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武器召喚士  作者: どこぞの委員長
第二章~生命の樹~
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新たなる一歩

 

 さて、探しに行くとは言ったものの、サンダルフォンには同じ場所に(ゲート)を開いてもらっている。(ゲート)の先がどうなっているか分からないとはいえ、近くにいることだけは確かだ。それに、火を消すために水がある場所とも言っているので、水辺を探せばすぐに見つかるだろう。そう、思っていた・・・

「おぅわ!」

「キャー!」

 (ゲート)の先は少なからず水があることはわかっていたつもりだ。しかし、空中に(ゲート)があるとは聞いていない。まぎれもない人間・・・ではないが、空を飛ぶような翼なんて持ち合わせていない俺たちにとって、空に出ることが意味するところは一つ。つまり、落ちる《・・・》。いやいや、落ちるって冷静に考えてる場合じゃないことは分かるんだけど、間違いなく落ちてるし、それにこれだけ考えられる時間があって、まだ落ちてるってことはかなり高いんじゃねえのか。そこまで考えたところで、周りの状況を一切把握していないことに気付いた。それを確認するためにも、まずは安定を確保しなければ。ぐるぐる回っている体を何とか制動して雪穂と両手をつなぐ。スカイダイビングなんて初めてだったが、案外何とかなるものらしい、顔を下に向けて固定することができた。そして、眼下に見えた光景は一面の青。あわてて様々な方向を見てみるが、どこを向いても青一色、それ以外の色が見当たらない。

「なんだ・・・これは・・・」

 目の前の雪穂も絶句している様子だ。水辺を探そうったって、これじゃあどこから手を付ければいいのか分かったものじゃない。そのとき、物が水に落ちたような音が聞こえた。探してみると、眼下の水面の一か所から水しぶきが上がっているのが目に入る。まだ消え切らない、水しぶきの柱の中に見えるのは・・・人・・・?あれは・・・

「ジャンヌ」

 雪穂のつぶやきが、俺の思考を肯定する。どうやら間違いなさそうだ。しかし、先に(ゲート)に入ったはずのジャンヌがなぜ俺たちと同時刻にこの場所にいるんだ。すでに、水面に出ていてもおかしくないはずだ。だが、現状を鑑みるに今しがた水面に落下した感じ・・・いや、待て、落下した?この高度に出て、そのまま落下したのなら俺たちですら命は無いどころか、体がバラバラになってもおかしくないレベルだ。ましてや、人間のジャンヌが耐えられるとは思えない。だが、もう一度しっかり見ても、ジャンヌは五体満足っぽい。それに、むせているから生きてもいるはずだ。まあ、深いことは良いか、生きてるならそれで。

「雪穂、落下時の衝撃はどうなるか分からないが、ひとまずジャンヌの上空まで出よう」

「OK!」

 ジャンヌも見つかったことだし、移動を開始しようとした俺たちだったが、まさにその瞬間落下が止まった。が、それも一瞬、すぐに低速降下に切り替わった。しかし、これまで高速で落下していたものが、急に超低速に変わったのだ。そこにはかなりの衝撃を伴う。胃の中が全部出そうになるようなそれを耐えて上を見ると、どうやら、着ている服を誰かが持ったらしい。逆光で顔は見えないが、その人物には羽が生えており、人間ではないことがうかがえる。とはいえ、羽が生えている人物なら知っている。百年戦争の時代、かの地で手伝いをした人物、サンダルフォンだろう。

「すまない、助かった。ただもう少しいい感じの助け方はなかったのか?」

「にんげん・・・だけではなさそうだけど、しったことじゃあないわ。ちじょうかいのせいぶつが、このわたしにけーいすらみせないなんて、たすけたことをこうかいしそうになるわ」

「おにいちゃん、この人サンダルフォンじゃなさそう。あの人より身長が・・・」

「しんちょうがなに?」

 どうやらタブーに触れたらしい、というか俺にしか聞こえないレベルの発音だったのによく聞こえたな。だが、確かにサンダルフォンと比べたら小さい。それは事実だ。というか、人間で言ったら小学生ぐらいじゃないか?「ちっこい」というのがとても合いそうな言葉だ。しかも、声まで幼いときた。これは一部の特異なそうで大うけするキャラをしてるな。俺は雪穂がいるから何とも思わないが・・・

