復活~リザレクション~
どうも、どこぞの委員長です!
前回は飛んでいる悠樹君に鎖が巻き付いたところまででした。
というわけで、その続きです!
どうぞ!
俺に絡みついた幾本もの鎖は、巻き付くと同時に俺を地面へ引っ張り始める。その先にあるもの、いや、いる奴はあの男だった。その傍らには、戦意喪失していた少女たちが勢ぞろいしている。中でも身長にそぐわないほど大きなハンマーを持っている少女と、槍を一本携えている少女は息が切れているようだ。落ちていくというより無理やり男の下へと引っ張られている俺は、どうにかして鎖から抜け出そうと努力する。しかし、どうやらただの鎖ではないようで、いくら力を入れてもびくともしない。そうこうしているうちに、俺は男の前の地面に激突した。
「よう、暗黒武器の覇者。もはや息子の人格が残っていないとはいえ、仲間たちまで殺そうとするとはな・・・」
地面への激突で足に力が入らず、無様に尻餅をついている俺を見下ろしながら、男はそんなことを言ってくる。
「仲間?どういうことだ、俺はいつも一人で・・・くっ!」
俺の右頬に、突然鋭い痛みが走る。叩かれたのだと気付いたのは、俺の顔が地面にぶつかった後だった。俺は倒れた位置から起き上がらずに首だけ動かし、男の方を見る。そこにあったのは、怒りに震える男の姿だった。
「馬鹿言ってんじゃねえ!思い出せよ!これまで一緒に戦ってきた仲間だろうが!」
「・・・・・」
「答えねえか・・・おい、てめえらからもなんか言ってやれ!」
男は怒りに満ちていた顔を呆れ顔に変えると少女たちの方を向いた。男の声は聞こえていたはずだが、少女たちは何も喋らない。ただ、悲しそうな顔をこちらへ向け続けるだけだった。
「はぁ、言葉も出ないか・・・仕方ねえ、荒治療になるかもしれんが最終手段だ、アレを使うか・・・さっき言った通りだ、とりあえず時間を稼げ。その間に俺はアレを作る!」
前半は独り言のように呟いていた男だったが、後半、少女たちの方へ向き直ると大声で作戦を伝達した。その言葉に少女たちは頷き、指示を承諾する。男のその行動は、いかにもチームのリーダーという感じがする。でもなぜだろう、あいつが少女たちに命令しているのを見ると無性にイライラするのだ。まあ、深い意味は無いんだろう。俺のあの男へ対する嫌悪感が発展しただけだ。俺は自分にそう言い聞かせると、倒れこんだ地面から立ち上がり、少女たちと距離を取る。少女たちはあの男の指示を承諾していた。ということは、次は俺へ攻撃を仕掛けてくるはずだ。俺が攻撃に対して身構えると、少女たちは数瞬ためらったが、軽く首を振ると各々の武器をこちらへ向けてきた。少女の数は五人、武器はハンマー、剣、弓、槍、刀とそれぞれ違う。確か、ハンマーと槍は主に雷系、刀は水や氷系、弓は炎と雷、剣はエクスカリバーの原典、つまり光といったところだったはず・・・あれ、何でこんなこと知ってるんだろう。一度じゃない、あれらの武器は何度も見た気がする。だがどこで・・・
「-----ッ!」
その時、俺の考えを遮るかのように一本の矢が飛んでくる。それが引き金となり、俺と少女たちの戦いの火ぶたが切って落とされた。矢の数はさっきの男に比べるとかなり少ない。だが、一本一本の速度は速く、狙いも正確だ。その上、少女たちの攻撃はそれでは終わらない。弓・槍使いの少女たちが後ろへ陣取り、剣・刀・ハンマーを持った少女たちが前衛として俺へと向かってくる。向かってくるものは敵とみなすしかない。俺は終焉の混沌剣・覚醒の変遷を解除し、剣を二本に分離すると、少女たちの方へ向けて構えなおした。
戦力は五対一、どう考えても俺の方が不利だ。だがおそらく、俺の武器は彼女たちの武器を超えている。それも戦力差を覆せるほどに・・・
「どうして・・・どうして私たちがお兄ちゃんと戦わなくちゃいけないの!」
押して押されてを繰り返し、何度も互いの武器を交わしているていると、一人の少女が耐え切れなくなったような顔で叫びをあげた。そして、そのまま武器を下してしまう。あの少女は・・・確か、俺の鎧から何か得体のしれないものが噴出しているのに気付いた奴だ。そういえば、あの時も俺のことをお兄ちゃんと呼んでいた気がする。あいつは俺の妹なのか?
