第八話 妖精の住処
エピソードの後半に、初の三人称視点を試みました。
まったく自信がありません!
エピタルの森偏 その4です。
俺達4人は、妖精の住処に案内される事になった。
今現在、紋記号魔法と思しき、謎の魔法効果によって開かれた門を潜る所だ。
俺が最初に通り抜けると…。
なんと! 広大な空間が広がっていた。
門を潜り抜けた瞬間、この空間に出たのだが…。
その空間の壁には、見覚えの有る幾何学模様がぎっしりと書き込まれている。
ご想像通りだ、紋記号である。
それと、どの位の広大な広さかと言うと。
カディウスさんの作った訓練施設よりも広大…。としか表現出来ない程だ。
しかし何故、妖精達にこのような技術があるのか謎である。
後でソフィに聞いてみるか。
「アタイも知らないよ」
はい!? なんで俺が考えてる事が分かった?
もしかして…。心を読まれたのか?
「心を読む、ってのとはチョット違うよ。魔粒子を通じて伝わってくるんだよ」
え!? ちょ!? て事は…。此処じゃ思考出来ないじゃないか!
「でもね~、黒の魔結晶のアンタは、何故か綺麗に伝わって来ないんだよね。ある程度は分かるけど」
…もう考えるのはよそう。
「それが良いと思うよ」
ソフィはニシシと笑いながら、一つの長方形をした建物の前まで案内してくれた。
そこにたどり着くまで、俺達は終始無言だった。
俺はその道中で、一つの違和感を覚えた。
その長方形の建物にたどり着くまで、他の建物や妖精達を全く見かけなかったのだ。
そしてこの空間は、日がさしているように明るい。
この見通しの良さならば、他に何か目に入っても可笑しく無い筈である。
実に不思議な空間だった。
さて、長方形の建物の前まで案内された。
俺達4人は、お互いに顔を合わせ、訝しげな表情をしている。
「あ、もう少し待ってね。お爺ちゃんが大切な人と話してるらしいから」
もしや、テレパシーの類か?
俺達は待つ事になった。
「なぁ、ダイン。ここってやっぱり、訓練施設と同じだよな?」
マークも同じ事を思っていたのか。
今まで無言だったが…。
「だな…。俺もさっき同じ事を考えていたよ」
シンシアが俺の肩を叩いて話しかけて来た。
「てかさ、他の建物が全然無いのが不気味じゃない?」
その疑問もさっき感じた。
実に不気味だ…。隠蔽されているのか…? 最初から無いのか…?
「ねぇ、この建物って…。何で出来てるのかな?」
リディスの疑問ももっともだ。
実はこの建物、ルキリスの街にあるような、石のブロックやレンガを使用した物とは全くの別物だ。
言うなれば…。そう、コンクリートだ!
そうなると更に謎が深まるな…。
「俺も、二人の疑問と全く同じ感想だよ…」
俺達が雑談していると、建物の一部が消え、内部へと繋がる入り口が形成される。
俺はその一部始終を見ていたが…。なんと言うか、実に不思議だ。それ以外に答えようが無い。
「話が終わったってさ。こっちだよ、付いてきてね」
俺達4人は無言で頷き、ソフィの後ろを付い行く。
驚いた事に、建物内部にも紋記号がびっしりと書き込まれている。
否、掘り込まれていると言った方が正しいだろう。
掘り込まれた紋記号は、魔粒子を収束し、淡く日の光と同じ色で輝いている。
非常に幻想的な空間だった。
例えるならば…。神殿―― と言った方が良いだろう。
コツン、コツン…。
と、俺達の歩く音が木霊する。
しばらく歩くと、一つの部屋に案内された。
扉は無く、開け放たれた状態になっている。
ソフィが最初に中に入る。浮かびながらね…。
しかし、どうやって浮かんでいるのか絶対に知りたい。
それだけは何が何でも聞こう! 教えてくれるのかな…?
