第二話 初めての魔法
一話目でアクセスしてくださいました皆様に、心より感謝しております。
初期の文から少し訂正しています。
俺の名はダイン・リヴォース、2歳と数ヶ月の幼児だ。
元は地球の日本人、いわゆるオタクってやつだった。
それが何の冗談か奇跡かしらないが、異世界に転生してしまった。
しかも、剣と魔法のファンタジー世界だ。
やっぱりオタクなら魔法を使ってみたいので、元冒険者で、今現在は主婦な母親、マルナに魔法を教えてもらおうと、お願いしたわけだが。
やっぱりというか、なんというか…。驚きながら神妙な顔になっている、実に器用だ、感心する。
さて答えは?
「いいわよ、魔法を教えてあげる」
あれ? あっさり許可が出た、少し拍子抜けである。
普通さ、こういう時って、もっと気持ち悪るがると思うのだが、この世界では違うのだろうか? 取り敢えず返答して、何をすれば良いのかを聞かなければならない。
「ありがとう、母さん! まずは、何をすれば良い?」
「まずは、魔粒子を、集められるようにならないとね」
早速出た専門用語だ、魔粒子とは何ぞ?
「母さん、魔粒子? って何?」
「そうね、先ずはお庭に出ましょうか」
「は~い」
そして、俺とマルナは家の中庭に出た。
庭と言っても、家の中庭だ。12畳程の広さが有り、父親のライアスが、国や隊の仕事が無い時に、此処でよく槍の素振りをやっている。
俺も何度か見たが、見事なものだった。
槍と言っても数種類あるが、その話はまた今度にしよう、今は魔法だ。
「先ずは母さんが、お手本を見せるから、良く見ててね」
「はーい」
マルナが両手を胸の前に、水を汲むような形を作る。
するとその掌に、空気中からなにやらキラキラと、緑色に光る粒子のようなものが集まり、やがては収束、大人の拳大程の大きさをした、緑色の球体を作り出した。
「おぉ~! これが魔法!」
思わず声が出てしまった、興奮し過ぎて日本語が出るかと思ったが、2年と数ヶ月、この世界の言語に触れていたら出ないのもだと、内心ちょっと安堵しつつ、マルナの返答を待つ。
「そうよ、これが魔粒子を集める一番最初の魔法よ」
「どんな風に、やればいいの?」
「先ずはこの辺りにある魔粒子を感じるのよ」
「…」
で、どんな風に感じるのか解らないが、取り敢えずマルナがやっていたみたいに、胸の前で水を汲むような形を両の掌で作る。
そして、取り敢えず念じてみる! 魔粒子よ集まれ! とね。
すると、薄っすらとだが、俺の周りでなにやらモヤっとしたような、フワっとしたような、そんな感覚があった。
これはしめたと思い、さらに集中し、感覚を研ぎ澄ませる。
すると、大気中にある魔粒子の動きがなんとなく掴めて来た。
そして、異世界魔法に良くあるイメージってのを実行してみる。
イメージするのは、さっきマルナが掌に作った拳大の魔粒子の塊だ。
俺が集中する事数十秒…。
ついに! 俺の掌に、薄黒い魔粒子が集まり始めた! と同時に、俺の魔結晶が仄かに暖かくなる。
そして、その数秒後…。
俺の掌に、俺の拳大の大きさをした、黒い魔粒子の塊が出来上がった。
ぬおおお! 出来た! 出来たぞ! 感動の瞬間だった。
「か、母さん! これ、出来た!?」
「す、凄い…。まさか…。いきなり成功するなんて…」
「え? あ……」
いきなりの倦怠感、さっきまで暖かかった俺の黒い魔結晶が、今は少しヒンヤリする。
そしてクラッと倒れかけて、マルナが俺を支えてくれた。
「大丈夫? 今とっても疲れたでしょ? その感覚が魔力切れよ」
「はぁ…。はぁ…。ま、魔力…。切れ?」
息も絶え絶えで聞いてみた、しかし、此処まで疲れるのか…。
これは注意しなければならんが…。
ヤバイ、意識が途切れそう…。
「そうよ、魔法を使うと、回りから使った魔粒子と同じ位の量の体内魔力を使うのよ」
「体内、魔力って…。鍛え、られる…?」
「え!? そ、そうね。毎日ちょっとづつ練習していけば、鍛えられると思うわよ」
「良かった… それ、なら、あ、ん、し、ん…」
そこまで言って、俺はあまりの倦怠感と疲労感から眠ってしまった。
