また会いに行くから
「え?そんなマリオみたいな理由で肋折ったの?」
「そう。そんなマリオみたいな理由で今苦しんでる。」
僕は1ヶ月前神社の階段を登っている時、足を滑らせた亀が階段の上から転がってきて僕の足に直撃。バランスを崩した僕は階段の10段ほどから転がり落ち、肋を3本と足首を折った。
「かわいそ〜〜。神様っていないんだね」
あまりに可哀想すぎる僕の話を聞いてケラケラ笑っているこの子は夕脈芽衣。病室が同じで僕の読んでいる本に興味をもって話しかけてきたのがきっかけでよく話すようになった。彼女は不治の病を患っていて生まれてからほとんどの時間を病院で過ごしてるらしい。最近は病院についてるテレビでドラマを見たり将棋を指したりして過ごしている。ラッキーなことに病室には僕たちしかいないので他の人を気にせずに話すことができた。
「篝くんはいつまで入院するの?」
「だいたい3ヶ月くらいで治るらしいから、9月には退院できるかな。」
「9月か〜まだまだ先だねっ」
「まぁ、ここなら暇しなさそうだsアギャッ!」
肋が軋み尋常じゃない痛みが襲った。2週間経ったが全く慣れないこの痛みに嫌気がさしてくる。夕脈は初めの方こそ心配してくれていたものの2週間で慣れてしまって心配してくれなくなった。今ものたうち回っている僕を横目に将棋の準備をし始めている。
「今日はどうする?飛車角抜きでいく?」
夕脈は将棋が強い。将棋のオンラインゲームで鍛えていたらしく10年ものの実力で毎回誘われて挑んではボコボコにされる。
「そうしてくれ。」
僕はベットから動けないので夕脈がこっちまで移動してくれる。正直体が弱い夕脈にはあまり動いてほしくない。いつも終わった後はフラフラになってベットに戻っているのを僕は知っている。
「そういえば篝君にお見舞いくる人いないね。学校に友達いないの?」
動揺を狙っているのかただ単に気になっただけなのか無表情で鋭い言葉を吐いてきた。
「いないかな。ずっと本読んで過ごしてるし誰かと話そうなんて僕から思ったこともなかった。」
「せっかく人と人が関わる場所に入れるのに勿体無い。私と変わって欲しいくらい」
突っ込みずらいな。ここで変わって欲しいなんて言えるほど僕は無神経ではない。こう言うこと言われたら何もいえなくなってしまう。ここからしばらく無言になり淡々と将棋を指した。
「はい飛車もらい〜」
「あっ」
あっさり取られてしまった。僕なりに精一杯抵抗してるのに気づけば逃げ道がなくなっている。
「王手。私の勝ち」
「参りました、、、」
「私が勝ったし何か言うことを聞いてもらおうかな〜」
「そんな約束したっけ?」
「勝者は敗者の生殺与奪の権を握れるからね。私の一言で君の首は飛ぶよ」
「怖」
僕は将棋セットを片付けながら答えを待った。夕脈は座るのがキツくなったのかフラフラと自分のベットへ戻り考えていた。
「よし決めた!私の初めての友達になること!」
夕脈は顔を真っ赤にしながら大きな声でそういった。
「いいよ。今日この瞬間から僕たちは友達でいこう。」
夕脈は顔をニンマリさせながら布団をかぶって喋らなくなってしまった。すると布団の中から大きな声で「よろしくね!友達一号!」と聞こえて僕は思わず笑った。
「うん、よろしく」
この日から退院したらどうするかとかの話もするようになった。夕脈はアニメや漫画でしていたことに憧れがあるらしく、
水族館や映画館に行きたいとよく言っていた。インドアな僕とは少し合わないが話しているうちにだんだんと楽しいものなんじゃないかと思うようになった。
7月も半分が終わり、僕の肋も少しずつ治ってきて痛むことも少なくなった。夕脈は気持ちおとなしくなった気がする。
「あれ?風鈴なんかあったっけ?」
「ついこの前つけてもらったんだよ。やっと気づいたね」
夕脈のベットの横の窓に風鈴が取り付けられている。最近は特に暑かったので嬉しい。風鈴が鳴るだけで部屋の温度がさがる気がした。この「気がした」が結構重要でこれだけでだいぶ心地が良くなる。
「あ、そういえば私たち連絡先交換してなくない?しようよ。」
「別に同じ部屋にいるんだしよくないか?」
「いいじゃん。君が退院した後も連絡したいし。」
「そう、じゃあいいけど」
そう言って交換し、僕らはスマホで繋がれるようになった。
「やったー!私こういうの憧れてたんだよね〜」
スマホを上へ持ち上げながらはしゃいでいる。特に僕が何かしたわけでもないが喜んでもらえて嬉しい。
「じゃあ、今から電話するからでてね?」
「目の前にいるのに、、、」
すぐにスマホから着信音がして僕はそれをとり返事をする。
「はい、もしもし〜」
「わ!ほんとに繋がった!明日かおはようはこれで連絡するね!