中に入ると、少し薄暗かった。
先程まで2名居たようだが、人が立ち去った気配も無い。
あ! マジックセンサーを使おう! と思ったが、持っているのはシンシアだ、後で借りよう。
その部屋を少し進むと、白髪の老人妖精が居た。
「ほぉ~、お主達が孫を助けてくれたのか。先ずは礼を言う、ありがとう」
老人妖精は浮かびながら、俺達4人に礼を言ってくれた。
俺達はその礼に対し、軽くお辞儀をした。
「さて、孫を助けてくれた礼をせんとならんのぉ~。何か無いか? 可能な範囲で答えるぞい」
ふぉっふぉっふぉ。的な感じの笑みを浮かべながらそう聞いてきた。
良し! 先ずは浮かび方を聞こう!
「なんじゃ? 浮き方も知らんのか? いや、お主以外は浮けんようじゃのぉ」
またしても思考を読まれた…。
どうしろってんだよ!? 何も考えられないじゃないか!!!
「まぁ、落ち着け。お主は先ず、精神を鍛える事じゃな。その馬鹿みたいに強大な体内魔力が泣いておるぞい」
くっそ! またしてもだ。
ふぉっふぉっふぉ。的な笑みを浮かべている。
もうこうなったら自棄だ! 全部思考で聞く!
「そう自棄になるな。黒を受け継ぎし者よ」
はい!? 今度は厨二な感じの呼び方に変わったぞ?
ん? 黒を受け継ぎし者? なんじゃそりゃ?
「済まんのぉ、ある男との約束で、その事は言えんのじゃ」
お~~~~い! そこまで言って秘密ですか!?
もう良いや…。諦めよう…。
イカン! そうじゃない! 浮き方を聞かねば!
「ふむぅ、そうじゃのぉ…。お主は魔粒子を硬質化でるじゃろ? どうじゃ?」
あぁ~、確かに出来るな。
ん? それと浮くのと何が関係してるんだ?
「気が付かんか? 魔粒子を纏うのじゃよ」
なるほど! その手が有ったか!
盲点だったな、帰ったら絶対練習するしかない!
なんで他のメンバーは出来無いんだろ?
「それは言えん。済まんのぉ~」
そうかい、ならもう聞く事は無いな。
いや待て! 妹のミーナが出来るじゃないか!
「な!? なんと! もう一人居るのか!?」
居るな、俺の妹だ。
今現在絶賛練習中だけど、その内俺と同じ事が出来るようになるだろうな。
「ほぉ~、それは良き事じゃ」
老人妖精は嬉しそうな顔をしながら、うんうん! と頷いている。
なんでそんなに嬉しいのか気になるが、どうせ教えてくれないんだろうな。
「済まんのぉ、答えられる事は少ない。…そうじゃな。ソフィや、妖精結晶を持ってきなさい」
「は~い」
妖精結晶? 何ですかそれ?
ていうか、俺達一言も喋って無い気がするが…。
もう良い…。気にすまい…。
俺達が終始無言で待たされる事しばし…。
ソフィが、大人の拳大程の大きさの、丸い水晶球のような物を持ってきた。
色は付いておらず、一見ガラス球に見えてしまうが…。
妖精結晶と名が付いているのだ、ただのガラス球じゃなかろう。
「はい、お爺ちゃん」
ソフィが老人妖精に、両手で妖精結晶を渡す。
老人妖精はそれを両手で受け取り、俺の前まで持ってきた。
「ほれ、これをやろう」
俺は両手でそれを受け取り、マジマジと見ていたら…。
「ねぇ、ダイン君。そろそろ戻らないと、皆心配しちゃうよ?」
おっとイカン! そうだった!
すっかり時間を忘れていた…。
「そうだな、そろそろ帰らないと、時間的に夕刻だろうからな」
「そうか…。じゃがまぁ…。出れば解るじゃろ」
ん? 何言ってるの?
いや、そんな事より、早く戻らないと本当に時間がヤバイかもしれん。
「立ち去る前に一つ聞く、お主の父親と母親の特徴を教えてくれんか? 髪の色と目の色だけで良い」
ん? そんなの聞いてどうするんだ?
