第三話 妖精の住処、再び
タイトル通りです。
少しだけ、ダインにこの世界の秘密が公開されます。
さて、今日は野外演習の3日目、エピタルの森の探索実習である。
昨日の夜は皆直ぐに寝てしまって、去年みたいにリディスとシンシアの歌が聞けなかったのはちょっと残念である。
今現在、俺達7人は去年同様に水浴びをする為、近くの小川に来ている。
やっぱりマークが女性二人を覗きに行こうとしていたので、俺とフィリップとダストンの3人で阻止した。
マークは非常に残念がっていた。コイツの頭の中はどうなってるんだ? 学習しないのか? まったくもう…。
しばらく待っていると、リディスとシンシアが艶々で帰ってきた。
体が成長しているのもあるのだろう、非常に色っぽいです…。ヤバイです。
その二人を見たゴードンは、鼻血を出しながら固まっていた。ちょっと刺激が強すぎたのかな?
女性二人が戻った後は、それぞれの防具を着込み、実戦用の武器を持ち、野営地の広場にて朝食となる。
その後は去年同様に、シルフレッド教官の注意事項をしっかりと聞いて、各自行動となる。
今年こそは、モンスターに対してマジックセンサーを使うとどうなるかを絶対に調査するのだ!
その為、今回はマジックセンサーを俺が持つ事にした。
俺達は楽しく雑談しながら森に入って行く。
その前に教官が…。
「出来れば2名程、どこかのグループに入って欲しいのだが…」
とか言ってきたが、俺達は全力で拒否した。
教官は仁王立ちしたまま渋々立ち去って行ったが、気にしないようにした。
さてさて、森の中をしばらく歩くと…。
キーキー、ギャーギャーと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。少し数が多い気がするが…? まっ良いか。
俺はすかさずマジックセンサーを起動させる。
え? なんで? どういう事? モンスターの存在が感知されないよ?
今俺の頭の中には、森一帯に居るルキリア学術学院の生徒の魔結晶と体内魔力しか映っていない。
一体どういう事だ? もしかして、モンスターに魔結晶が無いからなのか?
この事はカディウスさんに聞いてみよう…。俺じゃ分からん!
「ねぇダイン君、モンスターはどう映ってたの?」
リディスがその事を聞いてきたが…。何と答えようか…。
取り敢えず正直に言おう。
「うん…。モンスターは映らないみたいだね」
俺の声を聞いた全員が振り向き、訝しげな表情をしている。
いやね、本当に何も映っていないんだよ?
「ダインさん、それはモンスター…。つまり魔獣に魔結晶が無い事が原因なのでは?」
「だよな…。俺もそう思ったんだが…」
フィリップの答えはもっともだが、マルナはどうやってマジックセンサーを役立てたのか? 非常に疑問である。
あ! 魔物なら魔結晶を体内に保持している可能性が有るが、遭遇率が低すぎるので調べようが無いな…。
「ダイン、そんな事よりサッサとあのゴブリン共をやっちまおうぜ?」
「だよね~、早くソフィ達のトコ行きたいし」
そう、歩きながら話していたら、ゴブリンの集団を見つけたのだ。
やたらと泣き声が多かったのは、集団であったからなのだろう。
数からして20匹前後、集団ランクで言うなら4~5位だろが、今の俺達の敵じゃないな。
「だな、んじゃ、早速しかけよう。絶対に粉砕しないように気をつけような」
『了解!』
全員一斉に頷き、俺達7人はゴブリンの集団に攻撃を仕掛ける事にした。
俺は魔法を使うと、ゴブリンを粉砕してしまうので、槍で一匹ずつ駆除していく。
槍を右手に持ち、ゴブリンの脳天目掛けてプスリッ! と突き刺す。
頭蓋を砕く感覚が、俺の右手に伝わる。…非常に気持ち悪いです…。
だが、そんな事考えていたら仕事が出来ないので、1人2~3匹ずつ駆除する。
ゴードンは斧を、ダストンは長剣を使用している。
ダストンは身体強化を軽く使って動き回っている。非常にコミカルな光景だが、その剣捌きは悪くなく、確実にゴブリンの心臓を貫いている。凄いぜダストン! カッコイイ!!
ゴードンの攻撃も大振りかと思ったがそうではなく、斧の刃の先を器用に使ってゴブリンを粉砕する事無く倒していっている。以外と器用なのかもしれない。
駆除開始から1分も経たずに、ゴブリンの集団は沈黙した。
戦闘場所が少し開けた場所で非常に助かった。一箇所に纏めて一気に燃やそう。
俺達7人はゴブリンを一箇所に纏める。以外や以外! 臭くなかった!