「はいはい」
二つの方向から声が聞こえるのは変な感じだ。この日は他にもメッセージアプリなどを使って1日のほとんどを使った。夕脈はほとんど学校に行ってなくて友達もいなかったそうなので新鮮なことだったのだろう。僕も一人だったからこんなことするのは初めてで普通の高校生みたいで楽しかった。
7月最後の日の朝、病室がなんだか騒がしくて目が覚めた。緊迫感のある現場に成り果てている部屋で僕は声のひとつも出せなかった。
お昼になって部屋に戻ってきた夕脈はなんだか元気がなくて話かけてこなかった。その後看護師さんがカーテンで仕切ってしまった。いつもなら朝起きるや否やマシンガントークを連射するのに。やめた方がいいかなとも思ったが。、今日は僕の方から行こうと決心してカーテンの向こうにいる夕脈に話しかけた。
「体調はどう?」
するとカーテンがすごい勢いで開いた。
「い、いたの?!あれ?」
「大丈夫か?ここはいつもの部屋だよ。」
「そっか、なにか勘違いしちゃってたよ。あと私は全然元気だよ〜」
顔色が悪い。今日は曇りでいつもより部屋が暗いと言うのもあるがそれでもなんだか悪いように見える。
「本当か、顔色が悪いぞ。じゃあ安静にな。」
「うん。心配してくれてありがとう。」
だが夕脈の体調はどんどん悪くなっていった。最近は寝ていることが多くなり必然的に部屋が静かになった。将棋など当分指していない。8月中盤この日は晴れで有脈の寝顔に日光があたっていた。僕は昼食を食べながらチラチラと寝顔を見ていたら目が覚めた夕脈と目があった。
「おはよう、、、今私のこと見てた?」
「もう1時だけどな、おはよう。ちなみに見てない。」
「ウッソだ〜絶対見てたよ。」
そう言いながら夕脈は体を伸ばしながらゆっくりと昼食を食べ始めた。髪がボサボサで腕もなんだか細く見える。1ヶ月前とは別人のようだ。弱っているように見える。こんなこと思いたくないがもしかしたらもう長くないのかもしれない。
「そういえば今日って夏祭りの日じゃないか」
「え?そうなの?!まさか篝くん足治ってないよね?」
「治ってないよ。ここから見るしかない」
「やったー!今年は楽しく花火が見れそうだよ。ありがとう」
改まってそんなこと言われて思わず目をそらしてしまった。窓からの光が眩しい。
夕脈はご飯を食べた後またすぐに寝てしまった。また起きないんじゃないかと心配したが夕方6時にしっかりと起きて僕たちは花火をまった。
夜になり、病室の窓から花火を二人で鑑賞した。綺麗だねとか今の紫だったねなど見たままの花火を二人で言い合った。時刻は9時。花火はまだ続いているのに夕脈は静かに僕に向けて話しかけてきた。
「私ね、、、手術することになったの。ここじゃない別の病院で。どんな内容の手術か聞いても良くわかんなかったんだけど成功率が低いことだけは伝わった。私死ぬかもしれないんだって」
花火の音にかき消されることなく言葉は僕に届いた。何もいえない。僕はなんて言葉をかけたらいいのか分からなくなり黙ってしまった。
「それでね、篝くんにお礼言おうと思って。今まで楽しかったって。」
「やめろよ。もう二度と会えないみたいな言い方は。まだ将棋の勝負もついてないし。映画だっていきたいって言ってたじゃないか。そういう言葉は治った後に僕の目の前に来てその時にちゃんと伝えてくれ。」
夕脈はキョトンとした顔をした後泣き出してしまった。少し言い過ぎたと僕は思った。本人の決意やこれからも加味した発言だったかもしれないのに。
「ごめんね、そうだね。ここじゃなくて治った後にちゃんと伝えるね。ていうか私がここからいなくなった後もちゃんと連絡してね。私すっごく暇だから。」
「わかってるよ。僕も暇だから。」
夕脈が別の病院に移動して1ヶ月が過ぎようとしていた。僕の足と肋はほぼ完治していてもうすぐ退院できる。夕脈は手術すると言って連絡が取れてない。最近は足のギプスが取れたので夜の病院を探検するようになった。夕脈がいなくなり暇を持て余しているのでこれくらいしかすることがない。探検といっても屋上まで行って音楽を聴いたりするだけ。もう9月に入り寒くはないが暑くもなくぬるい夜を屋上で過ごしていたある日電話が一本かかってきた。
