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第七話 森の探索 そして出会った…

 エピタルの森偏 その3です

 さて、野外演習も3日目だ。

 昨日の夜は良い夜だったな…。友情的な意味で。

 そうそう、寝る前に、リディスとシンシアが歌を歌ってくれた。

 その歌は、二人の美声も相まって、非常に幻想的なものとなった。

 俺とマークは黙って聞いていた。

 歌の内容は、この世界の出来事を詩にしたものだった。


 今俺達は、近くの小川で水浴びをしている。流石に汗臭いからな。

 ついでに魔道具も持って来ているので、水浴びが終了したら直ぐ頭を乾かせる。

 リディスとシンシアは、俺とマークから距離を離した所で水浴びをしている。

 マークが覗きに行こうとしていたが、俺が全力で阻止したので、事無きを得た。

 ま、俺は嫌われたく無いから絶対にやらないけどな。

 俺とマークの二人は、女性二人が終わるまで、雑談しながら待つ事となった。


 待つ事数十分程…。やっと二人が現れた。

 マークはブーブー文句を言っているが、気にしてはいけない、何時もの事なのだから。


「この魔道具、ホントに便利だよね」

「ホントね~、ダインに感謝しないとね~」


 二人がドライヤーを指差しながら、そんな事言っていた。

 ま、最初は俺が使いたいから作ったんだけどな。

 因みにドライヤーは、発動紋記号を付け外し出来るような作りになっている。

 じゃないと、永遠と温風を出し続けるシュールな魔道具になってしまう。

 体内魔力を流し込むタイプにしようとも思ったが、俺が使うと温風じゃなくて、灼熱風になってしまうので、今の魔粒子収束タイプに落ち着いたと言う悲しい経緯がある。


「そうかい、喜んでくれているなら、俺は嬉しいよ」

「まったく… ダインばっかりズルイぜ…」


 マークが凹んでしまった。

 大丈夫! また直ぐに立ち直るさ!


 その後俺達4人は自分達の寝台に移動し、今日のメインイベント、森の探索の準備をする。

 今日は皮製の防具と、鉄製の防具を着込み、実戦用の鉄の武器を手に取る。

 魔道具も持っていく、マジックセンサーだな。

 マジックセンサーを、人類以外に使うとどうなるのか? それを試す事が出来そうだが、何か起きてコロっと忘れてしまうかもしてないな…。

 準備を終えた俺達は、昨日戦闘訓練をした広場に向かう。

 そこでは早くも、己を鼓舞する先輩達の姿が目に入った。

 俺達が座れそうな場所を探していると、昨日襲われた寝台の女生徒が俺達に手を振っていた。俺達も笑顔で手を振り返す。

 その後俺達に近付いてきて、各々再度お礼を言ってきた。

 今日は森の浅い部分で探索するらしく、護衛の教師を数名付けて貰って挑むそうだ。

 どうやら、トラウマにはなっていないようで一安心である。

 いやしかし、異世界の人達はタフだね、俺だとトラウマになってるかもな。

 あ、先輩達の名前聞くの忘れてたな、今度聞こう。

 この直ぐ後、朝食の準備が終わったようで、俺達は朝食を食べる。

 食べ終わった後、教官が皆を整列させ、口上を述べる。


「では諸君! 野外演習の最終訓練である! 各々気を抜かぬように! それから、今よりこの辺り一帯の地図を渡す! 各班、各グループで1枚ずつ受け取るように! それから! 携帯食料は必ず持って行け! それでは、受け取った者から移動開始!」


 この口上の後、手馴れた先輩達は地図を受け取り、素早く森の中に入って行く。

 俺達も地図を受け取り、森の中に入って行く。その時。


「お前達! くれぐれも無理はするなよ?」


 俺達を心配してくれたのか、教官が声を掛けてきた。

 仁王立ちの何時ものポーズだ。非常に厳つい。


「大丈夫ですよ、無理はしませんから」


 そうとだけ言って、俺達4人はエピタルの森の中に入って行く。

 始めは緊張して、終始無言だったが。

 森に完全に入り、しばらくたった頃。

 モンスターに襲われる気配が無かった為、歩きながら雑談等を始める。

 それから更に少し経った頃…。


「なぁ~、モンスターが出てきたら、ヤっちまって良いんだよな?」


 おいおいマークよ、幾等なんでもストレートすぎじゃ無いか?

