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第五話 初めての遭遇

 エピタルの森偏スタートです。

 大勢の学院生を乗せた、寝台付きの豪華な馬車の列は、ルキリア王国のメインバイパスとなる、ルキリス街道を移動中だ。

 始めて見る街の外の風景は絶景だった。ルキリスの街の近辺には、広大なルキリア河が流れている。

 しかし堤防が無い、河が氾濫したらどうするんだ? と、ふと思ったが、この10年、大きな天災は起こっていない。

 雨は降るが、嵐までにはならない。そう、この地域は、実に気候が安定している。

 俺も不思議に思うが、安定しているのならそれで良しとしよう。細かい事は気にしないようにするのも、異世界で上手に暮すコツである。

 この辺り一帯は草原になっている、広い広い草原…。そこを走る野性の動物もちらほら居る、魔獣とは呼べない大人しいウサギのような動物だ。

 こうして外の景色を見ていると、世界は生きているんだな~っと実感する。

 そんな景色を眺めながら、俺達4人は馬車に揺られていた。

 がしかし、そんな素晴らしい景色でも、何時間も見ていると飽きてくる。

 出発から3時間程しか経っていない、この先も同じ景色が続くと考えると非常に憂鬱である。

 景色に飽き始めてから更に数分後、我慢の限界を迎えたマークが突然立ち上がる。


「もうダメだ! 俺は限界だ!」


 俺は、今にも馬車から飛び降りそうなマークの腕を掴む。


「おい! 落ち着けマーク! もう少しで昼飯だ! せめて、それまでは大人しくしてろ!」

「放せダイン! もう限界なんだ!」


 それでも飛び出そうとするマーク、それを見かねたシンシアも彼を宥める。


「マーク! 少し落ち着きなさい! わたしだって辛いんだから!」


 シンシアも辛かったのか、何時もよりも厳しめの声音だ。

 この窮地を救ってくれたのは、リディスの一声だった。


「ねぇねぇ、後ろの寝台に行ってみない?」


 ナ~イス、リディア! 良い事を思いついてくれたな!


「ほら、マーク君も落ち着いて? 皆で一緒に見に行きましょう」


 冷静なのは君だけですか? リディスさん。

 しかし、正に救いの一声だ。

 これが無ければ、マークは大暴れしていた可能性が高い。

 俺は、リディスに小声で感謝を述べつつ、皆と一緒に寝台に行ってみる事にしたのである。


 取り敢えず、マークに最初に寝台に入るように言うと。

 マークは嬉しそうに寝台の扉を開く、するとマークの歓喜の声が聞こえた。


「うおおお! なんじゃこりゃ! メチャクチャ豪華じゃねーか!」


 ほほ~、それほどなのか、俺も入ってみる。

 するとそこには、寝心地良さそうな2段ベットが有るではありませんか! しかも丁度4人分だ!

 まさか、ここまで金が掛かっているとは思いもしなかった。

 その寝台の中には、大きめの木箱が置いてあった。

 気になったので蓋を開けてみると、中には幾つかの魔道具とかが入っていた。

 確認してみると、マジックセンサー、温風発生筒、温水生成瓶、後は歯ブラシ、石鹸、後は何枚かの布と生活用品だった。

 ここまで金を掛けるのは、一体何故なんだろうか? 非常に興味がある。

 言い忘れていたが、魔道具の名称は全てカディウスさんが付けている。

 俺の言い方だと、どんな性能を持っているか伝わらないそうだ。

 温風発生筒=ドライヤー、とかだな。ちょっと残念である。

 そんな事を考えていると、マークが。

 

「良し! 寝るところを決めようぜ! 俺はこの上だな!」


 おいおい、決めるんじゃないのか? それだと、決めた、になりますよマークさん?

