黄昏の聖十字
どうも、どこぞの委員長です!
先週は本業の用事で更新できなくてすいませんでした。
先々週は悠樹君の剣の色が変化した所で終わりましたので、その続きです!
どうぞ!
俺の両手に握られている剣、漆黒から夕陽のような紅に染まったそれは、刀身も幾分か細く短く変化し、一般的な剣よりも少し大きい程度の物になっていた。それでもその剣は、終焉の混沌剣・覚醒に勝るとも劣らぬ雰囲気を漂わせている。十字架にも似た剣なんて、俺の黒歴史ノート「漆黒の聖書」にも描いた覚えがない。これまで俺の能力で召喚された武器は全て、あの聖書に書いてあったものばかりだったのにだ。これはどういうことなんだ?俺の能力に何らかの変化が生じたのか?だが、そんなことはどうだっていい。今、俺に必要なのは目の前の敵をこちらへ引き付ける力、それだけだ。
「悠樹さん、その剣は一体・・・」
「黄昏の聖十字、それがこの剣の名前だ。詳しい説明は後で・・・とりあえず今はあいつの相手だ!」
俺は武器の見た目から考えた剣の名前を答えると、ファイントに向き直る。今、剣の性能を詳しく説明している時間は無いのだ。とりあえず、穂乃香がオブサーバーに手紙を届けてくれるまでは気を抜いてはいけない。敵は既に立ち上がっていて、腕が一本無くなったことを感じさせないような動作で再びこちらへ向かってくる。失った腕は槍、つまり遠距離武器を持っていたものだ。もう一つ遠距離攻撃武器として弓を持っているが、アレは矢を持っている手と合わせて腕を二本使わないと発射できない。最初に狙うべきなのは、矢を持っている腕だろう。一本壊すだけで、二本の腕を使用不可に出来るんだからな。だが、矢を持っている手は敵の最上部、左右三本ずつの腕の中で一番上に位置している。剣や槍で攻撃しても届かない位置だ。どうするべきか悩んでいる間にも、ファイントはこちらへ向かって進行してくる。待てよ、アリスのケラウノスは・・・
「アリス、ケラウノスを雷化して一番上の矢を持った腕を攻撃できるか?」
アリスは俺の問いかけに微妙な表情を浮かべる。あれ、なんかまずいことでも聞いたかな?
「ケラノウスの雷化は・・・悠樹さんの攻撃を防ぐときに使用してしまったのですわ。もう一度使うにはあと数時間はかかってしまいますの・・・」
「すまない、悪いことを聞いたな・・・」
「別に構いませんわ。それより、早くしないと全員やられてしまいますわよ」
アリスの方に向けていた顔を敵に戻すと、敵は矢を弓につがえているところだった。あれはマズいな。矢とはいっても、サイズがファイントに比例しているから、一本が終焉の混沌剣ぐらいあるぞ。喰らったらひとたまりもない。考えろ、今までの戦闘経験、武器の特性、こちらの戦力、一番いい方法じゃなくていい、全員が生き延びれる道を探すんだ・・・その時、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。だが、かなりシビアな作戦だ。それでも生き残るためにはやるしかないだろう。どのみちあいつは倒さなくてもいいのだ。最後はオブサーバーが安全装置を作動して破壊してくれるのだから・・・
「皆、俺の周りに集まってくれ!速く!」
俺の言葉に皆は一度首をかしげる。それはそうだろう、全滅を避けるため距離を取っていたのだ。それを集まれと言うのは真逆のことなのだから。それでも皆は俺の指示通り、周りに集まってきてくれる。
「俺の半径5mの位置から出ないようにしてくれ!理由は後で説明する!」
俺は敵の矢が放たれる一瞬に目を凝らす。俺の考え付いた作戦、それはこの剣の特性によるものだ。まだ触って数分しかたっていないが、この剣でどういったことができるのかは何故か分かる。俺が剣の名前に聖十字を入れたのもこの技があると分かったからだ。自分を中心として半径5mの範囲を全ての攻撃から守護する。それが起死回生へのたった一本の架け橋。ただし、効果継続時間は約1秒、連続使用は出来ない。相手の攻撃を完全に読んでいなければ確実に失敗してしまう。敵は矢をつがえた弓の弦を引いていく。俺の見る世界がスローモーションのように動き始める。ゆっくりと引き絞られていく弦、そして限界に達した弦は矢を押し出す。その瞬間に俺は2本の剣を十字にクロスして叫んだ。
「絶対守護領域!」
その言葉と共に、俺の半径5mがまばゆい光に包まれる。直後、金属質の物が絶対守護領域の外壁に当たる音がした。1秒で威力を殺せなければこちらの負けだ。
