10のセフィラ
毎週月曜日に更新していたのに、今週は一日ずれてしまって申し訳ないです。
いかにして残り9個となったセフィラを回収するかどうかということ、それがこれからの方針決めに関して最も重要な案件だ。いや、そもそもそれしかないといっても過言ではないだろう。第10のセフィラ、マルクトが百年戦争の時代にあったことから、他のセフィラも他時代に移動してしまっている可能性は高い。そして、そこには円卓の騎士団の姿をしたファイントが待っているというわけだ。その一人であるトリスタンを相手取ってみてわかったことは、セフィラを神格開放された場合に戦闘力が著しく上昇してしまうこと、そして何かしらの目的をもって動いている可能性があるということ。その目的が何なのかまではわからないが、自らの意志で動いていることは確かなようだった。その意志が正しいものなのか、それとも間違ったものであるのかは計り知れない。しかし、それがどうあれ、俺たちは円卓の騎士たちからセフィラを回収せねばならないのだ。そうしなければ星そのものが崩壊する。その意志、あるいは正義を強く持ち、貫き通さなければならない。たとえそれが、ほかのものに対して悪になるとしても。
「で、ほかのセフィラの位置は把握できているのか?」
「それはわかんない。ううん、せいかくにはじぶんがもってるやつだけしかわからない」
「ということは、回収したマルクトは除いて、今わかるのはガブリエルのイェソドだけってことか・・・」
「そゆこと」
残り9個のセフィラ、それぞれの守護天使の助力がなければ回収は不可能ということか。まあ、今は一つイェソドのありかはわかるわけだ。しかし、また面倒なことになったものだ。これから9つの時代を渡り歩いて、それぞれの円卓から譲って・・・はもらえないだろうから、倒してセフィラを回収しなければならないのだ。倒さなければいけないのは分かっていたが、いくつもの時代を渡り歩くことになろうとは・・・
とてつもなく長そうだと思っていたのだが、いざ動き始めてみるとそれほど大したことはなかった。いや、もちろん円卓の騎士たちは強力であり、そのたびに苦戦を強いられたが、何せいった時代が時代だ。百年戦争も戦争といえば戦争だが、この後に行った時代とは比べ物にならない。かたや第一次大戦や二次大戦といった現代兵器飛び交う戦場、かたや魔術や魔法といったものが信じられ、後方からの呪い担当についていた円卓たちとの戦闘。つまり、前者では戦闘が激しすぎて、少し離れたところであればさほど目につかない戦闘にできたし、後者の方は能力を使っても魔法などの類だと誤認してくれて大事にはならなかったのだ。さらに、サンダルフォンやガブリエルが手を回してくれたおかげで、他の守護天使たちとは、問題なく時代時代で会うことができたし、果てには2・3の時代を共に戦ってくれた天使たちもいたのだ。俺たちも化け物級の強さだとは思っているが、それでもさすが星の核たるセフィラを守っていた天使たちだ。戦闘能力に関しては俺たちと同等かそれ以上といった奴らがほとんどだった。加えてセフィラの段階が上に行くにつれ、守護天使も強くなっていくという始末。どうやら先の戦闘で敗北したのは、いかんせん敵が多かったのと、攻め入る敵はいないだろうとたかをくくって、遊んでいたのが数名いたからだとか・・・いや、仕事しろよとツッコミたくはなったが、その遊びも仕事のうちらしいので深く追及するのはやめておいた。何はともあれ、俺たちはランスロットやモードレット、ガウェインといった姿をとっているファイントをことごとく倒し、セフィラの回収に成功したわけだ。そして現在、俺と雪穂は守護天使全員の前に立っていた。場所は楽園、その中心にそびえたつ生命の樹の前である。天使たちは全員俺たちに片膝をつき、忠誠の態度をとっていた。俺たちとしては止めてほしいところではあったのだが、この星を救った勇者を前にしてこうしない者はいないということなので、気のすむようにしてもらうことにしたわけだ。数分そのままの状態が続いた後、一番前にいた天使が恭しく顔を上げる。その手には白い宝石が載せられており、この世のどの宝石よりも美しく輝いていた。その宝石こそは、第一のセフィラ、ケテルである。つまり、それを持つ天使は、その名も高き天界の書記を務めるといわれるメタトロンだ。そう、あのサンダルフォンとガブリエルの話に出てきていた張本人である。伝承では36対の羽や無数の目といった、それは天使じゃなくて悪魔じゃね、と言いたくなるような見た目をしているということであったが、目の前の彼はそんなことはなく、いたって普通の(といっても羽は生えているが)見た目をしており、そのような悪魔じみた部分は見いだせない。おそらく見た目を偽ってるのだろうが、今の見た目のほうが話やすいので考えないようにしよう。今考えただけで、冷や汗出てきたし・・・