 それはそうと、男と女で分けた方が良いだろうから、俺はマークの下のベットにするか。


「なら、俺はマークの下にするよ」

「わたしは、こっちの上にするね~」

「あたしは、シンシアの下ね」


 期せずして、寝台のベット割りが決ってしまったが、こういうのは早い方が良いだろう、後で揉めなくて済むからな。

 しかし、マークの先導っぷりは、絶対に一生直らないだろうな。

 ま、それが彼の良い所でもあり、悪い所でもある。


 俺達が寝台のベット割りをして、屋根付き座席に戻ると、前方の馬車ら順に止まって行くのが見えた。

 何事だろうと思い、御者の人に聞いてみた。


「あの、どうしたんですか?」


 御者の人は、ニコニコ振り返りながら答えてくれた。


「あぁ~、昼食の時間になったみたいだよ。君達の分も、直ぐに配られると思うから、もう少しだけ待ってなさい」


 人の良さそうなオッサンは、笑顔で優しく言ってくれた。そうか、昼の時間だったのか。

 俺達は、昼食が運ばれるのをしばし待つ事になる。

 しばらくすると、配膳のデモニックのオバちゃんが、台車を引いてやって来た。


「あら? あんた達はもしかして中等部の1年かい? 今年は4人も居るって言うから、どんな厳つい子かと思ったけど…。女の子まで居るのかい? この演習は毎年大怪我する子もいるんだよ? 大丈夫なのかい?」


 マジか!? ライアスは楽勝みたいな事言ってたから、甘く見てたじゃないか!

 なんだかソワソワして来たぞ…。その様子を見ていたリディスが、オバちゃんに一言。


「大丈夫ですよ! あたし達、これでも鍛えてますから!」

「そんな風には見えないけどね~。まぁいいさ、怪我しないでおくれよ…」


 オバちゃんはそう言って、台車のドデカイ鍋からスープを器に注ぎ、鍋の横の木箱から、大人の拳大程の大きさのパンを取り出し、俺達に渡してくれた。


「ほら、あんたで最後だね。その食器は、後から回収に来るデモニックのおじさんに渡すんだよ」

『は~い』


 俺達は4人一緒に返事をする。

 まぁしかし、やっと昼食か…。後どの位の道のりなのだろうか? 

 ライアスの話では、昼食休憩から少し行けば到着らしい。

 俺達は昼食を続けながら雑談をし、食べ終わった食器を回収に来たデモニックのオッサンに渡し、再び馬車に乗り込む。

 考えてみれば、俺達だけで食事をしたのは始めてかも知れない、ダストンも一緒ならもっと楽しかっただろう、非常に残念である。

 そして、それからしばらく馬車に揺られていると、やっと目的地に到着する。

 到着した早々、手馴れた先輩達は、木箱だけを沢山乗せた馬車に走って行くのが見えた。

 何をやるのかと思ったら、キャンプの設営のようだ。

 俺達も馬車から降りて、キャンプの設営を手伝う事になったので、そのまま設営の手伝いをする。

 設営場所は、エピタスの森の入り口から少し離れた平野部分だ。

 近くには小川も流れていて、キャンプ地にはもってこいの場所である。

 先輩達の手際は良く、俺達4人は、足を引っ張らないように立ち回るのが精一杯だった。

 俺も前世では良くアウトドアなどに出掛けたものだが、その時は簡単に設営できるテントしか使った事が無く、こうした本格的な天幕などは張った事が無い、これも良い経験になった。