 俺が突っ込みを入れようとしたら、シンシアが何かに気が付いたようだ。

 辺りをキョロキョロと見ている。


「チョット待って…。何か聞こえない?」


 俺達は耳を澄ます…。

 ん? 確かにキーキーと、モンスターの鳴き声が聞こえる。

 泣き声は複数あるようだ。もしかして群れか?


「本当だね…。確かに聞こえるよ」


 とリディスがそう言った時、マークが動き出した。


「こっちだな」


 マークが俺達の先頭を歩き、俺が殿を勤め、リディスとシンシアが真ん中を歩く、何気にポジションが出来上がっている。

 俺達が、黙ってマークに付いて行く事しばし…。

 マークが手で、待った! の合図を送る。

 木の陰に隠れながら、マークは一点を見つめている。

 どうしたのかと思い、俺もその木の陰から覗いてみると…。

 なんと! そこにはモンスターの集団が居た!

 ゴブリンが多いが、中央にはトロールらしき大型のモンスターも居る。

 トロールは、単体ランク4の危険なモンスターである。

 普通なら、俺達のような少年少女が挑んで良い相手ではない。

 良く見ると、トロールは2体も居る。

 さて、どうするか…。

 そう考えていた時、リディスが何かを発見したようだ。


「ねぇ、あの真ん中のトロールが持ってるのは…。もしかして妖精? かな?」


 リディスの言葉を聞き、皆の視線が中央のトロールに集中する。

 俺にも見えた! 確かに人の姿をした小さい何かを持っている。

 良く見ると、小さい手足をバタバタさせて、抵抗しているようだ。

 これは助けたいな…。


「よ~し! わたし! あの妖精さんを助けるよ~」


 シンシアが最初に助ける提案を出した。俺も賛成だ。

 だがしかし、無闇に手を出すと、妖精が潰されたりする可能性が非常に高い。

 ここは作戦が必要になる。


「俺も賛成だ、助ける前に、少しだけ作戦を練ろう」

『了解』


 皆は一度頷き、小声で了解してくれた。

 そして作戦会議が始まり、結論が出る。

 

 作戦会議の結果はこうだ。

 先ず、シンシアが弓でトロールの頭の直ぐ横を撃ち抜き、注意を逸らす。

 その隙に、マークが大剣でトロールの右腕を切り落とす。

 切り落とした所を、俺が身体強化魔法を使って一気に助ける。

 混乱しているゴブリン達を牽制するのはリディスの水属性の攻撃魔法である。

 ゴブリンを殺した時に出る悪臭は強烈だ、二度と嗅ぎたくない。

 この件は皆も納得してくれた。

 なので、水属性の魔法で一気に押し流す作戦である。

 助け出した後は、モンスターを討伐、もしくは撤退に追い込む。

 戦闘終了後、妖精さんとお話をする。

 と言う流れになった。

 作戦開始前にもう一度モンスター達の様子を見てみると、何やらゴブリン達が、中央のトロールに平伏している。

 妖精さんは? と思い、良く見てみると、まだ抵抗している。

 どうやらまだ無事な様子で一安心だ。

 事は一刻を争う、俺はシンシアに合図を送り作戦が開始される。


 シンシアが弓を放つと同時に、マークが身体強化全開で切り込む。

 がしかし、シンシアの弓は…。

 見事に! トロールのオデコの中心を射抜いた!!

 おいおい、作戦が違うんじゃないのか? とシンシアを一目見ると。


「えへへ。当たっちった」


 ネットゲームだったら、この語尾の最後は草が数本生えているだろう。

 てか、シンシアさん? 絶対狙って射抜いたでしょ?

