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第二話 2度目の野外演習へ

 2度目のエピタルの森です。

 最初の方で、壮大な計画の事に触れています。

 さて、今年で2度目のエピタルの森だ。今現在は馬車で移動中である。

 俺、リディス、シンシアは楽しく会話しながら馬車に揺られている。


「そう言えばさ、今年も妖精の住処に行くんでしょ?」

「ああ、行くよ。ちゃんと妖精結晶も持ってきたしな」


 俺は自分の衣服の入った大きめの鞄から妖精結晶を出して、シンシアとリディスに見せる。

 それをマジマジと見入る二人…。そんなに俺に近付かないでください…。体が反応するでしょ?

 彼女達の体は年々大人になっていっているので、その大きなお胸は非常に危険である。

 まだまだマルナ程のサイズでは無いにしろ、十分な大きさである。成人する頃には、もっと大きくなっている筈である。


「う~ん、どうして妖精結晶を使うと、魔法の効果が上がるのかなぁ?」

「なんでだろうな? 俺も良く分からないんだ」

「ダインが分からないなら、もうどうしようも無いじゃん」

「そうだよねぇ、ダイン君でも分からないなら仕方ないよね」


 実際、俺も良く分からないのだ。

 幾つかの仮説はあるのだが、どれも納得のいかないものばかりだ。

 その中の一つが、俺の魔結晶と同じように、どんな魔法効果も上昇させる作用が有るのではないのか? と言うものだが、妖精結晶には色が付いておらず透明である。

 しかも、魔結晶は臍に当たる部分に有るビー玉サイズの結晶であるので、どう考えてもサイズが合わないのだ。

 どうせ老人妖精に聞いたとしても…。「あの男との約束で――」とか言って、絶対教えてくれないだろう。

 去年はゴタゴタし過ぎてうっかり忘れていたが、今年こそはマジックセンサーを妖精に使うと心に決めてある。ついでにモンスターにも使うのも忘れちゃいけない。


「そうそう! ゴブゴブだけは絶対にバラバラにしちゃいけないよね。クッさいし!」

「本当だよね! あの臭いは絶対にダメだよね!」

「だよな~、あの臭いは何が何でも嗅ぎたくないよ」


 うむ、この問題もあったな。

 去年の野外演習の後、トロールを放置した事をシルフレッド教官に話したら叱られてしまった。

 教官曰く、モンスターの死骸は、基本的に燃やすのがマナーなんだそうだ。

 そうじゃないと、そこに来た冒険者とか王国軍の人達が、酷い臭いに晒されてしまうからだそうだ。

 もう一つ理由があって、死骸を放置すると言う事は、そこに餌を放置した事と同義だとも言われた。この事は高等部の授業で習うそうだ。

 本来、中等部の抜粋メンバーは、3日目の森の探索で初めて習うらしい。

 この時に、3~4人の護衛の教師を付け、実体験させるのが習わしだとも言っていた。

 教官は、五体満足で絶命したゴブリンを燃やした時に勘付いてくれたと思っていたらしく、俺達には教えなかったそうだ。

 いやね…。言ってくれなきゃ分かりませんよ?


「今年もデッカイのが出てくるのかな?」

「あたしは出て来ても平気だよ、ダイン君が居るから」

「確かに…。どうにかなると思うけど…。あんまり俺に期待しないでくれよ」


 リディスとシンシアは、まったまた~! とか言っていたが、本当に期待しないで欲しい。

 確かにどうにかなるだろうが、また多くの命が危険に晒されるのは勘弁して欲しい。

 実際に、去年のコブラヒドラ戦で、教師陣は奮闘していたが…。それでも奴と防戦するのがやっとだったのだ。

 なので、俺の壮大な計画を急がなければならない。

 そう、対モンスター用の兵器の開発だ。

 その名も、巨大人型魔導戦闘兵器―――[マギウス・アーマード・ガーディアン]略してマーガと呼ぶ事にしている。

 ん? 安直だって? そんなの気にしちゃいけないよ! 頑張って考えたんだからね!!