 キャンプの設営が終わる頃には夕刻となった。

 この時に、謎の大きな木箱から、各自武器を取る事になった。

 勿論俺は槍を取る、リディスが剣と盾、マークが大剣バスターソード、シンシアが短剣と弓一式。

 俺達は、それを自分達の寝台ベットの近くに置きに行く。

 この後は、そのまま夕食となり、そのまま就寝の時刻となる。

 俺達は雑談も程々に、豪華寝台にて眠りに付く事になった。


 次の日。

 俺は、4人の中で最初に目が覚めた。

 他の3人を起こさないように、静かに外に出る。

 外は霧が掛かっており、辺りの視界は悪かったが、目の前に広がる大きなエピタスの森は…。なんだか神秘的だった。

 俺がその光景に見とれていたその時、事件は起こった。

 遠くから何やら音が聞こえたのだ、俺は不信に思い、音のする方角目指して身体強化の魔法を使い、そして駆け出した。

 すると、段々とその光景が目に入って来た。

 なんと! モンスターに寝台が襲われいたのだ。

 そのモンスターは緑色の体をし、酷い顔つきのちょっと憎めないアイツ、そう、ゴブリンだった。

 ゴブリン達が寝台を取り囲むように展開している。

 数からして、複数ランク2である。

 通常ならば、俺達のような学生が相手できるレベルではない。

 だが俺は、咄嗟に風属性の攻撃魔法を繰り出す。

 威力は弱めに設定していたが、俺の魔結晶の効果もあるのだろう。

 その攻撃魔法にさらされたゴブリンは、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 辺りには緑色の血飛沫が舞い散り、酷い臭いもする。

 俺の攻撃によって、ゴブリン達の視線は俺に向けられる。

 さっきは咄嗟に魔法を放ったが、今は少し足が震える。

 考えても見て欲しい、俺は…。いや、俺達4人は、今まで街の中でヌクヌクしていたのだ。

 それが今は、こうして危険なモンスターに睨まれている。

 少しの恐怖も無いほうが異常だろう、実際俺は恐怖から震えている。

 しかし、現実は待ってはくれない、一匹のゴブリンが奇声をあげて、俺に向かって襲い掛かってきた。


「キキィー!」


 その手には、木を折っただけの質素な棍棒が握られている。そのゴブリンは手に持った棍棒を振り上げる。

 俺は咄嗟に、何時もの訓練で使っているバックステップでそれを避ける。

 攻撃を避けられたゴブリンは、その醜悪な顔を更に歪め、俺に再度攻撃しようと棍棒を振り上げ、再び飛び掛ってきた。

 さっきは咄嗟に何時もの癖で避けれたが、今度は足が竦み、上手く動けない、目の前まで迫るゴブリンの棍棒。

 ヤバイ! やられる! と思ったその時だ!

 赤黒い影が俺の視界に飛び込むと同時に、それまで目の前にあった棍棒は消えていた。

 俺はハっとなって、その赤黒い影だった者を見る、

 そいつは、脳筋で、我慢が足りないが、仲間思いの良いヤツ。マークだった。

 俺はホッと胸を撫で下ろす、するとマークが、気の抜けた顔で話しかけてきた。


「おい、ダイン、俺を置いて、楽しそうな事するなよな?」


 俺は必死に、否定の言葉を述べる。


「いやいや、俺は楽しくないぞ! というより、足が竦んで動けなかったんだぞ!」

「はぁ? お前らしくも無いな? 何時ものお前なら、こんなヤツ等、楽勝だろ?」


 気の抜けた顔でそう言われてしまった。

 何だか、さっきまで怖がっていたのが嘘みたいに引いていく。


「まったく、お前のその胆力を見習いたいよ…」


 マークが来てから、肩に入っていた力が一気に抜けた、俺は冷静になり辺りを見渡す。

 すると、先程マークにぶっ飛ばされたゴブリンが横たわっている、動かない様子から、気絶したのか…? 絶命したのか…?

 それは判断できないが、一匹の脅威は消えた事が解った。

 だがしかし、油断は禁物だ、まだゴブリンは生き残っている。

 冷静になれた俺は、速やかにゴブリンの数を確認する、生存しているのは三匹だった。

 その三匹の内一匹は、他の二匹よりも体格が大きかった、恐らくこの集団のリーダーなんだろう。

 俺がそれを確認している最中、デカイゴブリンは、小さいゴブリンに何やら命令している。

 キィキィ、ギャーギャー、と、何か言ったと思ったら、その小さい二匹が同時に動き出す。

 一匹は俺に、もう一匹はマークへと向かい、それぞれに襲い掛かってきた。

 今度は俺も冷静になり、襲って来たゴブリンに風属性の攻撃魔法で衝撃波をお見舞いする。威力は先程と同じ位だ。

 今回は冷静に風の属性にした、火だと寝台を燃やしかねないし、雷だと恐らく轟音が轟く、俺が放つ攻撃魔法はどれも、威力も音も凄まじくなってしまうが、風属性の攻撃魔法なら、突風が過ぎ去る程度の音で済む。

