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――ああ、ヤなこと思い出しちまったな。
優霽は深い溜息を吐きながら、自分の部屋に戻った。
一人部屋である彼の部屋には、彼以外に二人の人影があった。
一人は、全長20センチほどの小さな老人、もう一人は着物姿の少女。
どちらも――――人ではなかった。
奇妙な関係にある三人は、向かいあって話し合っていた。
「……で、どうするか、だな」
「ふむ、そうじゃのう」
難しい顔をしながら同じように腕を組む二人の間にいる着物の少女が、スッと手を上げる。
「あの……」
二つの視線が、同時に少女を捉える。
「まずは、優霽が誰か困っている人を探す、というのは……どうかな?」
自分の発言に自信がないのか、尻つぼみ気味の発言だった。
しかし、小さな老人は、それだ! と言わんばかりに、大きく頷いた。
「うむうむ、それは名案じゃ!」
そして、二人は瞳をキラキラと輝かせながら優霽を見る。
優霽は、うーん、と唸りながら俯くと、ゆっくりと顔を上げて、言葉を紡いだ。
「……わかった。そうしよう。ってか、それしかねーよな」
その発言を聞いた二人は、実に嬉しそうに大きく拍手した。
優霽にしか聞こえない拍手が終わると、着物の少女が口を開いた。
「そうだ! まだお名前を聞いていませんよね? こっちが優霽で、私は咲夜です!」
咲夜と名乗った着物の少女は、恭しく一礼した。
次に口を開いたのは小さな老人だった。
「そじゃのう、ワシには名前などというものはないが、人々にはゴシンボクさまと呼ばれていたな」
「ゴシンボク?」
優霽が、怪訝な視線で小さな老人を見る。
「そうじゃ、ワシの本体は何百年も生きた大きな木じゃ。人々に祭られているうちに、意識を持ったのじゃ」
「へえ、じゃあ神様なんですね!」
咲夜が感嘆したように声を上げる。
そう言われた小さな老人は、胸を張った。
「そうじゃ、ワシは神様なのじゃ!」
神様と名乗る小さな老人を怪訝な表情で見遣る優霽は、
「……で、その神様がどうしてそんなちっぽけな姿になってんだよ」
「ちょっと、優霽! 失礼ですよ!」
そう言われて、小さな老人が憤慨すると思われたが、老人は、哀愁を漂わせながら言葉を紡いだ。
「それがのう――――」
「なるほどね、わかったよ。まあ、とりあえず今のアンタでも叶えられそうな願いを持ってる奴を探すから、それまで待ってろ」
咲夜は嬉しそうに、小さな老人は仕方ない、というように頷いた。
それと、と優霽が言葉を繋ぐ。
「アンタのことは『ショウジイ』って呼ぶから」
そう言われた小さな老人は、ムッとした表情で言葉を返した。
「なんじゃそれは! ワシは神――」
「神様、って感じしねーからな。俺もそう呼びたくないし。それが嫌なら、俺は手伝わねーから」
嫌味っぽく告げられた言葉に、神である小さな老人は返す言葉を呑み込むことしかできなかった。