一つの決着
どうも、どこぞの委員長です。
お久しぶりです、または初めまして。
結構空いてしまってますが、トリスタン戦の途中なことは間違いありません。
では続きです、どうぞ!
戦友を信じることは大切なことであるだろうし、もちろんそれによってなしうることは大きい。そして、その連携は作戦を立てることによって、より良きもの優れたものへとなる。1+1が2以上になるわけだ。つまり、何が言いたいかというと、俺は仲間たちを信じているが、作戦を立てなかったことに多大なる後悔を抱いているのだ。もちろん不可視の障壁がいつ破られるかわからなかった点、トリスタンの攻撃の精度が百発百中の名にたがわず確実に一か所に連続して飛んできていた点があっての判断だ。しかし、そこに早く対処しなければ取り返しのつかないことになるのではないかという感情が多く含まれていたことは否定することができない。あれだけの実戦を経験していながら、感情に走った行動に出てしまうとは下の下の策をとったといっても過言ではないわけだ。トリスタンから奪った神格開放済みの剣もこちらの手の中にあったというのに・・・。しかし、後悔したところで何かが変わるわけでもない。そう、今は本当に仲間を信じて行動をするしかないのだまずは現状を把握するところからだな。敵はトリスタン一人、矢が飛んできている方向から考えると、このまま直進すれば交錯するコースにいることは確か。そして、現在の陣形は俺が先陣を切る形で他のメンバーは左右に広がり、扇状に展開している。かなりの頻度でトリスタンの矢が誰かに直撃するコースで降ってきているが、すべてさばき切れている。まあ、一本がそれなりの木ほどの大きさがあるので簡単にはいっていないようだが、それでも防げているのなら問題はない。さらに、特性を知ってか皆がしっかり武器などを用いて防いでいることも大きい。この矢は必中の矢、つまり躱したところで普通ではありえない軌道をとってかえって来るのだ。しかし、武器を持って防いだ場合はその限りではない。何せ、武器はその人の一部でもあるからだ。それは当たっているという判定になるだろう、というか実際なっているのだから、これ以上の説得力はないはずだ。少し速度を上げ下げすれば、全員が接触可能な距離にいることは、かなりの好条件だ。指令系統に不備がないわけなのだから。さて、今しがた思いついたばかりだが、これで行ってみようか、トリスタンまではもう少しだしな。俺は右斜め後ろを走っているオブサーバーに向かって目配せをし、こちらに来るよう訴えかける。彼はそれにすぐ気づき、こちらへと駆け寄ってきた。作戦を耳打ちすると、オブサーバーの顔が歪んだ。それは難易度が少々高いことへ対する困った顔・・・いや、違うな、これならいけると確信した笑みだ。オブサーバー恐ろしい奴だ。
「じゃあ、よろしく頼む」
「了解」
〆の言葉に頷くと、オブサーバーはもとの位置へと戻っていく。他のメンバーには何も話してはいないが、おそらく作戦開始の合図と俺の次の行動でさとってくれるだろう。まずはトリスタンの見える位置まで移動する。そこが射程範囲の有効圏内らしい。しかし、トリスタンも主兵装が弓になったことは考慮している、そのためそれにあった行動をしっかりととっていた。つまり、遠距離狙撃から近づいてくることが分かった時点で何発か射っては後退という動作を繰り返しているようだ。一向に見えてこない。このままではジリ貧で押し負けてしまう。ならば、多少は危ない手でも使うしかないだろう。俺たちが出せる最高速度の移動方法。やはりそれはアレしかないだろう。そう、オブサーバーに飛ばしてもらう方法である。そうと決まれば即刻行動へ移そうか。俺は皆に軽く目配せし、右手を挙げて軽く丸める。それで通じたようだ、さすが歴戦の戦友だけはある。皆もそれにならって同じようにしたところで、その手の中に剣が一本ずつ出現し、すべて等速で射出された。その速度は走る速度など比べ物にならないほどのもの、俺たちの目でも負えない速度を出せるトリスタンだ、悟られれば一瞬で後退されてしまう。さあ、一賭けするとしようか。高速で飛びながら探すのはトリスタンの姿、見えれば勝ちだ。刹那、トリスタンの姿が目に入った。しかしその体は後退を始めようとしている。これを逃せば次はない。