誰からか分からない。知らない番号普段なら無視するが今日は出ることにした。もしかしたら夕脈かもしれないから。
「はいもしもし、篝ですが」
『やっほ〜篝くん。』
聞き慣れた声。夕脈だ。手術は成功したんだ。無事を確認できて僕は力が抜けて柵にもたれかかった。
「よかった。安心したよ。成功したんだな」
『あ〜〜いや〜、なんと言うべきか失敗してしまったらしくてですな〜私死んじゃった』
「は?」
『いや、だから、死んじゃった。私幽霊になっちゃった。』
「ちょっと待ってくれ、、、じゃあこの電話はなんだよ。変な冗談はやめてくれ」
『死神さんがね、最後誰かに電話していいって言うから篝くんにしたの。お願い。変な話だし信じられないかもしれないけど、今夜、少しだけ話そ。』
クラクラする。何が何だかわからないが今は夕脈を信じることにした。
「それで、どう?幽霊の気分はやっぱり浮いてんの?」
『うん。足が透けてて浮いてる。そう!それでね!それでね!クイズです!気づいたらベットの上で幽霊になってなんだけど、幽霊になった時最初に何したと思う?』
「そうだな〜、外に出た。」
『ブッブ〜それじゃあ部分点かな。正解は走ったでした〜。私生まれてから思い切り走ったことなくて、足がないんだけど初めて走って疲れてすごく嬉しかった。篝くんにも体験してほしいよ。』
「大丈夫だよ。後60年もしたらそうなるから」
『そっか60年か〜長いな〜。天国で待ってるって言おうと思ったけど篝くんは天国これるかな〜フフッ』
ケラケラと笑っている夕脈の声が聞こえる。死神の声は聞こえないがあっちとも喋ってるのだろうか。
「来世何がいいとか考えた?」
『え〜っとね〜マンタかサメが良かったんだけど、死んでから考えが変わっちゃって人間がいいなって思うようになったかな。』
「それはどうして?」
『それは秘密だよ〜。、、、やっぱり教えてあげる。最初に言った二つは泳いでみたいと思ったから。後かっこいいから。最後は、』
「最後は?」
『篝くんに、、、また会いたいからかな』
「それって、、、」
少し沈黙が流れる。心拍数が早くなるのを感じる。
『変なこと言っちゃった、、、でも本当のこと。篝くんはまだまだ60年生きるし色んな人にあうと思う。きっと恋とかもするんだろうし友達だってできる。私のことも多分忘れる。でも、私からしたら初めての友達で、唯一の友達。まだ友達とも言える。私からしたら忘れて欲しくないんだよ。だからね、神様に直談判してまた人間にしてもらって、会いに行く。君に二人目の友達ができる前にね』
「ハハハっ、それは嬉しいな。早めにきてね。多分もう一人の友達ができるまで長くないと思うからさ」
『フフッ、大丈夫だよ。すぐにでも人間にしてもらうから。待っててね。次会いにいくまでには飛車角があっても勝負になるくらい将棋鍛えといてね』
「任せとけ。次会うときの話のネタはたっぷり用意しとくから。それからさ、映画館とかも行こう。夏祭りの屋台とかも一緒に回ろう。着物とか着たいって言ってたじゃないか。次会ったら全部行こう。行きたいところがたくさんあるんだ。」
話しているうちに涙が溢れてきた。もういない。会えないと考えるだけで今までのことがフラッシュバックしてくる。あの他愛無い話をもう一回したい。この時間が終わって欲しくない。
『死神さんが急かしてきた。もう時間みたい。最後に篝くんと話せて良かったよ。じゃあ、、、またね』
「天国のお土産話楽しみにしてるから。またな。」
切れた。画面には履歴どころか何も写っていない。僕が本当に電話していたのかさえわから無い。全部幻覚だったかも。ただ、話終わった後のこの気持ちはまだ奥にあつく残っている。風が強くなってきたので部屋に戻ろうかと思い、柵にもたれかかっていたのを中断。部屋に戻る前になんとなく空を見上げたら流れ星をちょうど目撃した。
「またな」
最後にそう言って僕は屋上の扉を開けた。