「お前たちは、いったい誰なんだ?」
「本当に覚えていないんですか、悠樹さん」
泣き始めてしまった俺の妹らしい奴に代わって俺にそう聞いてきたのは、ハンマーを持った小さな少女だった。話し方からして、この少女も俺と面識があるようだ。いや、この二人だけではない。ここにいる少女たちは全員、俺のことを知っているように見える。それも、かなり親しい間柄だったのだろう。最初からずっと、少女たちは俺と戦うことを本気で望んでいるようには見えなかった。
「俺は・・・お前たちの・・・仲間だったのか・・・?くそっ、思い出せねえ!」
「そうか・・・それでも私たちは諦めない、悠樹の記憶を戻して見せるさ!」
俺の言葉に剣を持った少女が答えを返してくる。これだけ俺のことを知っているように接してくるのに加え、少女たちの眼差しは決意に満ちている。どうやら俺は、本当に少女たちの仲間だったようだ。かくいう俺も、見たことも聞いたこともない少女たちの武器の性質を知ってたしな。
「何も覚えていない俺でも、君たちは受け入れてくれると言うのか・・・?俺は何度も君たちを殺しかけたんだぞ?」
「そんなこと、私たちを覚えていないなら仕方ないよ。武器を持った、それも敵か味方か判断のつかない人がいたら警戒する。それは先輩じゃなくてもすることだよ」
「そうですわ、警戒は戦闘の基本ですもの。それに、共に戦ったという記憶なら私たちの中にありましてよ!」
そうですわね、と周りを見回しながらそう言った槍を持つ少女に、周りの少女たちは微笑みながら頷く。まだ誰かは思い出せない少女たちだが、受け入れられたことがうれしくて、俺が少女たちの方へと歩み寄ろうとしたその時、轟音と共に地面が大きく揺れ始めた。揺れを感じた瞬間、全員がその場で倒れないように低い姿勢をとる。一体、何が起こっているんだ?
「あそこ!」
俺の心を読んだかのようなタイミングで、一人の少女が一方向を指さす。その先では、地面から大きな釜がせり出してきていた。そして、釜の傍らにはあの男が立っている。いや、男だけじゃない。男の横に、何かを積み上げた山のような物がある。よく目を凝らしてみると、それは人間の死体の山だった。その数は十数個といった所だろうか、中には鎧を着たものや武器を持ったものも見て取れる。
「あれは、円卓の騎士団!」
弓を持った少女が叫んだその声に、俺は驚きを隠せなかった。円卓の騎士団、それは、かの有名なアーサー王率いる伝説の騎士たちだ。それを全てあの男が倒したというのか?確かに無尽蔵に出てくる数々の武器、それに俺を引きずり落したあの鎖があれば、相手を拘束したまま攻撃を受けずに対処することもできるかもしれない。そうはいっても、あの騎士団は簡単に負けるような者の集まりではなかったはずだ。
「あの男、円卓の騎士団を一人で倒したのか?そんなの規格外だぞ・・・戦闘になるならどう攻めるか考えないと・・・」
「何言ってるのお兄ちゃん。あの人たちのほとんどを倒したのは、お兄ちゃんだよ?」
「え・・・」
どうやら規格外は俺だったらしい。俺は一瞬、頭の中が真っ白になった。円卓の騎士団を俺が倒しただって?それもほぼ全員だって?どういうことだ、理解が追い付かない。えーと、頭を整理しよう。あの死体の山は円卓の騎士団たちで、その中のほとんどを俺が倒した。うん、つまり俺は円卓の奴らが束になってかかってきたのを退けたと、そういうことか。なるほど、理解でき・・・
「るわけねー!理解できねえよ。あいつらを俺が倒しただって?それは本当なのか?」
少女たちは男の行動に警戒を払いつつ、こちらを見て頷いてくる。どうやら、俺が円卓の騎士団を倒したのは本当のようだ。というか、俺は一体どんな奴だったんだよ・・・でもそれが本当なら、記憶喪失になる前の俺の戦闘力は今の俺にも引き継がれていなければおかしい。それなら、あいつとの戦いも少しは楽に進められるかもしれない。まあ、本当に少しだとは思うが・・・