「この度は、私どもの不始末によって引き起こされた災厄を鎮める手伝いをしてくださいまして、ありがとうございます。ここにいる10人を代表しまして、お礼を言わせていただきます。」
「そういうのは、いいって言ったろ?俺たちは任された仕事をしただけだ」
「おにいちゃんの言う通り。それに私たちは、各セフィラを回収した後にお礼はもらってる。もちろんあなたからも」
雪穂の言う通り、各セフィラを回収するごとにお礼はしてもらっているのだ。それゆえ、もう一度全員でといわれ、ちょっと遠慮しているのである。そもそも、お礼がほしくてこの仕事を引き受けたわけではない。誰かがやらねばいけないと知り、その誰かとは自分だと思ったからこそやってきたのだ。この説明も幾度もした、けれども取り合ってもらえないのだ。今回もそのようで、メタトロンはいや、と一言前置きすると俺たちの武勇を語り始めた。最後のセフィラの守護天使であるメタトロンが、どうしてここまで知っているかというと、書記として俺たちの武勇を書き記していたかららしい。いや、書いてるなら助けに来いよと思うのだが、どうやら自分のセフィラがある時代以外には滞在できなかったようだ。連続で時代を超えて助けてくれていた天使たちは、確かにセフィラを持ったうえで助けてくれていた。例外としてサンダルフォンだけは超精巧なレプリカを作ることで、救世主探しのため様々な時代を渡り歩いていたようだ。そういえば、サンダルフォンと初めて会った時、確かにレプリカを持っていた。あれはどうやら、そういうことだったらしい。初めて会ったといえば、住みやすそうだからと、初めて会ったにもかかわらず農家に厄介になると言って、あの時代へ残ったジャンヌは元気にやっているだろうか。まあ、もともと農民の娘だったらしいし、その農家の人も天使たちの働きによって、ジャンヌが天からの授かりものと信じていたし、それが無くともジャンヌはよくできる人間だから上手くいくだろう。ただ、ともにいくつかの時代を渡った仲間として、心配するくらいは許されるはずだ。
「それでは、これよりセフィラを生命の樹へと、戻す作業に入りたいと思います。みなさん、準備を!」
過去に思いをはせている間に、最初の戦いから最後の勝利までにわたる、長い話が終わっていたようだ。メタトロンの一声で、他の天使たちも顔をあげ立ち上がる。そして、生命の樹を囲むと、手のひらにセフィラを乗せ詠唱を始めた。それは、天に対する讃美歌のようにきれいなハーモニーを奏でながら紡がれていく。その音は心地よく、俺と雪穂は目を閉じその響きに耳を傾ける。やがて目を閉じていてもわかるほどの光が網膜へと届き、何事かと思って目を開けると、そこには樹の周りを回りながら天へと昇っていく10のセフィラがあった。それは、とても神秘的な光景で、まさに世界の根幹といった雰囲気を醸しだしていた。おそらく、ここからは見えない樹の頂点まで登ったのち、セフィラは各々の場所へ還っていくのだろう。
しかし、この神秘的な、人間では決して見ることが出来ないであろう光景を最後まで見ることは許されなかった。突如、疾風が巻き起こったのだ。それは生命の樹から少し離れた草原の一角に突如出現した黒い円状の物体から発せられている。いや、物体というのはおかしい、なぜならその中心部は揺らぎを持っており、とても固まった物には見えないからだ。それを例えるならば、ブラックホールというのが一番だろうか。もっとも、本物のそれとは違いすべてを吸い込むのではなく、全てを吐き出すかの如く疾風を吹き出し続けているが。その疾風は、天へ昇っていく過程にあったセフィラの軌道をずらし、地表へそれらをばらまいた。しかし、セフィラが地面に激突することはなかった。それぞれの守護天使が、残像を出す勢いで天へと飛び立ち、その全てを回収したためである。どうやら大事には至らなかったようだ。ほっと一安心したのもつかの間、疾風が一際強くなったかと思うと、その中から突如人影が現れたのだ。その陰に、俺たちはもちろん、天使たちも唖然とする。ここは楽園、人間がおいそれと来れるような場所ではない。俺たちは例外中の例外として、守護天使たちに連れられて入ってきたが、こいつはそうではないだろう。明らかに無理のある侵入方法だ。しかし、その人物は怖気づいたり、苦労したりする素振りすら見せず、悠然とこちらへ歩いてくる。そして出てきたその顔には、俺はとても見覚えがあった。