「障壁展開!」
オブサーバーの声が響くとともに、雨が降るような音が響き始めるが、それは一瞬ののちに聞こえなくなる。そして、後退しようとしたトリスタンは見えなくなりそうなところで、その動きを止めた。無理やり制動したせいだろう、トリスタンの背後に衝撃波が発生し、遠くへ消えていく。そして、その中には破損した武器。そう、オブサーバーは障壁を張ったが対象は俺たちではない、トリスタンのほうなのだ。これは自分たちを守る不可視の障壁ではなく、相手を閉じ込め動きを封じるための不可視の鳥籠、つまり高速移動するトリスタンの動きを封じるための一手というわけだ。しかし、これではトリスタンに不可視の障壁が張られているともいうことができるので、俺たちから攻撃を仕掛けることもできない・・・なんていうことはない。もちろん、このままでは俺たちの攻撃は届かない。しかし、オブサーバーは何もない空間に回廊を開き武器を射出する能力を持っている。つまり、この中に回廊を開けば一方的に攻撃ができるというわけだ。皆で来た意味ないような気もするけど、高速移動する敵を捕らえた後、侵入不可能の領域に攻撃をする方法がこれしかないのだから仕方ない。俺たちは鳥籠の近くで剣から降りると、万が一のことも考えてその周りを取り囲む。攻撃の要であるオブサーバーを落とされるとまずいので、彼には俺たちより後方でスタンバイをしてもらい、すべての準備は整った。トリスタンはその間、何もできないことが分かったのかじっとしていたが、こちらを見る眼付きだけは闘争心を失っていないように見えた。
「悪く思うなよトリスタン。俺はお前たちを倒さなくちゃならねえんだ」
言いながら俺は剣をより一層強く握る。その剣は柄の部分に四色に輝く宝石であるマルクトがあしらわれたもの、つまりトリスタンが使用していた神格開放された剣だ。黄昏の聖十字ではなくこの武器を構えているのには理由がある。といってもたいしたことはなく勘のようなもので、何か嫌な予感がするというだけなのが。
「オブサーバー、やってくれ」
言葉に軽く頷いたオブサーバーは、右手を上げる。それと同時に鳥籠の中に回廊が開くのが見えた。瞬間トリスタンの姿が目の前から消えた、必要以上に動けば死を避けられない鳥籠の中で。一体何処へ・・・。逃げ場はゼロのはずだ・・・いや、ゼロだった。何かの拍子で逃げ場が発生したのか・・・直近の出来事は・・・ッ!
「上!」
誰が言った言葉かは分からない、しかしその声は確かに聞こえた。そして、反射的に皆が上を見る形となる。そこに俺たちが見たものは俺たち目がけて落下して来ているトリスタン、さらにその両手には武器が握られていた。その武器は一目でかなりの業物であることがうかがえる。あんな武器を隠し持っていたのか?いや、今はそんなことはどうでもいい。武器を構えていてよかったと思うべきだ。狙いを確認すると、寸分たがわず俺を三枚におろすように飛んできている。おそらく目当ては俺よりもこの剣だろう。そこまで執拗に狙うということは、やはり真価を発揮するにはこの剣が必要ということか。いいだろう、たとえ死んでも渡してやるか!相手は瞬間加速が可能、しかし落下しながらなら直線的にしか移動できないはずだ。ならば・・・
「ッ!」
一刻一刻と俺に向かって迫りくるトリスタンの攻撃、それを上段、頭上中央に掲げた剣で弾くと同時に切り上げ、もう一度トリスタンを空中へと押し返す。それでもまたこちらへ向かって来る彼女。
「私たちを」
「忘れんな!」
間髪入れず、このパーティで飛び道具を使える二人がトリスタンに攻撃を集中する。大量の武器とかなりの矢が左右同時に着弾するが、彼女はそれを両手の武器を器用に使い迎撃していく。しかし、数には勝てないようで何発かは防御をすり抜けて当たっているようだ。なるほど防御に集中している間は、高速移動ができなくなるのか。なら、一度叩き落して遠距離で攻めれば地上で動きを封じられるのでは・・・
「マリア!」
「了解です!」