 勿論、威力は抑えての話だ。

 その風属性の攻撃魔法は、ギュオン! と空を裂く音を出しながら、俺に向かったゴブリンに襲い掛かる。

 ゴブリンは何の抵抗も許されないまま、空中で木っ端微塵になってしまう。

 それと同時に、マークに向かったゴブリンは、身体強化され、更に凶悪になったストレートパンチを食らい、空中で木っ端微塵になる。

 その様子を見ていたデカイゴブリンは、焦った表情をしたが、時既に遅し、俺は風属性の攻撃魔法を打ち放つ。

 今度のは、さっきよりも、ほんの少しだけ威力を上げておいた。

 デカイゴブリンに襲い掛かる風属性の攻撃魔法は、デカイゴブリンに何の抵抗も許すことなく、その身を空中で木っ端微塵にしてしまう。

 我ながらとんでもない威力である、というか、これを避けたり、対魔法障壁で防いだりする俺の友人達が異常なんだろう。

 通常は、今のゴブリン達のような結果になるのだから。

 俺はこの時心に誓った、絶対に一般人に向かって撃ってはいけないと。


 さて、事は終わった。

 ところで、襲われた寝台の中の生徒は無事なんだろうか?

 寝台が倒れたり、壁がぶち破られていない様子から、中は無事だろうと思う。

 となると、まだ木っ端微塵になっていないゴブリンをどうしようか? そう言う話になるので。

 今、俺とマークでそれを話し合っている。

 それにしても、教師陣は誰か気が付かないのか?


「やっぱり…。先生達に報告した方が良いんじゃないのか?」


 これは俺の意見だ。

 なんと言っても、ゴブリンが襲って来たのだ。

 ここで報告して、警戒を強めるべきである、というのが俺の主張だ。

 だが、マークは違う。


「いや、そうじゃないな。こいつ等の本体を叩くべきだ」


 と、こんな感じで意見が纏まらないのだ、どうしたものかと思っていると、足音が聞こえてきた。

 足音は二つ、少し小走りのようだが…?


「あぁ~! こんな所にいたよ~、ってクッさ! 何これ!?」

「ううぅ…。これはチョット勘弁かも…」


 シンシアとリディスが現れた、辺りはまだ霧が掛かっている。

 俺がこの現場に来てから、随分時間が経ったように思うが、実際にはそこまで時間が経っていない。

 その証拠に、辺りの霧は晴れる様子もなく、光度も来た時と殆ど変わっていないからだ。

 この二人は、目が覚めたら俺とマークが居ない事に疑問を持ち、恐らく、何やら音のする方に来たんだろう。

 すると、そこには俺とマークが居た、って事なんだろう。

 確かに、この強烈な悪臭はどうにかならんのだろうか…。なんだか、段々気分が悪くなってきた。

 いや、そんな事より。


「あ~、丁度良いところに来たね二人とも。今この死んだゴブリンをどうしようかと、マークと相談してたんだ」


 リディスとシンシアはポカンとした表情をするが、瞬時に怒った顔になる。実に器用だ。


「そうじゃなくて、この状況を先に説明しなさい! クッさ! どうにかなんないの、これ!」

「そうだよ、心配してたんだからね! うぅ~、酷い臭い…」


 二人は鼻を摘み、本当に臭そうにしている。

 俺だって今気分が優れないのだ。というか、俺とマークはずっと居るんですけど?

 と思いつつも、俺とマークは事の成り行きを二人に説明した。


 初のモンスターとの戦闘でした。

 このエピソードは長編となっています。

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