不可視の障壁
どうも、どこぞの委員長です!
とてもお久しぶりです・・・
前回は固有結界内部で、悠樹君と仲間たちvsトリスタンが始まる寸前まででした。
その続きです、どうぞ!
さて、殺し合いなんて仰々しい啖呵を切ったはいいけど、こんな化け物じみた相手にどうやって対抗するか・・・。トリスタンはまだ動く気配はない、こっちの様子をうかがってるのだろう。人数だけ考えると彼女のほうが圧倒的に不利なのは間違いない、俺たちが6人なのに対し、彼女は1人なのだから。しかし、それを考えても彼女は俺たちに勝るとも劣らないほどの実力を持っている。何せ、元が円卓の騎士の一人・・・いや、正確にはレベルⅩファイントか。どっちにしろ、人間の手に負えるような相手でないことだけははっきりしている。それがあまつさえ、神格開放なんかやらかしちゃってるわけだ。素のステータスが高い奴が自身をさらに強化するなんてやりだした日には、この星なんて一瞬で滅びそうだ。まあ、現に滅びそうになってるわけだけど・・・それを止めるには、まずこいつを止めないといけない。余計なことを考えてる場合じゃないな、真剣に策を考え・・・
「降り注げ!」
突如、俺の思考を遮るかのように一人の男の声がした。それと同時に幾千にも及ぶ武器の数々が、その先端をトリスタンに向けて飛来し始める。こんな武器の無駄遣いじみた攻撃法は、間違いなくオブサーバーによるものだ。虚空から武器を出現させて相手に向けて飛ばす。その数に際限はなく、彼が命令を出し続ける限り無尽蔵に湧き出るのだ。そういうとチート臭く聞こえるが、それにも一つ弱点がある。それは直線でしか武器を飛ばすことができないということ。つまり発射点さえ見えてしまえば、それ相応の速度はいるものの、先端の向きから飛来地を推測し避けることができてしまうのだ。そして、それができうる速度を彼女は、トリスタンは持っている。
「オブサーバー、避けろ!」
「何ッ!」
俺が飛び出すのとトリスタンの姿が目の前から消えるのはほぼ同時だった。そして刹那、金属が砕け散るような音があたりへと響き渡った。あまりの速さに、一瞬トリスタンの姿を見失う。軽くあたりを見回すと・・・いた、300メートルほど向こう、オブサーバーと剣を交えている。その周りには不自然なほど多くの金属片が散乱していた。どうやらオブサーバーは、とっさに地面側から武器を出して盾にしていたようだ。目測で約250本、しかしそのことごとくを彼女は破壊し、オブサーバーのもとまでたどり着き、さらにそのまま押し込み続け、100メートルほどつばぜり合いのまま移動している。彼が交えた剣もすでにひびが入っていることから、どれだけの威力を持った一撃だったのかが一目で分かった。さすがマルクトを内包し、次元すら切ることのできる剣だ。しかし、オブサーバーとのつばぜり合いに意識を集中させているトリスタンは、こちらにまだ気づいていない。俺は黄昏の聖十字を一度消すと、身軽になった体で急いでトリスタンのもとを目指した。1メートル、また1メートルと瞬く間に彼女との距離は縮まっていく。鏡のような鎧はおそらく俺の剣では破れない、ならば鎧のない部分そこを狙って一撃でケリをつける。おそらくそれが最善で最短の方法だろう。間合いまで近付きづらい彼女でも、今ならそれが可能なのだ。この機会を逃すと次はいつになるか分からない。そろそろ、黄昏の聖十字の間合いに入る。----よし、ここで決めてやる。
「ッ!」
念じると同時に俺の手の中に、紅色をした二本の剣が出現する。その剣を後ろへ引き絞ると、駆け抜ける勢いを利用して一撃ずつトリスタンの首をめがけて振りぬいた。しかし、手ごたえは一切ない。トリスタンは見事としか言いようのない無駄のない回避行動で、奇襲をかわし切ったのだ。こうなった以上作戦を改めるしかない。最高の好機を逃してしまったのだ。俺はとっさに降り抜ききった直後の剣を、オブサーバーとトリスタンの間で無理矢理地面にたたきつけた。そして飛来した二本の剣によってつばぜり合いをしていた双方の剣が宙へ舞い上げられたのを確認すると、剣を投げた反動で同じく宙へ飛ばされた体を利用し、宝石をあしらった方の剣を手に取った。二人は何が起こったのか理解できないような顔をして硬直状態になっていたが、それも一瞬、事態を整理すると共にバックステップで距離をとる。相手の手の内が分からない以上、近くでの追撃は危険だと判断したのだろう。さすが共に場数を踏んできているだけはあるな。さて、俺も地上に戻らなくては。武器を失ったとはいえ、神格開放によって他の攻撃方法が増えていないとも限らない。まあ、もう斬撃を飛ばしたりといった技は使えないと思うがそれでも警戒するに越したことはない。俺は右手を少し上げると、空で剣を握るように手を丸める。直後そこに一本の剣が現れ、容赦なく俺を地面に引っ張り落とした。