防御に手一杯でこちらに意識をそこまで向けられてなかったトリスタンはいきなり目の前に出現したマリアに狼狽を見せる。しかし、それも一瞬すぐに迎撃へと移るがその間に少なくとも左右から五発ずつは被弾、そしてその狼狽は致命的な隙を生んだ。マリアのハンマーと武器が交錯するより早く、ハンマーがトリスタンの体をとらえたのだ。
「ガッ・・・」
いくらトリスタンが人間離れ(実際人間ではないのだが)した肉体を持ち、強力な鎧を身にまとっているとはいえ、あのハンマーが直撃したらどうしようもなかったようだ。吐血しながら地面へとたたきつけられる。そしてそこへ穂乃香とオブサーバーの追い打ち。再び迎撃に移るトリスタンだがその精度は目に見えて落ちている。しかし、抜けたところで鎧によって阻まれているため有効打はいまだ与えられていないのも現状、加えて決定打を与えようと地上に落としたはいいが、地上だと多少なりとも動きがとれる。動いているものに向かっての突進攻撃はカウンターを食らう可能性があるのだ。
(どうにかして一瞬でも動きを止められないか・・・)
「止めるだけなら、私とマリアでできるよ」
「雪穂さん?ははぁん、なるほどですわ。よろしくてよ」
たまに飛んでくる流れ弾を躱しながら、そんなことを考えていると、さも心を読んだかのように雪穂が答えてくる。雪穂はエスパーなのだろうかと思うことがたまにあるが、実は本当にエスパーなのかもしれない。まあそれだけ信頼を得ているということにしておこう。ともかく、マリアも了承済みのようだ。これは任せるほかあるまい。
「じゃあ頼む」
「OK!生命の原点、万物の根源よ、我に答えよ、九頭竜!」
「行きますわよ!神の怒りを知れ、雷霆解放」
二人の言葉に呼応して、まずは村雨が刀身に水を滴らせたかと思うと九本の濁流となってトリスタンを包囲し、その咢を開いて彼女を飲み込んだ。通常のファイントぐらいなら一撃で仕留められそうな威力だったが、さすがは鎧に守られたトリスタンずぶ濡れになり、宙に飛ばされはしたもののはしたものの動けないレベルではない。実際まだ続いている穂乃香たちの攻撃をさばき続けている。しかし、そこにマリアが放った雷霆が直撃した。神話ではすべてを破壊するともいわれるケラウノスの雷霆が、どこにも流れ去ることのない空中で、濡れた体にあたったのだ。さすがのトリスタンもこれには耐えられなかったらしい、そのまま動きを止めて落下してきた。しかし、これも長くはもたないだろう。俺は穂乃香たちに一時攻撃を中断させると、レイナについてくるよう目配せをしてトリスタンに切りかかった。俺も半分ファイントが混ざっている身、常人には出せないような速度で放った一撃は、トリスタンの鎧を見事に打ち砕く。しかし、それと同時にマルクトがあしらわれた剣も宝石の部分だけを残して粉々に砕け散った。
(予想通りか、やはりこの鎧を砕けるのはこの剣だけだったな)
トリスタンがこの剣に執着していた理由、憶測だったがどうやら正解だったようだ。これを手放していたらその時点で負けだったというわけだ。とはいえまだ決着はついていない。そのためにレイナに後に続いてもらったのだ。鎧をたたき割った直後、レイナのカラドボルグによる斬撃が身一つになったトリスタンをまず二つに、そして返す手でもう二つに切り裂いた。しかし、その体から鮮血が飛び散ることはなく、代わりに塵のような細かな欠片となって虚空へと消えていった。
「終わった・・・か」
何かとずっと無理をしてきた身だ。仲間の助けが合ってこそ何とか倒せたが、これ以上は限界、というかすでに限界だったものを無理して動かしていたに過ぎない。戦況を確認して、皆も勝ちを確信したらしく、こちらへ駆け寄ってくる。しかし、皆が集まりきるより先に目の前がぼやけはじめた。そして誰かに抱き留められたような感覚が俺の体を包む。
「おにいちゃん、とりあえず今はゆっくり休んでね」
そんな雪穂の声がかすかに耳に届き、俺の意識は完全に落ちた。
はい、今回も読んでいただきありがとうございましたm(__)m
長かったトリスタン戦もここで終了ということになります。
次回からはちょっと内部時間をはやく書けるよう頑張ってみたいと思います。
ということで、次回もよろしくお願いします!