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第33話 線のこちら側と向こう側

街は、

 静かだった。


 復旧は進み、

 生活魔導も安定している。


 それでも――

 空気は重い。


「……見てください」


 リーネが、

 小さく指を差す。


 広場の一角。


 談笑する人々。


「付与を受けた人たちです」


 彼らは、

 口々に語っていた。


「一瞬だったけど、

 全部分かった」


「怖かったけど、

 助かった」


「もう一度?

 いや……

 正直、

 遠慮したいかな」


 笑顔。

 安堵。


 “助かった側”の空気。


 その反対側。


 日陰に、

 立つ人たちがいる。


 腕を抱え、

 俯いたまま。


「……結局、

 選ばれなかった」


「条件に

 合わなかったって……」


「命に

 差があるのか?」


 声は、

 小さい。


 だが、

 滲む感情は

 大きかった。


「同じ場所に

 集めるべきじゃ

 なかったですね……」


 リーネが、

 呟く。


「いや」


 俺は、

 首を振った。


「見せる必要がある」


「違いを?」


「現実をだ」


 少年が、

 俺に気づく。


 昨日、

 前に出た子だ。


「……管理者さん」


「話せるか?」


 少年は、

 頷いた。


「母さん、

 対象外でした」


「……そうか」


「怒ってないです」


 だが。


「でも……

 羨ましいです」


 正直な言葉。


「助かった人が、

 羨ましい」


 俺は、

 否定しなかった。


「それは、

 自然だ」


 その声に、

 周囲が反応する。


「じゃあ、

 なんで――」


「一度だけでも!」


「条件を

 変えられないのか!」


 感情が、

 波のように

 寄せてくる。


 勇者が、

 一歩前に出る。


 だが、

 俺が止めた。


「俺が話す」


「救われた人と、

 救われなかった人がいる」


 俺は、

 はっきり言った。


「それは、

 不公平だ」


 ざわめき。


「だが」


 俺は、

 続ける。


「全員を救える力は、

 存在しない」


 沈黙。


「だから、

 線を引いた」


「引かなければ、

 世界が壊れる」


「それでも、

 不満は残る」


 俺は、

 視線を逸らさない。


「その不満は、

 正しい」


 誰も、

 すぐには答えなかった。


 救われた側が、

 居心地悪そうに

 視線を落とす。


 救われなかった側は、

 拳を握る。


 分断は、

 もう生まれている。


 夜。


 保守局に、

 一通の報告が届く。


 《未承認集会

 複数確認》


 《管理者の判断に

 異議を唱える動き》


 勇者が、

 低く言う。


「……来るな」


「ああ」


 俺は、

 頷いた。


「感情は、

 組織化される」


 それを。


 誰かが、

 待っている。

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