なにやら最後に、マルナが色々言っていたようだったが、よく聞こえなかった。
こうして、俺の魔法の初日は終了した。と同時に、魔法の特訓の日々が始まったのだ。
■■■
私の名前はマルナ・リヴォース、種族はマルーノ、旧姓をクリミナと言う。
15歳の成人式の後に、クリミナの実家を出て、中央大陸のカルリアの最大の王国、ルキリア王国の城下街ルキリスを拠点に、冒険者稼業を始めた。
初めてルキリスに来た時は、右も左も解らないので、うろうろしていると、突然、この国の兵士と思しき男に、声を掛けられた。
「まいったわねぇ、冒険者ギルドはどこかしら?」
「そこの美人の冒険者さん、迷子かい?」
私は振り返り、その声を掛けて来た男を見る、赤い瞳で、その目つきは鋭い、髪の毛は茶色だった。
目つき鋭いが、その雰囲気は、優しそうだった。
声も、人当たりの良さそうな感じで、全体的に、ハンサムな好青年だった。
正直私の好みの男だ、しかも歳も近そうだった。
この男なら大丈夫だろうと思い、私は勇気を出して、この男に案内をしてもらおうと、返答を返した。
「あぁ、良かったら、冒険者ギルドを教えて欲しいのですけれど」
「冒険者ギルドを探しているのか? それなら俺が案内するよ」
彼の後ろを付いていき、冒険者ギルドに向かった、初めての街でいきなり男に声を掛けられる。
もう少し、警戒すべきなのだろうが、直感で信じられると思ったから、今こうして、付いて行く。
それにしても、大きな街だった、歩けど歩けど、冒険者ギルドに着かなかったのだ。
始めは、騙されたと思ったが、実際には何事も無く、寧ろ安全に、冒険者ギルドに到着した。
「ここがルキリスの冒険者ギルドだよ」
「あ、ありがとうございます」
「なんか驚いてるね?」
「いえ、あまりにもすんなり着いたものですので、少し拍子抜けしちゃって」
「もしかして、大きな街で、男に声を掛けられたから、何かあるかもって、思った?」
「はい、都会は怖いと、聞いていましたので」
「なるほどね、だから道中、やたらと警戒してたのか、あまりの雰囲気に、俺も声を掛けれなかったよ」
「そんなに、警戒してましたか?」
「してたね」
「ご、ごめんなさい…」
「いや、気にしなくて良いさ。そうだ、自己紹介させてもらおうかな」
「え!?」
「俺はライアス・リヴォース。この国の突撃隊の副隊長をしているんだ。と言っても、この国じゃ相手にするのは魔物か魔獣だけだけどね」
「あ、私はマルナ・クリミナと言います。駆け出しの冒険者ですけどね」
「そうか。ではマルナ、此処で出会ったのも何かの縁だ、困った事があったら、この手形を持って王城まで来てくれ」
そう言って、一方的に手形を渡され、ライアスと名乗った兵士は走り去ってしまった。
これが私の夫、ライアスとの出会いだった。
それから3年程、この国で冒険者として活動をした。
私の魔結晶は緑色だったので、回復と補助をメインに行い、前衛と後衛の状態管理が主な役割だったが、幼少の頃より、祖父に鍛えてもらった剣術もあったので、前衛も出来る回復補助役として、とても重宝された。
私は特定のチームやパーティを組まずに、誘いがあればそれに乗る、という形で、モンスター討伐や、素材の採取で生計を立てていた。
時には、直接軍隊に参加して、魔物討伐に向かうようにと、国から指令状が届いた事もあった。
その時には、ライアスの居る部隊の回復補助役に就かせてもらっていた。
そしてこの年、大きな魔物の群れが王国を目指している、という事件が起こり。
私は例に漏れず、指令状を頂戴し、ライアスの部隊に配属された。
そして、かなりの長丁場で、その魔物の大群を討伐した。
その時ライアスから。
「この戦いが終わったら、俺と結婚しよう!」
なんて台詞を貰った。
正直、とても嬉しかった―――
そして戦いが終わり、私もライアスも生き残り、宣言通りに結婚した。
ライアスと結婚して数ヵ月後の事だ、私は妊娠していた。
実は少し前から分かってはいたが、報告はしなかった。
それから更に数ヶ月が経ち、私達の間に子供が生まれた。その子の魔結晶は黒色だった。