「ねえ、成り行きで認めちゃったとはいえ、あの作戦に乗ったの間違いだったんじゃないかな・・・」
「そうかもしれませんわ・・・ですが、一度始めれば止めることは出来ないと・・・」
「ですが、もし記憶が戻れば、すぐに安全装置を起動してアレを止めると言っていましたよ?」
どうやら少女たちは、男が荒治療といっていた作戦について話をしているようだ。だが、会話のあちこちに含「間違い」とか、「止められない」とか、不安になるような要素を大量に含んでいるのは気のせいだろうか。ちょっと気になったので一人の少女にコソッと聞いてみると、作戦の大まかなことが分かった。作戦をまとめると、男はファイントという生物を作り出そうとしているらしく、その製造は始まってしまえば止めることは出来ない。ファイントとはレベルで仕分けされており、Ⅹが一番高い。俺は記憶を失う前に多くのファイントと戦闘しているらしく、それと戦えば記憶を戻せるかもしれない。とこういう感じだ。この部分だけ聞けば、俺をファイントと戦わせて記憶を戻そうという作戦なのだが、どうやら今回男が作ろうとしているファイントのレベルがかなり高いらしい。チラッと男の方を見ると、男は円卓の騎士たちの死体を大釜に入れているところだった。大釜に死体を入れて何を・・・まさか!
「おい、ファイントは何から作られているんだ?」
俺の素朴な疑問に少女たちは全員首をかしげる。どうやら知らないようだ。だが、もし俺の予想が当たっているのなら、少女たちは知らない方がいいかもしれない。俺の予想、それはファイントが人肉を媒介として作られる生物兵器なのではないかというものだ。こんな予想当たってほしくはないのだが、アレを見る限り真実だろう。人の命を何だと思ってるんだと言いたくなるが、それを言ったら俺も同じだ。先ほど大釜に投げ入れられた人たちの命を奪ったのは俺なのだから・・・
「死の獣を生み出せ、地獄の大釜よ!」
突如、男の大声が響く。どうやら全ての準備が整ったようだ。男の叫びに反応し、地獄の大釜と呼ばれた大釜がグラグラと揺れ始める。次の瞬間、ただでさえ大きい釜をぶち破り、中から巨大な何かが飛び出す。地響きを立てながら地面に足をつけたそれは、足が二本、腕が六本、大きさは俺の10倍ほどの怪物だった。怪物の体表は深い毛でおおわれており、六本の腕にはそれぞれ弓・矢・剣・槍・斧・鎚といったあらゆる武器を持っている。さらにその武器は怪物の大きさにあっており、とても人間が持てる大きさではない。当たれば一撃で肉片と化してしまうだろう。だが、俺は怪物と少女たちの間へ移動すると、怪物へ向けて終焉の混沌剣・覚醒を構える。
「君たちは下がってて、怪物は俺が片付ける!」
「ううん、私たちも戦う!」
「ダメだ!命の保証ができないし、アレを作る材料を与えてしまったのは俺だ!俺が決着をつけないと・・・」
自分が原因で生み出してしまった災厄だから、俺は一人で決着をつけるつもりだ。そんな決意を少女たちが感づいていたのかは分からないが、小さな手が武器を構える俺の手に重ねられた。その数は五つ。疑いようもなく、それは少女たちのものだ。
「命の保証なんていらないよ。私たちはどんな強敵も一緒に戦って来た。今回もそれは一緒だよ」
振り返ると、俺の近くにいる少女たちの目は決意の色で満ちていた。記憶喪失になる前の俺、お前は慕われていたんだな。すまないが、今はこの少女たちの命を預からせてもらうぞ。大丈夫、決して失ったりはしないからさ!その時、俺は頭の中で何かか爆発する様な感覚が感じた。ああ、こいつらは俺の仲間たちだ。どんな時も一緒に強敵と戦って来た、仲間たちじゃないか。
「分かった、それじゃあ手伝ってくれ。マリア、アリス、レイナ、穂乃香、雪穂!」
「お兄ちゃん、記憶が・・・」
「ああ、全部思い出した。作戦は完了だ。あのファイントは安全装置とやらで止めてほしいところなんだが、このままじゃオブサーバーと連絡が取れない・・・」