1秒後、巨大な一本の矢が地面に刺さっているのが確認できた。どうやら賭けには勝ったようだ。
「次の遠距離攻撃までは、まだ時間がかかるはずだ!この矢を飛ばして、あいつの腕を一本壊してやろう!」
「分かった、私の出番だね!」
雪穂は俺が何をしようとしているのか分かったようで、すぐに準備へ取り掛かってくれる。俺がしようとしているのは、さっきの矢を相手に打ち込むこと。それには相応の発射装置が必要になる。そのために雪穂の力が必要なのだ。雪穂が作っているのは氷の筒、それもさっきの矢が入るぐらい大きなもの。それに矢を入れて、後ろから水を注入し、水圧で矢を発射する。それが俺の立てたプランだ。俺の算段が正しければあいつの攻撃より早く打てるはずだ。
「悠樹!雪穂!」
突然響いたレイナの声に慌てて敵の方を見た俺は・・・息を呑んだ。俺は、相手の遠距離武器は矢だけだという固定概念にとらわれていたのだ。別に矢だけが遠距離武器なわけじゃない。そう、俺の見た先でファイントは、ハンマーを投擲する姿勢に入っていた。
「雪穂、作戦中止だ!敵の攻撃が来る!早くここから逃げろ!」
「えっ、どういう・・・分かった」
俺に言われて敵の方を見た雪穂は納得してくれたようだ。反撃の機会を逃した俺たちは、全滅阻止のため再び互いに距離を取る。次は絶対守護領域を使えない。だが、ここに一人残らなければ敵の攻撃が誰を標的にするか分からなくなる。それなら俺が、ということで一人ここに残ることにした。ついに準備の完了したファイントは、体を大きく反らすと、俺めがけて巨大なハンマーを投擲してくる。だが、矢に比べたら断然遅い。完全に見切っていた俺は、その攻撃を難なく避ける。そして、反撃とばかりに黄昏の聖十字の一本を投げてやろうと思ったその時、俺の後ろでブゥンと風を切る音が断続的に聞こえて来た。ハッとして振り返ると、そこにはブーメランを投げた時のように回転しながら戻って来るハンマーが見て取れた。距離と速度的に回避不能、絶対守護領域は使えない。武器で、黄昏の聖十字で防げるだろうか。俺の見立てでは、五分五分といった所だ。だがやるしかない!俺は、防御重視で剣を構える。
「----ッ!」
ハンマーと剣が交錯する瞬間に備えて身構えたとき、俺の頭上からいくつもの武器が飛来し、今まさに剣と交錯しようとしていたハンマーを撃ち返した。飛来源を探すと、ファイントを挟んで反対側から山なりに投擲されたようだ。武器の種類はバラバラ、そしてかなりの数の武器を飛ばせる奴なんて、この場には一人しかいない。俺を助けてくれた人物、そいつがいる場所に目を向けると、そこには案の定オブサーバーがいた。どうやら俺の記憶が戻ったという連絡がついたようだ。オブサーバーはこちらの視線に気づくと、自分の前に武器を展開、その一本に自分がつかまったまま武器を発射した。どんな移動方法だよそれ・・・数瞬後、俺の隣に降り立った降り立ったオブサーバーは軽くこちらに目を向けてくる。その顔には、懐かしさや喜びの感情が溢れていた。
「息子、色々言いたいことはあるが、ひとまずアレを破壊するから待ってろ」
オブサーバーはそう言うと、懐からカバーのついたスイッチのようなものを取り出した。次いでカバーを外すと、迷いもなくボタンを押した。安全装置って何だろうとか思ってたけど、自爆装置みたいなものが組み込んであったのか。そんなことを考えながらファイントを見るが、何も変化がない。というか、矢を弓につがえ始めてないか?
「おい、オブサーバー!どうした、全然止まってねえぞ!」
俺の焦った声に振り向いたオブサーバーの顔は、先ほどとは打って変わって険しい表情になっていた。
「息子、よく聞け!あのファイント、暴走状態になりやがった」
「はあ、どういうことだよ!」
「安全装置を自分自身で壊しやがったってことだ!」
オブサーバーの叫びにも近いその声は、皆にも届いていたようだ。周りに散開している仲間たちの顔にも焦りが見て取れる。頼む、嘘だと言ってくれ。一言でいい、あのレベル測定不能、正真正銘の化物の安全装置は壊れてなんかないって。だが、俺の願いもむなしく、オブサーバーの言葉は紡がれた。
「あれは、誰かが倒すまで止まらないぞ・・・」
はい、今回も読んでいただきありがとうございます。
武器にはいろんな使い道があるんです!
オブサーバーの使い方、武器としては間違ってるよ・・・
次回もよければよろしくお願いします!