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第8話 神は沈黙し、神殿は動く

神殿は、表向きには沈黙を守った。


 勇者との会議以降、抗議も声明もない。

 それが、逆に不気味だった。


「静かすぎますね」


 保守局の執務室で、リーネが言う。


「神殿は、もっと感情的な組織だと思っていました」


「表に出ない時は、

 裏で準備している時だ」


 俺は、水晶盤に映る各地の状況を確認する。


 数値は正常。

 ログも異常なし。


 だが――


「……妙だな」


「何かありましたか?」


「小さすぎる」


 俺は、指で履歴をなぞる。


「結界の微振動が、

 不自然に綺麗だ」


「綺麗……?」


「普通、世界はノイズだらけだ。

 人が使えば、必ず揺れる」


 だが今は。


「誰かが、

 “意図的に整えている”」


 その直後だった。


 地方都市アグレアから、通信が入る。


『神殿より通達。

 結界の調整権限を、神殿管理下へ戻す』


 リーネが目を見開く。


「戻す……?

 正式移譲なんて、してませんよね?」


「ああ。

 だから、勝手にだ」


 俺は、静かに立ち上がる。


「行くぞ。

 現地確認だ」


 アグレア神殿。


 内部は、異様なほど整っていた。


 結界制御用の魔導陣が、

 最新式に書き換えられている。


「……これ」


 リーネが、声を落とす。


「保守局の形式に、似てませんか?」


「似てるんじゃない」


 俺は即答した。


「模倣だ」


 司祭が、穏やかな笑みで近づいてくる。


「管理者殿。

 我々も、世界を守りたいだけです」


「その割に、

 ログが残っていない」


 俺は床の魔導陣を見下ろす。


「改修記録を、

 意図的に消している」


 司祭の笑みが、ほんの一瞬だけ硬くなった。


「神の御業ですので」


 その瞬間。


 《警告:権限衝突》


 脳内に、冷たい通知が走る。


 世界基盤に、

 二つの管理意思が触れている。


「……やってるな」


 俺は、理解した。


 神殿は、

 世界の管理権限を奪い返そうとしている。


 だが、やり方が致命的だ。


「これは、長く持たない」


「え?」


「神殿式は、

 “神が常に介入する前提”だ」


 俺は、魔導陣の歪みを指差す。


「だが神は、今は沈黙している」


 沈黙の中で、

 人が神の真似をすればどうなるか。


「いずれ、

 世界が誤作動を起こす」


 司祭が、声を荒げる。


「管理者殿!

 神殿の権威を脅かすおつもりか!」


「違う」


 俺は、淡々と言う。


「世界を脅かしているのは、

 そっちだ」


 その夜。


 保守局に戻った俺たちは、

 正式な報告書をまとめた。


「神殿、敵対確定……ですね」


「まだだ」


 俺は首を振る。


「これは、序章だ」


 神殿は、信仰を盾にする。

 貴族は、権力を盾にする。


 そして――

 勇者は、力を盾にする。


「世界は、

 同時に三方向から揺さぶられる」


 リーネが、唇を噛む。


「……止められますか?」


「止める」


 俺は、即答した。


「保守局がある限り、

 世界は落とさない」


 だが。


 水晶盤の端に、

 見慣れない微細な警告が点灯していた。


 《予測不能な外部干渉》


 ――神ではない。


 それが何かを理解するには、

 まだ少し、時間が必要だった。

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