俺の記憶が戻ったことに喜んでいた少女たちは、俺の言葉を聞いて息をのむ。作戦的にはこれで終了のはずだが、オブサーバーへ連絡を取るにはあいつをどうにかしなくてはいけないのだ。確かに一緒に戦うと言ってくれたし、その言葉に嘘はないだろう。だが、無理に戦う必要がない状況で、あんな奴と好き好んで戦いたくはない。皆気付いているのだ、あいつのレベルが尋常ではないことに・・・
「セントラルバージスの測定器は無いから憶測でいい、あいつのレベルはどれくらいだと思う?」
俺は仲間たちに問いかける。返ってきた答えはいずれも測定不能。そう、分からないのだ。長い間ファイントと戦って来た俺たちだ、レベル測定はそうそう間違わない。
「やっぱりか・・・あいつは正真正銘の化物だ。そこで作戦なんだが、穂乃香、俺たちはあいつを引き付ける。その間に、矢に手紙を結んでオブサーバーへ届けてくれないか?」
「分かった・・・けど、無茶はしないでね」
「ああ」
俺は穂乃香に軽く微笑みながら頷くと、囮を行う皆の方へ視線を送る。一か八かだが、それしか方法は無い。俺は手を開いてみんなに見せながら一本ずつ指を折りはじめた。カウントダウンだ。そして俺の手が握りこぶし、カウントがゼロになった瞬間、囮班はファイントの左腕側へ向かって走り始めた。各々少しずつ距離を開け、全滅することを避けながらファイントを挑発する。
「グォァァァァァァァァ!」
雄叫びを上げたファイントはこちらの意図通り、俺たちをターゲットにしてくれたようだ。地響きを立ててこちらへ向かって移動してくると、すぐにこちらへの攻撃を開始する。防具による防御が不可能と判断した俺は、最凶暗黒武装を解除した。武器も離した方が回避力は上がるだろうが、俺たちが敵だと強く認識してもらうために装備したままにしておく。だが、重いなこの剣・・・こんな重かったっけ?そんなことを考えている間にも俺の剣、終焉の混沌剣・覚醒は重みを増していく。
「-----ッ!」
敵ファイントの槍による攻撃を回避しようと横に跳んだ俺は、武器の重みでよろめき、倒れてしまった。そこに容赦ない槍の一突きが迫って来る。武器も転倒の衝撃でここからは届かない位置にとんでいってしまったし、そもそも今からの防御や回避は不可能だ。俺に迫る槍、届かぬ手を伸ばす少女たち、頭上に剣を掲げる女性、全ての光景がゆっくりに見え始めた。せっかく記憶が戻ったていうのに、すまねえな皆、しくじっちまったぜ・・・
「右に跳んで!」
突然そんな声が聞こえた。言われているのは俺じゃない、仲間たちだ。それに気づいたのだろう、仲間たちは声の通り右へ跳ぶ。
「エクス・・・カリバー!」
そんな女性の叫びが俺の耳に届くと同時に、目の前に迫ってきていた槍がファイントの腕ごと消滅した。突然腕を一本消滅させられたファイントはバランスを崩し、地響きを立てながら地面へと倒れていく。声のした方を向くと、そこには銀髪の女性が立っていた。
「今までどこ行ってたんだよ、姉ちゃん」
俺は一人呟き、自称俺の姉に軽く微笑むと、起き上がりつつあるファイントへと向き直った。さあ、今はあいつの囮を続けなくちゃな。俺が使命を改めて思い出しながら拾い上げた終焉の混沌剣・覚醒は、先ほどの重さが嘘だったかのように俺にぴったりの重さへ変わっていた。そして、元々漆黒に染まっていたその剣は、俺が持ち上げると同時に、その全身を夕焼けを閉じ込めたかのような紅い色へと変化させていった。
はい、読んでいただきありがとうございます。
前回の電磁投射砲を防いだ方法なんですが、オブサーバーも悠樹同様電磁投射砲を作り、それをマリアとアリスの武器特性である電撃を使って発射、悠樹の弾と相殺という想定をしていました。しかし、記憶喪失の悠樹君だと、武器特性知らないから分からなくね?(今回途中で分かってますが、息を切らしてる二人を見たときはまだ思い出してません)ってことで、あとがきに書かせていただきました・・・すいません・・・
まあ、そういうわけで、次回もよければよろしくお願いします!