「ふぅ~、これで最後っと。うんうん! あのクッさいのは無かったし、わたしは満足かな」
「だよねぇ、アレは酷いからね」
「俺も同感だな、あの臭いは二度と嗅ぎたくない」
さて、一箇所に纏めたゴブリンを誰が焼くか? だが、リディスに任せるのも気が引けるな…。
そうだ! フィリップに頼もう! そうしよう! と思ったら…。
「ダインさん! 自分がやりますぅ! 火属性の攻撃魔法を弱めに使えば宜しいでしょうかぁ!?」
ゴードンがビシッ! っと挙手しながらそう言ってきたので彼に任せる事にした。
彼はこう見えて、非常に細かな威力調整が出来るのだ。
俺も始めてみた時はビックリしたもんだ。
ゴブリンの死骸は轟々と燃え、段々と骨だけになっていった。
少し疑問に思ったが、何故こんなに燃えが良いのだろうか? ゴードンの調整が上手いからなのか? 非常に疑問である。
ゴブリン達の火葬が済むと丁度昼時だったので、俺達7人は妖精の住処目指しながら、携帯食料を歩き食いする。
丁度食べ終わった頃に、見覚えのある泉に到着する。
俺は懐から妖精結晶を取り出し、…どっちにしよう? やっぱりソフィだな! そうしよう!
妖精結晶に俺は念じる…。ソフィ、聞こえるか? と…。
俺が念じ始めて数秒が経つと、泉の上に謎の門が形成される。
「うわ~、凄いね~。これが言ってた門?」
「確かに興味深いですね…」
「自分もドキドキしておりますぅ!」
と、ダストン、フィリップ、ゴードンが言っている。
てか、何で今回は紋記号が見えなかったんだ? 更に謎が深まるばかりだ…。
「んじゃ、コレに入るぞ~。遅れないように付いて来いよ」
俺達7人は、今年で2度目となる妖精の住処に足を踏み入れる。
門を潜り抜けると、ソフィが満面の笑みを浮かべながら、両手を腰に当てて出迎えてくれた。
「アンタ達的には久しぶりかな? アタイ的には時間なんてどうでも良いけどね」
俺達的? 時間がどうでも良い? それってどういう事?
「ま、気にしない方が身の為だと思うよ」
またしても思考を読まれた…。もう良い、気にすまい…。
おっとそうだった! マジックセンサー起動! さてどうなる?
俺がマジックセンサーを起動すると、信じられない現象が起きた。
俺達7人の魔結晶の色と、体内魔力は何時もと同じように見える。
驚いた事に、ソフィの反応が凄い事になっていた!
なんと、5色なのだ!
一体どう言う事なんだ? 体に5色の魔結晶が埋まっているのか?
「その質問はお爺ちゃんにしてね、アタイは知らないから。そんな事よりも、こっちだよ」
あの老人妖精に聞かなければならないのか…。
俺達は移動を開始する。
移動中は、此処が初の3人から質問攻めだった。
何故訓練施設と同じような空間なのか? とか、何でこんなに広大なのか? とか、建物が一つしかないよ? とかだ。
俺達が感じた事を同じように感じているようだった。
そんな会話をしながら、謎の長方形の建物に案内され、薄暗い部屋で老人妖精が浮かんで待っていた。
「ほぉ~、また来たようじゃな。おお? 前よりも人数が増えておるの~、お前さんの仲間かな? 良き事じゃ。今回も何か聞きたい事があったら、答えられる範囲で答えるぞい。なんなら、此処に居る全員を同時に相手してやれるぞい? どうじゃ?」
は!? なんじゃそりゃ? もしかしてまた魔粒子をどうにかして操作して、全員の思考と直結し、テレパシーのような原理で会話するとか言うんじゃあるまいな?
「ほほぉ~、流石じゃのぉ~。当たっておるぞい」
ん? 良く見ると口が動いてないぞ!? やっぱりテレパシーが出来るのか…。
「それとは少し違うのぉ~」
どうせ教えてくれないんだろうから、もう良いよ…。
そうだな…。思考が読めるなら、俺が頭の中で何かの形を想像しても読み取れるのか?
「そうじゃのぉ、お主の魔結晶の効果でハッキリとは見えんかもしれんが…。やってみよう」
やっぱり出来るのか…。んじゃ、早速…。
俺は頭の中で飛行船とマーガの完成予想図をイメージする。
…うむ! 我ながら完璧なイメージだ! 結果はどうかな?
「!!!? お主! それはどうやって作った!? もう完成しているのか!?」
落ち着いてくれよ…。
今はまだどちらも完成していないが、飛行船の方なら今年中には完成するかもしれない。
マーガの方は、まだまだ理論と設計図だけの状態だし、寧ろ成功するとは決っていない。
んで、あんたの見立てではどうなんだ? 成功すると思うか?
「少しまっておれ…」
ん? 何故待つ必要があるんだ?
ま、どうせ聞いても教えてくれないだろうから、ジッと待つか…。
そして俺が待つ事数分…。
「是非とも完成させてみよ。その設計はほぼ完璧じゃ、後はお主の努力次第じゃな」
おお! 妖精老人のお墨付きを頂いたぞ! なんか知らんがほぼ完璧らしい!