空間の歪の黒とは相対する銀色の髪と白い肌、それはかつてとある島で出会った女性と酷似していた。いや、酷似なんてものではない、その人そのまんまだ。そして手には一振りの剣。その剣は見れば一目でその人物が誰なのかがわかる代物。つまり・・・
「アーサー王」
ぽつりと雪穂の口から言葉が漏れる。しかし、その言葉ははっきりと周囲へ響いた。間違いない、理想郷で出会い、俺にあの剣の真実を伝えた人。そして、なぜか強制的に俺の姉となった人物。まぎれもないアーサー王がその場にいた。
「アーサ・・・姉ちゃん、どうしたんだ?」
ここに来たことは不思議で、そして有り得ないことではあるが、そういうことを可能にしそうなのがこの人物である。少し、疑問には感じるものの、何か目的があってきたのだろう。俺は特に警戒心もなく、姉に話しかける。しかし、返ってきたのは言葉ではなく、寸分たがわず俺を両断するように振り込まれた剣の一閃だった。瞬時に右手に黄昏の聖十字を展開して直撃を防ぐが、さすがは聖剣、いともたやすく俺を吹き飛ばした。必死に受け身をとって耐えるが、その目の前にさらにもう一撃。今度は左手に展開した黄昏の聖十字で受け止める。が、やはり押し負けて吹き飛ばされてしまう。次がくれば命はない。だが、生憎なことにそんな俺を待ってくれるような相手ではなかった。もう一閃、目の前に剣先が迫る。
「おにいちゃん!」
雪穂が全力で駆けてくるが、間に合いそうに無かった。ここまで追いつめられるのは久しぶりかもしれない。何だかんだでセフィラを集める時も雪穂や天使たちの助けで、ここまでピンチに陥ることはなかったのだ。俺の脳内で再生されるのは、巡ったいくつもの時代、そしてその中にある雪穂の姿だった。くそ、走馬燈が流れるとは俺らしくもねえな、それは負けを認めたことになるだろうが!頭を振ってその映像を消すと、右手を自身にあて俺は一言発する。
「転移」
瞬時に俺の体がアーサー王の背後20mほど離れた位置に移動する。刹那、俺がいた場所を聖剣が勢いよく通り過ぎた。まともに食らっていたら、おそらくここに立ってはいられなかっただろう。狙うべきものが消失し、不意を突かれたアーサー王はそのまま3mほど転がる。しかし、さすがは戦闘経験者、すぐに立ち上がりこちらを牽制するように剣を構える。その間にそばに来ていた雪穂と共に、俺たちは二人で剣を掲げそれに返した。天使たちは俺たちの後ろに五人、残りはアーサー王を包囲している。
「さて、やっと話ができるようになったな。どうやら姉ちゃんとは違う存在のようだ」
「おにいちゃんを殺そうとした。あなたの目的は!」
目をもって威嚇を止めない俺と、殺意がむき出しになっている雪穂、それを前にしてもなお怯むことなく、俺たちを見返してくるアーサー王。
「神格開放、@¿;/‽›-!」
突如、アーサー王が言葉を発した。しかし、その中で唯一聞き取れたのは神格開放のみ、後に続いたのはこの世のどこの言語でもない、言葉とすら言えるのかわからないものだった。そして、アーサー王は様々な色がぐちゃぐちゃと混ざった、もはや人とは言えない存在へと変貌した。その中で判別できるものが一つ、こちらに向けられていた剣だ。それだけは誰もがわかった。そう、最後の剣・・・マルクトが称すとされるものだ。つまり、あの剣一つがマルクトなわけである。ここからは推測だが、その他の部分の色は、おそらく全てのセフィラを混ぜたものだろう。全てのセフィラが天使たちの手の中にあるにもかかわらず、マルクトは確かに敵の一部となっているのだ。ならばアレは、10のセフィラとは別に存在し、しかもすべてのセフィラを内包しうる力を持つ物となる。伝承には記されるものの、守護天使はおらず、存在するのは深淵の上とされたもの・・・だれの手にも届かない11個目のセフィラ・・・
「ダアト・・・」
天使たちが息をのむ音が聞こえる。何人たりとも、それがたとえ天使だとしても触れられぬもの。神を除く、すべての生命あるものを超える存在の誕生の瞬間だった。
今回も読んでいただきありがとうございます!
なんか一気に話を進められた気がします・・・
ということで、次回もよろしくお願いしますm(__)m