第四話 草原の夜
俺達7人は妖精の住処から出て、少しばかりボーっとしていた。
またしても時間が経っている様子は無く、あの空間の不思議が気になる。
それにしても、妖精結晶を7人分貰えるとは思わなかったな。思わぬ報酬である。
俺は皆を再起動させ、妖精結晶を懐やポーチに仕舞うよう促す。皆は妖精結晶を速やかに仕舞い込んでいた。
さて、取り敢えず時間がどうなったのかを確かめる為、ゴブリンの集団と戦った場所まで移動する事にした。
その道すがら、老人妖精とどんな会話をしたのか皆に聞いてみた。
「皆はどんな事聞いてたんだ?」
すると、皆一斉に話し始めたので、一人ずつゆっくり聞く事にした。
先ずはリディスから聞いてみた。
「あたしはね、えっと…。恥ずかしいから後で良いよ…」
顔を真っ赤にして先頭を歩き始めた。
一体何を聞いたのか? 非常に気になるが、今は触れない方が得策だろう。
続いてマークに聞いてみた。
「俺はな、お前より強くなれるか聞いてみたぜ! そしらよ、強くなれるって言うじゃねーか!」
「おお~! それは良かったなマーク!」
マークは非常に嬉しそうにしていた。
魔法有りで聞いたのか? 魔法無しで聞いたのか? 少し気になるが、満足そうにしているのでこれ以上は触れまい。
次はシンシアに聞いてみた。
「わたしはエルフの里に行ってみたいから、今の里の事を聞いてみたよ」
「へぇ~、なんて言ってたんだ?」
「う~ん…。今は何だか内輪揉めしてるみたいだから、後4~5年は待った方が良いんだって」
と言う事らしい。
エルフの里の内輪揉めか…。キナ臭いな…。
カディウスさんに知らせた方が良いのだろうか?
次はダストンに聞いてみた。
「僕は鍛冶の事を聞いてたよ。ダイン君の設計図を頭でイメージしろ! って言われたからやってみたんだ。そしたら、是非成功させなさい! って言われたんだよ」
「そうか、なら頑張らないとな!」
ダストンは非常に嬉しそうに頷いていた。
マーガも飛行船もそうだが、俺の設計図ってそんなに完成させなきゃいけないものなのか? 非常に疑問である。
武器に関ししては完全に趣味だが、マーガと飛行船は、この世界の為に設計しているからな。
老人妖精も何か思う所があるんだろう。
さて、今度はフィリップに聞いてみた。
「僕ですか? 僕は剣術の事を聞いていましたよ。このまま訓練を続ければ、きっと剣豪になれると言ってくれましたよ」
だってさ。
確かにフィリップなら剣豪になれるだろうな。
あ、マルナの師匠で祖父で剣豪なお爺さんは…。まだご健在なのだろうか? 非常に気になる…。
最後はゴードンに聞いてみた。
「自分はデモニックの未来は明るいかを聞いていましたぁ! このまま中央大陸で頑張りなさいと言われましたぁ!」
語尾を上げながらそんな事を言っていた。
ふむ、他の大陸では嫌われているのだろうか? 地方によっては嫌われているのかもしれないな。深くは追求すまい。
そして最後に、俺が皆に答えた。
先ずは飛行船の事とマーガの事、そしてこの世界の名前がティーズである事。
皆は困惑していた…。無理も無い、この世界の名前を気にする者は居ない。寧ろ異端だ。
だがしかし、今此処に居る7人は、この世界の名前を知ってしまった。
皆は口々にこの世界の名前を反復していた。
この世界に名前が有るなんて、皆知らなかったと言っていた。
次に突っ込まれたのが、まだ設計段階のマーガだった。
巨大人型魔導戦闘兵器 《マギウス・アーマード・ガーディアン》 フルネームを言ってもピンと来る者は居なかったので、色々説明した。
最初に興味を示したのは、ダストンだった。
鍛冶士の血が騒ぐのか? 異常な程話に飛びついてきた。
マークは俺の説明を聞いている最中に固まってしまったが、シンシアの尻パンで再起動して再び歩き始めた。
フィリップとゴードンは、取り敢えず相槌を打ちながら聞いていたようだが…。半分も理解して無いだろうな。
リディスは心配そうに俺を見つめていた。
俺は心配無いと言って安心させようとしたが、リディスの顔は晴れなかった。何でだろう?