 ゴホン…。失礼しました。

 俺の計算では、全長15~20メートル程の大きさになる。

 マーガは、大量の紋記号魔法を用いて動かすようにしている。

 紋記号魔法の設計図自体は、ある程度出来上がっているが。問題なのは間接部分をどうやって作るか? である。

 この世界の機械文明は乏しいので、ボールベアリングとかは期待できない。

 そこで、性質変化の魔法の登場である。

 実はこの魔法、使い方によっては非常にツルツルとした、鏡面物質を生成できる事が判明した。ここ1週間の事だがね。

 なので、ツルツルした鏡面物質を間接部分に使用し、紋記号魔法で膜状の障壁を素材に展開させる事で、間接部部の強度と柔軟性を維持出来るように設計している。

 次に問題になるのは、その巨体を動かすエネルギーをどうするか? それには一つの解決策があった。

 カディウスさんと、紋記号魔法の研究をしている時にたまたま発見した組み合わせで、魔粒子を動作エネルギーに変える事が出来る紋記号円を見つけたのだ。

 この発見は最近の事で、飛行船の開発にも使われる事が決定している。

 機体の制御方法としては、その動作エネルギーを更に高密度化させ、魔力球を操作する感覚で操縦する事が出来るように設計する予定だ。

 機体の性能が同じ場合は、どうしても操縦者の優劣が出るだろうが、それでも大きな戦力向上にはなるだろう。

 だがしかし、懸念している事がある。それは…。

 もし完成した場合、この技術を世界に広めて良いのかどうか? と言う事だ。

 一国だけで保有しようものなら、他国から妬まれたり、敵視されたり、無理やり奪取されたりする事もあるだろう。

 今度は広めた場合、野心家辺りがマーガを大量生産し、戦争とかになりかねない。

 個人的には、世界の安全の為に広めたいが…。こう言うのは、国の偉い人達に任せる方が良いのかもしれないな。

 俺がそんな事を考えながら二人の相手をしていると、丁度昼食の時間となったようで、馬車が一斉に止まり始めた。

 俺達も馬車の外に出て、凝った体を解したりしていると、マーク、ダストン、フィリップ、ゴードンの4名が俺達の元にやって来た。


「どうだ、ダイン。楽しくやってるか?」

「茶化すなよ、マーク。そっちはどうなんだ?」

「僕達は楽しくやってますよ。ゴブリンは臭いとか聞きましたし」

「僕は絶対に嗅ぎたくないよ~」

「自分は平気だと思いますぅ! デモニックは我慢強いのですぅ!」


 まぁ、あの臭いを平気な顔で嗅げるのはマーク位だろうと思っていたが、ゴードンも平気なのか? 実体験しないと分からんよ? あの臭いは…。


「そっちも楽しそうじゃないか」


 俺達7人は、一塊に集まって雑談していると、去年と同じデモニックのオバサンがやって来た。


「おや? あんた達は去年も来てた子達だね? ん? 今年の1年生は3人なのかい? 去年あんな事があったのに大丈夫なのかい? 心配だよ~。」


 相変わらずのマシンガントークを吐きながら、俺達にスープと固めのパンを渡してくれるデモニックのオバサン。


「えっとですね、今年の1年生は2人ですよ。こっちのドワーフは、俺達と同じ2年生です」

「そうかい、2年生かい、そりゃ悪かったね~。だけど大丈夫なのかい? 相変わらずあんた達は強そうに見えないけどね~」

「大丈夫ですよ」

「そうかい、無理はしないようにするんだよ」


 そう言って直ぐに、デモニックのオバサンは足早に次の馬車に向かった。

 毎年言いたい事だけ言って行く人なんだろうな、きっと…。

 俺達は去年同様に楽しく昼食を頂き、回収に来たデモニックのオッサンに食器を渡す。

 その後、また馬車に乗り込み、目的地へと向かう。

 去年と同じ場所に寝台が置かれ、その後は天幕等の展開を行う。

 去年参加した俺達4人は、そこそこの動きでキャンプ地の設営をこなすが、今年からの参加である3人は、やっぱりぎこちない動きだった。

 そこは友人同士、お互いに助け合いの精神で乗り切った。

 キャンプの設営が終わると、去年と同様に夕食が振舞われる。

 その後は寝台に戻り、各自明日の戦闘訓練に備えて寝る事になる。

 俺は寝る前に祈る…。今年は平和でありますようにと…。


 次の日。

 去年同様に、俺は朝早くに目が覚めた。

 また何か起こるのではないかと思い、耳を澄まし辺りの音を聞いてみたが、特に物音がする訳でもなかった。

 今年も去年と同じように霧が出ていて、エピタルの森はとても神秘的だった。

 少し散歩でもしようかと思い、俺は寝台が密集している付近を歩き出す。

 すると、少しと遠くから足音が聞こえてきた。