黒い魔結晶はとても珍しく、伝承や伝説にしか登場しない程のものだ。
初めての御産はとても苦しかったが、初めての我が子と、その魔結晶のお陰で、苦しさも吹き飛んでしまった。
その時のライアスの言葉は、今でも忘れられない。
「で、で、で、でかしたぞ! マルナ! 黒い魔結晶だ! しかも男の子だぞ!!!」
何時もの飄々としたライアスが、大声で喜んでいたのだ。忘れられもしない。
そして、子供の名前は「ダイン」と名付けられた。
目の色は左右で違っていて、右目は赤く左目は青。髪の色は、ライアスと同じく茶髪だった。
子供が出来てしばらくしてから、気が付いた事がある。
それは、赤ん坊はとても手が掛かると聞いていたわりには、そこまで手が掛からないのだ。
赤ん坊は夜中に夜鳴きをすると聞いていたのだが、そう言うことも無い。
更には、何が悪いのか解らないのに突然泣き出すなど、とにかく手が掛かると聞いていたが、そういった苦労は殆どと言って良いほどに無かった。
ある日の事だ、ダインが本に興味を示し始めた。
始めの内は何も不思議に思わなかったが、日に日に本に書かれた内容を理解しているような…。そんな雰囲気を感じ始めた。
ダインはライアスに、数十日も同じ英雄伝を読ませていた。
誰でも知っている、白い勇者と邪龍の物語だ。
途中で止めようものなら、突然泣き始めるので、ライアスも仕方なく、同じ本を繰り返し繰り返し読んでいた。
この時に気が付くべきだったのかもしれない、この子が、普通の子供ではないと…。
そして更に月日が経ち、ダインが興味を示す本は、だんだんと内容が複雑に、そして難しくなっていく。
一歳になる前には、読まされる本が、私が冒険者の時に愛用していた植物辞典になっていた。
もしかしたら、ダインは神童ではないのか? とも思ったくらいだ。
そして更に月日が経ち、ダインが2歳となり、少したった頃だ。
「母さん、魔法教えて」
驚きだった、2歳にして、魔法に興味を持ったのだ。
私はこの時ふと思った、この子は神童ではないのかと。
だが、お産時に来てくれた先生は、魔結晶は黒いが、普通の男の子だと、そう言っていた。
確かに今まで、超常的な能力を使った事は無い。
だとすると、異常に知能が発達しているのではないかと、そう思うようになった。
だとすれば説明が付く、私達夫婦はこれといって特別な教育をしているわけではない。
たまたま、ある日突然本に興味を持った賢い子であると、今はそう考えておこうと思う。
話を戻すが、魔法となると、子供の体内魔力は極微小であると、魔法学の本にも載っている。
しかし、その子供とは主に、5歳以上の子供の事を指している。
ダインのように、2歳と数ヶ月の子供ではないのだ。
でも今、私に抱えられているこの子は、いきなり初歩魔法である、魔力球を作るという事を成功させた。
2歳児では到底無理であろうとは思っていたが、それでも成功させた。
そして気を失い、寝息をたてる寸前に、体内魔力は鍛えられるのか? とも聞いてきた。
そんな事は、2歳児が考えそうな事ではない。
もしかしたら、本当に神童ではないのか? そう思ってしまう。
しかし、神童なんて言葉を、おいそれと使うわけにもいかない。
この世には、もっと凄い力を持って生まれた者達が居る。
例えば、魔物の数を正確に把握出来る能力を持った者であったり、僅か数秒とはいえ、未来を見る事が出来る能力を持った者であったりだ。
そんな特殊な力は、この子には備わっていない。
いや、もしかしたら、持っているのかもしれない。
だが、そんな素振りは見られない。
もしそんな能力をこの子が持っていれば、何か違和感を感じてすぐに相談するだろう。
2歳にして巧に言葉を話し、小難しい本を読む事が出来る、そんな賢い子なのだから、相談の一つもしてくるだろう。
だが、体内魔力を鍛えるのは、基本的に10歳からだ。
その以前に体内魔力を鍛えるとどうなるのか? それは私には解らない。
ライアスが帰ってきたら相談してみようと思う。
私はダインを抱きかかえ、この子の寝室のベットにそっと寝かせた。
今後も頑張って更新を続けて行きます!