シンシアは何時もと同じ様子だった。好きにやれば良いんじゃない? と言っていた。実にシンシアらしい。
そんな会話をしていたら、あっという間にゴブリンの集団を駆除した場所にやって来た。
やっぱり時間が経った様子が無い。
「これは驚きですね、時間が経った形跡が無いようです」
「確かにぃ! 時間が止まっていたのでしょうかぁ!」
「ダイン君から聞いてた通りだね、本当に不思議な感覚がする」
妖精の住処を初体験した3人は、口々にそう言っているが。体験済みの俺達だって、狐に摘まれた様な気分である。
本当に不思議な空間だ、何が何でもその内秘密を暴く! 俺は今、そう決心した。
「さて、ここの確認も終わったし、そろそろ野営地に戻ろう」
皆は一斉に頷いてくれた。
『了解!』
そして俺達7人は野営地に戻ってきた。
今年はコレと言って事件も起こる事無く無事終了出来そうである。
野営地に戻ると、既に森の探索を終えた先輩達の姿があった。
皆さん一様に疲れてらっしゃる様だった。
この日の探索は、時間的にも早めに戻って来れていたので、再び水浴びをする事にした。
今回は、マークが覗きに行かない様に、男5人は寝台で待機するようにした。
女性2人が戻ってきて、その後に俺達男共が水浴びに行く。
あれ? 初めからこうすれば良かったんじゃないのか?
この後は夕食となり、皆でワイワイ言いながら美味しく頂ました。
夜になり、明日の野営地撤収作業の為に早めに寝ようと思ったら、リディスが俺を外に連れ出した。
何事ですか? と思ったが…。
今はリディスと二人で、寝台から少し離れた草原に来ている。
この世界独特の、淡い日の光の色を放つ月がとても綺麗な草原の夜だった。
そこに今、俺とリディスが手を繋いで一緒に立っている。
リディスは顔を真っ赤にしている。
こう言う場面って、もうアレだよね?
「どうしたんだリディス、顔が真っ赤だぞ?」
俺の言葉を聞いたリディスは恥ずかしそうに顔を背けたが、直ぐに俺に向き直り…。
「あ、あのね。妖精の住処の帰りの話なんだけど…」
今にも沸騰しそうな程に真っ赤である。告白かい? でも俺達まだ11歳だよ?
「ほら、落ち着いて。ゆっくり話せば良いさ」
リディスはゆっくりと深呼吸して、息を整え、真剣な顔で俺に顔を向ける。
「あたしの好きな人は、将来ちゃんと生きているか聞いたの」
「そしたら、なんて言われた?」
今度は少し俯いている。
何か怖い事でも言われたのだろうか?
「それは…。これからのあたし次第だって…。だからね、ダイン君は死なないでね! 絶対だよ!」
「俺はそう簡単には死なないよ。それに、俺にはやるべき事が沢山あるからな」
俺の名前が出た事は言った方が良いのか? いや、ここは黙っておくべきだな。
「そ、そう…。それなら大丈夫だよね!」
「ああ、俺は生き抜くさ、このティーズでな」
俺はそう言ってリディスを抱き締めた。
少し遠くで俺達を見る輩が数名居たが、あえて気が付かない振りをしておこう。
俺がリディスを抱き締めると、リディスの鼓動が早くなっているのが伝わってくる。
11歳だもんな、仕方あるまい。
リディスも俺に手を添えてきた。
まだまだ清純を貫かねばならないからな、これ以上は止めておこう。
「うん! このティーズで…」
この後俺とリディスは少しだけこのままの状態を維持し、その後は再び手を繋ぎ、綺麗な月を眺め、月明かりに照らされた広大な草原を見渡した。
しばらく二人で景色を堪能した後、二人で寝台へと戻り、今日は速やかに就寝した。じゃねーと俺の息子が暴れるだろう?
そして次の日。
今日は野外演習の最終日である。
事は本当に平和な4日間であった。非常に嬉しい限りである。
昨日の夜にちょっとしたイベントがあったがね。
そのせいか、朝起きると俺の息子の辺りがカピカピになっていた。
焦った俺は急遽着替えを持って小川まで身体強化を使って走り、大急ぎで処理を施し、カピカピなアレを綺麗に洗い、魔道具のドライヤーである程度乾かし、大急ぎで寝台まで戻る。
ふぅ~、この世界の体は非常に成長が早いようだ、もうアレが来るとは…。
寝台に戻ると、リディスとシンシアがムニャムニャと起き始めていた。
俺は何食わぬ顔で、少し湿ったままの布のズボンと下着を鞄に仕舞い、二人に朝の挨拶をする。
二人の生着替えが始まる前に速やかに外に出ると、男5人がニヤニヤした顔で俺を見ていた。
まぁ、後でシンシアに色々聞かれるのは分かっているので、正直に答えるがね…。
その後は朝食を食べ、野営地の撤収作業が開始される。
今年は王国軍が居ないので、少し手間は掛かったが、何の問題も無く作業は終了。
その後は荷物を纏めて、馬車に乗り込み、ルキリスの街に帰って行く。
その道中、シンシアに質問攻めにあった。
「ねね、昨日の夜はどうだったの? 最後までイっちゃったの?」
なんと言うストレート質問か! 俺達はまだ11だぞ?