聞いてもどうせ秘密だろうから、もう気にすまい。
俺は、ライアスとマルナの特徴を声に出して詳細に説明した。
それを聞いた老人妖精は、何故か少し涙目だった。
「そうか…。安心したわい。さ、ソフィや、皆を送ってあげなさい」
「は~い」
ソフィはそう言って、元気に右手を上げる。
俺達はその後、ソフィに付いて行き、出入り口と思われる門に到着する。
俺達は終始ほぼ無言だったが、門を潜る前に、各々別れの挨拶をする。
俺達が門を潜ろうとした時だ。
「そうだ! 今度は何時来れる?」
ソフィがそう聞いてきた。
もしかしたら、俺達に興味を持ったのかもしれない。
ま、俺は確かに色々異端だが、他の3人は至って普通? な少年少女だ。
でもま、また会いたいって言うのならば吝かでは無いな。
「今度は来年だよ。それまでは此処に来れないんだ」
俺がそう言うと、ソフィは少し寂しそうな顔をしていた。
「だったね、今度此処に来る時は、その妖精結晶を持ってきてね。返せって訳じゃないよ、それはもうアンタ達の物だから。それでね、今度此処に来たら、その妖精結晶に念じてみてね。アタイかお爺ちゃんが良いと思う。じゃ、またね!」
おいおい、一気に言うなよ…。
そこまで聞いて、俺達4人は門を潜った。
俺達が外に出ると同時に、その門は閉じてしまった。
妖精結晶の実験をしようと一瞬思ったが、それはまたの機会にしようと思い止まる。
先ずは時刻の確認だ! と思ったら…。
辺りは未だ昼間のようだった。
何故? どうして? と思ったが、もう気にしたら負けだろうと思い、俺は思考するのを止めた。
「あれ? まだお昼? なのかな?」
リディスも気になっているようだ。
俺だって気になるよ…。
「ね、それより確認に行かない?」
「何を確認すんだ?」
シンシアの言葉にマークが答える。
俺も何を確認? と思ったが、直ぐに思いついた。
そう、時間が経っていないとするならば、トロールの死体等がまだ残っている筈である。
「ほら、トロール達と戦ったろ? アレの確認をするんだよ」
マークとリディスはポンッ! と手を打つ。
その後俺達4人は、トロール達と戦った場所に移動した。
■■■
ダイン達4人が立ち去った後、老人妖精は思いに耽る。
あの少年はとても興味深い、そして―――
カツン、カツン…。
石造りともレンガ造りとも思えない、その不可思議な床を鳴らす一つの音…。
それは二足歩行が出来る生物が、何か履物を足に装着し歩く音…。
やがてその足音が止まり、老人妖精の背後に1人の人物は立つ。
そして、老人妖精に語りかける。
「彼等は去ったようだな…」
その声は男性の声、冷たい様子の男性の声…。
老人妖精は宙に浮いたまま、その声を掛けた人物に振り返る事無く口を開く。
「お前さんに言われた通りに接したぞい」
妖精老人はそう言った。
その言葉を聞いた背後の人物は一度頷くと、妖精老人の目の前まで歩いて移動する。
妖精老人はその男性を見る。
全身白を基調とした、豪華ではないが、神秘的な鎧を身に纏っている。
髪の色は白銀で、後頭部の当たりで大きく逆立っている。
目付き切れ長で非常に鋭く、その瞳は水色をしている。
耳は長く、その人物がエルフである事を強調している。
彼は老人妖精を見下ろす。
「少しだけ言い過ぎたな、黒を受け継ぎし者は、言わない方が良かった」
「そう言うでない…。まったく…」
「ふん、例の物は渡したのか?」
「渡したぞい」
「そうか…。なら行く」
エルフの男性は踵を返し足早に去って行く。
老人妖精は、彼を止めようとも、後を追おうともせず、宙に浮いたまま声を掛ける。
「例の探し物か?」
しかし、エルフの男性は答えない。
無言で去って行くその姿を、老人妖精はジッと見つめる事しか出来なかった。
エルフの男性が去った後、老人妖精は再び思考に耽る。
あの、黒の魔結晶の少年の事を考える。
期待が持てる、希望が有る、未来が有る…。
老人妖精は尚も思考に耽る
長く深く思考し、やがては顔を上げる。
何かに納得した様子で笑顔を浮かべながら、プカプカと浮き暗闇に消えていく。
老人妖精が立ち去った後には誰も居ない、ソフィも、エルフの男も、他の妖精も…。
彼らは何処に消えたのか? それは誰にも分からない。
今日は筆が乗ったので連投します。




