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第35話 引かれた線

保守局の会議室は、

 静まり返っていた。


 集まっているのは、

 最低限の人数。


 リーネ。

 勇者。

 数名の中核スタッフ。


「……状況は?」


 俺が問う。


「集会は拡大傾向です」


 リーネが、

 淡々と報告する。


「暴力はありませんが、

 言葉が先鋭化しています」


「“要求”に

 変わりつつあるな」


 勇者が、

 低く言った。


「はい」


「次は、

 拒否を敵意と

 受け取る段階です」


 俺は、

 少しだけ考え――


「線を引く」


 そう告げた。


 空気が、

 重くなる。


「付与の最終判断は、

 保守局単独とする」


「基準は、

 非公開」


 リーネが、

 目を見開く。


「……反発が

 来ます」


「来る」


 即答した。


「だが、

 公開した瞬間、

 条件は攻略される」


「命を賭けた

 “抜け道探し”が

 始まる」


「それって……」


 勇者が、

 言葉を探す。


「管理者が、

 全部背負うって

 ことか?」


「ああ」


 俺は、

 頷いた。


「憎まれる役だ」


 声明は、

 即日出した。


 簡潔で、

 感情を挟まない。


 《付与は、

 世界保守上の

 最終手段である》


 《基準は、

 世界安定性を

 最優先とする》


 《判断理由の

 個別説明は行わない》


 たった、

 それだけ。


 反応は、

 激しかった。


「独裁だ!」


「選別だ!」


「誰が、

 管理者を

 管理する!」


 石は、

 投げられない。


 だが、

 言葉は

 刃になった。


「……きついな」


 勇者が、

 空を見上げる。


「俺なら、

 剣で向かってくる方が

 楽だ」


「分かる」


 俺は、

 苦笑する。


「だが、

 これが現実だ」


 夜。


 リーネが、

 静かに言った。


「……それでも、

 やめないんですね」


「ああ」


「孤立しますよ」


「するだろうな」


 俺は、

 モニターを見る。


 安定曲線は、

 まだ保たれている。


「だが」


 俺は、

 言葉を続けた。


「誰かが

 線を引かなければ、

 世界は溶ける」


 その瞬間。


 《観測ログ更新》


 遠い場所で、

 悪魔が

 静かに評価を改める。


 ――管理者は、

 切り捨てる覚悟を持つ。


 だからこそ。


 世界は、

 まだ壊れていない。

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