あ~あ、見てみろよ、リディスが顔を真っ赤にして俯いてしまったではないか…。
「シンシア、その聞き方は如何なものかと思うぞ?」
「え? そう? 抱き合っただけ?」
「そうだよ、それ以上は何も無いよ。あの後は景色を楽しんだだけだよ」
「な~んだ、そうだったんだ。ね、リディス、今度はちゃんとやっちゃいなさいよ」
「もう! シンシア~!」
こんな会話を続けながら俺達はルキリスの街に辿り着いた。
しかし、シンシアも好きだね~、こう言う話。俺も好物だが、自分自身の話題だと少し恥ずかしくもある。
けどま、俺も吝かじゃないから良しとしておこう。
ルキリスの街に着いたのは夕刻だった。
俺達中等部7人は、時間的にも規制が掛かるので、馬車から降りたら挨拶もそこそこにし、即座に帰宅する。
今年は無事にお帰りパーティーは明後日にしようと言う事になった。
帰り道が同じ、俺、リディス、フィリップは3人並んでマラソンしながら帰宅する。
ゴードンはどうやら、マーク、シンシア、ダストンと同じ方角のようだった。
俺は我が家の前で二人に挨拶をし、家に入ろうとすると、カディウスさんの声が聞こえてきた。
なにやら居間で、マルナと話しているみたいだ。
俺は帰宅を告げる声を上げ、玄関を開けると、ミーナが出迎えてくれた。
「兄さんおかえり! カディウスさんが急用だって来てるよ?」
エナジーハンドを2個、頭の横で回転させながらミーナがそう言ってきた。
カディウスさんの急用ってなんだろう? 飛行船が爆発したのかな?
「あ、うん。ただいまミーナ。カディウスさんは居間で待ってるのか?」
「うん、何だかね、色々大変みたいだよ?」
「分かった、荷物を部屋に置いて来て貰えるか?」
「良いよ! 任せて!」
ミーナがエナジーハンドで、俺の少し大きめの鞄を部屋に持っていってくれた。
さて、カディウスさんの話を聞かなくてならない。一体何が起こったと言うのだろうか?
俺が居間に入ると、マルナとカディウスさんが居た。
俺も声を掛ける。
「カディウスさん、いらっしゃい。今日はどうしたんですか?」
カディウスさんは俺に振り返ると、神妙な顔をしていた。
マルナは何時もと同じ顔つきだったが…。気になるな…。
「ダイン君、君に会いたいと言っている人物が居る」
「俺にですか? 一体誰でしょうか?」
「国王陛下だ」
「え?」
んん? 誰だって? カディウスさ~ん、冗談キッツイよ~。
「飛行船の開発が一気に進んでな、その様子をお忍びで見学に来ていたんだ。
その時にな…。つい口を滑らせてしまって、君の名前を出してしまったんだ…。本当に済まない…」
あら~、言っちゃったんだ~。
でも仕方無いよね? 何れは知れてしまう事が、今になっただけの事だし。
「いえいえ、その内俺の名前も出るだろうとは思っていましたから。そんなに気にしないで下さい。それで、俺は何時王城に出向けば良いのでしょうか?」
「うむ、明日だ。通行手形はマルナが持っている物を使うと良いだろう」
「きゅ、急ですね…。そんなに急ぎなのですか?」
「そうだ、国王陛下は直ぐにでも会いたいと言っていたからな」
「分かりました、では明日ですね」
「うむ、頼んだ。では私も帰宅するとしよう。マルナ、良い紅茶だった」
「お世辞も上手くなったんじゃない? カディウス?」
「ふっ…。では明日だな、ダイン君。私が迎えに来よう」
「はい、お待ちしています」
うわぁぁ~、何だか大変な事になってきたぞぉ…。
俺の研究人生はどうなる? もうお終いなのか? ハッピーエンドはもう無いの?
俺は今日終始ソワソワしていた。
ライアスが帰宅後に…。
「ダイン? お前らしくないな? そんなにソワソワして」
なんて聞いてきた位だ。
取り敢えず、明日王城に出向く事を伝えたら…。
「良かったじゃないか! 国王陛下はとても素晴らしい方だぞ! しっかりと話を聞いてくるように!」
と言われてしまった…。
人事だと思ってからに…。
ミーナは終始ニヤニヤしていた。可愛いから良いんだけどね。
この日はなかなか寝付けなかった。
…と思ったら、すんなり寝れた!
所謂ターニングポイントです。




