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武器召喚士  作者: どこぞの委員長
第二章~生命の樹~
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夢と現実


定期更新時間から、3時間ほど遅れて申し訳ありませんm(__)m


 ついに約束の日がやって来た。今日は神との取り決めから10度目の太陽が天頂に上る日、つまり儀式が執り行われる日である。俺たちは昨日の朝に、10人の守護天使たちをものの一時間たらずで倒してから、最終調整を行っていた。しかし、今日に備えて訓練も早く切り上げ、十分な睡眠をとるためベッドへと向かったのだ。もちろん雪穂は俺の隣、一緒のベッドで寝ている。そのため、たとえ目が覚めても雪穂と布団のぬくもりで、すぐには覚醒できない。そう、そのはずだった。目を覚ました俺を出迎えたのは温かい布団とは何か種類の違う暖かさだった。日差しが差し込む公園で、昼寝をしている時のようなものといったら分かりやすいだろうか。温かいではなく、暖かいのだ。あたりを見回すと、実際俺は小高い丘の上で昼寝をしているようだった。しかし、ただ丘で昼寝しているだけだとしたら、起きたときに後頭部に感じた枕のような感触は何なのだろうか。気になって振り向くと、そこには驚いたような表情をした少女が座っていた。どうやら膝枕をされていたらしい。いつの間に俺は部屋から連れ出されて、挙句の果てにこんな良く分からない場所で少女に膝枕をされているのだろうか。いや、問題はそこじゃない。どうして俺は穂乃香(・・・)に膝枕をされているのだ。穂乃香を含むSクラスのメンバーは天界に入る資格なしと認定されて、全員元居た場所、セントラルバージスの教室に強制帰還させられてのではなかったのか。何故穂乃香だけ・・・

「先輩おはよう。フフフ、よく寝てたわね」

「あ、ああ、おはよう」

 穂乃香と言葉をかわすのはいつ以来だろうか。一方的な話なら天界で食堂に行く前、例のおどろおどろしい扉の中から突如出現したときにされているが。俺が驚きでまともな返答すらしっかり返せないのを見た穂乃香はさらに重ねて笑う。その姿が、懐かしくて俺の目には涙がうっすらとたまり始めていた。

「どうして・・・ここに・・・」

 しどろもどろな俺の言葉は、これまでセフィラを集め、天使たちと訓練した長い時間において、オブサーバーの襲撃以外で雪穂以外の仲間とまともに話をできなかったことに起因している。おそらく、これは夢なのだろう。一時の、一瞬の掴むことのできないもの。しかし、そうと分かっていても俺は手をのばした。俺の後輩にして、雪穂の記憶を失っている時に初めてファイントと出合った人。穂乃香がいたから、俺はセントラルバージスへと誘われ、共に戦う仲間を得た。穂乃香がいたから雪穂と再会することもできた。しかし、のばした俺の手は穂乃香には届かない。それは穂乃香がその場から立ち上がったから、俺から身を引いたから。

「どうして・・・」

「先輩にはこっちの世界はまだ早いよ」

 戸惑う俺に向かって穂乃香は微笑むと、手を伸ばしてきた。その手とのばした俺の手が触れる。握手のような形で繋がれた俺と穂乃香の手、しかしそこに温かさは無かった。あるのは手の形をした冷気・・・いや、それだけではない。この冷たさは金属の・・・数秒の、しかし体感的には何時間にも思えるような握手は穂乃香が手を放すことで終わりを迎えた。手が離れたことで、改めて自分の手の中に何かがあることに気付く。しかし、開けようとした手は穂乃香によって遮られた。

「まだダメ。この世界から帰ったら開けるの。きっと、先輩に必要なものが入っているから」

「それは・・・」

「そうそう、一つだけ教えておいてあげる。扉の向こうは冥界のような場所、煉獄と言ったほうが分かりやすいかな。連れてくなら開けることをおススメするよ。今なら問題ないからね」

 意味深なことを言って、そのまま穂乃香の姿は虚空に溶けて消えていった。最後にまだ口が動いていが、その言葉は音とはならず、ただ穂乃香の体とともに虚空に消えていく。俺は読唇術なんて使えない、しかしその言葉だけははっきりと読み取れた。これが夢だからかもしれない。でも、それなら夢に感謝しないとな。最後の突破口が見えた気がするのだから。そう、穂乃香の最後の言葉、それは「わたしはともにある」だ。