 …いやいや、そんな事より…。

 頭を射抜かれたトロールは、ショックから前のめりに倒れようとしている。

 周りのゴブリン達も騒ぎ始めている。

 もう1体のトロールは、辺りを警戒している様子で、ドデカイ図体をグルングルンと振りながら辺りを見回している。


「おぅらぉ!!」


 倒れようとするトロールの右腕を、マークが大剣でバッサリと切り落とす。

 俺は、切り落とされたのを見て直ぐに、身体強化魔法を全開にし、一瞬で距離を詰め、トロールの右手を開き、妖精さんを助け出す。

 この時は、身体強化を少し緩めている。

 全開だと、妖精さんを潰しそうだったからな。

 下半身だけ身体強化を使い、優しく妖精さんを両手で包む。

 動きが無かったので、少し心配になり、妖精さんの鼻元に指を近づけると、まだ息をしていた。

 どうやら、気絶しているようだった。

 無理も無いだろう、いきなりトンデモな状況になったのだ。俺だったら失神してるね。

 助け出したのを、リディスに目で合図を送る。


「この位で良いのかな? もうチョット強めかな?」


 リディスは水属性の攻撃魔法を行使し、ゴブリン達を押し流す。

 ゴブリン達は何の抵抗も許される事無く、目の前に発生した大水玉に流されて行く。

 前のめりに倒れたトロールは、脳の大事な部分をやられたのだろう、全く動かなくなった。

 最初はピクンピクン痙攣していたのが、ちょっとシュールだった。

 ゴブリン達が半分も押し流された頃。

 残ったトロールが俺にパンチを仕掛けてきた。右ストレートだ!

 俺は全力の物理障壁を展開させる。


 ドスン! ゴリゴリ!


 と嫌な音を立てる。

 トロールの攻撃は、俺の障壁に阻まれるばかりか、あまりの硬さに手の骨を折ってしまったようだ。

 無理もなかろう、俺の物理障壁をブチ敗れるのは、全力で身体強化を使ったダストンパンチだけだからな。

 痛そうに自分の右手を撫でるトロールB、哀れだ…。

 俺はシンシアに合図を送る。


「シンシア! 今だ!」

「あいよ~! オデコを狙って~。発・射~!」


 …聞かなかった事にしよう。

 シンシアの弓が深々とトロールの頭に突き刺さる。

 綺麗に大事な部分に当たったのだろう、そのトロールは仰向けに倒れた。


 ズズ~ン!


 と倒れる音を出し、全く動かなくなる。

 俺は念の為、マークに心臓を貫くように指示を出す。


「マーク、念の為だ、心臓を突き刺してくれ」

「応よ!」


 マークが、2体のトロールの心臓を一突きし破壊する。

 彼がやると、どっかの魔王様みたいだ。

 若干血の匂いがするものの、アノ悪臭はしないようで一安心だ。

 木っ端微塵にしなければ、血の匂いだけで済むらしい。

 俺はその一部始終を見終えると。妖精さんを、大きめの葉っぱの上に寝かせる。

 俺は、辺りの血溜りを綺麗に流すよう、リディスに指示を送る。


「リディス、辺りの血溜りを綺麗に流してくれるか?」


 リディスは少し考えて行動を起こす。


「うん、良いよ! 任せて!」


 リディスが水属性の攻撃魔法を弱めに発動させて、辺りの血溜りを綺麗に押し流す。

 辺りが水浸しになってしまったので、俺が超弱めに風属性の攻撃魔法を、360°に範囲設定し撃ち出す。

 勿論の事だが、俺達と妖精さんに、対攻撃魔法障壁を張っておく。

 何度も言うが、俺達友人メンバーと妹は、魔法を行使する時、手を翳したりはしない。無手で行うようにしている。

 何故かって? 相手が賢かったら一発で、手を翳した行動が魔法だとばれてしまうからだ。

 マークはたまに格好を付けて翳したりしているがね…。


 ビュオォーーーン!!


 と、かなりの風音を立てながら、辺りの泥が綺麗さっぱり吹き飛ぶ。

 いやね…。何でこうなるの? 超弱めに設定したんだよ? ホントだよ?

