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第22話 管理者が、いない世界

異常は、

 静かに始まった。


「……数値、

 おかしくありませんか?」


 リーネが、

 制御盤を見つめる。


「結界出力、

 基準値内です」


「でも……

 揺れ方が違う」


 彼女は、

 違和感を言語化できずにいた。


 だが――

 世界は嘘をつかない。


『水路都市レイナス、

 流量微増』


『北部結界、

 再同期遅延』


 どれも、

 致命的ではない。


 だが、

 同時に起きている。


「……管理者が、

 いないから?」


 誰かが、

 呟いた。


 その瞬間。


 制御室の空気が、

 凍りつく。


 問題は、

 判断だった。


「流量を、

 少し下げるべきか?」


「いや、

 結界を優先では?」


「待って、

 それをやると――」


 意見が、

 割れる。


 今までは、

 一つの判断が

 即座に降りてきた。


 正解かどうかは、

 後で分かればいい。


 だが、

 “迷わない”こと自体が

 世界を支えていた。


「……決められない」


 リーネが、

 唇を噛む。


「管理者なら……

 どうする」


 誰も、

 答えられない。


 街では、

 小さな異変が積み重なっていた。


 魔導灯が、

 数秒遅れて点く。


 転送陣が、

 微妙にずれる。


 誰も死なない。

 誰も叫ばない。


 だが――

 不安だけが、確実に増えていく。


「神殿は、

 何をしている!」


 市民の声が、

 上がり始める。


「管理者は、

 どこへ行った?」


 神殿は、

 答えない。


 いや、

 答えられない。


 その頃。


 神殿地下の拘束室。


 俺は、

 静かに目を閉じていた。


 《自動保全モード:

 外部判断待機》


 世界が、

 自力で耐えているのが

 分かる。


 だが。


「……無理をするな」


 小さく、

 呟く。


 世界は、

 機械じゃない。


 判断がなければ、

 “壊れない代わりに、

 鈍っていく”。


 それが、

 一番危険だ。


 制御室。


 警告音が、

 初めて“色”を変えた。


『広域同期誤差、

 臨界値接近』


「……来た」


 リーネが、

 震える声で言う。


「このままだと……」


 彼女は、

 拳を握った。


「……呼びます」


「誰を?」


 リーネは、

 はっきり言った。


「勇者です」


「そして――」


 一瞬、

 迷ってから。


「管理者を、

 取り戻します」


 その言葉に、

 制御室の全員が

 頷いた。


 世界は、

 もう気づいてしまった。


 管理者は、

 代わりがいない。

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