あ、妖精結晶って余ってるのか? 王国軍に渡しているんだろ?
「うむ、良かろう。ソフィや、妖精結晶を人数分持ってきなさい」
「は~い」
ソフィは浮いたまま暗がりの奥に消えていった。
その数分後の事だ、俺はまたしても、とんでもない光景を目にしてしまった。
他のメンバーも目を丸くしている。それも当然だと思う。
何故なら、ソフィは全く手を振れずに妖精結晶を7つ持ってきたのだ。
そう! 7つの妖精結晶を宙に浮かべたまま持って来たのだ。
一体どうなってるんだ? この世界の妖精って…。
ああ! この世界に名前はあるのか!? おい、どうなんだ老人妖精!?
「お主も忙しいヤツよのぉ~。この世界の名前は――《ティーズ》じゃ、良く覚えておけ」
ティーズ―――
それが俺達が住んでいる世界の名前か…。
そう、俺がこの世界に転生してからずっと疑問に思っていた事はコレだ。
世界に名前が無かったのだ。大陸や国には名前があるのにだ。
いや、そもそもココは惑星なのか?
「その質問が来るじゃろうと思ってのぉ~、あの男に許可は取ってあるぞい。ココは惑星じゃ」
そうか…。惑星だったのか…。
あの男ってのが気になるが、惑星ってのが分かっただけでも良しとしておこう。
ありがとうな、妖精老人。
「ふぉっふぉっふぉ。ほれ、妖精結晶を受け取れ」
俺達7人はそれぞれ妖精結晶を受け取った。
そして去年と同様にソフィが出入り口となる門まで案内してくれた。
「んじゃ、またね。今度来た時にも妖精結晶を渡してあげるよ。今回はこれまでだね、またね!」
ソフィは一方的にそう告げて俺達と別れた。
俺達も門を潜り抜け、泉の前に呆然と立ち尽くすのだった。
■■■
ダイン達が妖精の住処を去った後。老人妖精は、あのエルフの男と会話を始める。
会話をしている空間は薄暗く、辺りには何も無い。
唯一何か在るとすれば、それは一つのテーブルと思しき謎の物体がある。
その物体は一体難なのか? この世界の人々は知る由もないだろう…。
「お主はこうなると知っておったのか?」
「私もそこまで万能では無い。だが、アレの復活までには完成させて欲しいがな…。完全なる形でな」
「それは流石に高望みではないかのぉ。して、復活は何時になりそうなのじゃ?」
「私の予想では早くても5年、遅くても15年以内には復活するだろう」
「そうか…。それまでに間に合ってくれる事を祈るばかりじゃのぉ」
「私はもう行く。つい最近、また1体駆除したばかりだ。段々内包数が増えている、次は幾つ内包するのか検討も付かんがな」
「そうじゃのぉ、全て内包したら…。今度はあの時と同じじゃ済まんからのぉ」
全身白で統一された、神秘的な防具を身に着けたエルフの男は去って行く。
老人妖精は、その後姿を見ながら考える。
今はエルフの男に任せるしかない、ダイン達ではまだ手に余る相手である謎の敵…。
だがしかし、ダインの巨大人型魔導戦闘兵器が完成すれば、或いは太刀打ち出来るかもしれない。
ダインは強大な体内魔力を内包しているが、それでも白いエルフの男にはまだ遠く及ばない。
将来的に同等の力を保持するだろうが、もしそれが適わなかったらどうしようも無い。
老人妖精は祈るしかない、どうか完成させて欲しいと。
そうでなければ、あの時以上の悲惨な結果が、このティーズに訪れるのだから。
そして老人妖精は一つの決断をする。
それは―――
「ソフィや」
老人妖精がソフィを呼ぶと、ソフィは暗がりから突然現れる。
「何? お爺ちゃん」
ソフィは両手を頭の後ろで組んでそう答える。
「妖精結晶の大量生産をお願いしたいのじゃがのぉ」
「良いよ、ダインのアレに協力するんでしょ?」
「うむ、その通りじゃ。来るべきその時に備えて、ざっと500は用意して欲しいのぉ」
それを聞いたソフィの表情は驚きの色に染まる。
それは、妖精結晶の数が膨大すぎるのだ。
妖精結晶は通常生成速度で、年に10~15程度が限界である。
それが500だ、気が遠くなるような作業である。
確かに、生成速度を上げれば、先程の年数以内に用意する事は出来るが…。
「げ!? チョット~、多過ぎじゃないの?」
ソフィの答えは尤もである。
だが、老人妖精には思う所があるようである。
「あの少年の事じゃ、一体成功したら、嬉しさの余り大量生産しそうじゃからのぉ」
そう、正にこれである。
ダインも成功したら、喜んで次々と製作を推し進める事だろう。
「分かったよ、任せといて!」
ソフィはその言葉を残し、何処かに行ってしまう。
老人妖精も安堵し、何処かへ行ってしまう。
この妖精の住処の何処かに―――




