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第5話 保守は止めない

中央制御室の空気は、張り詰めていた。


 魔導炉の出力は不安定。

 外周結界の光は、ところどころ途切れている。


「残り二十分……!」


 誰かの声が、裏返る。


「リーネ、結界系のログを全開で出して」

「了解。全系統、表示します」


 水晶盤いっぱいに、数値と魔導式が浮かび上がる。

 それを一目見て、俺は頷いた。


「原因は単純だ。

 同時アクセスが多すぎる」


「え……?」


「防御を厚くしようとして、

 全系統が同時に魔力を要求してる。

 結果、どこも足りなくなってる」


 俺は端末を操作しながら、指示を飛ばす。


「外周結界を三層から二層に落とす。

 代わりに負荷分散を優先」

「でも、それだと――」

「落ちない。

 “落ちないこと”が最優先だ」


 数値が書き換わる。

 赤かった表示が、黄色に変わった。


「魔導炉は?」


「安全装置が働きすぎてる。

 暴走を恐れて、力を出せてない」


 俺は短く息を吸う。


「制限を一段階解除。

 その代わり、出力変動を秒単位で監視する」


「そんな細かい管理……!」

「できる。

 俺が見る」


 静まり返る制御室。

 全員が、俺の操作を見守っている。


 数秒後。


「……安定しました」

「外周結界、再構築完了!」


 結界の光が、城の外周を均一に包み込む。

 揺れていた魔導炉の表示が、ゆっくりと緑に変わった。


「世界は、止まらない」


 誰に向けた言葉でもなく、そう呟く。


 リーネが、ほっと息を吐いた。


「……本当に、落ちないんですね」


「落とさないからな」


 背後で、ざわめきが起きる。


「今の操作……

 誰も思いつかなかった」

「いや、思いついても、

 怖くて実行できなかったはずだ」


 俺は振り返らない。


「保守は、派手じゃない。

 でも――」


 端末に、安定稼働のログが並ぶ。


「止まらないという結果だけは、嘘をつかない」


 その瞬間、

 城内の警報が、完全に止んだ。


 静寂。


 そして、遅れて拍手が起こる。


 俺は、それを背に制御盤から離れた。


 ――これが、俺の仕事だ。

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