表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この美しく儚い世界の片隅で  作者: 横山ヒロト
第一話【掌の上の神様】
5/11

1-4

「安請け合いしたものの……そう都合良く困ってる人なんて見付かるか」

 

不満げに呟く優霽の隣で、咲夜が呆れたように肩を落とす。

「だいだい優霽は探す気もないでしょ」


「……う、それは……」


 昨日、ショウジイと呼ぶことに決めた自称『神』と約束したことは一つ――――願い事を叶えて欲しい人、つまりは、何かしら困っている人を探す、ということだった。


 しかし、優霽は今日一日中、普通に学生としての一日を過ごしただけだ。


「明日は見付ける、うん」


 自分を納得させるように呟く優霽に、やれやれ、と首を横に振る咲夜が、


「そんなこと言って、明日も同じなんでしょ? まったく優霽の人見知りは……」

「っるせー……」


 優霽がついムキになって反論しようして語気を強めた瞬間――――

「どうしたの? ひとりで大きな声出して」


 優霽の隣に並んだのは――香峰凛子(かみねりんこ)、引き取られてきた優霽にできた初めての同学年の知り合いだった。正確には違うのかもしれないが、所謂、幼なじみのような存在だ。

 

 そう、咲夜は――――凛子には見えていない。


 それ故に、凛子……いや、周りにいる人達には、優霽が独りで大声を出したようにしか見えていなかったのだ。


「えっと、いや……なんでもない」と言い淀む優霽。


 しかし、幼いころから関わることの多い凛子には、優霽が嘘を吐いていることが手に取るように解っていた。もっとも、優霽のそれはとても解り易いのだが。


「嘘、だよね。もう! 困ってることがあっても、ひとりで抱え込もうとするの、悪い癖だよ」


「あ、ああ、ごめん」


「なんで謝るのさ」


「あ、そうか、ごめん」


「もう、また謝ってる」


 そう言って凛子は堪え切れないように、ふふふっ、と笑った。

 幼少期の決して良かったとは言えない記憶の所為もあって、優霽は人とコミュニケ―ションを取ることが、あまり得意ではなかった。


 だが、凛子は違った。

 確かに、お節介なところもあったが、踏み込んではいけない一線を越えてくることは、まずなかった。その見極めが上手いというべきか。


 そういうこともあって、凛子は優霽にとって唯一、ちょっとした相談くらいならできる相手だった。


「なあ、凛子」


「うん?」


「ちょっと頼み事があるんだけ――」


「何? 何?」


 凛子は嬉しそうに笑い、優霽に一歩近づいた。

 その分だけ優霽も一歩後ろに下がったので、結果として二人の距離は変わらなかったのだが。


「いや、頼み事がないか、って頼み事なんだけど」


「どういうこと?」


 凛子は顔に疑問符を貼り付け、小首を傾げた。


「いや、う~ん……なんて言ったらいいのかな……」


 優霽が言いづらそうにしていると、凛子が、


「言い難いことは、無理に言わなくてもいいよ」


「そっか、わりーな」


「ううん、いいの」


 優霽は、肩の荷が下りたように、少しだけリラックスして言葉を紡いだ。


「困ってる人がいたら、その悩みを聴きたいっていうか……その悩みを解決することが目的なんだけどさ……」


 話の核心――ショウジイのことを話さずに、目的を伝えるのはとても難しかった。

 しかし、凛子はそれで納得したように、うんうんと頷いた


「へえ、どういう訳か知らないけど、いいことじゃん」


 思いがけない反応に、優霽は胸を撫で下ろした。


「そ、そっか。いやまあ、たいしたことはできないと思うんだけど……ちなみに、凛子は何かないか?」


「うん? 私?」


「そう、なんでもいいんだけどさ。叶えたい願い、みたいなの」


「えっと……私は……」


 凛子は逡巡しながら、優霽の顔を見る。


 視線が合うと――――凛子は、顔を赤らめ、俯いてしまった。


 その行動の意味が解らず、優霽は平然と訊ねる。


「ん、なんかあるのか?」


「……う、ううん、なんでもないよ。私は、特にないかな」


 視線を外したままの凛子は、誤魔化すように、はははっと笑った。


「そうか。……ま、どっちにしろ、本当にちょっとしたことくらいしかできないと思うんだけどさ」


 優霽は、いま自分の部屋にいるはずの、ショウジイを思い浮かべる。


 ――やっぱり、たしたことはできないよな……。


 やたらと雄弁なだけで、実際にショウジイが何かをしているところは見たことがなかった。それに、咲夜もショウジイのことを『あまり力はない』と言っていたことからも、あの小さな老体で大きな願いを叶えられるとは思えなかった。


 相談したのはいいものの、それが確実に叶えられるとは言い切れない。

 ショウジイの願いである『誰かの夢を叶えること』に一歩近づけたのはいいが、それが叶えられないレベルの願いなら、結局意味の無いことになってしまう―――という、二つの考えで板挟みになった優霽に、助け船が出された。


「あ、そうだ!」


 凛子は、思い出したように口を開く。


「友達の話なんだけど――――」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