんなに人が大勢入れるのだ!? 一体この家はどうなっている!?)
彼女の疑問ももっとである。
自宅の地下に、紋記号魔法の空間を持つ家庭など、世界中を探したとしてもリヴォース家唯一つである。
この時に、イシュナはまたしても視線を感じてしまう。
今は完全に死角となるような場所に居る筈であるのに、何故こうも簡単に見つかってしまうのだろうかと…。
彼女はもう考えるのを止め、リヴォース家の警護を続行する事にしたのである。
1日中警護をし、夜となる頃。
彼女は一旦、報告の為にルキリア王城へと帰還する。
王城へ帰還し、国王ガルドスが笛を鳴らすまで、天井裏にてジッと待つ。
ガルドスが笛を鳴らす音が聞こえると、イシュナはガルドスの目の前に跪き、先ずはガルドスの言葉を待つ事になる。
「戻っていたようだな、イシュナよ。本日の報告を聞こう」
イシュナは跪いたまま、この日の出来事を全て報告する。
嘘偽り無く、全てを話す。
「――以上が、本日の報告となります…」
イシュナは顔を下げたままで、ガルドスの顔を見る事は出来ない。
だが、ガルドスの顔には笑みが浮かんでいた。
ガルドスはイシュナに、顔を上げるよう命令する。
「うむ! その報告に、嘘偽りは無いのであるな?」
「はい! 全て真実に御座います!」
「ではイシュナよ、明日からの警護は、リヴォース家が寝静まってからにしてもらおう。その方が都合が良いであろう?」
イシュナは思考する。
確かに都合が良い…。だが、昼の間はどうすれば良いのか? 一体誰が警護を担当するのだろうか?
そんな疑問が頭を過ぎるが、今はその命令を受ける他無いのも事実である。
「御意! 明日より、深夜のみ警護を致します!」
「うむ! 今日はもう下がって良いぞ」
「は!!」
ガルドスがそう命じると、イシュナは一瞬で天井裏に移動する。
ビーステイルの身体能力の成せる業である。
ガルドスは今心の中で笑っている。
実は今日、王国軍総司令ディクス・グルガンと話をしたのだ。
彼はリヴォース家と深い縁がある。
今日も、ディクスはリヴォース家に行って、色々と楽しい会話や、美味しい料理を沢山食べてきたと言っていた。
とりわけ、養子にしていたライアスの息子、ダインの話を自慢げにしていたのが印象的だった。
ダインはある種の才能の塊であると話してくれた。
魔法の腕は勿論の事、今ルキリアで大流行の魔道具の設計もしていると聞いた。
ガルドスは今、非常に楽しくて仕方が無い。
あの少年はこれから先、一体何を成すのであろうか? そう思えば思う程、笑いが込み上げて来そうになる。
それはそうと、彼の周りの友人達は、皆強者ばかりの様でもある。
ならば、昼の警護は逆に彼らを刺激してしまう事になるであろう。
ガルドスはそう考え、イシュナに先程の命令を下したのだった。