 重たいまぶたを開ける。俺の寝ているベッドには、朝の優しい光が差し込んでいた。隣には雪穂、体の上にはフカフカの掛布団がかかっている。どうやら現実世界に戻ってきたようだ。今日は儀式が執り行われる日、つまり言い換えるのなら俺たち兄妹とそして神の行く末が決まる日。こんなことを言うと大げさに聞こえるが、まあ、神との戦いの日なわけだ。俺たちに残された時間はもう数時間。さほど時間は無いが、やることを終わらせる時間くらいはあるだろう。俺は誰も見ていないことを確認すると、布団の中で緩く手を開いた。そこにあったのは闇より黒く染まった一本の鍵。持っているだけでも呪われそうなそれは、心なしか黒いオーラのようなものが感じられないこともない。穂乃香の言っていたことから考えるに、例の扉の鍵なのだろう。幽霊っぽい形で出てきて開けるなといったくせに、今度は開けてこいときた。まあ、周期的な何かがあるかもしれないが、ややこしいことに変わりはない。それとも、天使たちに見つかったらまずいということなのだろうか。確かにあのドアに対するゼブルの豹変ぶりは異常といってもいいぐらいだった。それに、聞き取れるか聞き取れないかの声で、「またか」と呟いていたのも気になる。最近よく出るのだろうか。それがこの層だけのものなのか、他の層にも同じようなことがあって「またか」なのかは分からない。それでも、天使にまたかといわせるほど頻繁に出てくるのだ。何か意味があろう。穂乃香はあの先を冥界のようなもの、煉獄と言っていた。それに連れて行くなら、ドアを開けろとも。こうなってくると、その先にいるのは天界において忌み嫌われ、なおかつ俺についてくるような存在。加えて煉獄にいることになる。ああ、そんな奴ら一組しか思いつかないじゃないか。どこからか儀式の話を聞きだしたのか、それとも忠誠を誓った主に対する忠義なのかはわからない。もしかすると、頼りにしていると言われながらも何もできなかったことに、悔いを覚えているのかもしれない。天界において最も近くに存在し、忌み嫌われる存在である堕天使集団。その中でも最古参に当たるであろう彼らなのだ、扉の先にいるのは。そう、グリゴリの堕天使たち。サンダルフォンが管理する第五天(マティ)の牢獄に囚われている犯罪天使たちだ。その彼らとは一度面識があり、なおその際に俺は彼らから主として認定を受けた。その時もらったのが、グリゴリの頭領たちを呼ぶことのできる角笛である。それを吹くことによって彼らを呼ぶことができるのだが、彼らは異端者(イレギュラー)天界梯子(エンジェルラダー)が使えない。そのため天界全てを突っ切って駆け付けてくれるのだろうが、恐ろしいほどの時間がかかることは否めない。そのための扉なのだ。天界梯子(エンジェルラダー)が使えずとも、直通の回廊を開いてしまえば話は全くの別物となる。そこさえ通れば天界航行をせずに済むのだから。しかし、なぜそんなところに繋がる扉の鍵を穂乃香が持っていたんだろうか。管理者(ケーニヒ)でもない穂乃香が・・・まあ、考えても仕方ない。いずれ分かるときが来るだろう。今は深く考えず、できる事をやるだけだ。とりあえず、まずは天使たちにばれずに扉を開けるというミッションを達成せねば。でも、その前に・・・

「雪穂、朝だぞ。ほら早く起きないと」

「うにゅぅん」

 雪穂をゆする、が効果は全くない。いや、逆により心地よさそうに寝始めたぞ。なんでだ、いつもならもう少ししっかりとしているはずなんだが。ああ、そういえば雪穂って遠足の前の日とか、しっかり寝られないタイプの人間だったっけ。昨日は早く寝たつもりだったんだが、雪穂は目がさえてしまっていたのだろう。しかし、ここまで気持ちよさそうな寝顔を見せられたら、起こすのがかわいそうに思えてくるな。よし扉の件は一人で何とかするとしよう。そっと出て、そっと戻ってくれば良いだろう。それこそトイレに行く感覚で。まあ、そうはいっても既に時間はそれほどない。食堂に集合といわれた時刻まで、あと一時間を切っているのだ。俺は覚悟を決めると雪穂を起こさないようにそっと、ベッドから降りた。

 ドアへ至る道は、一度迷った際に覚えている。あの後気になりすぎて、こっそり通っていたのは内緒だ。これも影響しているだろう、というかむしろこっちがメインな気がする。場所を覚えているのは事実なので、過程は何でもいいんだが。しかし、何度も行って、扉に触れる事すらなく帰ってきていたのには意味がある。見張りがいるのだ。穂乃香の言葉から推測した限り、あの結論になるのだが、それならば見張りを置く意味も納得できる。しかし、思いのほかこれが厳重で、ほぼ取り入ることはできない。だが、伊達に通ってはいない。見張りの交代時刻や、その他扉の警備に関することはかなり調べて分かっているのだ。そして、今こそが好機、見張りのシフトが交代する時間帯で、一瞬見張りがいなくなる。その瞬間をついて、鍵を開けるだけ開けて撤退。こういう作戦で行こう。ドアの前の曲がり角で待機すること10分、ついにその時が訪れた。シフトの交代だ。眠そうな天使が一人、目をこすりながらドアの前を離れて少し離れた部屋へと向かう。そこが、交代の天使がいる控室兼仮眠場所となっているようだ。天使たちが出たり入ったりを繰り返しているせいで、何時間かに一度天使を吐き出す工場のようにも見える。俺は天使の姿が見えなくなると同時に小走りで扉に近づき、鍵を回す。すんなりと鍵は回り、カチンと鍵が開く音が聞こえた。それとともに、右にパネルが出てくる。これは聞いていない、しかし時間も時間だ、軽く見てみると1~7の数字が書かれた文字盤のようだ。白いその盤には、6の部分に墨を落としたような色がついている。おそらくこれが扉が今ある階層なのだろう。おそらく儀式が行われるのは神の居住区、第七天(アラボド)になるはずだ。ならば、扉があるべきは7層。俺は迷わず7の位置を押す、すると黒い炭のような色がゆっくりと7に移動し始める。それと同時に、帯らはどんどんと薄くなっていくのだった。これで俺のミッションは達成。あとは戻って雪穂を起こすだけだ。

 戻りは楽なものだった。特に気を付けることもなし、少し歩きたくなったと言ったらいいのだから。しかし、特に誰に合うわけでもなく部屋に到着し、俺は雪穂を起こした。その後簡単に着替えを済ませ、約束の時間5分前に俺たちは食堂の前にたどりつく。そこにはゼブルがサバトとともに、扉の取っ手をつかんで立っていた。俺たちに気付くと、両者ともに軽く会釈してくる。どうやら話はしないほうがいいようだ。そしてきっかり5分後、集合時間になると同時に、両開き扉は二人の天使によって開け放たれた。


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