「悠樹さん、急いで下さい!」
地面に激突すると共にマリアの声が聞こえたのでそちらを見ると、オブサーバーの周りにみんなが集まっている。何か策があるのだろう、俺もそこへと急いで加わった。
「全員揃ったな。悠樹、あいつの剣は持っているか?」
「ああ」
「よし、では始めるぞ。不可視の障壁」
オブサーバーが指を鳴らすとサァァァと、雨が降るような音が聞こえてきた。手のひらを上にして確かめてみるが、雨が降っているような気配はない。そもそも、ここは固有結界の中だ、俺が書き換えを望まなければ天気なんて変わるはずがない。あとは、無意識にそれを望んだことも考えられるが、書き換えを行ったら恐ろしい勢いでヴンダーを消費してしまうというデメリットがある。そのような気配がないことからも俺のしわざではないことは明らかだ。だとすれば、オブサーバーの『ファランクス』とやらが原因だろう。
「これは?」
「不可視の障壁、要するに障壁を張らせてもらったってことだ」
「障壁という割には、それらしきものは何も見えませんわね・・・」
アリスの言う通り、俺たちの目の前は先ほどとは何も変わっていない。何かにさえぎられているように周りが見えなくなっているわけでもないのだ。変わったことといえば、雨が降っているような音がするくらいで、障壁が張られているといわれても信じられるわけがない。俺たちが首をひねっていると、突如前方から幾本もの棒が飛んでくるのが見えた。それは近付くにつれてはっきり見えるようになっていく。あれは・・・
「全員迎撃準備!」
それを理解すると同時に俺は仲間たちの号令をかけた。飛んできている棒のようなもの、あれは矢だ。それも一本が小さな木ほどもある大きさの化け物じみた矢なのだ。トリスタンは剣で戦っていたが、あれは俺と雪穂が無駄無しの弓を壊したから。もともとトリスタンは弓の方が得意なのだろう。必中という性能はなくなったものの、精度の高さには目を見張るものがある。まともに相手にしたら怪我では済まない。俺が黄昏の聖十字を構え、仲間たちも各々の武器を矢が飛来する方向へと向ける。しかし、その中でオブサーバーだけが不敵に笑っていた。
「おい、オブサーバー何してやがる。早く準備しろ!」
「安心しろ、障壁を張ったといっただろう?怪我をしたくなかったら動かないことだな・・・」
「チッ・・・全員構えろ、来るぞ!」
オブサーバーを除いたメンバーは、号令とともにもう一度武器を構えなおす。あともう少し、3・2・ガキン・・・
「え・・・」
レイナが唖然とした様子で声を上げる。その気持ちは俺も、いや他のメンバーも同じだ。何しろ突如何もない空間で、まごうことなくこちらへ飛んできていた矢が明後日の方向へ飛んで行ったのだ。それだけじゃない、続く何本もの矢も同じようにその軌道を俺たちからそらせていく。それはまるで、俺たちのいる空間の周りが何かの障壁に守られているようで・・・
「どういうことですの・・・」
「言ったはずだ、障壁を張ったと」
「ファランクス、密集形態で敵に突撃する古代ギリシャの歩兵部隊。先輩、世界史の授業で習ったような記憶があるんだけど・・・」
「そういうことか。密集形態で武器を降らせているんだな?それで見えない壁ができている、だから不可視の障壁か」
俺の問いにオブサーバーはニヤリと悪そうな笑みを返してきた。どうやら当たっているようだ。みんなも納得したような顔をしているな。武器を密集させて周囲に超高速で降らせることによって、視界を確保しつつも抜群の防御力を誇る障壁。なるほどな、無尽蔵に武器を出すことのできるオブサーバーにしかできないものだが、悪くない。俺の絶対守護領域はヴンダー消費量がバカにならない。それに比べると防げる攻撃の種類は減るものの、燃費はいいかもしれないな。
「でも、攻撃はどうするんだよ。これじゃあ防戦一方じゃねえか?」
「まあ待て、手の内を見せすぎるのも問題ってことなだけさ。そもそも、あいつらを作っちまった俺だからわかるんだがな・・・」
