新たなる旅路
どうも、どこぞの委員長です!
定期的に行われるテストがあり、二週間開いてしまいました。
前回、パーシヴァル尾の下へと飛び立った悠樹君はどうなったのか!
その続きです、どうぞ!
どんどんと迫ってくる屋上を見上げながら、俺はもう一度決意を固めた。雪穂と両親をあんな目に合わせたパーシヴァルを必ずここで仕留めると。人間なら少しは躊躇したかもしれないが、あいにくパーシヴァルは人間ではない、ファイントだ。ファイントに対してかける情けは持ち合わせていない。
「じゃあ、おっぱじめるとするか!」
そう呟くと共に、ずっとビルの外壁が続いていて何も見えなかった正面が突如ひらけた。屋上に出たのだ。そこには映像で見せられた通り、雪穂たちが倒れていた。その近くにはパーシヴァルの姿もある。奴はこちらへ向けて、一瞬何が起こったのか分からないといったような目を向けたが、すぐに薄く嗤った顔へと変わった。それは紛れもなく、俺を刺した時の顔そのものだ。俺はそのふざけた顔を睨みつけながら、絶対神聖守護領域から屋上へと飛び移った。
「かくれんぼは終わりだ、パーシヴァル。皆を返してもらおうか!」
「フククク。どうやって見つけたのかは知らぬが、ずいぶんと早い到着だったの。まあ良い、ここで仲間もろとも天へと送ってやろう」
パーシヴァルは言葉が終わると同時に、流れ出た血のように鈍く紅色に光る槍をどこからか取り出した。最初に出会った時のことを考えると、奴は槍を投げてくるだろう。飛んでくるであろう槍に対して身構えた瞬間、パーシヴァルの手が消える。実際は超高速で振られたその手から放たれた槍は、俺めがけて一直線に飛んでくる。事前にそれが分かっていた俺にとって、避けるのは苦では無い。しかし、俺がその槍をかわしたその着地地点、そこにもう一本槍が飛んできている事は予想できなかった。俺の視界に映る世界が、ハイスピードカメラで捉えたかのような速度へと下がっていく。何か、この戦況を打開できる方法はないか。俺がそれを考えている間にもその時は刻一刻と迫って来る。急げ、だが落ち着け・・・槍の起動と俺の体が重なる点、そこへ至る瞬間が分かれば避ける事は可能だ。その一瞬を見極めろ、大丈夫、俺ならできる!
「・・・ふっ!」
槍が俺の体に重なる場所へ届く一瞬前に、槍と体の間に黄昏の聖十字をクロスして間一髪で滑り込ませる。槍がクロスした黄昏の聖十字の間に来た瞬間に槍を挟み、前方宙返りを行う。宙返りに巻き込まれた槍は、飛んできたスピードのままでパーシヴァルの下へと返って行った。直後、鈍い金属音と共に二本の槍が宙へと舞う。まさか三本目の槍が飛んできていたとは思わなかった俺は、そこで不覚にも一瞬体の動きを止めてしまった。それを見逃すパーシヴァルでは無い。すぐに、準備されていた四本目の槍がパーシヴァルの手から放たれる。一体、あいつは槍を何本持ってやがるんだよ。そんな俺の言葉をあざ笑うかのように、続けて五本目と六本目の槍が左右の手によって同時に放たれた。それは四本目を左右から挟み込むような軌道で飛んで来たため、完全に俺の逃げ場は塞がれてしまう。いや、逃げ場は一つだけある。しかし、そこへ行くために体を動かしている時間が無い。絶対守護領域も先ほど使ってしまったため、もう一度発動するには半日は待たなくてはいけない。それでも、俺はお前に負けるわけにはいかないんだよ!瞬間、目の前の槍が吹き荒れる炎によって左方向へと数m流された。たとえ数mだとしても、俺が射程範囲から外れるには十分だ。炎の出どころを確かめたい気はあったが、今の目的はそれじゃない。俺はパーシヴァルを睨みつけながら地面を蹴った。
「パーシヴァル、覚悟しやがれ!」
俺の攻撃のタイミングは完璧だった。自分の攻撃を反らした相手を確認するため俺を視界から外していたパーシヴァルに、俺の攻撃は確実に当たる距離だった。だが、俺の黄昏の聖十字は、パーシヴァルを守るように展開された無数の紅い槍にその行く手を阻まれてしまった。さらに、それらが一斉にこちらへ向くように動き始めたのを見た俺は、瞬時にパーシヴァルを飛び越えて反対側に着地する。直後、さっき俺がいた場所を無数の槍が蹂躙していくのが視界に入った。あぶねえ、あのままあっちにいたら今頃ハチの巣にされてるとこじゃねえか。追撃の気配を感じ取った俺は、すぐさまパーシヴァルから距離を取る。今回も俺のいた範囲が的確に十数本の槍で射抜かれていた。
「ほう、我のディンドランをこれほどにまで躱すか。そなた、一体何者だ」
「人間だ・・・半分はな」
「もう半分は人間で無いと、そう申すのか」
「お前は一生知ることのねえ話だ!じゃあ、そろそろ終わりにしようか!」