「さっきからきいていれば、しょーがくせーとか、ちっこいとか、うっさいのよ」

 うん、やっぱり見事に舌足らずで、ひらがなでしゃべってるようなしゃべり方だ。って、なんだ、俺は何も声に出していないはずなんだが・・・こいつはどうして知ったように喋ってくるんだ?雪穂のほうを見ると、首を振ってくる。たまにやる、口に出てたぜ、というやつもやってないということだ。こいつは・・・まさか、心が読めるのか?

「ふふん、わたしをだれだとおもってるの。せふぃろとのしゅごてんしがひとり、がぶりえりゅ・・・」

 あ、噛んだ。顔真っ赤。可愛い。

「がぶりえるよ!・・・あ」

 ガブリエルと名乗った少女は、ビシッという音が聞こえそうなほどの速度で右手の人差し指で指さし、左手を腰に当てる。それをもって名前を示すことで威厳を取り戻そうとしたのだろうが、いかんせんそのポーズがダメだった。そんなに難しいことじゃない、考えればすぐわかるのだ。そんなポーズをとればどうなるかなど・・・そう、俺たちが落ちる(・・・)

 しかし、今回はさほど滞空時間は長くなかった。数秒後、俺たちは盛大な水しぶきを上げて、水の中に落ちた。数メートルはそのまま沈んでしまったが、体が粉々になるようなことはない。どうやら話をしている間に、そこそこの高度まで下がっていたらしい。それを分かって落としていたのならいいんだが、そうでもなさそうだったよな、さっきの態度を見る限り。あ、とか言ってたし・・・

「おにいちゃん、大丈夫?」

「ああ、問題ない。雪穂も・・・大丈夫そうだな」

 特に泳げないわけでもないので、その場で立ち泳ぎしながらあたりをうかがうと、数メートル先で、一人の少女が溺れていた。ジャンヌだ。急いで近づいて顔が水上に出るよう、俺と雪穂で左右に分かれて肩を組ませた。バタ足くらいならできるようで、肩さえ貸してしまえば溺れることはなかったが、これまで無理にもがいていたせいか、かなり疲弊しているように見える。

「助かりました。ありがとうございます」

「いや、礼はいい。こちらこそ、こんなところに落としてすまなかった」

「私も、さっきはやりすぎてごめんなさい」

「いいえ、構いません。私は自分の信念を貫きたいだけですから。そしてそれは、あまり人には理解されない」

 その時、ジャンヌの目は遠くを見るように細められていた。いつかの記憶を思い出しているのだろう。基本的に人間の信念なんてものは、ぶつかり合うものだ。これが戦争を生む。どちらも正しいと思うからこそ、どちらも引かない。そうやって、人類史は紡がれてきた。だが、だれも理解しないと、相手は間違っていると、そうやって自分自身を卑下するのは好きではない。

「なあ、ジャンヌ。自分の考えを人に理解されないといって、あきらめるのは簡単だ。でも、いつか、誰かが理解してくれるかもしれない。そうやって、前向きに考えないか?」

「ですが、その結果生まれるのが戦争です。人間はどこかで譲歩しなければならない。そうしなければ、多くが命を失う。」

「はぁ、これだからにんげんはだめなのよ」

「私はその現場を見てきたから・・・って、天使様!」

 割と真剣な話をしていたつもりなんだが、あいつは空気が読めないのだろうか。いや、読めないんだろうな。ジャンヌと俺の話に割り込んで入ってきたのは、雪穂ではない。あの、ちっこい天使だった。ジャンヌは人が飛んでいるのを見るのが初めてなのか、それとも信仰していた天使という存在が出てきたからなのか、ガブリエルを見つめたまま固まってしまっている。まあ、普通こういう反応するよな。いきなり剣抜いたりとかするの、俺らぐらいじゃないだろうか。ほんと、人間離れしてしまった。