 事態が一段落した所で、妖精さんは? と見てみると…。

 まだ気絶してるみたいだ、起きるまで待つか…。

 と思ったら、リディスが妖精さんをツンツンし始めた。


「ん…。 んん?」


 お? 妖精さんが起きたようだ。


「妖精さん? なんだよね?」


 リディスがそう尋ねると、妖精さんはムクっと起き上がった。


「え!? どうなったの? アタイはどうなったの? 食べられるの? 脱がされるの? ダメダメな事されるの?」


 忙しい妖精さんだな。

 それより、ダメダメって何だよ…。

 だけど、無事な様子で何よりだ。

 妖精さんの特徴だが。

 脹脛まである豪奢で長めの紫髪、紫の瞳、大きくて可愛いクリクリとした目付き、紫の民族衣装でワンピース型 超スリム体型。


「あんた、わたし達が助けたのよ? 感謝しなさいよね~」


 ズイっと、妖精さんに顔を近寄らせるシンシア。


「あ! うん! ありがとう! ホントにありがとう!」


 今度はお礼を述べてくれた。いやしかし、キンキン声だ。

 耳の傍では聞きたくないな。

 それはそうと、どうして掴まってたんだろ?


「おい妖精! なんで掴まってた?」


 マークよ、もう少し優しく聞いてあげなさい。

 妖精さんは、マークの言葉を聞くと同時に、空中に浮かぶ。

 って! え!? 羽も無いのに飛べるのですか?

 辞典に飛べるって書いてあったっけか?


「アタイのドジで、トロールに掴まっただけよ…」


 少しシュンとしてしまった。

 何してて掴まったのかは…。あえて聞くまい。

 しかし、どうやって空飛んでるんだ?

 俺はそれが知りたいな。


「ねぇ 妖精さん。お名前聞いても良い?」


 リディスの問いを聞いた妖精さんは、シュンとした顔から立ち直る。


「アタイはソフィよ、この近くの泉に住んでるの。助けてくれたお礼に案内するね」


 おぉ! 期せずして、謎に満ちた妖精の住処に案内される事になったぞ!

 これは良い経験が出来そうだ。

 ん? 泉?


「ん~? 泉に住んでるって? どういう事?」


 シンシアの疑問はもっともだ。

 俺も同じ疑問を抱いたからな。


「来たら分かるよ」


 ソフィはウインクをし、俺達を泉に案内する事になった。

 俺達は妖精さんの後を付いて行きながら、自己紹介等を済ます。

 歩く事30分程、直径3メートル程の小さな泉が見えてきた。

 ん? 辺りには何の気配もないぞ?

 それから少し歩くと、泉の前で止められた。


「そこで止まって! これから開けるから」

「あける?」


 俺は疑問に思ったので、そう聞き返してしまった。

 皆も同じ気持ちなんだろう。

 訝しげな表情をしている。

 妖精のソフィは両手を広げ、何やらブツブツ言い始めた。

 どうやら呪文のようだ、この世界に来て初めて聞くかもな。

 これも何度も言うが、この世界の魔法はイメージが全てだ。

 呪文の類は存在していない。

 待つ事数秒…。

 ソフィの両手から、見た事のある幾何学模様が出てきた。

 俺はその幾何学模様を良く知っている。

 否! 毎日見ている!

 そう! 紋記号魔法の紋記号じゃないか!

 俺は驚きの余り一瞬固まってしまったが、直ぐに再起動する。


「お、おい! ソフィ! それって…!」

「ふっふ~ん! 驚いた? 妖精だけの特別な業なんだよ」


 ソフィは自慢げに、顔だけ俺に向けてこう言った。

 俺はそれ以上言葉が出なかった。

 ただただ、その光景に見入っていた。

 更に待つ事数十秒…。

 紋記号が一つに纏まり始め、一つの紋記号円を形成する。

 するとなんと! ソフィの目の前に空間が開け門を形成し始めた。

 それから少し待つと、門は完全な形になる。

 人類の大人が横に並んで3人は一気に通り抜けられそうな大きな穴だ。空中に浮いているがね。

 門を形成し終えると、ソフィは自慢げな顔をしながら此方を振り向く。

 そして腰に手を当て、自慢したい女の子のポーズだ。


「さっ! こっちよ、付いて来てね!」


 非常に自慢げである。

 流石のマークも、言葉が出ない様子だ。

 俺だって絶句してる。

 俺達は無言で頷き、ソフィの後に付いて行く事になった。

 次回でこの世界の謎にちょっとだけ触れます。ちょっとだけです…。

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