俺はもう一度パーシヴァルに向かって駆け出す。もちろん、パーシヴァルは槍の壁を展開して俺の攻撃を防ごうと試みた。しかし、今回はさっきとは違う。俺は顔に薄嗤いを浮かべ、そのまま槍の防壁へと駆け続ける。バカの一つ覚えか、そんなパーシヴァルの声が聞こえた気がしたが、そんなことは関係ない。さっき炎の攻撃を放った人物、それに俺は心当たりがあった。今はその人物を信じて走り抜けるだけだ。あいつならきっと俺に合わせてくれるはずなのだから。
「・・・ッ!」
俺は間合いに入ると、右手の黄昏の聖十字を思いっきり槍の壁へと振るった。パーシヴァルはこの攻撃を弾くと同時に防壁の槍を解き、攻撃用に転化してくるはずだ。だが、そうはさせない。黄昏の聖十字が防壁に当たる瞬間、防壁がまとめて瞬時に氷に包まれる。そのまま攻撃を喰らった槍の防壁は、跡形もなく砕け散った。続く左手側の攻撃はパーシヴァルに直接あたるコースとなる。だが、パーシヴァルはそれを後ろへ飛ぶことによって躱した。
「ぐあ・・・う・・・何故・・・」
だが、後ろへ飛んだパーシヴァルの心臓部には一振りの刀が刺さっていた。パーシヴァルが自分を刺した人物を見ようと後ろを振り向いた瞬間、その刀の刀身が業火に包まれる。その業火はパーシヴァルに燃え移り、荒れ狂う蛇のようにパーシヴァルを燃やし始めた。
「うぐぁぁぁぁぁ、貴様ら、貴様らだけは許さんぞぉぉぉぉ!我を倒そうと、残りの騎士達が貴様らを始末するだろぉぉぉ!」
そんな断末魔を残し、雪穂たちに危害を加えた愚か者は灰も残さず燃え尽きた。パーシヴァルが消えたところには、ただ虚しく風が吹くだけだった。
「おにいちゃん!」
パーシヴァルが燃え尽きるのを冷めた目つきで見ていた雪穂は、パーシヴァルが完全に消え去ったことを確認すると、俺に駆け寄って来る。そのまま抱きついてきたので頭をなでてやると、気持ちよさそうに体をすりよせてきた。そんな可愛い妹をずっと見ていたかったが、残念なことに今はやるべきことがある。俺は名残惜しそうにこちらを眺める雪穂を自分から離してそばに立たせると、既に意識を取り戻していた両親に向き直った。
「悠樹君、雪穂さん、まずはお礼を言おうかな。ありがとう」
「ありがとう」
両親からお礼を言われた俺は一瞬嬉しくなったが、すぐに気持ちを引き締める。おそらく次から始まるであろう問答は、俺はともかく雪穂を傷つけるかもしれないからだ。身構える俺に、やはり予想通りの言葉がかけられる。
「そして、君たちは一体何者だ」
俺たちの正体、それを両親は聞いてくる。戦闘が始まった直後のごたごたの中では何とかごまかせたが、全部戦闘が終わった今、ごまかすことは出来ないだろう。俺は何かを言おうとする雪穂を手で制すと、両親へ向かって口を開いた。
「俺たちはあんたらの子供さ。未来から来たんだよ・・・」
「ッ!」
両親は二人とも数瞬目を閉じていた。完全に俺たちに表情を隠している。ここからだ、雪穂を傷つけない選択はおそらくできない。それならばできるだけ傷つかない方法をとるしかない。さあ、言ってみろ、俺たちに対する本音を。俺はそれを全て受け止め、雪穂をかばいきって見せる。
「ふむ、大体予想道理だね」
「え?」
だが、両親から放たれた言葉は予想外の言葉だった。予想できていた、どういうことだ?俺たちは確かに名前を言いはしたが、そこから自分たちの子供だと断定することは出来るはずがない。ましてや、未来から来ただなんて戯言じみたことを信じるというのか?戸惑っている俺に、母親である幸奈から声がかけられた。
「私たち、まだ子供はいないけれど分かるわ。だって、あなたは雄也さん、雪穂さんは私と武器の扱い方がそっくりなんですもの」
俺は、その言葉に数瞬言葉を返せないでいた。雪穂の方を見ると、雪穂の目は既に涙にぬれているようだ。それもそうだろう、自分たちを見たこともないはずの両親が、自分たちのことを分かってくれたのだから。俺の目からも涙がこぼれてきたが、俺はそれを拭うと両親へ向き直る。
「分かってくれるとは、さすがというのかな。一緒にいたいけど、俺たちはやらなきゃいけないことが出来ちまった・・・」
「ああ、分かってるよ。悠樹、雪穂、必ず成し遂げて来い!僕たちはここで応援してるからさ!」
「父さん・・・ああ、必ず終わらせるさ!」
「頑張るのよ」
「母さん、分かったよ。私とおにいちゃんで、必ず終わらせる!」
俺達は両親と固い握手と抱擁を交わし、彼らに背を向けた。これから始まる俺たちの旅は、長く険しいものになるだろう。だが、両親の想い、そして雪穂が俺と共にある限り決して諦めることは無い。12体残っているレベルⅩファイント、どこにいるかはまだ不明だが、決して見つけ出して全て倒してみせる。それが半人半ファイントという宿命を背負った俺の、俺たちの役目なのだろうから・・・
はい、今回も読んでいただきありがとうございます。
今回で第一部は終了となります。
第二部は残ったレベルⅩファイントを倒していく話になると思います。
では、第二部でお会いできるのを楽しみにしています!