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武器召喚士  作者: どこぞの委員長
第二章~生命の樹~
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ある物語の終わり

 とある部屋に二人の人物がいた。その二人の前ではパソコンのディスプレイのようなものが複数あり、その一つ一つに様々な映像が映っている。さながら大型ショッピングモール等にある遠隔監視設備のようだ。しかし、これはそんな設備ではない。いや、あながち間違ってはいないのかもしれないが、規模が違う。その規模は大型ショッピングモールなど比べ物にならないほどに広い。世界だ、ディスプレイに映る映像は世界規模で展開しているのだ。片方のディスプレイに熱帯雨林があるかと思うと、違う場所では氷に覆われた場所が表示されている。加えて、ディスプレイは半透明で全て浮いていた。完全に今の技術でなすことはできないもの。しかし、この部屋は実際に今存在しているのだ。ただ、場所が地上より高い場所にあるだけ。いや、この言い方には語弊がある。高いというのは物理的なものではない。次元というのが一番近いだろうか。その部屋は地上より高次の場所に存在するのだ。地上の空を覆う七天、その最上層である第七層第七天(アラボド)、それがこの場所。そう、ここは天界、人間が到達することの及ばない神の領域。その最上層はそれに相応しいものが立つ。つまり、ここにいるのは神そのものだ。神はこの部屋をもって世界を観測し、異常事態が起きれば即座に対処を行う。しかし、神が地上へ降りることは許されない。世界の因果が曲がりかねないが故に。そのため、実際に事に当たるのはその部下たち、つまるところ天使ということだ。今も一つ異変が起こったようだ。一人がディスプレイを指さし、もう一人にそのことを伝えている…いや、そうじゃない。彼らはある人物を見つけ、それを観測しているようだ。そのディスプレイには、中心に一人の少女が映っている。周囲には同じ服を着た者たちが集まっていることから、どうやら学校に通う学生のようだ。通学中なのだろう、友達らしき二人と談笑しながら歩いている。一人は眼鏡をかけていて、委員長や図書委員といった雰囲気を醸し出しており、もう一人は反対によく焼けたスポーツマンといった雰囲気だ。そのまま数分歩いた彼女らは学校についたようで、正門をくぐっていく。横に書かれている学校名は「国立加瀬高校」、どうやら高校生だったらしい。高校生といえば、ここにいる二人の神も同じような年ごろの風貌をしている。いや、片方はもっと幼いくらいだ。黒髪の少年と、それとは対照的な銀髪を持つ少女。この二人は、つい先日神の位を引き継いだ者たち。その名を神永悠樹、神永雪穂という。まさに永い間神を務めることを暗示するかの名前だ。そして、その二人が指さす少女は地上でこう呼ばれていた。神薙穂乃香(・・・・・)と…



 神になると決まったとき、俺たちに向かって神はこういった。儀式の話は嘘だが、神になれるのが一人というのは事実だと。俺たちの場合は二人で神に勝利したため、二人で一人扱いになるらしいが、前の神はここにいることができないらしい。それは天界から降りるといった意味ではなく、この世界から消滅しなければならないということ。神が消滅する方法は二つ、次期神となるものに殺されるか、禁忌を犯すか。前者は文字通り、後者の禁忌は色々あるらしいが、もっとも禁忌とされるのは神の万能の力を私利私欲のために使うこと。気に入った相手だからといって寿命を延ばしたりしていたら不公平になってしまう。神はいつでも公平でいなければならない。それは冷酷で無慈悲だと思われるかもしれないが、世界の存亡を考えると当然のことなのである。それでも神になれと言われ、ここまでやって来たのだ。俺と雪穂は次期神となる。そのために俺は神を殺さなければならない、と思っていたのだが、神の言い分はここからが本題だった。どうせ消滅するなら、最後に何かしてから終わりたいと、神は確かに俺たちにこう言った。加えて、することは俺たちの願いを一つだけかなえる事だと。そう、俺たちはそこで神に願ったのだ、穂乃香の生き返りを。しかし、人間の生き返りは不可能だった。理由は記憶というものを戻すことができないから。死んだ時点で人間の本質ともいえる記憶は、脳の中で消え去る。電気信号が送れなくなってしまう以上、これはどうにもならないのだ。逆に言えば、創造の力さえ使えば肉体なんざいくらでも作れるのだ。しかし、記憶がなければ本当の復活とは言えない。だが、今回は特殊事例だった。穂乃香の記憶は俺の脳内に存在しているのだ。その話をすると、神は首を縦に振った。そして、地上世界に俺の中の記憶を使って、穂乃香を生き返らせたのだ。その反動で神は消滅し、俺たちは神となった。釈然としない気持ちは残ったが、こればっかりは仕方がない。神の力を持つものが複数いれば、面倒なことが起こるリスクは増えてしまうのだから。最後の消滅のとき、神は俺たちにこう言い残していった。

「世界を託す。儂よりも良い世界を作るのじゃ」

 その言葉を聞き、俺たちはこの世界をより良くすることを決意した。何をすればいいかはわからない。それでも、俺たちにできる事をしていく。それでこれまで何とかなって来たんだ。俺と雪穂、二人がそろって乗り越えられないものは無い。そう、これまでも、これからも。