そこでオブサーバーは目を鋭く細めた。どうやらここから先にの話題は、少々覚悟して聞いたほうがよさそうだ。これからの戦闘にかかわってくる大切な話の予感がする。それも、この一戦だけのことではないほどの重要な何か、そんなものの気がするのだ。俺たちのそんな気配を感じ取ってか、他のメンバーも黙っている。俺は無言で頷いて、オブサーバーに先を促した。
「戦闘データにおいてだけだが、あいつらの記憶は共有されている」
「どういうことですか!」
衝撃の事実に皆が唖然とする中、マリアがオブサーバーに掴みかからん勢いで体を乗り出すと、そのまま乗り出しすぎて前のめりにひっくり返る。しかし、きれいに前転をとるとしっかりとオブサーバーの方を向いて先を促していた。それもそうか、なんだかんだで俺が号令を出すことはあっても、マリアはSクラスのリーダーなのだ。リーダーである以上、仲間の危険に関して一番敏感なのだろう。
「どうもこうも、そのままの意味だ。元は一つのファイント、つまり記憶も一つ。それが分かれたときに一部だけつながったんだろう。そしてその部分が体を多く動かす戦闘データを蓄積する部分だったってことだ」
「手の内を見せすぎると、これから分かれた他の奴と戦うときに不利になるってわけかよ。めんどくせえな・・・」
「そんなこと言っていても始まりませんわ。できる限りどのようにやられたのか分からないように倒すしかないのではなくて?」
それはもちろんそうなのだが、分からないように倒すとなると奇襲攻撃か、一撃で倒す以外に方法がない。さっき失敗した方法をもう一度行うことも難しい。あの速度で動くことのできる相手を一瞬の隙をついて倒す、か。そもそも6対1の今でも戦力差はあると思われる状況で何人かの技を見せずに戦うなんて、かなりの無理ゲーなのでは・・・くそっ、何も思いつかねえ。こんな時雪穂なら何て言うだろう、目をつぶって考えてみる。雪穂なら・・・でも今回は雪穂をここに連れて来たくはない。あいつがケガするところなんか見たくないんだ。それはもちろん他の仲間も一緒だが、あいつはそれ以上に俺にとって・・・
「お兄ちゃん、私怒ってるんだからね」
雪穂の声が聞こえる。幻聴だと分かってはいるが懐かしい響きだ。さっき分かれたところなのにな・・・もう決意が揺らぎそうだよ。ダメな兄貴だな。
「聞いてるの?私は・・・ここにいるんだよ!」
「え?」
目を開けると、そこには雪穂が立っていた。何故だ?ゲートは閉じたし、さっきまで間違いなくここにはいなかった。俺がゲートを開いたわけでもない。それならどうしてここに・・・いや、もしかしたら俺の早とちりで、実はここには雪穂はいないのかもしれない。そうか、そうだよ、これは幻覚に違いないんだ。そう思って手をのばし、雪穂に触れてみる。あれ、触れられるぞ、それに体温も伝わってくる。それも想像、それとも妄想?いや、それとも本当に幻覚じゃ・・・ないのか?
「どう・・して・・?」
「やっとしゃべってくれたね。少し怒ってるんだからね!」
そう言って俺の頭に軽くチョップを入れてくる雪穂。その痛み、そしてその姿を軽く引き気味で見る仲間たちの視線、これらが雪穂の存在が幻覚じゃないということを示している。みんな戦闘中だってことを忘れてるんじゃないか?まぁ、それは俺にも言える事なんだけど・・・それでも、俺は雪穂がそばにいるというだけで、何とかなるとそう確信を持った。やはり怪我をさせたくないからというような理由で、雪穂を連れてこないようにするんじゃなかった。俺には雪穂が必要なんだ。軽く涙ぐんでいた目をこすると、顔を真剣なものに切り替える。そして軽く雪穂に微笑みをおくってから、仲間たちを見回した。
「策はまだないかもしれない、ここでいつまで耐えられるかもわからない。それでもやらなくちゃいけないんだ。行こうか、みんな!」
その言葉に、みんなは何か言うでもなく、ただ静かに頷いてくれる。じゃあ、もう一度だ。難易度は上がったかもしれないが、それでもできるはずだ。
「オブサーバー、ファランクスをといてくれ」
「分かった」
「行くぞ、散開!指示は後々だ、今は攻撃を避けることだけを念頭に!」
そして、ファランクスがとかれると同時に、俺たちは一斉に駆け出した。
はい、今回も読んでいただきありがとうございます!
まだ続くのかよ、しかも策はないってどういうことだよ、と思った方もいらっしゃるかもしれません。
前回トリスタン戦は終わるって書いたような気がしますが、すみません終わりませんでした・・・
ということで、次回も引き続きトリスタンと戦いますが、よろしくお願いします!