「で、なんなんだ。話の腰を折ったんだから、なんかあるんだろ?ちっこいの」

「ちっこいいうな!んん、わたしがいいたいのはね、じぶんのつごうをきかせるのに、にんげんはとおまわりしすぎってことよ」

「・・・・」

「まだわからないの?いうこときかせたいなら、それだけのりてん・りゆうをかんがえて、あいてにそれがただしいとおもわせればいいのよ」

 エヘンと腰に手を当て、胸を張るガブリエル。まあ、それは至極まっとうな意見なんですけど、それができれば苦労はしないっていうか。それができないからこそ戦争になるっていうか。もしかして、天使たちは喧嘩なんてしないのだろうか。それこそ、ガブリエルが言うように、相手を黙らせるだけの材料をそろえ、徹底的に相手を言葉で封じ込める。そういったことを日ごろから行っているとか・・・

「見つけた。(ゲート)が何者かに占拠されてしまってな。ここに来るまでに時間がかかってしまった」

 俺の思考を遮るように、新しい声が聞こえた。その声はよく知った声、これこそサンダルフォンの声だ。彼女はそのまま、緩やかに降下してくるとガブリエルの隣に静止した。横のジャンヌはというと、さらに天使が出てきたのを見て、もう気絶寸前だった。

「占拠ってもしかして、そのちっさい子のせいなの?」

 雪穂がガブリエルを指さしながら、サンダルフォンに問う。当のガブリエルはというと、口元が震え、この温度では考えられないほどの発汗が見られた。どうやら、ガブリエルにとってまずい状態のようだ。

「そうだな。おそらく犯人はこいつだ。なあ、ガブ?」

「そ、そんなことないし。わたしはなにもしてないし」

「なら、メタトロンのやつにでも聞いてみるとしよう。書記のあいつなら色々と知っているかも知らんしな」

「やめてください、おねがいします。わたしがやりました。だから、めたとろんだけはやめて・・・」

 なんか、天界の力関係を見た気がする。雪穂が苦笑いしているが、俺も似たようなものだろう。そもそも、さっき言ってたことが台無しだ。天使も人間と変わらないじゃないか。せっかく少しは見直すかもと思ったのに、自分が完全に力で押し伏せられてちゃあな。まだ言い合いは続いているが、ずっと水の中にいるわけにはいかない。俺たちはまだしも、ジャンヌが気絶してしまって、沈みかけてしまっているのだ。

「サンダルフォン、そのちっこいのと分散して、俺たちを水から上げてくれないか?」

「ん、ああ、構わんぞ。ガブ、真ん中の女の子を引き上げてやれ。わたしは悠樹殿と雪穂殿を引き上げる。」

「ええー。わたし、そこのふたりはこんでつかれちゃったし、ひとりでやってよ」

「メタ・・・」

「やります。やりますってば。やればいいんでしょ!」

 しぶしぶといった様子で、ガブリエルはジャンヌを持ち上げてくれる。そして、俺たちもサンダルフォンによって水中から引き上げられた。

 それから飛ぶこと数時間、やっと近くの陸地にたどり着いた俺たちは、砂浜に腰を落ち着けていた。俺も雪穂も立ち泳ぎにつかれ、寝てしまっていたらしい。気づけば陸が見えるところまで来ていたので、それと言って何か話していたわけではない。いったん落ち着いている今に、今後の予定を立てておくべくだろう。

「それで、マルクトの回収はできたんだよな?」

「ああ、問題ない。今は私が保管している」

「じゃあ、次の予定を立てようか。みんな、集まってくれ」

 まだ気絶しているジャンヌを除き、俺たちは砂浜に円を描いて座りなおす。目下、セフィラはマルクト以外回収できていない。それらを回収することがこれからの指針になりそうだが、果たしてどこにそれらがあるのやら。あと九つ、これを集めなければ、この星の崩壊は止められない。俺たちは死へと向かうことになる。それを阻止するためにも、できることをやらなくちゃな。


「じゃあ、始めますか!」


 俺と雪穂とジャンヌ、そしてサンダルフォンとガブリエル、今はこの五人できる限りのことをやっていこう。それが、これからの長い旅路の新たなる第一歩となるのだ。


読んでいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いしますm(__)m

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