1-8
惠の家に行く途中にある古びた記念碑の前で合流した優霽と凛子は、肩を並べながら歩いていた。
少し歩いたところで、凛子がふと優霽に話しかけた。
「ねえ、優霽」
「ん?」
「その……優霽の知り合いって……」
詳しいことを訊かれたら答えられない優霽はぎくりとしたが――――
「いや、やっぱりいいや」
凛子は俯きながら、口を噤んだ。
「そう……だよな、急にこんなことになっても信じられねーよな」
「ううん、優霽のことは信用してるよ」
少しの間を開けて、凛子は、でも……、と言葉を繋ぐ。
「優霽、秘密にしてることあるでしょ」
「え? いや……」
もしかして気付かれたのか、と思い、優霽は動揺した。
今までの経験から、自分のこの力を知った人間(もっとも、誰も信じてはいなかったが)その全てが、自分に冷ややかな視線を向けてきた。妄言、虚言だ、と。
だいぶ楽になったとはいえ、その記憶はトラウマとなり、今でもかれを苦しめていた。
だが、隣で歩く少女は、記憶の中の人達とは違った。
「ううん、言い難いことなら、無理して言わなくていいの。でも、もし話せる日が来たら、いつで言って。私は、どんなことでも信じるから」
その言葉で、優霽の心を凍りつかせていた重く苦しい記憶が僅かに溶けた気がした。
優霽は本当のことを言えるようになった未来を想う。
人ならざるものが見え、それらと意志の疎通を図ることのできる自分が受け入れられている未来を。
少しは肩の荷が下りた感じのした優霽の足は、力強く前へと進んだ。
「お待たせー」
優霽の数歩前を行く凛子が、惠の姿を見付けるなり、手を振りながら歩み寄った。
惠の影に隠れるように、小さな女の子がいた。
「妹さん?」と、凛子が訊くと、惠が後ろに隠れていた子の手を引いて横に並ばせた。
その女の子は俯きながらポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「……空知……晴香、です」
消え入りそうな声を、どうにか優霽と凛子の鼓膜が拾い上げた。
「はるかちゃんね、よろしく。私は凛子で、こっちのお兄さんは、優霽、っていうの」
紹介された優霽は、年下の女の子に対してはやや硬すぎる言い方で名乗る。
「久遠優霽です。よろしく」
「……よろしくおねがいします」
晴香はぴょこんと頭を下げた。
事前に小学四年生と聞かされていたのだが、礼儀がしっかりとしていることに、優霽は感嘆した。晴香は四年生にしては背も小さく、顔ももう少し幼く見えたので、その差異がまた、簡単させる要因だったのかもしれない。
『かわいいね、優霽』
咲夜は微笑ましそうに晴香を見ていた。
『人の子もこのくらいの年頃じゃとかわいいもんだのう』
ショウジイは、うんうんと頷く。
――黙ってろ!
声に出して言えない優霽は、心の中で強く思った。
しかし、その言葉を向けられた当の二人は――まったく気付く様子もなく、晴香のかわいさに目を奪われていたのだが。