第4話 選ぶ立場ではない
王城の会議室は、重苦しい空気に包まれていた。
長机の向こう側には、貴族、軍人、魔導技師。
その中央に、俺とリーネが並んで座っている。
――いや、座らされていると言った方が正しいか。
「まずは謝罪からだろう」
最初に口を開いたのは、バルド卿だった。
だが、その視線は俺ではなく、周囲に向いている。
「手違いがあった。
君の部署がこれほど重要だとは、理解が足りなかった」
形式的な言葉。
責任を認めたようで、何も認めていない。
「それで?」
俺がそう返すと、会議室がざわついた。
「なっ……!」
「随分と無礼ではないか!」
誰かが声を荒げるが、俺は気にしない。
「謝罪を受けに来たわけじゃない。
条件の確認に来たんだ」
リーネが一歩、前に出る。
「外周結界、残り三十分です。
魔導炉は臨界の一歩手前。
現状、復旧の目処は立っていません」
数字が出た瞬間、全員が黙った。
「……君が戻れば、解決できるのだろう?」
バルド卿が、ようやく俺を見る。
「“戻る”という表現は正しくない」
俺は、はっきりと言った。
「俺はもう、あなた方の部下じゃない」
「なに……?」
「だから、交渉だ。
立場は対等。
いや、今は俺の方が上だ」
空気が凍る。
だが誰も、否定できない。
「条件は三つ」
俺は指を一本立てた。
「第一に、保守業務は独立組織とする。
貴族の気分で切れる部署じゃない」
ざわめき。
「第二に、管理権限は職務と個人に紐づける。
政治判断で奪えない仕組みにする」
誰かが唾を飲み込む音がした。
「第三に」
俺は、バルド卿を見る。
「今回の判断を下した責任者は、
全員、意思決定ラインから外す」
「ば、馬鹿な!」
「それでは――」
「世界が滅ぶよりマシだろ」
淡々と返す。
「選択肢は二つだ。
この条件を飲むか、
三十分後に結界が落ちるか」
沈黙。
長い、長い沈黙の末。
「……条件を、受け入れる」
バルド卿の声は、かすれていた。
「ただし、即時復旧が前提だ」
俺は、リーネを見る。
「準備は?」
「いつでも」
立ち上がり、端末を起動する。
「じゃあ、仕事に戻ろう」
会議室を出る直前、俺は振り返った。
「言っておくけど」
全員の視線が集まる。
「これは復讐じゃない。
正常化だ」
扉が閉まる。
その瞬間、
王城の魔導盤に、久しぶりに“安定”の表示が灯った。
――保守が、世界を救う。