 その日、世界から神永悠樹と神永雪穂という存在は消滅した。これは神さえも彼らに語らなかった事実。「神は特定の誰かの利益になることはできない」ことからうまれる必然。彼らが第七天(アラボド)に存在することを知るのは天使たちのみ。地上世界の人間は過去から未来まで全てに至って彼らを忘却した。もちろん故意に忘却したわけではない、記憶から抹消されたのだ。それはかつての仲間たちも同じ事。戦友だったセントラルバージスの面々、生き返った神薙穂乃香、その隣にいた桐谷和希や神田孝輝もその存在を忘れた。それだけではない。世界に彼らが残した痕跡さえ消滅している。神永家に子どもは存在せず、セントラルバージスにSS級武器を持った人間は現れていない。しかし、記憶・痕跡そのすべてが消滅していることに彼らは気付いていた。高次元からの世界の観測、それにより知りえてしまったのだ。彼らはそのことについて悲しみはしたものの、それ以上の行動は起こさなかった。それはひとえに神の遺言ゆえだろう。いや、二人が共にいるが故か。どちらでもいい、世界に安寧が続くのであれば…




 突如、俺の見ていたディスプレイが真っ赤に輝きだした。おいおい、いい感じに頑張っていこうと思った矢先にこれかよ。俺は雪穂と共に、事態の把握にかかる。神になってからさほど時間はたっていない。しかし、これが日常的に起こるものではないことは分かった。俺は室内にある電話を取ると、天界全階層に繋がるようにセットする。そして、事態が分かり次第報告に来るよう伝えた。それを置くと同時に俺自身もディスプレイのチェックを開始。最初は一か所だけだった赤いディスプレイは、電話をしている間に急速に広がり、今や全てのディスプレイが赤く光っていた。さながら部屋が業火に焼かれているかのようだ。その時、雪穂の手が動いた。その指は一つのディスプレイを指している。俺はそのディスプレイの表示を場所固定し、そのまま拡大した。

「なんだ…これ」

 そこに映っているのはとある部屋。ベッドが天蓋付きだったり、やたら広かったり、赤い絨毯が敷かれていたりと第六天(ゼブル)の城を思い起こす。そこには二人の人物がいた。一人は執事服を身に着けた黒髪の青年、もう一人はドレスにその身を包んだ金髪の少女。間違いなく、豪邸に住んでいるお嬢様とその執事だろう。いや、そんなことはどうでもいい。問題はその二人の足元にあるものだ。赤い絨毯に溶け込むかのように存在するのは幾何学文様、一般的に言うところの魔方陣だった。ヴンダーが存在するこの世界で俺たちは幾度となく魔法のような現象を見てきた。幾何学文様を見たことだってある。しかし、目の前のそれは完全に別物だった。魔方陣に書かれる文字はこの世界の失われた言語や、様々な言語が複数組み合わさったものである。それゆえ、神となった今なら全ての魔方陣は見ただけで何をするものなのかを判断することができるのだ。しかし、目の前の魔方陣はその判別ができない。何が起きるか分からないのである。そうこうしているうちに、魔方陣は一瞬強く光ったかと思うと、そのまま消滅した、上に乗っていた二人もろとも。

「いったい何が…」

「おにいちゃん…」

 呟きと同時に、ディスプレイの色が元の青色に戻り始める。原因が消えたためだ。そう、消えたのだ。移動をするための魔法なら、今この瞬間に別の場所に出てきていなければいけない。しかし、エラーは出ていない。一応念のために過去も探ってみるが、それらしい反応は無かった。それじゃあ反対もと未来の可能性を色々探ってみるが、結果は同じ。彼らは俺たちの世界から完全に消滅したことになる。わけがわからなかった。世界を跳躍でもしたのだろうか…世界を…跳躍?

「ハハハ」

「どうしたの、おにいちゃん?」

「雪穂、この世界はまだまだ様々な可能性を秘めているみたいだ」

 世界の跳躍、それが可能なのだとしたら、俺たちが見ているものはただの一つだということだ。まだまだ世界は存在する。そして、その全てが様々な様相を持っているのだろう。攻め入られることもあるいはあるのかもしれない。俺たちはまだまだいろいろなことを考え、そして行動していかなければならないようだ。あの赤い魔方陣と二人はそれを俺に気付かせてくれた。俺はもう一度雪穂の方を振り返る。

「雪穂、これから先にも沢山のことがあると思う。それは良いことばかりじゃない。悪いことだって、理不尽なことだって起こる。それでも一緒にやっていってくれるか?」

 俺のこの言葉は、質問のようで確認に近い。俺たちの関係はそれほどにまで深いのだから。その確信を裏付けるかのように雪穂が俺の手を取る。そのまま俺と視線を合わせ、雪穂は言葉を紡いだ。

「もちろん、おにいちゃんが行くところならどこへでも!」



今回をもって「武器召喚士」は完結となります。

考えてみれば開始から4年、中学校や高校なら卒業と一年、大学ですら卒業できる年月が過ぎ去っています。

途中で執筆が途切れたりしましたが、何とか完結させることができました。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

皆様からのブックマークや閲覧数が心の一つの支えとなっていました。

これで悠樹達の物語は終わりますが、私は新しい物語を始める予定です。

その際は、是非よろしくお願いしますm(__)m




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