第26話 予防保全という名の創生
交渉の前に、
やるべきことがあった。
「……それで?」
勇者が、
自分の剣を見下ろす。
「装備の点検?」
「ああ」
俺は、
頷いた。
「予防保全だ」
リーネが、
少し不安そうに言う。
「でもそれ、
勇者装備ですよね……?」
「神話時代の遺物だ」
俺は、
淡々と答える。
「劣化しないわけがない」
勇者の装備一式。
剣。
鎧。
護符。
どれも、
表面上は完璧。
だが――
「内部構造が、
古すぎる」
《管理者権限:
構造可視化》
視界に、
世界の設計思想が現れる。
「当時の神々は、
“壊れない前提”で作った」
「だが、
今の世界は違う」
俺は、
工具を取る。
「だから――
作り直す」
「……修理、
ですよね?」
リーネが、
念のため確認する。
「当然だ」
俺は、
即答した。
「仕様に合わせて、
最適化するだけだ」
剣に触れた瞬間。
世界が、
静かに軋んだ。
「……おい」
勇者が、
眉をひそめる。
「何か、
おかしくないか?」
「正常だ」
《警告:
旧仕様との不整合》
無視。
《提案:
再定義》
採用。
魔力が、
収束する。
だが、
暴走しない。
管理者だからだ。
「神話時代の装備は、
“個人に最適化”されていない」
俺は、
淡々と続ける。
「勇者という役割に、
合わせただけだ」
光が、
収まる。
剣は、
静かだった。
だが――
存在感が違う。
「……重い」
勇者が、
呟く。
「いや」
俺は、
首を振る。
「世界に対する責任が、
重くなった」
鎧。
護符。
全て同様に。
最後に、
数値が表示される。
《分類:
神話再定義装備》
《等級:
SSS》
リーネが、
言葉を失う。
「……修理、
ですよね?」
「予防保全だ」
俺は、
真顔で答えた。
勇者は、
剣を振る。
空気が、
切れない。
だが、
世界が揺れない。
「……これ」
勇者が、
真剣な顔で言う。
「俺が、
振るっていいものか?」
「だから、
やった」
俺は、
視線を合わせる。
「壊さないために」
その時。
空間が、
わずかに歪んだ。
「――なるほど」
悪魔の声。
「それは……
創生だ」
俺は、
振り返らない。
「いいや」
「保守だ」
沈黙の向こうで、
悪魔が笑った。
「……ますます、
交渉が楽しみになった」




