第27話 悪魔との正式交渉
事の始まりは、
一つの異常ログだった。
《検知:
世界境界層・不正干渉》
神殿崩壊から、
まだ数日。
世界は安定している――
はずだった。
「……来たか」
俺は、
ログを閉じる。
リーネが、
即座に反応した。
「これ、
神殿とは違いますよね?」
「ああ」
「管理外存在だ」
勇者が、
無言で剣を握る。
あの装備は、
もう“ただの武器”じゃない。
「戦う?」
短い問い。
「いや」
俺は、
首を振った。
「呼び出す」
沈黙。
「……呼び出すって」
リーネが、
言葉を選ぶ。
「向こうが、
来たがってる」
俺は、
淡々と告げた。
「なら、
主導権は取れる」
招集条件は、
三つ。
・世界への直接干渉を禁止
・勇者立ち会い
・公開不可の中立空間
そして――
応じなければ排除を検討
返答は、
すぐに来た。
《承諾》
簡潔すぎる。
「……向こうも、
覚悟を決めてますね」
「だからこそ、
今だ」
俺たちは、
境界層へ向かった。
交渉の席は、
円卓だった。
豪華さはない。
装飾もない。
あるのは――
世界の境界そのもの。
「改めて名乗ろう」
対面に座る存在が、
ゆっくりと口を開く。
「我は、
管理外存在――
悪魔」
姿は人型。
だが、
世界に馴染んでいない。
「交渉を望んだのは、
そちらだ」
「正確には」
俺は、
即答する。
「衝突を避けたい」
悪魔は、
小さく笑った。
「面白い。
通常、
管理者は排除を選ぶ」
「それは、
旧仕様だ」
俺は、
淡々と告げる。
「今の世界は、
完全排除に耐えない」
勇者が、
神話級の剣に手を置く。
悪魔の視線が、
一瞬だけ揺れた。
「……察しがいい」
「では、
条件を提示しよう」
「第一条件」
悪魔は、
指を一本立てる。
「我らの存在を、
完全には消さぬこと」
「却下」
即答。
悪魔は、
驚かない。
「交渉にならない」
「修正案を出せ」
沈黙。
数秒後、
悪魔が言い直す。
「――活動領域を、
限定する」
「条件付きで可」
「ほう?」
「監視ログを常時提出」
悪魔の口角が、
わずかに上がる。
「随分と、
管理者らしい」
「第二条件」
「人間社会への、
直接干渉の自由」
「不可」
これも即答。
「代替案を」
悪魔は、
顎に手を当てる。
「……神殿のような
代理組織を――」
「禁止」
「では?」
「情報提供者としてなら、
限定的に許可する」
勇者が、
小さく目を見開く。
「敵から、
情報を?」
「敵ではない」
俺は、
言い切る。
「管理外リソースだ」
「第三条件」
悪魔の声が、
少し低くなる。
「管理者。
貴様自身に関するものだ」
「聞こう」
「――
我らは、
貴様の“未来”を知っている」
空気が、
張り詰める。
「世界が、
貴様を拒絶する瞬間を」
勇者が、
立ち上がりかける。
俺は、
手で制した。
「条件は?」
「その時、
我らを切り捨てぬこと」
静寂。
俺は、
少しだけ考え――
「未確定事象だ」
そう答えた。
「未来は、
ログではない」
「だが可能性はある」
「なら、
契約はこうだ」
俺は、
円卓に手を置く。
「その時点で、
再交渉」
悪魔は、
しばらく黙り――
そして、
深く笑った。
「……素晴らしい」
「それでこそ、
管理者」
契約は、
成立した。
だが、
和解ではない。
円卓が消え、
現実に戻る。
勇者が、
低く言った。
「……あいつら、
本当に信用できるのか?」
「信用していない」
俺は、
即答する。
「制御しているだけだ」
その背後で。
誰にも見えない場所で。
悪魔は、
確信していた。
――この管理者は、
いずれ
世界と衝突する。
だからこそ。
今は、
敵に回さない。




