反転
どうも、どこぞの委員長です!
お久しぶりです・・・
前回は悠樹が次元破壊したところまででした。
では続きをどうぞ!
俺の言葉に応えるように、腕を伸ばした先で激しく風が渦巻き始める。いや、厳密に言うとあれは風ではない、ヴンダーの奔流だ。しかしそれも長くは続かず、瞬きする間に荒れ狂うヴンダーは弱まっていき、後には赤色の光を放つ楕円形の穴のようなものが残された。地面から数cm浮いた状態で空中にあいた穴だ。傍目に見ると不思議な光景に映るだろうが、俺たちの前にこれが現れるのはよくあること。別段不思議に思うようなことはない。そう、これこそが俺の固有結界への通路、次元門だ。この状態で拉致を行うと選択対象を固有結界の中に引き込むことができる。しかし、今回は何かを固有結界内に閉じ込めたいわけではない。
「次元門開錠」
俺の一言で、赤かったゲートが青くその色を変える。次元門は敵を閉じ込めるという性質上、次元破壊直後は拉致で敵を引き込む以外に固有結界内へ入ることも出ることも許さない。いわゆる鍵が閉まった状態なのだ。その鍵を開けるのがその名の通り、次元門開錠というわけだ。つまり今なら固有結界の中へ入ることも出ることも自由というわけだ。
「さて、戦友たちを迎えに行こうか!」
後ろを振り向き、サンダルフォンと雪穂に声をかける。しかし、その二人の表情は両極端だった。雪穂は満面の笑みで、今にもゲートに飛び込みそうな勢いなのだが、サンダルフォンの表情が芳しくない。それこそ、何か許されないことが起きたかのような顔をしている。目が座っているのだ。さっきのグリゴリの一件をまだ引きずっているのだろうか?いや、それは謝罪によって終わったはずだし、会議の時も何ともなかった。ならば原因は次元破壊だろう。
「サンダルフォン?」
「・・・」
「何かまずかったか・・・?」
「・・・」
緊張感に耐えかねた俺はサンダルフォンに声をかけてみる。しかし彼女は頑なに口を閉ざしたまま何も言わない。だが、その間も俺から目をそらすこともなかった。おいおい、マジでなんなんだ?このままだとさっきの対決に後戻りするぞ・・・あれを避け続けるのは正直もうごめんだ。しかも今回はこうなった理由がハッキリとわからない。つまり、謝って許してもらうことはできないわけだ。さあ、どうしようか・・・
「貴殿・・・」
「お・・・おう、なんだ?」
「それを今すぐに撤去しろ。さもなくば、命の保証はしないぞ」
「それはどういう・・・?」
「急げ!」
その声と態度はサンダルフォンの通常のそれではない、何か焦っているような、恐れているような、そんな感じがする。その瞬間、俺の頭の中に一つの可能性が浮かんだ。クソッ、そういうことかよ。ならそうだといえばいいじゃねえか!回りくどい言い方をしてんじゃねぇ・・・
「閉・・・」
「おにいちゃん!」
突如目の前に雪穂が割って入ってくる。その手にはしっかりと握られた村雨。しかし、ほんの瞬きの間で刀は上空に飛び上がっていた。何かに弾き飛ばされたようだ。俺はこの光景は一度見たことがある。そう、あれはまだ俺が地上にいた時、同じように雪穂がかばってくれたのだ。ならばまだ次がある。俺は雪穂の肩をつかむと、そのまま力一杯後ろへ引っ張った。その反動を利用し、俺は前方へと加速する。
「ありがとう。先に行くぞ」
俺の横を通り後ろへと流れていく雪穂に小声でつぶやき、既に元に戻っていた黄昏の聖十字を展開する。剣を眼前で十字に重ね、俺はゲートへ向かってさらに加速を加えつつ、走りこんだ。その間、何発か不可視の攻撃が剣をこちらへ押し戻してくるが、気にしている余裕はない。ここで止まると、雪穂が危ない。この感情だけが俺を前へと押し出していた。
「ッ!」
突然、これまでとはまるで重みの違う一撃が重ねた剣を通して俺の腕に伝わった。それもそのはず、今俺が受けたのはこれまでにくらった不可視の攻撃ではなかったのだ。俺の目の前には、半分に切れた次元門から突き出た剣があった。その剣はまだ半分ほどしか出ていないが、形状はこの時代のもの、つまり百年戦争時代に一般兵が持っていたような量産型のものと同じものだ。しかし、その重みは武器召喚士のS級武器を押し返そうとせんばかりのものだ。決まりだな・・・
