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第三話 ジョン

俊樹はまた休んだ。上島にそう言われたからだ。

今日も俊樹は公園を歩く。やっぱりいつもと変わんない町並みだ。

公園デビュー、セールスマン。

今日は暖かい。

でも、違うところがある。

やけに犬の鳴き声が多い。

しかも、威嚇してる感じの声だ。

散歩途中に犬がはち合わせになってけんかしているのだろう。よくある風景だ。

でも、複数の犬の鳴き声が聞こえる。そんな偶然あるのかと俊樹は思う。

しかも、一匹だけ

「キャンキャン」

と泣いている。聞くからに悲痛の鳴き声だ。

俊樹はこの鳴き声と小学校時代の自分の悲痛の泣き声を合わせてみた。

明らかに一致している。アクセントとか。

声がする方に走ってみた。

だんだん悲痛の鳴き声が大きくなってくる。声が大きくなる度に心配になってくる。

近所の公園だった。6体の犬が円になって何かを噛んでいる。

近づいてみてみると、子犬だった。血だらけでうずくまっていた。

「おい!何やってるんだ!」

子犬を噛んでいる犬を手で追い払った。

たまに手を噛まれる事もあるが、一生懸命追い払った。そして、やっと追い払った。

「大丈夫か、おい平気が!おい!」

子犬からは何にも返事はない。

「おい!おい!おい!平気か」

子犬がかすかだが

「くぅん」

と声がした。

俊樹はいじめられて、初めてうれしいと思った。

ひとつ、自分の力でひとつの命がすくえた事。

ひとつ、自分と子犬が同じ身分だったこと。

家に帰って母親に飼っていいか訪ねた所、すんなり許してくれたから、俊樹はうれしかった。

同じく、母親もうれしかった。

いじめにあっている俊樹が生きなければならない理由が出来たからだ。

「牛乳にするかな。でも、やっぱり子犬用のドッグフードかな」

俊樹は必死に考えた結果、牛乳にした。

牛乳を皿に入れて、子犬の前においたが、何しろあれほど血だらけなんだから飲まない。

「とりあえず、手当かな。やっぱり」

そう思った俊樹は包帯とマキロンを持ってきて手当をした。

マキロンをガーゼにしみこませて子犬の傷に付けたら

「ギャウン」

と子犬が鳴いた。しみたそうだ。

「悪い!」

俊樹が言ったら、子犬がホッとしたように穏やかな顔になった。

俊樹も自然に笑顔になっていた。

一方、学校では小島と仲間たちが話していた。

何やら、俊樹を呼び出す作戦をたてている。

「どうだろうか、この作戦は」

「いいと思います」

「同じく」

「同じく」

「いいです」

「よし、あとはやるのみだな」

子犬を飼ってから1週間が経った。子犬は元気になって、

「くうん」

しか言えなかったのに、今では

「キャン」

となけるようになっていた。

「子犬?」

俊樹の家に状況を見に行った上島先生が聞いた。

「はい。俊樹が拾ってきたのです。あの子、前まで今でも自殺しそうな状況だったのですが、子犬が来てから、一生懸命に子犬の世話をしています」

「そうですか。よかったです」

上島先生もほっとしていた。

「キャン!!キャン!!」

子犬が俊樹に吠えた。俊樹が思うには、たぶん散歩したいと吠えているらしい。

「そうかそうか。散歩したいのか。じゃ行こう。…。名前決めてなかったな。よし、おまえの名前はジョンだ」

ジョンはうれしいのかどうかわかんないがまた吠えた。

俊樹とジョンの散歩道は、学校を休んでいる時に、一日に一回は俊樹が通る道だ。

ジョンは楽しみながら歩いている。それを見て俊樹は笑顔になった。

「ほらジョン、あそこの公園では、いつも子供のために親が頑張っているんだ」

俊樹がいつも見る公園デビューをジョンは不思議そうに眺めた。

「よし、行こう」

俊樹は一歩歩いた。そのとき、

ドガッ!!

俊樹は上を見上げてそのままひざまづき、倒れた。

俊樹は気を失う前に声を聞いた。

「ハハハハハ!!一発で倒れやがった!!」

「やっぱり弱いねぇ」

「子犬で気をまぎらわすなんて、ただのバカじゃん」

「なぁ!!」

「おい!!これだけですむと思うなよ!!」

俊樹はプルプル震えて気を失った。

なんかこんな感じ、久しぶりかもしれない。

暖かい感じ。ずっと、ずっとこうしたい気分だ。

暖かい感じを感じて目を覚ますと、蛍光灯が目に直撃した。

眩しいと感じ、薄目にして周りを見つめると、病室に母親が入ってきた。

母親は俊樹が動いてるのを見て、涙ぐみながら俊樹の所に行った。

「俊樹!!大丈夫!?」

「うん、まあ」

「よかった。あんたが救急車に運ばれるんだもの。母さん急いできたんだよ」

「そうか」

俊樹はあどけない返事をした後、何か足りない事を感じた。

そう、ジョンだ。

俊樹が気を失ってジョンはどこに行ったんだ。

もしかして、ジョンも何かされて動物病院か?

俊樹はいろいろパターンを考えて言った。

「オレが運ばれた時、雑種の子犬がいなかった?」

「子犬?俊樹が拾ってきたあれ?」

「そう。白いの」

「いなかったわよ」

「えっ!?なんで!?」

「いやだって、気失った時、手を離したんだから」

「探しに行く!!」

俊樹がベットから飛び降りようとしたが、母親に止められた。

「だめに決まってるじゃない!!」

「何言ってんだよ!!大人の犬に集団でいじめられたんだぞ!!そんな犬がこの世界で一人で生きられると思うのか!?」

母親は黙りこくっている。

「あいつはオレよりも最悪な人生を送ってるんだ!!親の暖かさ、大人の指導を一回もされていないんだ!!だから、オレがあいつの親になって、いつも一緒にいなければいけないんだ!!」

俊樹は言った後、母親を突き飛ばしてどこかへ走っていった。

「誰か!!誰かぁ!!」

俊樹はただひたすら走っていった。


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