 俺は何が近付いているのかと思い、注意深く見てみると…。そこにはシルフレッド教官が居た。

 一安心した俺は、教官に話しかける。


「教官、朝の警備ですか?」


 俺の声だと分かった教官は、歩く速度を少し上げ俺に近付いて来た。


「おお、ダインか…。こんな朝早くに何をやっているんだ?」

「特に何もやってませんよ、散歩してただけです」

「そうか…。今年は入念に、この辺り一体を調査したからな! 去年のような事は起こるまい」


 入念の部分にやたらと力が入っていたが…。気にすまい。

 そうだよな…。去年は2日目の朝から色々大変だったし…。

 言い忘れていたが、去年襲われた寝台の女生徒5人は卒業したそうだ。今はそれぞれの道を歩んでいるらしい。…結局、名前は聞けずじまいだったけどな。


「2年連続で何か起こってもらっても困りますよ」

「それもそうだな…。して、今日の戦闘訓練だが、また我輩がお前達を見てやろう。新しい仲間も居るようだしな」

「ですね、今年は3人居ますよ。1人は俺達と同じ中等部2年です。後の2人は中等部1年ですね。3人共かなり強いですよ」

「まったく…。お前の周りは面白い奴ばかりだな」

「まぁ、皆とても楽しい友人ですよ。では、俺は一旦戻ります」

「うむ! また後でな」


 俺と教官はそこまで会話し、お互いに別々の方向へ向かって歩き出した。

 俺達の寝台まで戻ってきたところで、丁度霧も晴れてきた。

 その後、俺はリディスとシンシアを起こし、マーク達4人を起こして朝食を頂いた。

 朝食後は去年と同様に、戦闘訓練が始まった。

 今年は俺達のグループは7人になっている。

 組み手をするにしても1人余ってしまうので、その1人は素振りをする事になった。

 先ずは俺が素振りをする事にした。

 組み手の組み合わせは…。マークとフィリップ、ダストンとゴードン、リディスとシンシアとなる。

 では、素振り中は暇なので、組み手の実況をしよう!

 今回はその中の一戦、リディスとシンシアの組み手を実況しよう。


「んじゃ、早速行くよ~」

「何時でも良いよ!」


 二人のそんな会話の後、リディスとシンシアは一気に距離を詰める。

 今回も接近戦になったようで、シンシアは木製の短剣を両手に持っている。

 リディスは、木製の長剣を右手に、木製の小盾を左手に持っている。

 先ずはシンシアの先制攻撃だ。

 シンシアはリディスの盾を一旦封じる為、盾に向かって、右手に装備した短剣を小さく上段から振り下ろす。

 その攻撃をリディスは盾で正直にガードし、右手に持った長剣で、シンシアの左手の短剣を狙う。

 シンシアはその攻撃を読んでいたのだろう。盾にぶつけた短剣と左手に持つ短剣を器用に扱いクロスさせ、リディスの長剣をガードする。

 ガードしたその場から軽く跳躍し、リディスの背面を取るが、リディスの反応は良く、着地前にシールドバッシュをシンシアに繰り出す。

 シンシアはそのシールドバッシュを空中で短剣を利用して逸らし、逸らした直後にリディスの左側面を取る。

 リディスはシールドバッシュの隙を狙われるも、シンシアの攻撃をしゃがんで回避、そのまま足払いを狙う。

 シンシアはその足払いを側転で回避し、リディスに足払いを仕掛ける。

 リディスはその足払いを軽く跳躍して回避する。

 跳躍したリディスは空中で盾を前面に構え、シンシアに迫る。

 シンシアがその盾を短剣でガードした隙に、リディスの長剣がシンシアの首筋に当てられて一本となる。


「くぅ~! またしても負けた…。やっぱりリディスは強いね~」

「そんな事ないよ、シンシアの攻撃も鋭くなってるし、正直ちょっと危なかったかな」


 そんなお互いを褒め合う会話をしながら、二人は武器を納めて一礼をする。

 いや~、本当に凄いよね。

 とても11歳の動きじゃないからね。

 その様子を見ていたシルフレッド教官も、何時もの様に仁王立ちしながら驚いているようだ。

 その後も俺達は組み合わせを変えながら組み手を行った。

 先輩達も見ていたが、俺達と組み手をしようとする者は現れなかった。気持ち分かるが、一人くらい居ても宜しくってよ?

 余談だが、今日も俺は盛大に負け越した。魔法無しだとこんなもんである。

 そして今年の2日目も無事に終了し、俺達7人は自分達の寝台へと向かい、この日はそのまま就寝した。

 そんな訳で、この世界にロボットが登場します。

 ちゃんと動くのは、当分先の話になります。

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