「今そっちへ行ってやる!決着はそこでつけようじゃねえか!」
気合で剣を押しのけると、俺は剣の持ち主もろとも固有結界の中へと転がり込んだ。その瞬間、後ろに開いていた次元門が音もなくその口を閉じる。おそらく中途半端に閉鎖が行われていたせいだろう。しかし、これで雪穂に被害が出ることはなくなった。
「よう、久しぶりだな」
話しかけた瞬間、ガキンと音を立てて俺の剣が後方へと押し込まれる。相手が不可視の攻撃を放ったのだ。
「おいおい、いきなり攻撃してくるとは、お前の肩書が泣くぞ?き・し・さ・ま」
「そうね、私は誇り高き円卓の騎士ですもの、奇襲をするなんてそんな外道のような真似はしない・・・なんて言うと思った?」
ガキン・ガキン、今度は二発の攻撃が不可視で飛んでくる。しかし俺は、それを二本の剣を使ってさばききった。だが、やはり一撃一撃が重すぎる。何発も耐えるのはよしたほうがよさそうだ。どうすれば、こいつを止めることができるだろうか。とにかく今は時間が必要だ。さて、どうしようか・・・
「トリスタン、少し話をしないか?」
「い・や・よ!」
今度は三発、言葉に合わせて撃ってくる・・・なんだ、一回しゃべるごとに一発増やしていく遊びでもしているのか?いや、そんなわけない。おそらく、彼女なりの挑発だろう、あまり喋りすぎると殺すという。じゃあ、次ぐらいで攻撃を止めさせないと本当に対処できなくなりそうだ。いや待てよ、喋らなければ攻撃してこないなら、喋らなきゃいいんじゃないか?
「・・・」
「かかって来ないの?じゃあ・・・」
「ッ!」
一瞬だった。俺の目の前からトリスタンが消えたのだ。そのとき、俺はほぼ無意識に剣を後ろへ投げていた。直後、キンッという金属がぶつかり合うような音が響くとともに、剣が俺の手に返って来る。どうやら俺が目で追えないほどの速さで、トリスタンは俺の後ろへ移動していたようだ。クソ、速い!斬撃が飛んでくる場所を把握するには、トリスタンの剣が振られる瞬間をとらえなくてはならない。その角度によって、どこに飛んでくるのかを算出するからだ。しかし今のような攻撃、俺の死角から斬撃を飛ばされると対応できない。何か策はないか・・・
「へぇ、今のを防ぐの・・・あなた、いいわぁ、なかなか楽しめそうじゃない!私が見えない雑魚共を殺しても何も面白くないもの!」
「外道はどっちだよ、全く・・・」
神格開放をしたトリスタンは、最初に会った時に感じた騎士の威厳のようなものが完全に抜け落ちており、口調や声色までもが変わっていた。なんといえばいいのだろう、精神構造を反転させたような感じだ。これが神格開放を行ったことによるものなのかはさだかではないが、仮にそうだとするなら神格開放は強さと引き換えに自分の魂を捧げるような行為になるだろう。そこまでして俺たちを殺したかったのか、それともこうなることを知らなかったのか・・・おそらく後者だろう。俺は勘違いをしていたのかもしれない。トリスタンはあくまで主と認めたジャンヌダルクを助けていただけであって、決して殺しを楽しんでいたわけではなのかもしれないのだ。だが、こうなってしまった今となっては殺す以外にトリスタンを止めるすべはないだろう。いや、たとえトリスタンが由緒正しい騎士だったとしても、ファイントから生まれたことは変わらない。結局は自分の中で、殺した後に理由に対して納得をつけやすいかどうかだけの違いだろう。要はただの気持ちの問題だ。とはいえ、今の俺ではトリスタンにかなわないのは事実。あともう少し時間を稼がなくては・・・おっと、噂をすればというやつだ。やっと来たか。俺の視界の先には全力で走ってくる人影があった。
「待たせたな悠樹!」
トリスタンを挟んで向かい側、そこには死地を共に切り抜けた戦友の姿があった。声の主はオブサーバー、その背後にはマリアたちSクラスのメンバーも揃っている。
「よう、トリスタン」
「・・・」
「改めて始めようか、殺し合いを!」
はい、今回も読んでいただいてありがとうございました!
トリスタン戦はもうちょっと続きます・・・
ということで次回もよろしくお願いします!